第71話[表] 人狼と異能とカン
<Side:Akari>
謎の白骨死体や、夜になると悪霊の出現する物騒極まりない建物など、予想外の妙な――というか、トンデモナイものを発見してしまったものの、あの妙なターンバトルの仕組みを生み出してた魔法自体はあっさりと破壊する事に成功した。
クーさんの予想通り、《玄キ影身ノ幻舞闘》によって生み出された幻影体が、勝手に魔法陣の方へと飛んでいって破壊してくれたのが大きいわね。
「――私のMP残量、3割切ってますけどね……」
「私のも9割あったのに、1回で5割強まで落ちてるわ……。ホント、MP消費多すぎるわね、この魔法」
人狼――エリスたちの所に戻りながら、そんな事を話すユーコと私。
無論、MPという表示はされていないけど、私たちならそう言った方が手っ取り早い。
と、そんな事を考えていると、人狼の相手をしていたエリスが、私たちの接近に気づき、少し慌てたような感じで、声を大にして呼びかけてきた。
「ま、待っていましたわっ! 急に動きが鋭くなって、ちょっとばかし危険でしたわ……っ!」
見ると、人狼が鋭敏な動きでエリスと交戦していた。というか、やや圧していた。
うーん……ツキトがフォローするように牽制攻撃を行う事で、ギリギリなんとか抑え込んでいる、といった感じね。
ターンバトル化の魔法が壊れたから、それに縛られなくなった事で、素早く動けるようになって強くなったって所かしら?
……あの魔法、こういう相手の俊敏さを封じる『利点』もあるのね。
「アクションゲームだと動きが速すぎて対処しきれない敵でも、RPGなら動きが制限されるから対処出来るようになる、って事ですね」
私の考えていた事を読んだかのようにそう返してくるユーコ。
「ま、そういう事ねっ!」
私はユーコに返事をしつつ、弓を構えて矢を発射。
「おらおら、ガンガンいくぜっ!」
ゼルがそんな事を叫びながら、攻撃魔法を連射。
ゼルって、見た目と得物に反して、魔道士タイプなのよね。何気に。
と、そんな事を考えている間にも、ロディが剣を飛ばし、クーさんが変身し、アリシアがスリンガーで小型の手榴弾のようなものを飛ばし、ユーコとジャンさんが上空から高速で人狼へ接近していく。
ギリギリとはいえ、エリスとツキトのふたりで抑え込める相手である以上、ターンバトル化の魔法の影響さえなければ、この人数なら驚異であるとは言い難いわけで……
私たちの猛攻の前に、人狼は、
「グギャァアアァァァアアアァァァアアァァァッ!」
という断末魔と共に地面に倒れ伏し、例の奇妙な結晶めいた血を撒き散らす。
常に動けるって素晴らしいわね……ホント。
「あれは洗浄しておくのです! ――《紺碧ナル穢レ祓イノ波》!」
クーさんがそう言い放って速やかに魔法を発動。
血は膨大な水流によって押し流され、そのまま消滅した。
それを眺めながら、ゼルとアリシアが、
「ふむ……。一般的な水を生み出す魔法……蒼水の泡沫とかそういうのとは、水量が段違いだな」
「そうだねぇ。うーん、私もどうにかして使えるようにしたいなぁ。エステルに話を聞いてみようかなぁ?」
なんて事を言う。
うーん……。私やユーコの得物に組み込まれた魔法とは、たしかに似ているけれど、少し雰囲気が違う感じがするわね……
「ところで、その人狼はどうするんですの?」
「……詳しく調べてみたい所だが……こんなものどこで調べられるんだ?」
エリスの疑問にそう返すロディ。
「あ、私の所で調べられるですよ! 回収要員も呼んでおきますです!」
「マジッスか!? クーさん凄いッスね!」
クーさんの言葉にツキトが驚きの声を上げる。
度々思うけど……クーさんって、一体何者なのかしら……?
「なら、人狼はクー嬢に任せて、ほっぽっといたままの連中をどうにかするか」
ゼルが頭を掻きながら、この騒動のきっかけとなった闇組織の面々へと近づいていく。
「では、私は知り合いの祓魔師に連絡するとしましょうか」
と、ジャンさんも携帯通信機を取り出しながらそんな風に言う。
あー……そうよね。ユーコが偶然見つけてしまったアレも、どうにかしないと駄目なのよね……
「なんだか、当初の目的から大分離れてしまった気がしますわね……」
「まあ……こればっかりは仕方がない気がするッス」
「そうだねぇ。まあ、こうなったら慌ててもしょうがないし、ゆっくりいこぉ」
エリス、ジャン、アリシアの3人がそんな話をしているのが聞こえてくる。
「残りのMPを考えると、拠点の制圧を行うには若干心許ないわね……」
「ええ。敵の数にもよりますが……少し回復しておきたいのはたしかですので、ゆっくりいこうというアリシアさんの発言は、ある意味正しい気がします」
「まあ……MP回復アイテムなんて便利な物は存在しないし、自然回復するの待つしかない以上、全回復は難しいまでも、少し回復を待ってから……というのは正しいわね」
そこまで言った所で私は一度言葉を切り、顎に手を当て、
「ただ……」
と、考えながら言う。
「ただ?」
「……なんとなくだけど、遅くなりすぎると手遅れになりそうな……そんな気がするのよね。まあ……単なるカンだとしか言いようがない話ではあるんだけど……」
「なるほど……カン、ですか……。判断の難しい所ですね」
「そうよねぇ……」
そんな話をユーコとしていると、ロディが私たちの方にやってきて、
「――アカリには予知夢の力があるんだろ? なら、その力の一端が形を変えて発露した可能性もあるぞ。というのも……どういうわけか知らんが、地球からこっちに来ると、サイキックを含めた異能の力が、増したり変異したりするらしい。あ、今のはクーが言ってた話な」
なんて事を、声のボリュームを絞って告げてきた。
「あ、そうなの? それじゃあ、ユーコの私が考えている事が前よりわかりやすくなったって言ってたのは……」
「その影響……という事になりますね。……だとしたら、灯のその感覚――カンも無視出来ませんね」
私の言葉を引き継ぐようにして、ユーコがそう返してくる。
「ああ、俺もそう思う。……本来の目的を優先して動いた方が良いかもしれないな」
ロディがユーコの言葉に頷き、そんな風に言った。
ちなみに灯の現状をちょっと詳しく書くと、『予知夢が直感(というか、なんとなくそう感じる……というような)形で、表面化するようになった』状態です。
しかし、このまま本来の目的通りに進むと何かと鉢合わせになるような……?
といった所でまた次回! そしてその次回の更新ですが……明後日、木曜日を予定しています!




