第67話[表] カウントとターンとフェイズ
<Side:Coolentilna>
「まさか、あまりにもややこしい……複雑すぎる術式を構築した上で、無茶苦茶でっ! 意味不明でっ! 理解不能すぎるっ! そんな事をされているとは思わず、完全に不覚を取ったのです……っ!」
「あ、あー、えーっと……どういう……事?」
若干呆れた表情で頬を掻きながら、私にそう問いかけてくる灯さん。
……はっ! あまりの状況に、つい勢い余って変な事を口走っていた気がするのです! う、うぅ……なんだか微妙に恥ずかしいのです。
とはいえ、最早手遅れなので、諦めて気を取り直していくのです。
……若干、自分で手遅れだとかそんな事を考えている時点でどうかと思うですが……まあ、いいのですっ!
「……そ、その、人狼にばかり気を取られていたのですが……ディストーションディテクターの反応を見ると、実はこの辺り一帯に、巧妙に隠蔽された複雑な『陣』が展開されているようなのです」
「陣……。つまり、魔法……って事ぉ?」
私の説明に、今度はアリシアさんがそんな疑問を投げかけてきたのです。
「はいです。ただし、魔法は魔法なのですが、一般的な魔法とは違うのです」
「一般的な魔法とは違うぅ?」
「これは『融合魔法を擬似的に再現した魔法』と同じような感じで……『理を擬似的に再現した魔法』なのです」
アリシアさんにそう説明すると、今度はロディさんが疑問を口にしたのです。
「……理を擬似的に再現した……? そもそも、理とは……なんだ?」
「私が先日、ノイズキャンセラーを使わないとノイズに聞こえてしまう言葉を口にしたと思うですが、この世界にはああいった『制限』ともいうべき『理』がいくつか存在しているのです」
ロディさんにそう返す私。厄介なのですよね……この『理』……
「そう言われると、たしかにクーさんの言葉がノイズになった時があったわね。なるほど、あれが『理』……」
「その『理』という物の中に、このターン行動みたいな『制限』が課せられるタイプの物もあるんですか?」
灯さんとユーコさんがそんな風に言ってくるのです。
「ちょっと違うのです。この陣の魔法は、『理』そのものを擬似的に再現しているのです。なので、こういう『理』そのものはないのです。あくまでも『理』として機能するように仕向けられた魔法、なのです」
「……んー? いまいち良くわからんが、要するに……あー、その魔法はスポーツやカードゲームに例えると、勝手に『ルール』を増やして、更にそれがさも正式なルールであるかのように、場にいる全員に『刷り込んでいる』っつー事でいいのか?」
「はいです。その認識で問題ないのです」
ゼルディアスさんの解釈に頷き、そう答える私。
「でも、一体全体どういう仕組みでそんな事を実現しているんだ?」
「それに関しては、今から術式を視覚化するのです」
ロディさんの問いにそんな風に答えると、私はその陣を目に見える形にするべく、ディストーションディテクターを操作したのです。
……っと、これでいいのです。
そう心の中で呟きながらボタンをポチッと押すと、
「う、うわぁ……なにこれぇ……」
と、アリシアさんが驚きと呆れの入り混じったような声を上げるような、そのとんでもない『陣』が顕になったのです。
「私たちに鎖みたいなものが繋がっていますね」
「そこに、懐中時計みたいなもんがくっついてんな」
ユーコとゼルディアスさんがそう言うように、私たち全員が、鎖のような『線』で『宙に浮かぶストップウォッチのような形状の物』と繋がっています。
「そのカウントが0にならないと動けない……というより、動こうという『意思』が出ないのです」
「たしかに、これを見てもなお、動こうという気にならないな……」
私の話を聞いたロディさんが、サイコキネシスで剣を浮かせるも、それを飛ばすわけでもなく、その場で浮かせたままの状態でそう言ってきます。
そんな事を考える私自身も、攻撃を仕掛けようという『動き』そのものが阻害されてしまっている感覚のせいで、動けないのです。
「あの浮いてるタイマーを壊したらターンが回ってきたりしないかしらね?」
「灯がやっていたゲームの、時の結界じゃないんですから……」
「とりあえず撃ってみるわ。えいっ!」
なんて事をユーコさんに言いながら、魔法の矢を射る灯さん。
しかし、その矢はストップウォッチのようなものをすり抜けてしまったのです。
「やはり、あのゲームとは違って、そういう方法ではターンは得られないようですね」
と、ユーコさんが言うとおり、どうやら壊すのは無理な感じなのです。
「今、こいつのカウントが0なのは……誰だ?」
「エリスさんっすね」
ゼルさんの問いに対し、ツキトさんがエリスさんを指さしながらそう答えます。
「あ、ホントだ。エリスのカウントだけ0だねぇ」
「なるほど……。たしかにエリスさんだけ動けていますね」
アリシアさんとジャンさんがそう言うように、今はエリスさんだけが、人狼に対して距離を取りながら、ブラスターで攻撃を行っているのです。
「人狼の懐中時計が光ったっすね?」
「あれ? カウントがまだ0じゃないのに人狼が動いたわね?」
ツキトさんと灯さんが、エリスさんに向かって動く人狼を見ながらそう口にしたのです。
「反撃フェイズ……なのでは?」
「あー、そう言われるとSLGなんかだと、敵に攻撃を仕掛けた時に、その攻撃で倒せなかった場合、今度は敵からの反撃が来るわね。その逆もあるけど」
ユーコさんの推測にそんな風に言って納得する灯さん。
「エスエルジー……ですか?」
「ジャンさんがこの間、熱心にプレイしていた携帯通信機用のゲームと同じタイプのゲーム――シミュレーションゲーム全般を、そう呼ぶんだ」
SLGという略称に疑問を抱いたジャンさんに対し、ロディさんがそんな風に説明すると、ジャンさんは腕を組み、
「ああ、あの拠点攻略の戦術を構築するための鍛錬に、とても最適なゲームですか。なるほど納得です。たしかにあれは『シミュレーション』ですね。個人的にはもう少し高難易度で……なおかつ、リアルタイムに動く物とかがあると良いのですが」
と、納得したように言ったのです。
さすがはロディさん。地球出身だけあって、返し方が上手いのです。
……それにしても、高難易度でリアルタイム……? 私には難しすぎてクリア出来なかったですが、リアルタイムストラテジータイプのシミュレーションゲームとかが、それに該当するですかね?
うーん、ウチ――『黄金守りの不死竜』の誰かに、リアルタイムストラテジーのゲームを作らせてみても良いかも知れないのです。案外、ウケるかもしれないのです。
っとと、思考が逸れてしまったです。
思考を戻して話を続けるのです。
そして……どうにかして、この厄介で奇怪で理解の出来ない術式を打ち破らないと……っ! なのです!
『理を擬似的に再現した魔法』の登場となりました。
仕組み的には、カウントが0になるとターンが回ってきて、自身のターン中に長時間行動するほど、カウントが長く(多く)なる感じですね。
ちなみに、カウントさえ0なら、複数人で同時に動く事も可能です。
……誰が何の目的でこんな不可解な魔法を作ったのかについては、いずれ……
(クーレンティルナの言動が壊れてしまうくらいに意味不明な代物ですが、何気にエレンディア編の物語の中核に関わってきたりします)
といった所でまた次回!
そして、その次の更新ですが……明後日、水曜日の予定です!




