第66話[表] ターンバトル?
<Side:Akari>
「魔法をかき消してきたって事はぁ、あの爪は魔煌波に干渉する事が出来るみたいだねぇ」
いつの間にか横にいたアリシアが、そんな事を言って、肩をすくめてみせる。
「……なら、どうしてスタンウェポンを食らった後の魔法は、そうやって消さなかったんだ? あいつ、まともに食らってたよな?」
「たしかにそうっすね。……もしかして、スタン――麻痺してまともに動けていなかった……とかっすかね?」
「あり得なくはないが……」
ゼルとジャンがそんな事を言うと、エリスが、
「だったら、直接殴るだけですわ!」
なんて事を言いながら、人狼へと突っ込んでいった。
「ルオオオオオオッ!」
人狼が咆哮を発する。
しかし、それだけで特に何もしてくる様子はない。
「ただの咆哮なら何も怖くはないですわ!」
と言い放ち、一気に人狼めがけて踏み込むエリス。
しかし、その瞬間、その動きが急速に鈍る。
「ぐぅっ!? か、身体が重い……ですわっ」
その声と同時に、人狼が一瞬、ニヤリとしたように見えた。
「エリス! 来るぞっ!」
ゼルの忠告どおり、人狼がエリスの方へと踏み込む。
「くっ!」
エリスは、人狼の振るった腕を斧を盾のようにして構え、防ぐ。
しかし、攻撃は防げたものの、衝撃は抑えきれなかったようで、エリスの身体が宙に浮いた。
「っ!」
私は、エリスへ追撃を仕掛けようとする人狼めがけ、矢を連射し、妨害を試みる。
エリスに当たらないよう、やや軸をずらして撃った為、一発も当たる事はなかったが、人狼の意識が矢へと向き、追撃が一瞬止まった。
そして、人狼が再度エリスの方を見た時には、既にエリスの姿はなかった。
代わりに少し離れた場所にその姿が犬と一緒にあった。
そう……犬へと変身したクーさんが、エリスを咥えるような形で、その場から引き離していたのだ。
「ディストーションディテクター起動っ!」
クーさんがどこからともなく取り出した小型の装置を地面に置いて、起動。
すると、人狼を中心として、奇妙な赤い円形の波動が周囲に広がり、そして消えた。
「どうやらあの咆哮は、周囲に近づいた者の身体能力を下げる『領域』を生み出す効果があるようなのですっ! 近づいては駄目なのです!」
と、クーさん。
良く分からないけど、あの波動が広がって消えるまでの範囲が、その『領域』とやらだと考えてよさそうね。
「爪で魔法をかき消し、咆哮で『陣』タイプの魔法の如き事をやってのける……思ったよりも面倒っすね」
「おそらく、あの人狼は霊力を持っているのです」
エリスと共に、私たちのいる方へ移動しつつ、ツキトの言葉にそんな風に返すクーさん。
「クーさん、いつの間にかいなくなっていたけどぉ、どこへ行っていたのぉ?」
「あの人狼の血、少し危険そうな感じだったので、洗い流していたのですよ。……ちょっと手遅れだったようで申し訳ないのです」
クーさんがアリシアの言葉にそう答えながら、私に対して頭を下げてきた。……って!
「いやいやいや! クーさんが謝る事じゃないわ! 単に私の油断、不注意だし!」
実際、私のミスなので、クーさんは全く悪くない。
なので、私は手を横にブンブンと振りながらそんな風に言った。
「ええ、悪いのは灯です。クーさんはこれっぽっちも悪くありませんよ。……それにしても、本当に人狼の血がすっかり消えてなくなっていますね……」
「まさか、あれを全部洗い流すとはな……。だが、一体どうやって?」
ユーコの言葉に続き、ロディがそんなもっともな疑問を口にする。
「ああいうのを纏めて洗い流すのにちょうど良い魔法があるのです。……灯さんとユーコさんには、『おふたりが今日使えるようになった魔法と同類』と言えばわかると思うのです」
と、そんな風に答えるクーさん。あ、そういう事ね。
「なるほど……『融合魔法を擬似的に再現した魔法』ですか。たしかにあのとんでもない性能ばかりの魔法であれば、その程度の事は簡単に出来そうですね」
「融合魔法を擬似的に再現した魔法……? なんだか良くわからんが、そんないかにも『上級魔法』だと言わんばかりの代物が生み出されていたのか……。……俺もちょっと欲しくなってきたぞ」
ユーコの言葉にそう返すロディ。……まあ、わからなくもないわね。
「その剣もエステル製なのよね? 組み込めるんじゃない?」
「ふむ……明日にでも行ってみるか。……もっとも、その前にあいつをどうにかしないと駄目だが」
私の言葉にそう言いながら、視線を人狼へと向ける。
私もそれに続く形で再び人狼へと視線を向けた。
人狼はこちらの出方を伺うようにその場に留まっている。
「……動いたり動かなかったり、なんというか随分とチグハグな行動をしているわよね、あの人狼……」
「そういえばそうだな。なんというか……まるでゲームのように、自分のターンと相手のターンを交互に繰り返しているみたいな感じだ」
「あ、たしかに」
ロディの言葉に妙な納得感を覚える私。
こちら側のターンを回避やカウンターで凌いだ後、向こう――人狼側のターンで攻撃行動に移る……ロディの言う通り、ターン行動をしているような感じなのよね……
「……そうですね。ロディさんの言う通り、チェスやカードゲームをしている気分になりますね。こちらが先に動き、それに合わせるようにしてあちらが動く……いわゆる、後の先が多いですし」
私の言葉に、ジャンさんが顎に手を当てながらそんな風に言う。
私とロディのイメージは、チェスやカードゲームじゃなくて、ターン制のRPGやSLGなのだけど、まあこの世界にはまだどちらも存在していない――あ、いや……小規模だけど、SLGはもうあった気がする――なので、ゲーム、そしてターンと言われたら、チェスやカードゲームの話だと思うのは間違いないわよね。
……って、そうじゃなくって! それはどうでもよくって!
「――なんか、こっちも動きが制限されている気がするのよね……。それこそ……自分のターンが回って来るまで動けない、そんな感じかしら」
と、告げる私。
実際、こうやって『会話をしている』間は、完全に動きが止まっているのよね、私たち……
というか……どうして戦闘中に、こんなにのんびり会話なんてしてるのかしら……?
……急に妙な疑問というか、恐怖が湧いてきたわ……
「言われてみると、『一斉に攻撃を仕掛けりゃいいだけ』なのに、『そういう気が起きねぇ』な」
「……っ! ……完全に、あちらの術中にはまっていたようなのです……」
ゼルの言葉に何かに気づいたクーさんが、ディストーションディテクターへと顔を向け、そして額に手を当てて小さく嘆息した。
……え? まさか、本当に私たちターン行動をしていた……の?
状態異常云々に続いて、ターン云々の話です。
まあ、こいつとの戦闘では明らかに会話が多く、戦闘が停止しているかのような場面が多かったので、何か違和感を覚えた方もおられるのではないかと……
(63話で、ロディが戦闘中だから話は後にしてくれと言っているのにも関わらず、話しまくっていましたしね)
一体どういう風になっているのか、というのは次回!
(思ったよりも長くなってしまって、そこまで行けませんでした…… orz)
そして、その次回の更新ですが……明後日、月曜日の予定です!




