第63話[表] 迎撃する者たち
<Side:Yuko>
「どっちかというと……後者――」
呆れ気味な口調で問いかけてきた灯に対し、私がそう答えようとした所で、
「アカリぃ、ありがとぉ。弓による遠隔だけじゃなくて、近接戦闘も出来るんだねぇ。お陰で助かったよぉ」
と、アリシアさんが灯の背中に飛びつきました。
「うんまあ、遠隔戦闘の技術だけだと、間合いに入られた時に危険だから、それなりにやれるようにはしてあるわ」
「へぇ、なるほどねぇ……」
灯の言葉に納得するような表情で、顎に手を当てるアリシアさん。
「……でも、ここ最近、昔よりも技術力が向上している気がするのよね、不思議だわ」
「なんだかんだで武器が強化されていますし、何度か戦闘もしていますからね。例え、遠隔戦闘がメインであっても、戦い方そのものが洗練されれば、近接戦闘の方も自ずと強くなるものなのではないでしょうか」
PACブラスターをクルクルと回しながら言う灯に対し、そんな風に返す私。
実際、私もこっちに来てから、戦い方が上手くなっていっているのが実感出来るんですよね。
やっぱり、地球に居た頃と違って、直接的な戦闘をこなしているからなのでしょうか……?
百回訓練するよりも、一回実戦した方が成長する、なんて言われる事もあったりしますし。
「おーい……なんでもいいが、戦闘はまだ終わってないから話は後にしてくれ……」
ロデリックさんが剣を振り回して敵2人を続けざまに倒しながら――手ではなくてサイコキネシスで、ですが――そんな風に言ってきました。
あ……
ロデリックさんの言葉にハッとなった私たちは、揃って謝罪の言葉を口にすると、今だ戦意を失わない敵へと視線を向けます。
「まだよぉぉぉ! こいつで燃えてしまいなさいなぁぁぁ! あはははははっ!」
手に持った剣に炎を纏い、笑いながら突っ込んでくる敵。……ぶ、不気味ですね……
「火の用心っ、なのです!」
なんて事を言いながら飛び出していったクーさんが、勢いよく振るったハンマーで、その敵をふっ飛ばしました。まさにフルスイングという奴です。
それにしても、人間1人をふっ飛ばしてしまうだなんて、相変わらず凄い膂力ですね……
ふっ飛ばされた敵はというと、建物の壁に勢いよく激突し、一発で気絶しています。
……なんか壁に盛大にヒビが入っていますが、大丈夫なんでしょうか……? 色々な意味で。
「あいつら、もう半数近く――7人も倒されたってのに、怯みもしねぇな」
ゼルディアスさんがそう言いながら、一斉に飛んできた火球を、障壁魔法で防ぎます。
「狂戦士化する魔法薬でも使ってるんじゃありませんの?」
「狂戦士化したら、思考が力任せ一辺倒になるので、あんな風に魔法を上手く使う戦い方は出来ないと思いますが……」
エリスさんの言葉に、ジャンさんがそんな風に返します。
「言われてみると、たしかにそうですわねぇ……」
「ま、なんだかよくわからんが、普通じゃない状態だってのは間違いないな」
エリスさんに続くようにしてロデリックさんがそう言って、再び剣を振り回します。
「ユーコ! こっちから仕掛けるわよ!」
そう言ってきた灯に頷きつつ、私は近くの建物――先程、クーさんがふっ飛ばした敵によって、壁にヒビが入った建物――の壁をすり抜けます。
……この建物、人気がないと思ったら、物もありませんね。すっからかんです。
これなら、壁にヒビが入っていても、とりあえず心配はないですね。
それにしても、うーん……北エレンディアの活気に対して、南エレンディアはどこか荒んでいる感じですし、こういう何一つ残っていないような建物が多そうです。
なんて事を思いつつ、灯の動きを予測して移動。
多分ここだろうと思った所で、建物の壁を再度すり抜けます。
すると、灯の矢の嵐を防ごうと物陰に隠れていた敵の目の前に出ました。
これぞまさに、どんぴしゃりという奴ですね。
「なっ!?」
驚く敵を縦に一回転しながらブーツで蹴り飛ばし、少し上空へ移動。
浮いた状態で、魔法の発動を構え……即発動。
「《翠風の空衝波》っ!」
私の放ったそれは、風属性の衝撃波を周囲に発生させる魔法です。
つまり――
「ぐおっ!?」
まともに魔法を食らった敵がクーさんのハンマーで叩かれたかの如く吹っ飛んでいき、ドラム缶の束へと激突。
盛大に音を立てながら、その中に埋もれて動かなくなりました。
と、こうなるわけです。
……多分、殺してはいないはずです……。殺傷力のある魔法ではないですし……
「サマーソルトなんて出来るのね……」
なんて事を言いながらやってくる灯。
あれをサマーソルトと言ってしまって良いのか微妙な所ですが――
「まあ、浮いていますからね。一回転しながら蹴るくらいは余裕ですよ」
「そ、そういうものなの……?」
「そういうものですよ」
若干、腑に落ちないといった感じの表情をしてくる灯にそう返す私。
「ジャンさんとロデリックさん、それにゼルさんが1人ずつ倒し、こちらが2人……残り3人ですが……」
周囲を見回して状況を把握し、呟くように告げる私。
ちなみに、ツキトさんは未だに治療の真っ最中で、戦闘には参加していませんね。
そんな私に、
「逃げる素振りも見せないわね」
と言って、肩をすくめてみせる灯。
「ええ、本当にその通りですね」
「……というか、ひとりだけ動かないのがいるわよね?」
そう言いながら、ある一点を見つめる灯。
私もそちらへと視線を向けます。
「そうですね。少し離れたフェンスの上に立って、見ているだけの人がいますね」
「よくもまあ、あんなバランスの悪そうな所に良く立てるわねぇ」
「……気にする所、そこですか?」
ジト目でそう返す私。
そもそも常に浮いている私に、バランスの悪そうな所とか言われても、正直良くわかりませんし……
怪しげな敵が残っているようですが……
といった所でまた次回! 更新は明後日、火曜日を予定しています!




