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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第31話 復活のロゼ

――詰め所を出た時には、いつの間にか夕方になっていた。

 

「ちょっとばかし、長々と話をしすぎたようじゃな」

「そうみたいだな。……明日の準備は大丈夫なのか?」

 エステルの言葉に頷き、そう返す俺。

 

「なに、さほど持っていく物はないから準備なぞすぐ終わるわい。それに、もし足りない物があったとしても、取りに戻って来れば良いだけじゃしの」

 と、エステル。……ま、それもそうか。鉄道を使えばすぐの距離だし。

 

「それじゃ、ミラージュキューブは任せた。……なくしたり壊したりしないでくれよ?」

「妾をなんだと思っておるのじゃ。そんな事になどならぬから心配するでない」

 心外だと言わんばかりの表情でそう言ってくるエステル。……そう言われても、時々ポンコツな事やらかすからなぁ……

 そんな事を声には出さず、心の中で呟きつつそのままエステルと分かれ、宿へと戻ってくる俺。

 

 と、宿に入った所で、談話スペースにあるソファーに座っているアリーセとロゼの姿が目についた。何かを話しているようだが――

 って、そうじゃないな。あれは話しているというよりも、アリーセがロゼを問い詰め……いや、それも少し違うか。

 

 アリーセがロゼに対し、ビシビシと額にチョップをかましている、だな。

 

 あれはなかなか痛そうだ。なんだかロゼが涙目になっているし。

 ……やれやれ、しょうがないな。助け舟を出してやるとするか。

 

「おーい」

 二人にわかりやすいよう、俺はあえて手をあげ、声をかけながらソファーの方へと近づいていく。

 

「あ、ソウヤさん」

 俺に気づいたアリーセが、即座にロゼへのチョップを止め、ソファーから立ち上がった。

 そして、そのアリーセに続くようにして、額を両手で抑えながら、ロゼもまたソファーから立ち上がる。

 

 そう『両手』だ。額を抑えるロゼの手はしっかり2本あった。

 腕に視線を移すと、切断の痕すらそこにはない。……やっぱりすげぇな、この世界の治療技術は。

 

「どうやら、無事に退院出来たようだな」

 退院という言い回しでいいのか分からなかったが、治療院という名称だし、問題ないだろう、多分。

 と、そこでふと気づいて言葉を付け足す。

「……って、そういや俺、自己紹介してなかったな……」

「あ、うん、問題ない。話はアリーセから色々聞いている。魔獣を瞬殺したとか、冥界の悪霊すら瞬殺したとか……」

 ……なにやら、ここでも冥界の悪霊が瞬殺された事になっているんだが……。アリーセはあの場にいただろうに。

 

「――あなたがあの魔獣を瞬殺してくれたお陰で、私もアリーセも助かった。……でもうん、私は額に大ダメージを受けてもう一度治療院送りになりかけたけど」

 ロゼがアリーセをジトッとした目で見ながら額をさする。

 

 喋り方が淡々としているせいで、ボケなのか本気で言ってるのかわからんが、ボケに近い気はする。

「ふふふ。どの口が、言っているん、でしょうか、ねぇ……!?」

 笑いながら怒気を含んだ言葉を発し、ロゼの頬を掴んで左右に思いっきり引っ張るアリーセ。

 

「いひゃい、いひゃい、ひゃめふぇ~」

「うふふふふふ」

 ……怒っているのに、顔は笑っているというのは、なかなかに怖いな。


 ――ひとしきり伸ばされたロゼが今度は頬をさすりながら、

「う、ううぅん……ほっぺたが壊れるかと思った」

 なんて事を言っている。壊れたりはしていないが、真っ赤にはなっているな。

 

「まったく……。そもそも、元を正せばロゼがあんな無茶な事をするから悪いんです。もう二度とあんな無茶はしないでください」

「むう……。それは――」

 アリーセに対し、反論の言葉を投げかけようとするロゼだったが、どういうわけか、途中で言葉を飲み込んでしまった。

 

 今の流れなら、即答で了承するかと思ったんだが……どういう事だ?

 しばしの逡巡の後、ロゼはアリーセの目を真っ直ぐに見て、

「うん、それは……約束、出来ない。アリーセを守る為なら、必要であれば、無茶はする。だけど……うん、なるべく無茶はしないで済むよう、可能な限りの善処はしようと思う。……やっぱりああいう凄く痛いのは、何度目であっても、慣れるものじゃないし」

 と、そんな言葉を返した。

 

 それを聞いたアリーセは、頬に手を当てて残念そうな表情でため息をつく。

「……私はロゼと普通の友人でいたいのですけどね」

 ……ん? なんだ? アリーセとロゼは単に同じ学校の友人だと思っていたが、この二人の話し方からすると、ロゼはアリーセの護衛のようなものなのか?

 

 うーん、どういう関係性なのか気になるが、この場でこちらからそれを聞くのは、なんだかちょっと気が引けるしなぁ……

 

 と、そんな事を考えていると、ロゼがこちらを向き、右手を胸の上部に当てて頭を下げてくる。

「遅くなったけれど……うん、改めてお礼を言わせて欲しい」

 この仕草は……ロイド支部長が自己紹介の時にやっていた物に似ているな。まあ、あれは右手を左腕に当てていたが。

 この辺の動作――というか礼儀作法に関してはよくわからんな。例の本に書いてあったりするんだろうか?

 

「いや、俺は大した事はしてないぞ? どちらかと言うと頑張ったのは、薬を作ったアリーセの方だ」

「ううん。あなたが持っていた魔石がなかったら、その薬は作れなかった。だから……うん、あなたのお陰で問題ない。――ありがとう」

 頭を上げ、俺にそう告げてくるロゼ。最後は少し微笑んでいたようにも感じた。

 

 ……そういや、生命なんとか薬を作るのに必要だって言うから魔石を渡したな。

 魔石を渡したのも大した事ではないと俺は思うが……否定しすぎるのも良くないか。

 

「そうか。ならまあ……どういたしまして、だな。……とはいえ、あの魔石を俺が持っていたのは偶然だから、どちらかと言うと、ロゼの運が良かったというべきかもな」

「……ううん、運が良かったのか悪かったのか、正直、微妙な所。なぜなら、短剣に宿す魔法――属性を、翠系統の風属性だけにしておかなければ、もう少し上手く戦えたから……うん」

「ん? それはどういう事だ?」

「あ、それはですね――」


                   ◆


「ふむ、なるほど……。障壁か」

 アリーセの説明によると、二人が遭遇した角狼……モータルホーンは、風膜という防御障壁を常に纏っており、ロゼの力――正確には短剣の持つ風の力――を十分に発揮する事が出来なかったらしい。

 

 ……要するにゲーム的な言い方をすると、風属性の攻撃手段しか持っていないのに、相手が風属性への強い耐性を持っていた……ってな感じか。

 ……思い返してみると、たしかに奴は緑色のオーラを纏っていたな……。おそらくだが、あれが風膜って奴だったのだろう。

 俺のサイコキネシスを使ったあの攻撃は純粋な物理攻撃だったから、風属性耐性なんてものはまったくの無意味で簡単に倒せたが、もし風属性攻撃しかない状況だったら、多分俺も倒すのは厳しかったんじゃないかと思う。

 

「うーむ、そいつはまた相性最悪だったな。ロゼがさっき、運が良かったのか悪かったのか微妙な所だと言ったのも納得だ」

 腕を組みながら、そうロゼに対して言う俺。

「うん。身体能力強化系の魔法が多い翠系統で統一しようとして、攻撃魔法も翠系統の風属性の物にしたのが裏目に出た。短剣は2本あるのだから、片方は別系統にしておくべきだったと今は思う、うん」

 と、ロゼはそう言いながら短剣が収められているソードホルダーを、手でコツンと軽く叩いた。

 そういえば……朝、ロゼの短剣で魔法を試し撃ちしてみた時に使えたのは、『翠』から始まる名称の魔法――翠系統の魔法だけだったな。

 

「1つの武器に登録する魔法を、同じ系統で統一するとなにかあるのか?」

「うん。登録する魔法を同一系統で統一しておくと、回路にかかる負荷が減るとかで、魔法使用時の魔力消耗が少なくなる。……うんまあ、要するに長持ちする」

「へぇ……そういうもんなのか」

 説明から察するに、おそらく系統を切り替える際に回路に負荷がかかって、魔力を余計に消費するって感じなんだろう。

 つまり、複数系統の魔法を使いたいのなら、複数の武器――武器タイプの魔煌具を用意するか、魔力の消耗が増えるのを覚悟の上で登録するか、って感じか。

 

「魔煌具の魔力は、放っておけば自然に回復するとはいえ、その回復速度は非常に遅いですからね。町の中でしたら、宿や魔煌具屋などに設置されている魔力供給装置を使う事で素早く回復出来ますが……」

「うん、町の外だとそういうわけにもいかない。だからうん、少しでも魔力の消耗を抑えられるのであれば、それにこした事はない」

 ロゼが頷き、アリーセの解説を引き継ぐ形で言葉を紡ぐ。

 

「まあたしかに、魔力供給装置を持ち歩くのは現実的じゃないしな」

 あの魔法杖専用の物くらいの大きさであれば、一応次元鞄を使って持ち歩く事自体は可能だが……俺の次元鞄は特殊らしいしな。

 もっとも、俺の次元鞄を使ったとしても、汎用の魔力供給装置はデカすぎるので、出し入れで苦労しそうだが。

 

「うんうん、そういう事」

 と、そう言った直後、ロゼの腹がクゥと鳴った。

 

「……うん、私も供給が必要。主に食べ物の。昨日から供給していない、うん」

 相も変わらずの、やや淡々とした喋り方ではあったが、顔を良く見ると、ほんの少しではあるが、恥ずかしそうな表情をしているのが見て取れた。

 

「あー、なるほど……。そう言われると、たしかにその通りだな。ま、俺も腹が減ってきたし……そこの食堂でなにか食べるとするか」

 俺がそう言って食堂の入口を指さすと、ロゼが首を縦にコクコクと2回振りながら、

「うんうん、すぐに食堂へ行こう」

 と言って、食堂の方へと向かって歩き出す。

 

 俺とアリーセも、その後を追うように食堂へと向かう。

 が、そこでアリーセが、

「この宿の食堂で出される料理は、全体的に量が多めなので、ソウヤさんや今のロゼには、ちょうど良いかもしれませんね。……私には若干厳しめですが」

 なんて事を言ってきた。

 ……いや、俺も実はそんなに食べる方ではないのだが……大丈夫だろうか?

軽く補足すると、魔法の系統(魔法名の頭にくる文字)は、朱、蒼、翠、玄、金、銀の6つです。

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