第56話[裏] リリアとロゼ
<Side:Souya>
「……う、うそ……!? 貴方……リ……リリア!?」
シャルが見上げた格好のまま、心底驚いたと言わんばかりにそう声を上げる。
その視線の先には、翼をはためかせるドラグ族の女性の姿があった。
……リリア……ドラグ族……。竜牙姫リリア……か?
だが、竜牙姫リリアは――
「あ、貴方、死んだんじゃなかったの!?」
まさに俺が思った事を口にするシャル。
「……あらー? 失敗しましたわー。私とした事が、シャルロッテに遭遇してうっかり話しかけてしまいましたわー。本当は死んでいるはずの私がー、顔を見せるわけにはいかないんですのにー」
凄い棒読みな感じでそう返すリリア。
……いや、明らかに接触する気満々だっただろ……
「で……? 実際の所、俺たちに何の用だ? っと……その前に礼を述べさせてくれ。――貴方の投げた槍のお陰でロゼの命は救われた。感謝する」
そう言って頭を下げる俺。
「お礼を言われる程の事はしていませんわ。私はあの魔物を倒すために槍を投げつけただけですもの。……まあ、その槍は貴方たちの攻撃で消滅してしまいましたけれど」
「……あ、ああ……それについてはすまない……。あの槍の替わりになるかは分からないが、俺たちの技術で作れる最高級の物を用意する」
「いえいえ、別に構いませんわ。あの槍、何本もありますもの。実際、この間も鉄道運行保安隊の人に1本差し上げたばかりですし」
俺の言葉に対し、リリアが微笑みながらそんな風に言って返してくる。
「バーンに槍をあげたのは貴方だったのね……」
「そういえば……バーンがリリアに似ていたと言っていたけど、バーンとリリアは直接的な面識はないのか?」
「ないはずよ。私とリリアが出会ったのは、討獣士として活動するようになった後だし」
「そうそう、魔法探偵シャルロットみたいな事をしていた頃でしたわね。うーん、今思い出しても、あの時のキレッキレなシャルロッテは素晴らしかったですわね」
「あ、あの時の事は忘れてぇぇぇっ!」
最近、この展開多いな……。まあ、当時のシャルを知る者とか、最近魔法探偵シャルロットを読んだ者との接触ばかりだから仕方がないと言えば仕方がないが。
……って、そういえば……その魔法探偵シャルロットを最近読んだばかりのロゼが、さっきからずっと静かだな……
と、そこで俺は気づく。
ロゼを抱きかかえたままだった事に。
見ると、ロゼは顔を茹でダコのように真っ赤にしていた。
まさに湯気が出そうな勢いだ。
ここまで恥ずかしそうな顔をしているロゼを見たのは、始めてな気がするぞ。
っと、いかんいかん。
「……すまん。下ろすのを忘れていた……」
そう謝りながらロゼを地面に下ろす。
するとロゼは、
「……ん、気にしなくて……いい。うん……」
とだけ口にして、勢いよくマーシャの方へと走っていって――いや、逃げていってしまった。
……そ、そんなに恥ずかしかったのか……
◆
<Side:Rose>
――ぴぎゃああああああぁぁぁぁぁっ!
心の中で今まで叫んだ事のないような叫びを上げながら、マーシャのもとへと走る私。
うんまあ、正確に言うのなら、全力でソウヤのもとから逃げ出した、だけど……うん。
何故か空を飛んでいたと思ったら、落下してソウヤの腕の中にいた。
なんていう体験をすればそうなるのは仕方がないと思う。
うん、仕方がない。仕方がない。
「ママ、お姫様みたいに抱っこされていたね!」
などという無邪気な声に出迎えられた。
「ぴぎゃああああああぁぁぁぁぁっ!」
意表をついた一言を受けた事で、私の口から遂にそんな声が出てしまった。
うん、これは無理。防御不可。回避不可。一撃必殺。うん。
「……? 顔真っ赤だけど、大丈夫?」
マーシャは、こてんと小首を傾げて不思議そうな表情を見せた後、何かに気付いたかのように表情を変え、
「もしかして、異能の使いすぎで熱が出た……とか!? それとも腕が燃えたせい……!?」
なんて事を言って心配そうに見つめてきた。
「ん、んん……っ。ち、違う。どっちも違う。だ、だから大丈夫……うん。た、単に予想外の出来事が多すぎただけ……。うん。腕と顔に驚いただけで、少しすれば落ち着く。うん、う――」
そこまで返事をした所で、ソウヤの腕の感触と顔が浮かんできた。
「――ぴぃぃぃっ!?」
私は、自分の顔が再び真っ赤になるのが分かった。
うっかりしてしまった恥ずかしい回想――妄想に頭が混乱する。
そして、顔を残った方の手で覆ったまま、まるで土下座でもするかのように勢いよく、その場にうずくまった。
「だ、大丈夫? やっぱり、怪我のせいか、どこかに異能の反動が……?」
そうじゃない。うん、そうじゃない。
――それにしてもマーシャ、反動とか難しい事言ってるけど、良く知ってる。うん、驚き。
などと、やや現実逃避気味な事を考えつつ、
「ん、大丈夫……。気にしないで……うん」
と答え、しばらく恥ずかしさに悶えながらその場でうずくまっていると、唐突にパキィンという何かが割れるような音が、頭上の方から響いてきた。
……ん? 今度は……何?
むぅ、少しくらいゆっくり悶えさせて欲しい……うん。
ロゼが色々と壊れていますね……(何)
とまあそんなこんなで、また次回!
更新は明後日、月曜日(カレンダー上では平日に見えるけど祝日!)の予定です!




