第54話[裏] 異能と異能
＜Side：Rose＞
「ん……。あの場所からそこそこ離れてみたけど……うん、マーシャ、大丈夫？」
ギリギリふたりが見える地点まで移動した所で、私は娘――じゃなかった、マーシャの体調を気遣いながら問いかける。
「うん、だいぶ良くなった。ありがとう、ママ」
そう言って笑みを浮かべてくるが、まだ少し苦しそうだ。
ん……もう少し離れるべき……？
「あまり離れすぎると何かあった時に困ると思うから、この辺りで大丈夫」
まるで私の思考を読んだかのように、そう言ってくるマーシャ。
「……遠慮は不要、うん。もし苦しいのならもう少し離れるべき。うん」
「ううん、大丈夫。多分、少し離れたくらいじゃ変わらないと思うから、ここで問題ないよ」
「……ん？ なら、うん、もっと大幅に離れる？」
「そうすると、パパとシャルお姉さんの姿が見えなくなっちゃうから、駄目だと思う。……ところで、ママもシャルお姉さんもパパの事が好きっぽいけど、ママはシャルお姉さんと違って凄い消極的な気がするけど、ママは本当の意味でママになるつもりないの？」
私の問いかけにそんなトンデモナイ返答をしてくるマーシャ。
……えっと、うん、その疑問はかなり困る。うん。答えづらい……
というか、うん……どうして私がソウヤに対して、そういう感情を懐きつつある事を理解しているのだろう……うん。恐るべし。
「ん……。私は、私自身が良くわからないから……かもしれない。うん。……たしかに、以前と違って……うん、そういう目でソウヤを見てしまう事はある。うん。……だけど、私はそういう感情を持った事が今までない。うん。だから……まだ何も出来ない、うん、なんというか……まるで霧の中で迷っている感じ……？ うん」
……んん、口にしておいて何だけど、私は何を言いたいのだろう？ うん。
頭の中で思考が纏まらないまま、言葉だけが口から出てしまった感じ。うん。
「ふぅんなるほどぉ……。つまり、ママは『自分の中に突然湧いてきた感情に戸惑っていてどうしていいのかわからなくなっている』って事かな？」
マーシャが人さし指を頬に当てながら、そんな風に言ってくる。
お、おおぉ……
「……そうかも、うん。……そうだと思う、うん。たしかに私は今、戸惑ってどうしていいのかわからない。……マーシャ凄い、私の何を言いたいのか自分でもわからないような言葉から、そこまで理解するなんて。うん、賢い。偉い。驚き」
三連で褒めの言葉を投げながら、私はマーシャの頭を撫でる。
……あ、驚きは褒めの言葉じゃなかった。
「えへへ、褒められた！」
満面の笑みでそんな風に喜ぶマーシャ。
しかしすぐに、
「――まあ、どうしてこんな風にママの状況を理解出来たのかは、私にも良く分からないんだけどね……」
と、声のトーンを落としてそう残念そうに言ってきた。
……ん？ もしかしてこれも、異能……？
ソウヤが幾つもの異能を持っている時点で分かっている話だけど、うん、異能という物は、ひとつしか持てないというものではない。うん。
だから、マーシャが複数の異能持ちであったとしても、何もおかしな事はない。うん。
私は異能である可能性を心に留めつつ、
「……ん、それはいずれきっとわかると思う、うん。――ソウヤも異能持ちだけど、未だに良くわからない異能があるけど、うん、そのうち分かるだろうとか言って気にもしていない。うん、だからマーシャも気にする必要はない。うん」
と、告げる。
……んん、なんだか慰めになっていない……うん。
むぅ……。この口下手な口、今だけでいいから上手くして欲しい……うん。
でも、さすがだと言うべきなのか迷う所だけど、私の言いたい事は伝わったようで、
「あ、パパもそういう感じなんだ！ 私と一緒だね！」
などと、明るい口調で言ってきた。
……『つとめて』と前に付きそうな気はするけど……うん、まあ……そこはしょうがない。
これ以上気の利いた事をするのは、私では無理。うん、ごめん。
「ところで……ママも『異能』を持っているよね？」
いきなり首を傾げながら問いかけてくるマーシャ。
まさに唐突という言葉がピッタリすぎるその発言に、私の方が首を傾げて困惑してしまう。
「……ん？ 私も？ ……うん、ごめん、わからない。……というか、うん、私が異能を持っているなんて、今まで思った事も……考えた事も、感じた事もなかった。うん」
「あ、あれ……そこまで？ う、うーん……ここまでの反応だと、気付いていないだけじゃなくって、本当に持ってなくて私の勘違い？ でも、うーん……私やパパと『同じような感じ』だから、多分気付いていないだけと思うけど……そう言われるとちょっと自信なくなるかも……」
などと、困惑して悩み始めるマーシャ。
……ん、んん……。ど、どうしよう……どう返そう……。うん。
って……んん？ 同じような感じ？
その部分で気になった事が湧いてきた私は、とりあえずそれを聞いてみる。
「ん……同じような感じ……？ うん？ もしかして私とソウヤを、ママとパパだと最初に勘違いしたのは……うん、それを感じ取ったから？」
「そうそう、そんな感じだよ！ あと、勘違いは勘違いだけど、今でもママとパパは、ママとパパだよ！」
マーシャは私の問いかけに対し、満面の笑みを浮かべた明るい口調でそう答えてくる。
ん、良かった。今度は『つとめて』と付かない奴だ。うん。
……ん、それにしても……私に異能？ う、うーん……やっぱり、ピンとこない。うん。
でも、うん、もしそれが本当なのだとしたら、私は……うん、どんな異能を持っているというのだろう……？
ここにきて、急に湧いて出てくるロゼにも異能があるかも？ 的な話でした。
……とはいえ、まあ……これまでも怪しい部分は多々あったと思います。
なにしろロゼは、『道具や紋章といった何かを介さないと魔法が使えないこの世界』において、『身体能力が高いというだけでは不可能に近い』ような、『それこそ魔法でも使わないと無理な事』をやっていたりします（しました）からね。
さて、そんなこんなで次回の更新ですが……明後日、火曜日の予定です！
