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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第2部 黄金守りの不死竜と調査録 第1章 エレンディア編
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第52話[裏] 夜を照らす光、茂みの先へ

<Side:Souya>

「ねじれ……空間の歪み、かしらね?」

「南というと、その可能性はあり得るな……」

 どうしてマーシャがそれを感じ取れるのかは分からないが、俺自身がサイキックという力を使えるので、そういう『異能』もあるのだろうと一旦理解しておく。


「ん、どうしてマーシャはそれが分かる? うん」

 ……ロゼの方は理解していなかったようで、そう問いかけた。

 

「んー、それはわからない。なんとなくそう感じるだけ……」

 困った表情を浮かべるマーシャ。

 俺は顎に手を当て、

「まあ……何らかの――探知タイプの異能を持っているのかもしれないな。とりあえず、少し距離があるが、このまま南へ進んでみるとしよう」

 そうロゼに告げると、マーシャの方を見て、

「すまないマーシャ、2時間くらい歩く事になると思うが……大丈夫か?」

 と、問いかけた。

 

「うん、大丈夫。私、元気!」

 なんて事を言って力こぶを作る仕草をするマーシャ。

 無論、力こぶは全くないのだが、健気に伝えたいという意志は理解したので、俺は笑みを浮かべながら返事をする。

「そうか。まあ、疲れたら遠慮なく言ってくれよ。……本当に遠慮しなくていいぞ? むしろ、遠慮される方が困るからな」

「うん、わかった。ありがとう、パパ」

「お、おう。――よ、よし、早速出発するとしよう」


 いかんな、やっぱり『パパ』と呼ばれると動揺してしまう……

 どこかで呼び方を変えるように話をした方が良い気がしてきたぞ。

 主に俺とロゼの心の安寧と……シャルの機嫌の為に。

 なんか隠そうとはしているけど、隠し切れていない不満感が見て取れるし……

 

「ん、了解。でも、うん、暗いから2時間で行けるかと言うとちょっと微妙。うん」

「それはまあたしかにそうだが……これがあるし、そんなに大きく歩く速度が落ちる事はないと思うぞ」

 ロゼの言葉に対し、俺は次元鞄に手を突っ込みながらそう答えると、ソレを引っ張り出してみせる。

 

「ん、なるほど……エステル製の《銀白光の先導燐》の魔煌具。うん、それがあるなら明るいから歩きやすい。うん」

「これも、なんだかお馴染みになりつつあるわね……」

「そうだな。でもこれは最近、霊具の技術を用いて改良が施された代物でな。《銀白光の先導燐》の物より更に明るいぞ」

 そう言いつつ、俺は早速お馴染みのソレ……の改良版を発動させる。

 

「わあっ、凄く明るい! お日様がやって来たみたい!」

 などと、驚きつつ楽しげに笑みを浮かべるマーシャ。

 

「道に設置されている街灯なんて目じゃない程に明るいわね……というか、どこまで照らしてるのよ、これ……」

「エステル曰く、照射範囲を狭めれば3キロ先も余裕で照らせるらしい」

 シャルの疑問にそう答える俺。


 ちなみにクレアボヤンスで照射されている先を視ると、俺の限界距離まで行ってもまだ遠くが照らされているほどなので、実際の所は、3キロどころじゃない距離でも照らせると思う。

 無論、そんな遠くを照らしてもしょうがないので、今は照射範囲を広げて発動させてある。

 お陰で俺の手元から扇範囲に凄まじい明るさが生み出されており、そこだけ昼になったと言っても過言ではないくらいである。

 まさに、マーシャの言う『お日様がやって来たみたい』という奴だ。

 

「ん、相変わらずトンデモナイ物を作る……うん」

 と、呆れ気味の声で呟くように言うロゼ。


 まあ……まったくもってその通りではあるな。エステルの作る物には、毎度驚かされる。

 ちなみに今回のコレだが、以前、アルミナの地下神殿遺跡を訪れた際に、魔煌具が使えなくなってしまった事が何気に悔しかったからという理由で生み出されたらしい。

 要するに……ああいった場所や、ローディアス大陸のような、魔煌具が無効化されてしまう状況下であっても、光源――明かりを確保する事が出来るようになったというわけだ。

 

「ま、そんなわけでこれがあれば問題はないだろう。改めて出発するぞ」

「おー」

「ん、了解」

「ええ、行きましょ」


                    ◆

 

「パパ、この茂みの向こうがグニャってしてるよっ」

 マーシャが唐突にそんな事を言ってくる。

 

 見ると、マーシャは道を外れた木々の生い茂った場所を指さしていた。

 この魔煌具の明るさがあれば踏み込んでも問題はないな……

「ふむ……。それじゃあ、行ってみるとするか」


「ん、念の為ランドブイを置いておく」

 ロゼがそう言いながら、小石程の大きさの黒い箱状の物を地面に置く。

 

 ランドブイ――携帯通信機に内蔵されている地図と連動して、これを置いた場所を地図上に表示する物だ。

 俺たち《黄金守りの不死竜》では、こういう場面で道標として使ったり、自分たちの位置を伝えたりするのに使う事が多い。

 

 というわけで、設置を確認した俺は、そのまま道を外れ茂みを掻き分けて進んでいく。正確に言うと、俺よりも前をシャルが警戒しながら進んでいるが。

 

 と、程なくしてそこだけポッカリと切り取られたかのように、木も茂みもない場所に出た。

 

「ここ。凄いグニャグニャしてて……気持ち悪い……」

 マーシャが顔をしかめながら中空に視線を向けてそう言ってくる。

 空間の歪みが感じ取れるのなら、たしかに気持ち悪いものなのかもしれない。

 であれば、少し離れていて貰った方が良いだろう。

「ロゼ、マーシャと一緒に少し下がった場所に居てくれ」


「ん、わかった。マーシャ、少し下がろう。うん」

 そう言ってマーシャの手を引くロゼ。

 

「うん、ありがとう……そして、ごめんなさい、ママ」

「ん、んん、気にしないで……いい……。うん。え、遠慮はいらない。うん」

 ロゼがちょっと動揺しながらマーシャを連れて離れていく。

 

 さて……マーシャにあまり不快な思いをさせ続けるわけにはいかないな。手短に調べてしまうとしよう。

アルミナの地下神殿遺跡の話、なんだか懐かしいくらい昔に感じます。

ローディアス大陸の話は第2部の中できっちり決着がつきますが、そこまで物語が進むのは、まだ結構先になりますね……


とまあそんな所で、また次回! 次の更新は明後日、金曜日を予定しています!

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