第50話[裏] コンテナの少女とパパとママ
<Side:Souya>
「うん、それ。さすが、ソウヤ」
気配で位置まで察知していたらしいロゼがそう言ってくる。
……うーむ、マジで気配を察知出来る技術が欲しいな……
まあ……それよりも今はコンテナだ。
急ぎ俺はコンテナの蓋をサイコキネシスで引き剥がす。
すると、クレアボヤンスで視えていた通り、そこにはひとりの少女が眠っていた。
ふむ……見た目はヒュノス――つまり、俺と同じ至って普通の人間といった感じだな。
「ん、なるほど。寝ていたから気配が希薄だったわけだね。うん、納得」
なにやらロゼが納得顔でそんな事を言ってくる。
そう言われてもさっぱり理解出来んが、
「まあ……とりあえず起こさないと話にならないな……」
というわけで、俺は少女を軽く揺すってみる。
少女は「ん……んむぅ……」という小さな声を発したかと思うと、ゆっくりとその目を開けた。
「お、目が覚めたようだな」
「ん、私は鉄道運行保安隊。あなたを保護する、うん。だから安心していい。うん」
俺とロゼが覗き込みながらそんな風に告げる。
……鉄道運行保安隊って言って、少女に分かるのだろうか……?
「……パパ? ママ?」
「「!?!?」」
寝起きの最初の発言は衝撃的だった。
いつから、俺とロゼは父親と母親になったんだ!?
……って、そんなわけあるか!
「……い、いや、俺はパパではないぞ……」
「うん、私もママじゃない……」
そう俺たちが告げると、少女は残念そうに、
「パパでもママでもないの……?」
なんて事を言ってくる。
「残念ながらさすがにな……。というか、どうして俺たちを見てそう思ったんだ?」
「うん。あなたは一体どこから来た?」
「……どうして? ……どうしてだろう? どうしてそう思ったか……。わからない。どこから来たか……。それもわからない」
俺とロゼの問いかけに対し、起き上がりながらそう返してくる。
そして更に、額に手を当てながら、
「そもそも、私はどこに住んでいた……? 町? 村? ……名前が出てこない……。ううん、名前……自分の名前も……出てこない。……違う、えむ……えす……その2文字があった……はず……」
なんて言葉を呟くように続けた。
「ん……ソウヤ、これって……」
「……ああ。俺も始めてみたが……記憶喪失って奴だな。精神的ストレスによる、一時的な記憶の混乱によるものであれば、しばらくすれば思い出すだろうが……」
「ん、そうじゃなかったら、大変……かも。うん」
俺とロゼがそんな事を話していると、少女が不思議そうな目でこちら見つめながら、首をこてんと軽く傾げた。
……これはまた、なんとも大変なものを見つけてしまったな……
◆
<Side:Rose>
「……それで、どういうわけかソウヤがパパで、ロゼがママと呼ばれる形で落ち着いてしまった、と?」
シャルがジトッとした目を私とソウヤに向けてくる。
「うんまあ、そういう事だな……」
「ん、そう呼ぶのが一番落ち着くと言うから、そうした。うん」
「まあ……大変な目にあったし、呼び名ひとつで落ち着くなら……まあ……。……うぅ……これなら、私が一緒に開けるべきだったわ……」
ソウヤと私の言葉を聞き、そんな事を呟くように言うシャル。
ん……もしシャルとソウヤだったら、本当にパパとママと化しかねない、うん。
それは何か……嫌だ。うん。
そういう意味では、あの場にいたのが私で良かった。うん。
「しっかし、《黄金守りの不死竜》のトップがパパで、俺ら鉄道運行保安隊のエースがママねぇ……。実にややこしい事になってんな。どっちが預かればいいんだ……?」
なんて事を言ってくる考え込むバーン。
「ちょっとバーン? 考え込むべき所、そこなの?」
シャルがやれやれと言わんばかりの脱力した声で言う。
……んん、そこに関しては、私もソウヤも《黄金守りの不死竜》なので、実際にはうん、何も難しくはないのだけど……まあ、うん、さすがにそんな事は言えない。ううーん。
そう思っていると、
「それなら、ロゼを《黄金守りの不死竜》の客将……のような扱いにしておけばいいのでは?」
なんて事をニヤリとした笑みを浮かべて言うソウヤ。
……うん、そのニヤリ、どう考えても複数の意味がある……うん。
「なんか、サラッと引き込んできたな、おい」
「そんな事はありませんよ。……ああ、それなら俺が鉄道運行保安隊の外部支援要員になりますよ。討獣士として」
「更にとんでもない事言ってくるな!?」
「それなら私もそうするわよ?」
驚くバーンにシャルがそんな事を告げる。
それに対し、バーンは腕を組んでため息をつきながら首を横に振る。
「……もう無茶苦茶だな。……それを受け入れたら、事実上、鉄道運行保安隊と《黄金守りの不死竜》との同盟になるじゃねぇか……」
「そうは言いますが、割と幾つかの国家組織と同盟を結んでいますからね、ウチ」
「もっととんでもない事言ってきたな!?」
ソウヤの追い打ちのような言葉に、驚きと呆れが入り混じった反応をするバーン。
そして、やれやれとばかりに盛大にため息をつき、
「……はぁ……まあいいか……。《黄金守りの不死竜》でもなんでもいいから、手を借りたい所であるのはたしかだしな……さっきロゼから聞いた報告を考えると……な」
と、そう言葉を続けて肩をすくめてみせた。
うんまあ……とりあえず、色々動きやすくはなりそう、かも。うん。
不思議な記憶喪失少女の登場となりました。
そして何気に50話目です。
といっても、2部は1話の話が半分強なので、1つの章の話数がかなりあり、まだまだ中盤に足をかけつつある……といった所だったりしますが。
とまあそんな所で、また次回! 更新は明後日、月曜日を予定しています!




