第43話[裏] 狂戦士の騎士、命奪う者
<Side:Charlotte>
私は車両に踏み込んできた盗賊の首を一太刀で跳ね落とすと、顔にかかった邪魔な血しぶきだけを手で払うとそのまま直進。後方の車両へと突き進む。
ドアを開けた瞬間、乗客の荷物を奪おうとしている盗賊が目に入った。
その盗賊に向けて霊力の衝撃波を飛ばし、腕を切断。
……するつもりが、胴体も引き裂いてしまった。ちょっと大きすぎたらしい。
あやうく、乗客の荷物に傷を付けてしまう所だったわ……。危ない、危ない。
自分で思っている大きさよりも、少し小さめになる様にして撃った方が良さそうね。
なんて反省をしていると、私に気付いた盗賊どもが声を発した。
「なっ!? なん――」
――斬る。
「何故、魔法が発動し――」
――斬る。
残念ねぇ、私の間合いに入った時点で、既にSWゾーンブレイカーの範囲なのよっ!
……あ。き、斬る時に座席の一部も切断してしまったわ……
こ、これはまあ……その……しょうがないわよね。
乗客や乗客の荷物には被害がないからよし、という事で……。だ、駄目かしら?
「くっ、この……っ!」
放ってきた魔法ごと霊力で斬る。まあ、斬らなくても消えるんだけど面倒なので斬る。
「ぎゃあああああっ!?」
……あら? 腕と翼を切断する事は出来たけど、殺し損ねていたわ。
――もう一回斬る。……うん、今度こそ仕留めたわ。
「ひぃっ!?」
逃げ出そうとする盗賊の背に向けて刀を放り投げ、突き刺す。
いやぁねぇぇ、この私が逃がすとでも思ったのかしらぁぁ?
蛙が潰れたような声と共に倒れ伏し、そのまま動かなくなった盗賊から刀を引き抜きつつ周囲を確認。……盗賊の気配なし。
どうやら、これでこの車両に乗り込んできた盗賊は終わりみたいね。
「次は……」
更に後ろの車両へ踏み込むのが良さそうね。
と、口に出した言葉の続きを心中で呟き、そして走り出す。
次の車両のドアを叩き斬ると、驚いたような顔をしてこちらを見てくる盗賊たち。
そこで動きが止まるとかマヌケね。そして、そんなマヌケな盗賊は死ぬだけ。
ほらほら、さっさと死になさいよぉっ! ふふふふふっ!
「はっ!」
私は掛け声と共に、霊力の刃を発生させ、一直線に突き出す。
「がっ!?」
「ぐっ!?」
「げっ!?」
盗賊3人が、これまたマヌケな声を発して霊力の刃に纏めて貫かれた。
見事なまでに串刺しねぇ……。こうも上手くいくとは思わなかったわ。
なんて事を考えながら、霊力の刃を消し去り、盗賊3人の屍を床に落とす。
と、そこにナイフが2本飛んでくる。
あら、このタイミングで投げてくるなんて、少しはやるわね。
まあ、ほんの少しだけだけど……ねぇっ!
「はっ! ふっ!」
ナイフ2本を刀で撃ち落とすと、そのまま一気に間合いを詰め、十文字に斬り殺す。
ふっ、ふふっ、あはははははっ! 弱い、弱いわねぇぇぇっ!
さあさあ、まだまだ行くわよぉぉっ! 殺し尽くさないとねぇぇっ!
「んん……。前よりもなんだか酷くなってる……かも……。うん、なんか……殺意が異常すぎる……うん」
そんな声が後ろから聞こえてきた。
途轍もない高揚感と共に芽生える殺意に従い、屍を飛び越えながら次の車両へ向けて更に走り出そうとした所で、
「シャル! 待った!」
という別の声が聞こえた。
うん……誰?
……違う。この声は知っている。
……ああ、ソウヤね。
それを理解した瞬間、盗賊に対するどす黒い感情――破壊欲求と嘲笑、そしてそれと共に高揚していた精神、殺意、思考、その全てが一気に冷却、鎮静化する。
……以前の私ならば無視して先へ進んだかもしれない。
でも、今の私は違う。
……例え、盗賊と遭遇し、全ての盗賊を殲滅しようという昏い考えに思考が塗りつぶされかけようとも、ソウヤの声には従う。
――私は、ソウヤの騎士にして剣なのだから。
◆
<Side:Souya>
突き進もうとするシャルに静止の言葉を投げかけると、シャルは急停止した。
「んんん!? この状態のシャルが止まった!?」
ロゼが珍しく驚いたと言わんばかりの口調でそんな事を口にする。
表情も少し驚いている感じだな。まあ……慣れていないと一目では分からない程度に、ではあるが。
「主の言葉に従わずに暴れる騎士は、ただの狂戦士よ」
なんて事をロゼに対して言うシャル。
そしてそのまま俺の方を見て、
「でも、出来れば解き放ってくれると助かるわ。実は……私自身が前よりも強くなって、盗賊との力量差が圧倒的についているからなのか、感情というか……思考というか……そういうのが、『昔の私』のような感じになってきてて、自分の事なのに抑え込むのが凄い大変なのよね……」
なんて事を言ってきた。
やれやれ……それはまた困ったもんだ。
ギリギリ話を聞くってだけで、事実上狂戦士と大差ないじゃないか。
でもまあ……今はとりあえず、それでもいいか。
「――この狭い列車内で今のお前の剣技をバンバン振るわれたら、列車が壊れる。中は俺とロゼで掃討するから、シャルは外に居る盗賊どもを殲滅して来てくれ」
「外? ……そういえば全員が乗り込んできたわけじゃなかったわね」
「ああ。というか、外の方が多い」
そう……奴らは車両に踏み込んで来た数よりも、未だに外にいる数の方が多い。
更に、大型の運搬用魔煌具やレビバイクが列車の後方へと向かっているのが見えた。
この鉄道、列車の後方は客車ではなく貨車になっている。それはつまり……
「どうやら狙いは客車ではなく、その後ろに連結されている貨車のようだ。外に回ってそいつらを一掃してくれ。積み荷の何かを狙っているようだからな。情報を得る為にも、ひとつも奪わせるわけにはいかん」
と、そう告げる俺。
逆を言えば、外は殲滅しても列車内の盗賊どもさえ生かして置けば、特に問題はない。
というわけで、狂戦士を放り投げるにはうってつけなのだ。
……まあ、敵性存在とはいえ、あっさり殺戮する事を許容する俺も大概だな……
もっとも、『黄金守りの不死竜』を組織した時点で、『時として大量の命を奪う必要がある』事への『覚悟』なんぞ、とっくにし終わっているが。
……俺には、どれだけの命を奪ってでも、辿り着かなければならない場所があるのだから。
それに……そこへ辿り着ければ、奪った命を戻す事も出来るし、な。
そんな事を考えていると、
「あら、それなら簡単ね。わかったわ、一掃して何一つ奪わせないようにするわ」
などと言ってドアから外へ飛び出していくシャル。
「やれやれ……。外はこれで放っておいても大丈夫だろう。って事で……とりあえず乗客に説明しないとな」
俺はシャルを見送った所でロゼに対しそんな風に言うと、周囲の乗客へと目を向ける。
いきなり後方から踏み込んできて、列車強盗3人を殺害する光景を目の当たりにしたせいか、困惑と恐怖が入り混じった表情の人たちが多かった。
……若干、そうでない者――おそらく反撃の機会でも伺っていたのであろう人物――もいるが。
《玄重の圧鎖陣》の中でも反撃の機会を伺うとは、なかなか骨のある人物だな。
なんて事を思いつつ、ロゼに『鉄道運行保安隊』の徽章を乗客に見せるように言い、保安員である事を伝える。……まあ、俺は違うが、そこはそれというもの。
あとは乗客たちに救助と制圧に来た事を説明し、動かないように伝える。
……もっとも、《玄重の圧鎖陣》の中で動けるのは術者と術者の定めた人物、それと俺たちのような魔法を無効化する『何か』を持っている者くらいなので、それ以外は動こうとしても動けないだろうが。
「さて……外はシャル任せでいいとして、問題は中だな。時間をかけるのもあれだし、前方と後方に分かれて一気に制圧してしまうとしよう」
「ん、たしかにそれが良さそう。うん、そうしよう」
「じゃあ、俺はこのまま後方車両へと進むから、ロゼは前方車両を頼む。最前列車両についたら、運転士の安全の確保と説明もな」
「うん、了解。余裕」
ロゼはそう答えるなり、踵を返し、前方車両に向かって走り出す。
……さて、俺も行くとするか。
……最近、以前よりも更にサイキックの力が上がっている気がするけど、どのくらい上がっているのか良くわからないんだよなぁ。なにしろ、ここの所まともに戦闘していなかったし……
ようやくまともに戦闘出来る機会が訪れた事だし、存分に試してみるとしよう。
なんて事を考えながら、俺は後方車両へと歩みを進めた。
思考が第1部よりもダークになってきている蒼夜と、力が増した事で負の感情の影響が強く出る様になってきているシャルロッテです。
イメージ的には、ダークサイドに片足を突っ込んだ状態のヒーローとヒロイン……みたいな感じでしょうか(ふたりがヒーローとヒロインにあたるのかという点については置いておくとして)
そのまま両足を突っ込む事になるかどうかについては、いずれ……(もっとも、ダークサイド側になろうがなんだろうが、本質は変わらないので邪悪な存在なったりするわけではないですが)
とまあ、そんな所で次回の更新ですが……明後日、日曜日の予定です!