第41話[裏] ヴェヌ=ニクスと竜牙姫リリア
「うん、たまに一緒に退治してた。うん。シャルがいた事もあった」
バーンに対し、そんな風に言うロゼ。
「なるほど……ロゼとはそういう繋がりっつーわけか」
と、なにやら納得した表情で言うバーン。
ふむ……どうやら、バーンはロゼが『黄金守りの不死竜』である事を知らないようだ。
まあもっとも、ロゼは表立って動かす事のほとんどない、いわゆる隠密的な要員なので、基本的に『黄金守りの不死竜』とは関係ないように見せているし、そのための偽装も十重二十重に施してあるので、そう簡単に見破られては困るのだが。
「ん、黄金守りの不死竜のトップだろうがなんだろうが、うん、ソウヤは今も昔もただのソウヤ。私にとってはそれ以上もそれ以下もそれ以外もない。うん」
思考の途中でそんなロゼの声が聞こえてくる。
「あれ? 私は違うのかしら?」
「うん、シャルももちろんそう。……だけど、うん、最近はちょっと認識が変わりつつある。うん」
「えっと……それはどういう事かしら?」
「ん、最近は、シャルは『昔』は『魔法探偵シャルロット』だったという、うん、認識になりつつある。うん」
「待って待って! あれは違うわ! 全然違うわよ! あれは私の昔じゃないわよっ!」
「……そうか? 昔のシャルはあんな感じの事、言ってたぞ。つーか、さっきもあの頃みたいな事を口走ってたじゃねぇか」
バーンのその言葉にシャルが固まる。
そして、「え? 嘘」と呟くように言って俺たちを見回す。
「うん、真実。――あーっはっはっはっ! 螺旋によって増幅される霊力を、その程度で防げるとでも思ったのかしらぁぁぁっ! 残念ねぇぇぇっ! 無理に決まってるでしょぉぉぉっ! 甘い甘い砂糖より甘いぃぃぃっ! ……って、言ってた。うん」
ロゼが器用にシャルのモノマネをしながらそんな風に言う。
……でも、なんか増えてないか? 主に高笑いと甘い以降が。
「うぇっ!? 私そんな事、口走って……いた」
まるで首からギギギギギという音が聞こえてそうな、なんともガチガチな動きで俺の方へと顔を向けてくるシャル。
「……ああまあ、間違ってはいないな。でも、あれはあれで良いと俺は思うぞ」
「う、うう……。ソウヤにそう言われると喜ぶべきか嘆くべきか叫ぶべきか……複雑だわ……」
俺の返答に対し、シャルはそう呟くように口にした。
……最後の『叫ぶべきか』ってのはなんなのか……いや、分からんではないが。
「ほぉー、ふーん、あのシャルがねぇ……」
そんな事を言って生暖かい目でシャルを見るバーン。
……って、一瞬だがこっちも見たな。
「一体なんなのよ?」
生暖かい目に気付いたらしいシャルがそう問いかけると、バーンは、
「まあまあ気にするな。シャルの言っていた絆というのが良く分かっただけだ。――それより、ロゼとこの街で会うという事と、さっきのトップ自ら討獣士ギルドの依頼をこなすという事から考えて……ここへはギルドの都合で来たのか?」
なんて事を問い返す。
「まあそんな感じです。アナスタシア自然公園の北部に用がありまして……ロゼが前にあの辺に詳しいと言っていたのを思い出したので、こうして協力して貰おうと思ったんですよ」
シャルの代わりに俺がそう答えると、バーンは何かを考えながら……といった感じで、
「なるほどな……。しかし、アナスタシア自然公園か……。最近、地面に影の出来ない奇妙な鳥――いや、翼竜のような存在とあそこで遭遇した、という話を良く耳にする。もしかしてそれが目的か?」
と、言ってきた。
「っ!? そいつは……っ!」
「その感じだと、予想的中ドンピシャって感じだな?」
「……そうですね」
バーンに対し、俺はとりあえずそんな風に答える。
無論、そんな目的ではないのだが、本来の目的を説明するのはちょっと難しいので、そういう事にしておこうと思ったのだ。
……まあ、過去に2度遭遇した幻獣――あるいは、ヴェヌ=ニクスの如き存在――の話が、急に出てきた事で驚かされて、他の上手い誤魔化し方が咄嗟に思いつかなかった、とも言うが。
「――実の所、そいつとは俺も一度だけ遭遇した事があんだわ」
「ん? そうだったの?」
バーンの言葉に首を傾げるロゼ。
「ああ。正確には俺を含めた隊員数名が遭遇した……だな。というのも、あの広大な自然公園の維持管理はエレンディア警備局とウチの共同になっていてな。定期的に両者でそれなりの規模の人員を割いて維持管理作業をしてんだわ。んでまあ、ロゼが入隊する少し前にもその関係で訪れたんだが……その時、魔槍士の女と対峙するそいつの姿を見たんだよ」
「へぇ……そうなの。というか……その魔槍士の女とかいうのは何なのよ?」
「今、俺が使っているこの槍を持っていた女でな。名前を名乗らなかったんで、とりあえずそう呼んでいるんだ」
「なるほどねぇ。それで? その女はどんな感じだったのかしら?」
「そうだな……シャルやロゼと同じ戦いに慣れた熟練の討獣士、あるいは傭兵って感じだったな。ああ、あと……そうだな、あの『竜牙姫リリア』になんとなく似ていたな」
シャルロッテの問いかけにそう返答するバーン。
……って、またとんでもない名が出てきたな。
どうしてここで竜牙姫リリアが登場するんだ……
以前聞いた朔耶の話からすると、大分前に亡くなっているはずだが……
いや……そうでもない、か。
話のタイトル通り、第1部では謎のままになっていた存在の名が再び登場です。
といった所でまた次回! 更新は明後日、水曜日を予定しています!
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追記
」が抜けている部分があったので、修正しました。