第38話[裏] リグナットにて
<Side:Souya>
「しかし……リグナットは、なんとも妙な街よね。どうして渓谷の岸壁に街を築こうと思ったのかしら……。しかも両岸それぞれに」
「ん、大昔の戦争で敗れた少数の部族が、うん、この辺りの岸壁に所々ある平たい場所に隠れ住むようにして家を作った。それが始まりらしい、うん」
「へぇ……。隠れ住むのであれば、たしかにうってつけだと思うけど……そこからどうやったら、こんな大きな街になるのか不思議だわ……」
そんな風にシャルとロゼが言う通り、リグナットという街は、ゼクタ渓谷の岸壁に作られている。
この辺りは完全な切り立った崖……というわけではなく、かなり段々になっている所が多い。その段の部分――平らな部分を繋ぎ合わせるようにして街並みを形作っている。
そしてこれが、渓谷の両岸に広がっており、その間を近距離用の小型飛行艇が多数行き交っている……とまあ、そんな感じだ。
「にしても、相変わらず凄い橋だな……」
俺は視界に入ってきたアーチ型の巨大鉄橋を見上げながら、そう感嘆の言葉を漏らす。
それは、谷底から600メートルもの高さの所に作られた鉄道橋で、リグナットの中心あたりをぶち抜く形で作られている。
線路を引くためだからとはいえ、よくもまあこんなものを作ったな……と、感心してしまう。
「ん、北エレンディアに線路を伸ばす場合、この渓谷が最大の問題だった、うん。なにしろ、東西に200キロ近く続く大渓谷。迂回していたら話にならない。うん」
「だからといって、渓谷は深さもさることながら、幅も一番狭い所ですら1キロ近くあるっていうのに、よく橋を作ろうだなんて思ったものだわ……」
ロゼとシャルがそう言うと、
「まあ、幸いにも竜の座のデータベースにあった技術を上手く使えば、このくらいの物は容易く作れる事がわかっていたからな。竜の座に至った者たちだけでなんとかしてみようと思ったんだが……存外上手くいったものだ」
なんていう声が聞こえてきた。……ん?
声の聞こえた方へと顔を向けると、そこにはがっしりとした体格――刹月斎といい勝負な気がする――の、ガルフェン族の男性が立っていた。
「バーン!」
シャルがその男性に対し、そう呼びかける。
ああ、この人が鉄道運行保安隊のトップ――総隊長を務めるバーングラムか。実際に見るのは初めてだな……
「ん、総隊長、どうしてここに? うん」
「いや、ロゼの仲間が訪ねてくるっつーから、見に来てみたんだが……まさかシャルがいるとはな」
ロゼの問いかけにそう答えるバーングラム。
「ええ、私もここでバーンに会えるとは思ってもいなかったわ。――ちょうどいいから、今の私はロゼとさほど変わらない事を教えてあげるわ」
なにやら、笑顔でいきなりそんな好戦的な事をいうシャル。……無論、目は笑っていない。
「お、手合わせか。そこまで大口叩くなら、是非見せて貰おうじゃねぇか」
などと売り言葉に買い言葉といった感じで返すバーングラム。
……なんで出会って早々にこんな感じなんだ……このふたり。
ってか、そもそもエレンディア方面行きの鉄道の時間が……
どうしたものかと思っていると、
「ん、昔からふたりは顔を合わせるとこんな感じだったらしい。うん」
「……ああなるほど、そうなのか」
「うん、だから多分、止めるのは無理。うん」
などと、俺の思っている事を読んだかのように、そう言ってくるロゼ。
……そうか、無理か……
◆
――結局、街に着いて早々に、シャルとバーンで手合わせをする事になってしまった。
これは1本後の鉄道で行くしかないな……
やれやれと思いつつも、シャルとバーンの手合わせにも興味はある。
……まあ、だから止めなかったとも言うんだが。
「刀と剣の二刀流……? シャル、お前スタイルを変えたのか?」
「ええ。私にはこっちの方が戦いやすい事に気付いたのよ。そういうそっちこそ、妙な得物になっているわね?」
鉄道運行保安隊用の訓練所で対峙しながらそんな事を言うふたり。
シャルが『妙』と言った通り、バーンの得物は一見するとハルバードなのだが、柄の部分に蛇を思わせるウネウネとした妙なものが巻き付いていた。
……なんだあれ?
「なーに、やり合えばすぐにわかるさ」
「……ま、それもそうね」
言葉よりも武器で語るという奴らしい。
ふたりはその言葉と共に、それぞれの得物を構え、そして走り出す。
「先手必勝っ!」
バーンがそんな事を叫びつつ、ハルバードを振るう。
……届くはずのない距離で振った?
と、その直後、柄の部分のウネウネとした物が脈動し、柄そのものがうねる。
そして、鞭状となった斧槍がシャルを真横から襲った。
「そういう事……っ!」
シャルは横から来る斧槍に刀と剣をクロスさせ、攻撃をブロック。
しかし、その瞬間、シャルは何かに気付いたような表情を見せ、右手の1億5000万年モノの刀を前方に押し出すようにしつつ、左手の霊幻鋼の剣を手前に引いた。
刹那、受け止めた斧槍から触手のように伸びてきたウネウネが刀に絡みつく。
霊幻鋼の剣の方は手前に引いた事でウネウネをギリギリ回避した。
シャルは即座に地面を滑るようにして後方へ距離を取る。
「……ウェポンスナッチ……。地味に嫌らしいわねぇ……」
と、肩をすくめてみせるシャル。
ふむ……攻撃を防御してきた相手の得物を奪い取る……か。たしかに合理的な方法だな。
「てっきり刀の方を守ると思ったんだが、剣の方を守るとはな」
絡め取った刀を地面に突き刺しながら、そんな事を言ってくるバーングラム。
「そりゃ、刀なんてただの武器だもの当然よ」
「……そっちの剣は、ただの武器じゃないのか?」
「これは、武器じゃないわ。騎士の証――私とソウヤを繋ぐ絆。絆そのものなのよ」
な、なんだか聞いている方が恥ずかしくなるような言葉を、サラッと口にしてきたぞ……
久しぶりの新しい街です。
新しい街は基本的に他の街とは違う特色をもたせているのですが、文字で伝えるのがなかなか難しいんですよね……
といった所で、また次回! 更新は明後日、木曜日の予定です!
第3作(新作)となる『ファンタジー世界の大魔道士、地球へ転移す ~異世界生まれの高校生?~』も順次更新中ですので、こちらもよろしくお願いします!
基本的に毎日更新しているのですが……微調整して連続投稿している為、更新時間が不安定なので、申し訳ありません……(そろそろ固定しようかと思っています)




