第33話[表] 楔と機幻獣
<Side:Akari>
「それでは、早速いくのです!」
クーはそう言うやいなや、手元の奇妙な装置のボタンをポチッと押した。
すると次の瞬間、設置された結界塔――正確には改良された結界塔もどき――が動作を始め、魔法陣が光り始める。
そしてその直後、魔法陣上の景色がグニャっと歪み、朧げに奇妙な縦長の機械が見えてきた。
……なんだか金剛杵をやたらとメカニカルにして、更に巨大化させたかのような妙な形状ね……。まあたしかに、楔っぽいといえば楔っぽいわ。
なんて事を思っていると、
「灯さん、今なのです! あそこにPACブラスターを照射するです!」
というクーの声が響く。
「了解よ!」
私は即座にそう答え、そして慣れ親しんだPACブラスターを起動。
朧げに揺らめく楔に向かって勢いよく放つ。
と、PACブラスターを浴びた所から、朧げに揺らめいているだった楔のその姿形がくっきりとし始める。
そしてそのまま浴びせ続けていくと、遂には全体がくっきりとした形となった。
それと同時に、私は楔が『ここにある』という事が理解出来た。
というより、楔――ソレが『こちらを見た』というべきか。
……ん? 見た? そんなはずないわよね……。気のせい……かしら?
「実体化成功なのです! こんな簡単にいくとは驚きなのです! 革命的なのです!」
「これをどうすればいいんですか?」
歓喜するクーに対し、冷静に問うユーコ。
「襲いかかってくるので、ぶっ壊すだけなのです!」
「え? 襲いかかってくる……?」
ユーコが疑問の声を呟いた瞬間、楔もどきがブルブルと震え、変形。
「ギィィィィィィッ!」
という咆哮と共に、機械の龍――そう呼ぶのがもっとも相応しい、そんな姿となった。
……どうやら、『こちらを見た』ように感じたのは、気のせいでもなんでもなかったようね。
まさに、ここからが本番……という奴かしらねぇ、これは。
なんて事を思いながら、私はPACブラスターから刃を発生させ、鎌のような形状にする。
「こいつは……機巧竜?」
「ええっと、それに近い存在というか……亜種みたいなものなのです。そして、これと同じ系統の存在が他にもいて、この蛇龍型以外にも様々な姿が存在しているのです。なので、私たちはそれらをひっくるめて『機幻獣』と呼んでいるのです」
「機幻獣、か。……機巧竜の亜種って事は、こいつを仕掛けたのは……」
「――『竜の御旗』、あるいはそれに与する者――例えば『七聖将』の残党とか――なのです」
「ああ……やっぱりその類か……」
竜の御旗、七聖将の残党……
たしか、前者は世界全土で暗躍する犯罪組織で、後者はこのエレンディアの裏で何かを画策している連中……だったかしら。
「状況を考えると後者な気がしますが……まあ、その辺りは破壊してから調べるといたしましょうか」
「そうね。まずはあれを壊さない事には駄目そうだし」
ユーコと私の発した言葉を理解しているのか、
「ガァァァァァァッ!」
という一際大きな咆哮と共に機幻獣・蛇龍が動きだし、口からオレンジ色の細い光――熱線を放ってくる。
しかしそれは、グラップルドラゴンのブレスに比べて、圧倒的に分かりやすい攻撃。
「そんなものに当たりはしないわよ?」
効果はないと思いつつも、私はそんな挑発めいた言葉を発しながら横に跳んで熱線を回避する。
すると想定外というかなんというか、まるで挑発の効果があったかのように、
「グォォォォォォッ!」
という、『ならばこれでどうだ』と言わんばかりの咆哮と共に、今度は口を斜め上に向け、そこから大量の熱線を天井方向へと放射する機幻獣・蛇龍。
熱線の束は、天井スレスレの所でクルリと向きを変え、そこを起点に拡散。
シャワーとなって私たちの頭上へと襲いかかってきた。
「「《玄宵の護法衣》!」」
私とクーがほぼ同時に同じ魔法を発動する。
直後、私たち全員を包み込むようにして展開された二重の赤黒いドーム状の障壁が、降り注ぐ熱線を受け止めた。
……が、二重の障壁のひとつがヒビだらけになっていた。
「お、思った以上に威力があるわね……っ! もう一発来たら砕け散りそう……っ!」
そんな風に私が言うと、
「この障壁魔法、この手の攻撃にあまり強くないからな……。ふたりで同じ魔法を展開したのは、ある意味良かったと言えるな」
なんて事を余裕そうな表情で言い、剣を放り投げるロディ。
直後、剣がありえない起動で宙を舞い、機幻獣・蛇龍へと襲いかかった。
なるほど、これはたしかにサイコキネシス……っ! やっぱりというべきか、私の地味な力と違って、凄いカッコイイわねっ!
そんな事を考えていると、ズドンッ! という音とともに、剣が機幻獣・蛇龍の胴体に命中。
突き刺さった所から、勢い良く緑色の粒子のようなものが放射される。
良くわからないけど、こいつのエネルギーみたいなものかしらね。
更に突き刺さった剣をサイコキネシスで引き抜き、そのまま横薙ぎ。
引き裂かれた胴体から更に大量の粒子が放射される。
「ガアアアアアアァァァァァッ!」
憤怒の咆哮と言っても過言ではないような叫びが響き渡り、身を捻ってロディの剣を躱しつつ、口元にエネルギーを収束させ始める機幻獣・蛇龍。
「撃たせはしないのですっ!」
クーがそう言うや否や駆け出し……犬の姿へと変身する。
……って、ええっ!? へ、変身っ!?
第1部以来となるクーの変身能力が、ここで登場となりました。
さて、戦闘に突入した感じですが……さほど強い相手でもないので、すぐ終わると思います。……多分。
とまあそんなこんなで次回の更新ですが……明後日、月曜日を予定しています!




