第30話[表] 広捜隊の食卓
<Side:Akari>
「ロディが料理番と言っていた通り、どの料理も凄く美味しいわね」
と、テーブルの上に並べられたアカツキ料理――どう見ても和食にしか見えない――を食べながらツキトに対して言う私。
ちなみに、皆、普通に喋って構わないというので、私は既に普段通りの喋り方に切り替えている。
「そう言ってくれると、全身全霊を込めて作った甲斐があったというモノッス!」
などと言って、大げさな喜びの反応してみせるツキト。
そして、
「おふたりが資金を貯めて、新しい家に引っ越すまでの間は、自分が最高の料理を毎日用意させて貰うッスよ!」
と、そんな風に言葉を続ける。
「まあ、ツインヘッドリザードをあっさり葬る程の技量があるのなら、すぐに貯まりそうですわね」
「んー、でもボクとしては長く居てくれた方が嬉しいかなぁ」
エリスとアメリアがツキトに続く形でそう言ってきた。
「あ、それそれ! なんというか……ただ居座るのも悪いから、広捜隊の捜査とかも手伝おうと思っているのだけど、駄目かしら?」
そう言いながら、ロディとゼルを見る私。
そして、それに続くように、
「アカリならそう言うと思っていましたよ。――私も調査とかは得意な方なので、お役に立てると思います」
と、そんな風に言い、私と同じくロディとゼルを見るユーコ。
「興味本位……というわけではない……いえ、やっぱり興味本位ですけれど、どうしてこの仕事を手伝おうと思ったんですの?」
そんな事を言ってくるエリス。興味本位なのね……
「えっと……私とユーコって、元々似たような仕事をこれまでしてきたから、ここからいざ新しいタイプの仕事を! って言っても、なかなかこう……出来る気がしないのよね。だから、慣れている仕事の方が良いなって思う所もあるわけよ」
「あ、たしかにそれは分かるなぁ、うんうん。ボクも魔煌具の整備とか開発とか、魔煌具以外の事を仕事にするのとか無理だって自分でも思ってるしぃ」
私の発言に対し、アメリアが同意するようにそう言ってくる。
「まあたしかにそうですわね。……でも、戦闘なら討獣士でも可能ですわよ?」
「あ、うん、討獣士はそういう意味では近い仕事内容なんだけど……私もユーコも、この街とかこの国とかに全然詳しくないから、出来ればそういうのを先に覚えたいって気持ちがあるのよね。それに色々と楽しそうな気がするし!」
そう私が言うと、ユーコが「あいかわらずですね……」とため息まじりに言う。
「楽しいのは重要ッスよ!」
拳をグッと握って良い笑顔で言うツキトと、それにウンウンと頷き、
「だよねぇ」
と同意するアメリア。
「なるほどな。……広捜隊は慢性的に人員不足だから、手伝ってくれるってんなら、そいつはすげぇありがたいな」
「お待ちください。『手伝って貰う』のはいけません」
ゼルの言葉に対し、メガネをクイッと上げながらジャンが返す。
ジャンは反対なんだろうか? と、思いきや……
「『手伝って貰う』では、おふたりに賃金が発生しないではないですか。きっちり『広捜隊』の隊員……準隊員として雇用し、賃金が発生するようにすべきです。労働に対して報奨――賃金という対価を与えられぬ者は、愚者も愚者。害獣未満の存在ですよ?」
なんて事を続けて言うジャン。
凄いホワイトな思考の人だったわ……翼は黒いのに。
「お、おう。そ、そうだな……。じゃ、じゃあまあ……準隊員として申請しておくとするか。許可されるかどうかは分からんが……」
「ご心配にはおよびません。私が直接出向いて懇切丁寧に『説明』させていただきますので、ゼルディアスさんは申請書への記入だけしていただければ大丈夫です」
ゼルに対し、ジャンが腕を組みながらそう答える。
うーん……。なんだか『説明』の部分が妙に強調されていたような気がするけど……気のせいかしら……
「でしたら、私もちょっとばかし『話して』おく事にしますわ。先の経費の件では交渉に失敗してしまいましたから、今度こそ名誉返上ですわ!」
などと『話して』を強調しながら胸を張って言うエリスに、
「名誉は返上したら駄目だと思うよぉ? 挽回しないと駄目だよぉ? 返上するのは汚名だよぉ? あ、そのデカイ胸を返上するならそれでもいいけどねぇ」
と、呆れた表情で突っ込むアメリア。デカイ胸を返上って……
それにしても、名誉返上……
あまり聞かない間違え方だけど、ある意味、名誉ってそれなりに返上する状況になる事がある気もするわ。
などとどうでもいい事を思っていると、
「胸の返上なんて出来ませんわよっ! というか、汚名を更新し続けているアメリアに指摘されたくはなかったですわね……」
「エリスぅ、その胸もいでいいぃ? ふたりもそう思わないぃ?」
なんて事を言いながら、私とユーコに顔を向けてくるアメリア。
……まあうん、デカイわね。
私も小さくはないと思うけど……って、そうじゃないわよっ!
「え、えーっと……。う、うらめしいですね」
私がなにも言わずに――というか、どう答えればいいのよっ! と思っていると、ユーコが困惑したような表情でそう呟く。う、うらめしい……の?
「私、見た目が一切変化しないんですよね。ええ、本当に。一切」
うわぁ……本当にうらめしそうな表情になってきた。
……?
気のせいかしら? ちょっと部屋の温度が下がったような……
なんて事を考えていると、
「……な、なんかごめんなさいぃ」
と、ユーコの表情に怖気を感じたのかなんなのか良くわからないけれど、アメリアが突然謝り出す。
「……なんというか……騒がしくてすまんな」
どうしたものかと言った顔で、そんな風に言ってくるロディ。
「そんな事ないわ。私、こういうのって今まで経験した事なかったから結構新鮮で楽しいわよ」
「そうそう、食事の時間は楽しいのが一番ッス!」
私の返答に続くようにして、ツキトがそう言ってくる。
だけど、たしかにその通りよね。
と、私は目の前の光景を見ながら、心の底からそんな風に思った。
前回に引き続き、広捜隊の面々との会話でした。
次回は、広捜隊の一員としての灯たちの話へと移ります。
さて、その次回の更新ですが……明後日、火曜日の予定です!




