第28話[表] 属性と防御魔法、事務所に戻って……
<Side:Akari>
「ま、『ワールド・エンサイクロペディア』の事はさておき……属性についての話に戻るが、幻属性っていうのは、他の属性との強弱関係がかなりゆるい属性でな、ユーコが撃った魔法やアストラルエッジ、それからアカリの魔煌弓の攻撃、このどれもが属性膜による威力減衰を受けていない」
トンネルの外へ向かって歩きながら、改めてそんな説明をしてくるロディ。
「――それってつまり、凄い無意味な障壁をあの魔獣――ツインなんちゃらは持っていたって事よね? なんとも残念な魔獣ねぇ……」
やれやれといった感じで、手を広げて首を振る私。
「そうだな。ただ、同じ魔獣でも個体が違うと属性膜は変わるから、次にツインヘッドリザードに遭遇した場合に、今回と同じく普通に攻撃が通るとは思わないように注意しろよ? そこを理解していなくて、手痛い反撃を食らう奴が結構いるからな」
「それを見越して、主要な属性の魔法を一通り揃えてあるので大丈夫です!」
ロディの忠告に対し、自信満々といった表情でそう返すユーコ。
まあたしかに、あれだけの種類があれば、属性膜とやらに防がれる心配はほとんどない気がするわね。
「ああ、そういえば主要属性の攻撃魔法を一通り揃えていたっけな……」
と、呟くように言ったロディを見ながら、ふと思った事を口にする私。
「ちなみになんだけど……魔煌弓の矢って属性あるの? なんとなく、無属性っぽいけど」
「ああ、無属性で間違いないぞ。……厳密に言うと、魔煌波を使った攻撃――つまり、魔法や魔煌弓の矢などは、全てなんらかの属性を有しているんだが……この世界の属性って凄まじく数が多い上に、主要属性と呼ばれる12属性以外は何かに影響を及ぼす事が皆無に等しいからってんで、全部ひっくるめて無属性って扱いになっているって感じだけどな」
「なるほど……つまり、どんな相手にもそれなりに有効ってわけね」
「そうだな。魔法に対する耐性や障壁を持っていない相手であれば、だけどな」
私の言葉にそんな事を言ってくるロディ。
……あれ? それって……
「その手の敵が現れたら、私やアカリの武器ではどうにもなりませんね……」
私がふと思った事を先に口にするユーコ。
そうなのよね。私やユーコの持つ武器は全て魔煌波を前提としている――いわゆる魔法の武器、なのよね。
「そんな敵に出くわす様な事態にはまずならないと思うが……まあ、気になるのであれば、俺の剣のように物理的な攻撃が可能な武器を、念の為に用意しておけばいいと思うぞ」
「物理的な弓とか矢って売られてなかったような気がするわ」
「物理的な遠隔攻撃って、この世界だと防御魔法で簡単に防げるからなぁ……。って、そういやふたりは服に防御魔法を付与してあるか?」
ロディがそんな事を言ってくる。……防御魔法?
「服に防御魔法を付与する……というのはどういう事でしょう?」
というユーコの言葉に同意するように私は首を縦に振る。
「ああ、やっぱりそれについて知らなかったか……。まあ、俺もすっかり説明するのを失念していたが……」
ロディは額に手を当ててそう呟くように言うと、私たちに防御魔法について説明を始める。
……
…………
………………
「――とまあそんなわけだ」
「なるほど……魔法を付与して、服を防具そのものにしてしまうってわけね」
ロディの説明を聞き終えた所で、私はそんな風に言う。
要するに、ゲームでキャラがガンガンダメージを食らっても、服が全く破けないアレを、リアルで再現してしまったようなもの……って事ね。
なんというか、色々とファンタジー世界らしくない所の多いこの世界だけど、そういう所は、まさにファンタジー世界って感じだわ……
「でしたら、再びデパートへ――エステルさんのお店へ行きますか?」
「そうだな。外の責任者に撃破報告をしたらもう一度行くとしよう」
ユーコの問いかけに頷き、そう言ってくるロディ。
というわけで、私たちはあのガルフェン族の現場責任者に撃破した事を伝えると、再びエステルの店へと向かった。
「なんじゃ? 防御魔法の存在を忘れておったのか……?」
と、少し呆れながら、最高峰の防御魔法を格安で付与してくれるエステル。
……なんだかんだで、かなり優遇して貰っている気がするのだけれど、良いのかしら……? と思って聞いてみた所、
「おぬしらと面識を持っておくと、色々と面白い事が起こりそうじゃからな」
なんて事を言われた。
……いやいや、面白い事が起こりそうって……。なんなのよその理由……
◆
<Side:Yuko>
「思ったよりも帰りが遅くなりましたね……」
広捜隊の事務所兼住居である建物が見えてきた所で、私は夕日で茜色に染まった空を見上げながら、そんな風に言いました。
「ま、なんだかんだで街中を行ったり来たりしたからしょうがないな。魔獣とも戦闘したし」
と、そう言って肩をすくめるロデリックさん。
まあたしかに、私も魔獣と戦闘する事になるとは思ってもいませんでしたね。
「それにしても、あの程度の魔獣で随分と大金が貰えるのね。ちょっと驚いたわ」
「緊急要請ボーナスが上乗せされているからな。あと、ツインヘッドリザードって俺たちにとってはザコかもしれないが、新人討獣士だと苦戦するか、下手したら大怪我を負いかねないくらいの強さはあるからな」
「あ、それでギルドで久しぶりの大型新人の登場だとか言われたんですね……」
なんというか、ギルド職員の皆さんのテンションが妙に高かったので、不思議に思っていたんですよね……
「たしか、ソウヤ・カザミネの再来だとか、そんな事を言っていたわよね」
「そうだな。――ソウヤ・カザミネ。アカツキ皇国出身で、『黄金守りの不死竜』という謎の組織を設立する前は、チート級の強さを誇った伝説の新人討獣士だったらしいからな。まあ、そのソウヤと共に良く活動していた討獣士たちもまた段違いの強さだったようだが、こっちはどういうわけかあまり情報がないんだよなぁ……。今でも討獣士として活動しているのか、それとも『黄金守りの不死竜』の一員となっているのか……はてさて」
アカリの言葉にそう答えながら、事務所の扉を開けるロデリックさん。
『黄金守りの不死竜』……度々聞く名称ですが、一体どういう存在なのでしょう?
それに、ソウヤ……カザミネ……。どこかで聞いたような……
「あの……その『黄金守りの不死竜』というのは――」
私がそんな問いの言葉を発した直後、
「むむ、ようやく帰ってきたね。待ちくたびれたよぉ」
なんていう少女の声と共に、複数の男女の声が聞こえてきました。
声のした方へと視線を向けてみると、そこにはゼルディアスさんと、初めて見る方々が並んでいました。
この方たちは……もしかして、広捜隊のメンバー……なのでしょうか?
とてもそのようには見えない雰囲気の方々ばかりですが……
前半部分は、属性や防御魔法についてのおさらい的な感じになりましたが、まあ……灯たちは知らないので……
さて、最後の所から分かると思いますが……次回は、ようやく広捜隊のメンバー全員登場です。
といった所でまた次回! 更新は明後日、金曜日を予定しています!




