第25話[表] 昼食と第3トンネルの魔獣
<Side:Akari>
エステルとボイスコード&メッセージコードの交換も終わり、必要な雑貨も書い終えた私たちは、デパートのレストランへとやってきていた。
「――異世界で普通に生姜焼き定食が食べられるだなんて、思ってもいなかったわ」
そう言いながら、最後の肉を口に放り込む私。
「一応、アカツキ料理店となってはいますけど、完全に日本の食堂ですよね、ここ」
ユーコが目の前の野菜炒めを霊力に変換しつつ、周囲を見回してそんな風に言う。
毎度思うのだけど、料理を霊力に変換するってどうやってやってるのかしら……?
聞いても『目の前にある料理を自分の中に取り込む感じ』とかいう良くわからない説明をされて、さっぱり分からずに理解するのを諦めたし……
手の込んだ料理ほど、霊力の変換効率が良いというのも謎だわ……
ちなみに……そう頻繁に霊力を料理で補う必要はないのだけれど、今日はエステルのあの謎の装置でごっそり霊力を奪われたとかなんとかで、それを補うべく、こうして料理を注文していたりする。
っとと、それはまあそれとして……ユーコの言う通りこのお店、どっからどう見てもウチの近くにある安い食堂と内装やメニューがあまり変わらないのよねぇ。なんとも不思議な感じだわ。
「アカツキ皇国は、ほぼ日本と変わらないからなぁ……。昔あの国に、日本人が転生した事があったんじゃないかと思えるくらいにな」
と、食後のお茶を、音を立てずに静かに飲みながら言うロディ。
「ロデリックさんって、元々はドイツの人ですよね? 箸使うの上手くないですか?」
「そういえばそうね。器用に箸を使ってトンカツを食べてたし」
ユーコの問いかけに続くようにして、私はトンカツを食べるロディの事を思い出しながら、そんな風に言う。
「ああ。親の仕事の都合で、子供の頃に日本に住んでいた事があったからな」
「あ、そうなんですか」
「それと、ウチの料理番がアカツキ人でな。アカツキ料理が多いから必然的に箸を使う機会も多いんだよ」
と、ロディ。
『ウチ』というのは、あの事務所兼住居の事よね。
「料理番? あそこって料理を作ってくれる人がいるんですか?」
「いや、基本的にはあそこに住んでいる人間での当番制なんだが、そいつが無類の料理好きでな。週のうち6日はそいつが作っているんだ。だから、当番は1ヶ月に1回くらいしか回ってこない。ちなみに普通にウマいぞ」
「へぇ……。それはちょっと楽しみね」
と言いながらお茶を飲む私。すする、じゃないわよ。
「さて、午後はどうすっかね。多分、夕方くらいには全員集まるからそれまでに戻ればいい感じだが……」
「うーん……これといってもう欲しいモノないのよねぇ……」
どうしたものかしらと思って考えていると、携帯通信機が振動する。
「ん?」
「何かしら?」
「着信ですね」
私たち全員が、同時に携帯通信機を起動する。
すると、エマージェンシーメッセージなる物が携帯通信機のディスプレイに映し出された。
「えーっと、なになに……『エレンディア鉄道第3トンネルの工事現場においてイレギュラーな魔獣出現。付近の討獣士および警備隊員への出動を要請する』?」
私が表示されている文字を読み上げると、
「第3トンネルというと……新しく建設している最中の鉄道用トンネルか。このすぐ近くから入れたはずだ」
そんな風に言ってくるロディ。まさかの近場!
「なら、早速向かうわよ! こっちの魔獣がどのくらいの強さなのか知りたいし!」
◆
というわけで、早速第3トンネルとやらの工事現場へとやってくると、
「救援要請に応じてくれた方々ですね? こんなに早く来ていただけるとは……感謝いたします」
現場責任者らしきガルフェン族の壮年の男性がそう言ってくる。
おそらくこの人がさっきの緊急要請をした人ね。
「幸い近くにいましたから。すぐに駆けつける事が出来ました。それで……何が起こったのでしょうか?」
「実は我々にも良くわからないのですが、トンネル工事中に突如として少々強い魔獣が出現いたしました。」
「魔獣を誘導する仕組みが上手く働いていない……? ――その魔獣は現在どんな感じなのでしょうか?」
「はい。我々では手に負えないと判断した時点で、即座にトンネル内にバリアフェンスを用意し、それで抑えているので、そう簡単に突破されるような事はないとは思いますが……」
現場責任者が、ロディに対して現在の状況を、そんな風に説明する。
「少々強い魔獣?」
「はい。ツインヘッドリザードです」
私の問いかけにそう答えてくる現場責任者。
……ツインヘッドリザード? 聞いた事のない魔獣ね。
「なるほど、あいつか……。まあ、あれなら問題ないな」
そんな風にロディが言うので、大して強くはなさそうだけど。
「よし、トンネルに投入するか。――警備隊員ロデリック、討獣士アカリ、討獣士ユーコの3名が緊急要請を受諾して先行突入した旨を、ギルドと警備局にメッセージ通信しておいてくれ」
「承知いたしました。すぐに行っておきます」
ロディに言われた現場責任者が携帯通信機を取り出し、それを操作し始める。
「よし、行くぞ」
というロディの言葉に頷き、私たちはトンネルへと進入した。
料理の霊力変換は……まあ、急速に霊力を回復したい時用の手段みたいな感じですね。
と言った所でまた次回! 更新は明後日、土曜日の予定です!




