第23話[Dual Site] 携帯通信機とPACブラスター
<Side:Akari>
PACブラスターをエステルに手渡すと、
「うむ、ではたしかに預かったぞい。――改良が終わったら携帯通信機で連絡する故、通信機のボイスコードかメッセージコードを教えてくれぬか?」
なんて事を言ってきた。
えっと……ボイスコード? メッセージコード?
電話番号とメールアドレスみたいなものかしら……?
どう答えたものかと思っていると、
「ああ、それなんだが……アカリ用の携帯通信機を、先日の戦闘でロストしてしまってな。今日はそれも買いに来た所なんだ」
と、そんな風にエステルに告げるロディ。
さっきもそうだったけど、ロディはサラッと誤魔化すわね……
まあ……刑事ドラマとかで、犯人にかまをかけるシーンとかあるから、警察に似た組織である警備局の人間ならば、こういう技術は持っていて当然なのかもしれないけど。
なんて事を思っていると、
「む、そうじゃったのか。であれば、それの手配をしておくかの。警備局――いや、警備隊仕様の最新式で構わぬのじゃよな?」
「ああ、それでいい」
などと、あっさり話をつけるロディ。
……最新式なんて受け取ってしまって良いのかしら……?
まあ、ロディがいいと言っている以上、問題はないんだと思うけれど……
「30分くらいで用意出来るじゃろうから、ここで待っておっても良いし、他の所を見て回ってきても構わぬぞい。向こうの受付に、お主の名を伝えれば良いようにしておくでの」
「……と言っているが、どうする?」
エステルに問われたロディが、こちらにそのまま問いの言葉を投げてきた。
……ここに来た目的って他にもあるのよね。
待っていてもいいけど、どうせなら他のも見てこようかしらね。
「そうねぇ……。折角だから、他のお店もちょっと見て来たいわね。特に家具とか」
「ええ、そうですね」
私の言葉にユーコも頷いて同意する。
「――だとさ。つーわけで、ちょっと他のフロアに行ってくるから受付に伝えといてくれ」
「うむ、了解じゃ」
そういえば、必要な家具ってなにがあったかしらね……?
パッと思いつかないけど……。まあ、言ってみれば何かあるわよね、きっと。
◆
<Side:Estelle>
「――ふーむ、これまた妙な構造をしておるのぅ……。じゃが……この構造は……」
妾はアカリから預かったPACブラスターの構造を確認しながら、そんな事を呟く。
所有者の異能――その根源とも言うべき力と、武器の中にある奇妙な装置を共鳴させる事で、擬似的な霊力を生み出す……そういう仕組みのようじゃが……何故このような回りくどい事をしておるのじゃろうか……?
いや……竜の御旗――正確には『銀の王』に協力しつつも、独自の動きをしておる連中が、こういった技術を持っておったな……
そう……それは、キメラ、オートマトン、そして銃……。そういった物を生み出した謎の連中――かつて、イルシュバーン共和国で地下活動を行っていた連中じゃ。
これは、奴らの生み出す物に類似した特徴がある。――つまり、奴らか奴らに関係のある者によって生み出された可能性が高いというわけじゃな。
それをロディが手に入れたという事は……奴らがエレンディアのどこかに潜んでおるか、エレンディアで地下活動を行っている者たちとどこかで繋がっておる可能性が高いといえるのぅ。
ふーむ……未だに発見しきれていない七聖将の残党が現時点では最も怪しいが――
そこまで思考を巡らせた所で、突如として通信機から着信を知らせる音が鳴り響いてきた。
「む? なんじゃ?」
そう呟きながら、妾は通信機をオンにする。
と、通信してきたのはソウヤじゃった。
「――ん? ソウヤじゃったか。どうかしたのかの?」
「ああ。さっきエステルから受け取ったソウルデータだが……アレはアルチェムとカローア・ヴィストリィの物が混ざりあった代物だったぞ」
「ほほう……。やはりあのユーコという存在は、アルチェム――否、かつてアルチェムであった魂……じゃったか」
何がどうなってそうなったのかはさっぱりじゃが、どうやら『転生』と呼ばれる現象が起こったようじゃな。
「いや、今、混ざりあったと言った通り、それはちょっと違うんだ」
「む、すまぬ、その部分をしっかり理解しておらなんだ。――混ざり合っているというのはどういう事じゃ?」
「アカリという少女と……ユーコという霊体は、その双方がアルチェムであり、カローア・ヴィストリィでもある――要するに赤い色の水と青い色の水を混ぜて、紫色の水にした物をふたつのカップに分けたかの如く、ふたつの魂が混ざり合ったものが分割されて、それぞれの魂を構成している状態なんだよ。まあ……アカリという少女の方が、カローア・ヴィストリィの魂を、ユーコという霊体の方が、アルチェムの魂を、それぞれ少しだけだが多く引き継いでいるようだけどな」
「……た、魂が混ざりあって、さらにその状態でふたつに分割……じゃと? そ、そのような事が起こり得る……とは思いもよらなんだぞ……?」
「まあ、そうだな。俺も驚いた。――ちなみに、どうしてそういう状態になっているのかについては、今得られている情報からでは、ディアーナ様――女神の力でも分からないらしいから、今の所、それ以上の説明は出来ないけどな」
妾の疑問に対し、そんな風に答えてくるソウヤ。
……むぅ。女神様でも分からぬようでは、如何ともし難いのぅ……
「丁度良い事に、広捜隊には『こちら側の人間』がいるからな。上手く守ってもらいつつ、色々と話を聞いて貰おうと思っている。――本人たちも何か知っているわけじゃないだろうから、焦った所でどうにもならんしな」
……ああ、そういえばたしかにおったのぅ。
「うむ、そうじゃな。それが現状で出来る限界……じゃろうな。――ちなみに、グレンには連絡済みじゃったりするのかの?」
「いや、今はまだ時期尚早だと思ってしていない」
「ふむ……。乗り込んで来られでもしたら面倒な事になるじゃろうし、妥当な所じゃろうな」
さすがにそんな短絡的な行動を取るなどとは思っておらぬ。おらぬが……万が一という事もあるからのぅ。
それに……
「それに、魂を引き継いでいるとはいえ、アカリもユーコもアルチェムではないからのぅ……」
と、言葉を続ける妾。
「ああ。その辺をしっかり伝えないと駄目だし、その為にも、もっと詳しい情報が必要ってわけだ」
「ま、そうじゃな。――幸いというべきか分からぬが、妾もアカリやユーコとは直接的な面識を持つ事が出来たからのぅ。広捜隊の彼の者とは別の方向から、情報を得る事が出来るやもしれぬ」
「そうだな。まあ、上手くやってくれると助かる。……ところで、こうして通信したついでに聞きたいんだが……石化の研究の方はどうなんだ?」
「それなんじゃが……もしかしたら、あのふたりと……それからロディが手に入れたというPACブラスターなる武器の存在が、現状を打破する事になるやもしれぬのぅ」
「ん? それはどういう事だ?」
ま、そう疑問に思うのは当然じゃよなぁ。
妾も『その可能性』に気づいたのは、PACブラスターとやらの構造を見たお陰じゃしのぅ。
というわけで、
「うむ。実はじゃがのぅ――」
と切り出して、妾はソウヤに説明を始めるのじゃった。
今回も少し長めになりました……
エステルとソウヤの会話を途中で区切ると微妙な事になるので、一気にいってしまいました。
さて、そんな所でまた次回! 更新は明後日、火曜日を予定しています!




