第22話[表] アストラルエッジ
<Side:Roderick>
「へぇ……。透明になるなんてナイスな代物ねぇ」
というアカリの言葉に、
「ええ、見た目を気にしなくても良いのは凄く助かります……。ありがとうございます」
と、同意してエステルに対して頭を下げるユーコ。
「うむうむ、そうじゃろうそうじゃろう。ああそれと……なんじゃが、最新式の魔煌武装も組み込んで置いたぞい。おぬしは短剣を扱うと言っておった故、それに近い物にしておいたわい。腕の先に剣――刃があるイメージをしてみるのじゃ」
そんな事を言うエステルに対してユーコは、
「腕の先に刃……ですか?」
と言って、何かを考え始める。
そして、しばらくの後、
「えっと……こうですかね……?」
と、そう呟くように言ったその直後、ブォンッ! という音と共に、腕の先から短剣サイズの光の刃が出現。
それと同時に、キィンという甲高い音が響く。
そしてそこに、「わっ!? ちょっ!? あ、危ないじゃないっ!?」なんていうアカリの驚きと怒りの混ざった声が続いた。
見ると、アカリの首元にハニカム構造の小さな魔法盾が出現しており、そこにユーコの生み出した光の刃がぶつかって止まっていた。
「す、すいません……。まさか、このような感じになるとは思っていませんでした……」
そう謝罪の言葉を口にするユーコ。
「っていうか、エステルも先に教えて置いてくれないかしらねっ!?」
「その自動防御障壁があるから刺さらぬ事は分かっておったからのぅ。説明が省けて丁度良いと思って敢えて言わなかったのじゃよ。かっかっか」
アカリの怒りの声に対し、そんな事をのたまって笑うエステル。
「ええー……」
「まあ、この人はそういう人だから諦めろ」
凄く不満げなアカリに対し、慰めにならない慰めの言葉を投げかける俺。
「え、えっと……。これは一体なんなのですか? ビームブレード……のようですが」
というユーコの言葉に、アカリがビームブレードなんてこの世界にないんじゃ……! と、言わんばかりの表情をするが、そこは心配ない。
「何を言っておるのじゃ、あのような今では『銀の王』や、彼の連中の持つ技術を基にした機械兵器どもぐらいしか使わぬような、時代遅れ品同然のモノを妾が組み込むわけがなかろう」
ユーコの問いかけに対し、エステルがそんな風にため息混じりに言い、やれやれと首を横に振る。
そう……この世界には既にビームブレードが存在するのだ。
もっとも……それを使うのは『銀の王』と呼ばれる『竜の御旗』に属する鬼哭界なる異界の連中だが。
しかし、あれを時代遅れと言うか……。イルシュバーン共和国軍の持つ兵器や武装が、SF――というか、スペースオペラ的な何か――かと見紛う代物ばかりなのが良く分かるというものだ。
「――で、じゃ。これはアストラルエッジという代物での、所有者のイメージに応じて形を変える事が出来るのがビームブレードとの大きな違いじゃな」
と、続けて語るエステルだったが、それを聞いてもユーコにはピンとこなかったらしく、首を傾げる。
「イメージに応じて形を変える……ですか?」
「うむ。他の形状の刃を思い浮かべて見るが良い」
そう言われたユーコが「他の刃……」と呟きながら、腕を誰も居ない方へと向ける。
と、次の瞬間、ユーコの両腕から、それぞれ外側に向かって三日月状の光の刃が出現した。
「な、何がなんだか良くわからないけど……ホントに形状が変わったわっ! 凄いわね、これっ!」
「え、ええ……。こ、これは……たしかに凄い、ですね……」
驚きの声を上げるアカリとユーコ。
ふーむ、変幻自在の刃……か。
俺もこれには驚きだ。こんなものを生み出してしまうとは、さすがはイルシュバーン共和国、さすがは彼の大工房……というべきだろうか。
しかし……
「これ、戦闘時以外に暴発したら危険じゃないか?」
という疑問をエステルに投げかけてみる俺。
「なーに、そこもしっかり考えてあるわい。鞘のない剣なぞ危険なだけじゃからのぅ。今はアクティブの状態にしてある故、このようになっておるが、ウェイト状態にすればアストラルエッジが生成される事はないからのぅ。というか、既に足の方がウェイト状態になっておるぞい」
なんて説明をしてくるエステル。
「……それはつまり、足からも光の刃を生成出来るって事か……」
長距離の相手には魔法で攻撃、近距離の相手には光の刃で攻撃……か。死角がないな。
「べ、便利すぎない? 私も何か近距離用の武器――近接武器を用意すべきかしら……」
「PACブラスターを使えば良いのでは……?」
「あれ、近接武器として使うには展開が少し遅いのよねぇ……」
「ん? PACブラスターとはなんじゃ?」
アカリとユーコの会話に、エステルが興味を示す。
それに対して、アカリとユーコが『あ! しまった!』という表情を一瞬見せた。
一瞬だったのでエステルには気づかれていないようだが、うーん……そうだな、ここは――
「あー、えーっと……」
「こういう代物だ」
どう答えるべきか迷うアカリに代わり、俺はそうさらりと言いつつ、アカリから家を出る前に預かった杖――PACブラスターを、次元鞄から取り出してエステルに見せる。
何故これを見せたかと言うと、もう名前を認識されてしまった以上、下手に隠すよりも見せてしまうのが、色々と都合が良いと判断したからだ。
「魔煌杖? にしては妙な代物じゃのぅ……」
懐から取り出したメガネ――おそらくインスペクション・アナライザーだろう――をかけて、じっくりと眺めるエステル。
「む……? これは……アストラルエッジと同系統の技術が使われておるのぅ……。おぬし、これを一体どこで?」
まあ、当然そういう疑問をぶつけてくるよな。
というわけで俺は、
「――少し前に起きた事件でこれを持っていた奴がいてな。使い勝手が良いから、そのままアカリが使っているんだ」
エステルの問いに対して、そんな感じでしれっと嘘をつく。
本当の事を言うと面倒だからな……
「そ、そうそう」
アカリがそんな風に言って頷く。
「ふーむ……。そう言えば今のお主は広捜隊であったな。なるほど、広捜隊の装備は自前のものが多いという話じゃったが、そういう調達の仕方もしておるというわけか」
「ま、そういう事だな。それに、これを実際に使う事で同じ奴に遭遇した時に対処しやすいし、出処を探りやすくなるだろ?」
「なるほどのぅ。それはたしかにそうじゃな」
俺の説明――適当にでっち上げた話ともいう――に納得し、頷くエステル。
そして、一度PACブラスターを見回してから、
「――ちなみに、この仕組みであればチョイと改造するだけで、より近接武器として使いやすい性能を持たせる事も出来るのじゃが……どうじゃろうかの? 改造してみぬかの?」
という、問いの言葉を続けた。
「えっ!? そんな事まで可能なのっ!?」
「うむ。妾にかかれば朝飯前じゃ。……あ、いや、明日の朝飯前までには、じゃな」
驚くアカリに対して胸を張ってドヤ顔で言ったかと思えば、すぐに妙な補足をするエステル。その補足……必要なのか?
「え、えっと……おいくらで?」
恐る恐るといった感じで問うアカリ。
「そうじゃな……大した事でもないし、この仕組み上、どうしても近接武器の形状が限られる故、最小のパーツ代と手間賃を合わせて……。1万……いや、5000リムで構わんぞ」
「お願いします!」
アカリがエステルの提示した金額に対し、即決する。
そして、それを見ながら俺は思った。
1万でも安いが、そこから半額にしてきたあたり、エステルが触りたくてたまらないんだろうな、きっと……と。
アストラルエッジとPACブラスターの改造の話(会話)だけで、想定よりも大分長くなってしまったので、一旦ここで区切ります。
ビームブレードがあっという間に過去のモノと化しているのは、エステルたちによって、『竜の座』のデータベースが活用されている結果だったりします。
さて、次回の更新ですが……明後日、日曜日の予定です!
おしらせ
ちょうど本作とは交互に更新する形となっているもう1つの物語、
「転生した魔工士は、更に人生をやり直す」ですが、
27日に更新する分を執筆する時間が取れなかった為、更新は明日、土曜日になります。
(こっちの物語はストックあったので時間が取れなくても更新する事が出来ましたが、
あっちは既にストックがないので、更新しようにも更新出来る物がありませんでした orz)




