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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第2部 黄金守りの不死竜と調査録 第1章 エレンディア編
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第21話[表] エステルの技術

<Side:Roderick>

「なんじゃ、急に大声を出しおったから何があったのかと思えば……そんな事じゃったか」

 改めて説明をしたアカリの話を聞き、そう言ってため息をつくエステル。

 

「いやいや、そんな事って……!」

「――そこに並べてある物の値段は、アクセサリーとしての商品価値を加味した物じゃ。対して、おぬしに渡したソレは、アクセサリーとして商品化する前の試作品。値段としては0じゃよ、0」

 エステルはアカリに対してそんな風に答え、やれやれと首を横に振ってみせる。

 

「え、ええぇー……。そ、そういうもの……なのかしら……?」

「そういう物じゃよ。そもそも、同じペンダントタイプでも、シンプルな物ならほれ、安い物もあるじゃろう?」

 アカリの話にそう返し、ショーケースを指さす。

 

 その指の先に視線を向けると、細工や宝石といった装飾の一切ない魔法を使う為の道具としての機能最優先と言わんばかりのシンプルな銅製ペンダントがそこにはあった。

 値段は4万9800リム。先程アカリが見た物の1/10だ。

 

「ま、まあたしかに……。それでも十分高いような気はするけれど……」

 と言うアカリに対し、

「魔法を組み込める数を考えたら安い方だな。他の店で売られているような物だと、せいぜい3つか4つだし」

 そう告げる俺。

 

「うむ。その程度の物で同じくらいの値段で売っている店もあるからのぅ」

「3つか4つでも多い方ではあるんだけどな……。一昔前は1つか2つしか組み込めない物もあったし、別属性だと干渉の影響で枠が減るとかいう制約もあったからな」

「そうじゃな。属性干渉を制御する手段が確立される前はそんな感じじゃったな」

 さも他人事のような仕草でそんな風に言ってくるエステル。

 

 だが、エステルがソレを生み出した『イルシュバーン共和国大工房』の開発グループの一員である事を知っている俺は、

「何を他人事のように。その手段を確立させた側だろうに……」

 と、肩をすくめてそう告げる。

 

「たしかにそうじゃが、妾は他にやるべき研究があった故、少し手伝ったにすぎぬわい。大半は妾の師匠が中心となって進めたのじゃからのぅ」

 エステルが腕を組み、そんな風に言って首を縦に振る。

 

 師匠――遺失技法学士のアーデルハイドか。

 イルシュバーン共和国の優れた魔煌技術の根幹を築いた人物のひとりだな。

 地球からの転移者かなにかかと思った事もあるが、種族的にそれはない事は分かっている。

 まあ、彼女が以前所属していた傭兵団は、あらゆる面で規格外であった事を考えると、彼女自身ではなく、その周囲に転移者が居た可能性は高い。

 ……それこそ、最近その名を聞かなくなったアカツキ皇国出身の弟子であり、高校と大学を組み合わせたかのような学校――エクスクリス学院の教授でもある『コウ・アキハラ』とかな。

 

 一時期学院長になるという噂があった人物だが……『何か』の目的の為に、生まれ故郷にして、アカツキ皇国の皇族のみが知るという霊具職人の隠れ里へ帰ったという話だ。

 それ以来その名をまったく聞かなくなったので、本当にそこの生まれであり、地球からの転移者ではないと考えても別に不自然な点――違和感などは特にないのだが……それでも、どうにも腑に落ちないんだよなぁ……

 

 などと思考を巡らせていると、

「それで……エステルさんがこちらにいらしたという事は……私用の具足の調整が終わったという事でしょうか……?」

 と、エステルに問いかけるユーコの声が聞こえてきた。


 具足って言ってるけど、実質的にはガントレットとブーツだよな、これ。

 ……小具足というのが正しいんじゃなかろうか。

 まあ、この店はアカツキ式なので、アカツキ皇国では小手と足懸の事を、そういう風に呼ぶのが一般的なのかもしれないが。

 ……それとも、まさかこれから更に部位が増える……のか?

 

 なんて事を思っている間に、エステルは頷き、

「うむ、その通りじゃ。あとはそれを組み込むだけ故、こうして様子を見に来たのじゃが……ふむ、見た感じ魔法の組み込みは終わっておるようじゃな」

 と、そう答えながら円盤――ソーサリーギアへと視線を向けた。


 そして、エステルはソーサリーギアを手に取ると、工具鞄風の次元鞄から先程工房で見た具足を取り出し、その場で組み込み始める。

 

「――これをこうして……。うむ、完成じゃ」

 あっさりと組み込みが終わり、エステルが完成した具足をユーコの前に置いた。

 

「早速、試しに装着してみるが良かろう」

 というエステルの言葉に従う形で、ユーコが具足を装着する。

 

 次の瞬間、具足が消滅した。――いや、透明化しただけか。

 しかし、それを知らないアカリは、

「あれ? 消えた?」

 ユーコの手足を見ながら、そんなもっともな疑問を口にする。

 

「いえ、ここにありますよ……。見えなくなっているだけですね……」

「妾が、あんな金属のゴツいフォルムを晒しっぱなしにするわけがなかろう。しっかりステルス魔法を組み込んであるわい。しかも、並の魔法看破なら見破る事すら出来ぬよう、特殊な術式で構築した物をのぅ」

 などというとんでもない話をサラッと口にするエステル。


 ……並の看破魔法で見破れないような代物を、さも大した事もないと言った感じで語っているのが末恐ろしいな。

 俺の剣もそうだが、相変わらずトンデモ技術を平然と使うよなぁ……エステルって。

 いやまあ……。ある意味、さすがはイルシュバーン共和国大工房の人間だけはある、と言った感じではあるけどな……

 

 と、そんな事を思う俺だった。

具足は基本的に鎧兜の事を指すので、ガントレットもブーツも、本来なら具足とは呼ばないのですが、何故かエステルはそう呼んでいます。……何故なのか、というのはいずれ。

(まあ、ロデリックがチラッとその名称についての可能性を思案していたりしますが……)


さてさて、そんな所で次回の更新ですが……明後日、金曜日の予定です!

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