第14話[表] 超広域特殊事件捜査遊撃隊
<Side:Akari>
翌日、ロディに案内され、北エレンディアの運河沿いに建てられたレンガ造りのオフィスビルのような建物へとやってきた所で、
「とりあえず仮の住居として、ここを使ってくれ」
と告げられる私とユーコ。
改めて建物を見上げてみると、
『エレンディア警備局分室オフィス <超広域特殊事件捜査遊撃隊>』
という、いまいち良くわからない名称の記された看板が掲げられているのが目に入る。
「ここは……警備局の建物……ですか?」
そんなユーコの問いかけに対し、ロディは髪を掻きながら、
「ああ。まあ……ウチの班のオフィス兼住居だな。……実を言うと、病院の病室代で経費を使いすぎちまって、普通のアパルトメントを用意出来なかったんだ……。すまん」
なんて事を言ってきた。
ああ、やっぱりあの病室、お高かったのね……
「でも、ここって警備局――警備隊員用なのではないのですか? 私たちは警備隊員でもなんでもありませんが、勝手に住んでしまってよろしいのでしょうか……?」
私が問おうとした言葉をユーコが先に口にする。うん、たしかにそうなのよね。
「ああ、俺たちの所属する『超広域特殊事件捜査遊撃隊』――通称『広捜隊』で、警備局に属するのは俺とゼル先輩だけだ。他の面々は民間の協力者なんだよ。……まあ、その協力者も3人しかいないんだけどな」
と、そう説明しつつドアを開けて中に入るロディ。
私はそれに続いて建物の中に入り、
「え? そうなの? 随分と変わった組織ね」
と、言った。
ちなみに、敬語は不要だと言われたので素の喋り方をしている。
まあ、ユーコは敬語が素の喋り方なので、そのままだけど。
「あー、いや……実は、この広捜隊は少し前に設立したばかりの部隊――部署でな。警備局だけでは対応しづらい部分に、警備局の人間とは別の視点や知識、技術を持った民間人と共に協力して当たる……という物なんだ」
ロディが頭を掻きながらそんな風に言ってくる。
へぇ……。それはなかなか面白そうな取り組みね。
なんて思っていると……
「ま……実の所、体のいい厄介払いを兼ねているんだがな。俺たちは警備局内では、一部のアレなお偉いさんの意向に従わない、はみ出しモンなもんなんでな」
という声と共にゼルが階段を降りてきた。
一部のアレ……。まあ、アレというのが何を指しているのかはなんとなく分かるわね……
そんな事を考えていると、
「ほい、これが嬢ちゃんの部屋の鍵な。3階の一番奥だ。しっかり掃除しておいたぜ」
と言って、鍵――というか、カードを手渡してくるゼル。
……って、これカードキー……よね?
これまた、ファンタジーっぽくない代物ねぇ……。まあ、どうせ中身は電子的なものじゃなくて、魔法の術式がぎっしり……とかなんだと思うけど。
「んじゃ、俺はちょっくら他のメンツを呼びに言ってくるわ。ロディ、嬢ちゃんの案内と説明は任せたぜ」
そう言い残し、ゼルが外へと出ていく。
「――とりあえず、荷物を……と言っても、何もないか」
「そうね……。あるのは、この杖くらいだわ」
そう言ってロディにPACブラスターを見せる。
一緒にこっちの世界に流れてきた物を回収してあったらしく、病院を出る時に手渡された。
「PACブラスター……だったか? 俺がこっちの世界に来る前には存在すらしていなかった代物だな」
「まあ、近年開発された物ですからね……。ところで、ロデリックさんはどこからどうやってこちらの世界に?」
ロディに対し、そんな問いの言葉を返すユーコ。
「ああ、俺は元々ドイツで『竜の血盟』の連中とやり合っていたんだ。つっても、あの頃は組織に入ったばかりの新人だったんだけどな」
「竜の血盟ねぇ……。私は直接やり合った事ないけど、厄介な組織だったみたいね」
「そうだな。明らかにオーバーテクノロジーだろと突っ込みたくなるような、トンデモ機械兵器とか持っていやがったしな」
ロディはそこまで言うとやれやれだと言わんばかりに首を横に振ってみせる。
「たしかに……。竜の血盟が工場に使っていた廃墟に遺されていた機材とかも、現代の技術では到底作れそうにない物がチラホラありましたしね……」
「あらそうなの? 私には全てが理解不能だったわ」
「ま、俺もそんな感じだったな。――でまあそれはそれとして……ある時、連中の拠点のひとつに踏み込んだんだが……そこで、実験中だった装置が誤作動を起こしてな。突然出現した渦に飲み込まれる形で、こっちの世界にやってきたんだ。……7年前にな」
「なるほど、そうだったんですか……。その辺りは私たちと似ていますね」
「そう言われるとその通りね」
と頷いて答えつつ、ふと今の説明におかしな点がある事に気づく私。
というわけで、それについて問いかけてみる。
「――ロディって、7年前にこっちの世界に来たのよね?」
「ああ、19の時にな」
つまり、ロディは今、26歳って事になるわね。
って、それはどうでもいいわ――
「……『竜の血盟』が世界で活動を始めたのって、5年前くらいからよ……?」
「あ、そういえばそうですね……」
「ちなみに、2年くらい前に急に姿を消したわ」
「ええ。代わりに、今の地球には魔獣が出現するようになりましたが……」
「とんでもない置き土産をしていってくれたものよねぇ……ホント」
やれやれといった感じで、両手を左右に広げて首を横に振る私。
「む? そうなのか? ……俺が組織に入ったのは、竜の血盟が活動を始めてから3年程経過した頃だ」
と、ロディ。
「それってつまり、4年前という事よね……?」
「……どういう事だ?」
と、首を傾げるロディ。
しばし考え込んでいたユーコが、
「……どうやら、転移時に時間が大きくズレるみたいですね」
という推測を口にする。
「あー、なるほど……。そういう事ね……」
「つまり……俺は4年前の地球から、7年前のこの世界――グラスティアへと転移したってわけか」
ロディがそう言うと、ユーコがそれに対して、
「あるいは、その逆で……。私たちが3年後のこの世界へ転移してきたか、ですね……」
と、言った。
「……う、うーん……。頭がこんがらがるわね……。なんというか、疑問は解決したけど別のより大きな疑問が湧いてきた感じだわ……」
「それは……たしかにそうですね……」
とりあえず『数年ズレている』という事が分かったが、それが分かった所で何かあるのかというと……まあ、正直現状では何もないし、何故そうなるのかさっぱりなので、その話は一旦そこで終わりにし、私たちはロディの案内で改めて自分の部屋となる場所へと向かう事にするのだった――
時間ズレとかの辺りは、本当はもう少し短い会話で先へ進む想定だったのですが、蒼夜たちは既知ではあるものの、この面々にとっては未知なので、どうしても会話が長くなってしまいました…… orz
もう少し蒼夜側で既知になっている部分は説明を短くしたい所です……
とまあそんな所で次回の更新ですが……明後日、金曜日の予定です!




