第11話[表] 灯とユーコとロディとゼル
<Side:Akari>
「う……ん……?」
目を覚ますと、見たことのない天井が目に飛び込んでくる。
「ここ……は?」
呟きながら上体を起こすと、どこかの部屋のベッドに寝ていた事がわかった。
いつの間にか私の服がパジャマっぽいものになっている。
うーん……。この服にこの部屋の感じ……雰囲気的には病院っぽいわね……
「あ、目が覚めたんですね」
というユーコの声が聞こえる。
どうやらユーコとはぐれる事はなかったらしい。
……まあ、一心同体みたいなものだから、はぐれる可能性自体ないのだけれど。
「ええ、なんとかね。……で、ここはどこなの?」
「ここはグラスティアという異世界の都市、エレンディアにあるレスター記念病院ですね」
「ふーん、グラスティアという異世界のエレンディアねぇ……。………………異世界!?」
あまりにサラリと言われたから、普通に流しかけてしまったわ……
「はい。異世界です。魔法が普通に存在するファンタジーな異世界ですよ」
「まさかのファンタジー世界!?」
よもや、自分が異世界転移を経験する事になるとは思わなかったわね……
「って事は、あのネクサスゲートとかいう代物は、異世界と繋がるゲートだった、という事?」
「はい、そういう事になりますね。あ、ちなみにこの世界については、私たちを――正確には灯を保護してくれた方たちに説明して貰うのが良いと思います。私もまだ詳しく把握出来ているわけではないので」
「うーん、その人たちには説明をして貰うだけじゃなくて、お礼も言わないといけないわね。……ところで、なんでユーコはそんなに落ち着いているのよ?」
なんだかゲートに吸い込まれる直前にもこんな事言った気がするのだけど……まあいいわ。今回は、どちらかと言うと私も落ち着いている方だし。
「まあ、私は灯よりも5日も前に目覚めましたから。とっくに驚き終わっています」
「あ、そうなのね。……ん? それってつまり……私は5日以上眠っていた、って事よね?」
「はい。私が目覚めた時点で、既に2週間眠ったままだったそうですよ」
「2週間!? しかもそこから5日だから……3週間近く!?」
今回は落ち着いていた私だけど、そこには驚いたわっ!
「幸い、このエレンディアはかなり文明の発達した――魔煌という魔法機械技術の発展した都市らしく、3週間近く眠ったままでも、食事その他諸々、全て問題ありませんでしたよ。臭いとかはないです」
「……そこを気にしているわけではないのだけれど……。あ、いや、匂いに関してはちょっと気にするけど……まあ、臭くないならいいわ」
そう呆れ気味に言いながら、窓の方へと目をやる私。
そこには見事なまでの高層ビル群――摩天楼が広がっていた。
そのまま窓の外に広がるその摩天楼を眺めつつ、
「でも、たしかにこの街、随分と発展しているわね。異世界だと言われなかったら、地球の……欧米の大都市のどこかかと思うわ」
と、呟くように言う。
高層ビルの建ち並ぶ光景自体は日本と似ているのだけれど、その街並みは大分異なっているので、さすがにここを日本だとは思わない。
だけど、欧米の大都市だと言われたら納得してしまいそうな、そんな雰囲気だった。
そして、なんだか少し懐かしい。
どうしてそんな風に感じるのかは、正直自分でも良く分からない。
うーん……。もしかしたら、街並みがいわゆる中世ファンタジー世界のそれじゃなくて、地球――現代に似ているから……かもしれないわね。
そんな事を思っていると、
「お、目覚めたみてぇだな。幽霊憑きの嬢ちゃん」
なんていう声と共に、ふたりの男性が入ってくる。
「ですから……私は幽霊ではないと……」
ユーコがため息混じりにそんな風に答える。
「……どちらさま?」
ユーコの方を見て問う私。
「あ、このおふたりは、私たち――というか、灯を保護した方々です」
「俺はゼルディアス・ベルトローガ。ゼルでいいぜ」
「ゼル先輩、名前を名乗っただけでは説明が足りていませんよ……?」
「そこはロディに任せるぜ」
「仕方がないですね……。――俺はロデリック・レーゲンヴァルト。ロディでいい。ゼル先輩と俺は、このエレンディアの治安維持を担う警備局の所属だ。灯さん、あなたはアナスタシア自然公園に倒れていたんだ」
ユーコの説明に続き、ドラゴンのような尻尾を持つ人物――ゼルと、私と同じ人間そのものの人物――ロディがそんな風に自己紹介と説明をしてくる。
うーん、たしかにファンタジー世界って感じね。主にゼルが。
「君については、そこの幽霊から聞いているぜ」
ゼルがそう言葉を切り出すと、その後をロディが引き継ぐように、
「なんでも、空間転移の装置らしきものに巻き込まれて飛んできたとか?」
と、問いかけてきた。
「え? あ、はい。『竜の血盟』という組織が工場としてかつて使っていた建物の地下にあった装置が急に作動して、それに飲み込まれました。ユーコの話によると、ここは別の世界のようですが……?」
「ああその通り。貴方から見たら、ここはたしかに異世界だ。ただ……『異世界から来た』というのは、あまり他の者には言わない方が良いだろう。この世界の者たちは、異世界――異界というものを『良い物』だとは捉えていない――むしろ『悪い物』であるという捉え方をする人の方が圧倒的に多いからな」
私の問いかけに肯定した後、そんな忠告をしてくるロディ。
それにゼルも頷き、同意の言葉を口にする。
「だな。俺らのような国の行政機関に属する人間は別だが……一般人にとっちゃあ、近頃は『竜の御旗』っつー連中のせいもあって、『異界』は邪悪な組織……テロリスト、あるいは侵略者みてぇなイメージがつえぇかんな」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。――まあ、詳しい話は検査を終えてからにしよう」
ロディがそんな風に言ったのは、医師と思われる背中に翼のある人物が入ってきたからだった。なんというか、まさにファンタジー世界の種族! って感じね。
っと、それはそれとして……異世界――異界が邪悪というのは、一体どういう事なのかしら……
『この世界に来たばかりの灯とユーコにとっては知らない事が多い』関係上、どうしても序盤は説明的な話が多くなってしまい、ストーリー進行がスローテンポになってしまうのが難点ですね……
なるべく説明のセリフが少なくなるようにしたい所ではあります。
という所でまた次回! 更新は、明後日の土曜日を予定しています!




