第10話異伝4[Dual Site] 辿り着きし者
<Side:Akari>
ゴォォンという重低音と共に、周囲の機材が勝手に動き出す。
「え? どうして動くのよ? 電力は供給されていないはずなのに……」
「推測になりますが……地上とは別の電源系統――自家発電的なもので動いているのではないでしょうか……? ここは隠された場所ですし、安全を考えて上とは完全に切り離している可能性は十分にありえます」
「あ、なるほど……。たしかにそう考えると納得出来る話ね……」
私とユーコがそんな会話をしている間にも周囲の機材が音を立てて何かを処理し始める。
そして、バチバチという放電音が響き、リング状の機材の中心部にスパークが発生した。
「なにかが生み出されようとしている……?」
と、呟くように言うユーコ。
「たしかにそんな感じね……。さっき、ネクサスゲートとか言っていたから、本当にどこか遠くの場所と繋がる……とか?」
「……ありえますね」
そのまま成り行きを見守っていると、唐突に警報音が鳴り響き、
『ぶーとニ必要ナえねるぎーガ不安定――暴走ノ危険度大。停止スル場合ハ、停止こーどヲ音声入力シテクダサイ』
なんていう音声が聞こえてきた。
「……な、なんか、暴走とか凄くヤバそうな事を言ってるわよ? て、停止コードって何?」
という私の言葉に、ユーコが首を横に振って、
「……さ、さっぱりですっ。ここは一旦離脱した方が良い気がします……っ」
と、そう返してきた。
ああうん、それは間違いないわね。
私とユーコは互いに顔を見合わせ頷くと、その場から離脱を図る。
……が、少し遅かった!
『こねくとしすてむ暴走、げーとこんとろーる失敗』
その音声と共に、私の身体がふわっと浮き上がる。
「ちょっ!? えっ!?」
驚きの声をあげる私。
「あ、あれ? 私も前に進めません!? というよりなにかに引っ張られている!?」
ユーコも浮いたまま慌てふためいて、そんな事を言ってくる。
『方舟ノ民ノ生命ヲ最優先シ、ぐらびてぃこんとろーるヲ破棄。わーむほーるノ吸引力、増大。民ノわーむほーる通過ノ為ニ、全ノ残存えねるぎーヲ分配。らいふせーばーヲ起動』
そんな音声と共に、私とユーコの身体が薄い青紫色の泡のようなもので包み込まれた。
「な、なになに!? なんなの!?」
混乱する私の視線の先――リングには、いつの間にか黒い渦のようなものが出現していた。
そして、私とユーコの身体がそちらへ引き寄せられる。
「ど、どうやらあそこに吸い込まれつつあるようです……!」
「そ、それって、どこかに飛ばされるって事かしらぁぁっ!?」
「そ、そうなりますね……」
「そうなりますじゃなくてぇぇっ! な、なんとか離脱しないと……っ! あれに吸い込まれて無事で居られる保証なんてないわよっ!?」
「い、いえ、一応我々の生命の安全を最優先するように処理が進行しているので、おそらく大丈夫だと思います! ……おそらくですが!」
「そこ、強調しないでくれるかしら!? むしろ、ここは嘘でも絶対大丈夫だと言って欲しい所よ!? や、やっぱり、なんとかして離脱を――」
そこまで口にした所で、吸引力が極端に強まった。
一瞬にして、私とユーコの身体が黒い渦のようなものへと引きずり込まれる。
PACブラスターに力を込め、柄を伸ばす事で突っ張り棒のようにしようと思い横にしてみるも、そんな物は悪足掻きにすらならなかった。
物理法則を完全に無視するように、PACブラスターの柄が、先端が、リングの枠部分をすり抜ける。
「もう、こうなっては成り行きに任せるしかありませんね」
「なんでユーコはそんなに落ち着いているのよ!?」
「なんででしょうね? なぜだかわかりませんが……安心な気がするんですよ」
「なに、その根拠のない安心感!」
「あの……」
「なに!? なにかに気づいたのかしら!?」
「はい。……根拠のない安心感って言葉、何かおかしくないですか?」
「そういう事じゃないわよぉぉぉぉ!? わざわざそんな所に突っ込まなくてもいいのよぉぉぉぉぉ!?」
混乱した私は、そんなわけのわからない叫びと共に黒い渦へと飲み込まれ、そして意識が途切れた――
◆
<Side:Roderick>
「こっちの方で良かったんだよな? 凄まじい爆発音が響いてきたのは」
ゼル先輩が周囲を見回しながら、そんな風に言ってくる。
「そうですね。探知魔法の反応からして、音の発生源はこの辺りだと思いますが……」
「だが、これといって何もなさそうだぜ」
「たしかに、あれだけの爆発音が響いた割には、木の一本も倒れていませんね」
ゼル先輩の言葉にそう答えつつ俺も周囲を見回すが、いたって普通の森――アナスタシア自然公園のいつもの光景が広がっているだけだった。
もしかしてスタングレネード、あるいはそれと同じ効果を持つ魔法の類……か?
これだけ木々が生い茂っていると、光――閃光の方は覆い隠されてしまうだろうし、音だけが森――公園外に届いた、というのは別におかしな事ではない。むしろ、普通に考えられる事だ。
そんな思案を巡らせながら、草むらをかき分ける俺。
……と、そこには地面に倒れ込んでいる少女の姿があった。
「……なっ!?」
「ん? どうしたロディ、何か見つけたのか?」
俺の驚きの声を拾ったゼル先輩が問いかけてきた。
俺は少女に近づいて心肺――生死の状態を確認しつつ、ゼル先輩に少女が倒れていた事を告げる。
「とりあえず、心拍は安定しています。気絶しているだけですね」
先程の爆発音を間近で聞いたせいで、驚いて気を失ってしまった……といった所だろうか?
「そうか……そいつは良かったぜ。だが、なんでこんな所に?」
「それはわかりませんが……ここって、南のフェルディナンド自然公園と違って、一般市民でも入れましたよね?」
「まあ、フェルディナンドと違って、こっちは危険な害獣が生息しているわけでもないから、一般市民にも日中は開放されているな」
「見ての通りこの少女は制服――学生服を着ているので、どこかの学生なのではないかと……」
「ああなるほど……そういう事か。たしかに学生であれば、なんらかの課外授業、あるいは課題とかで、ここを訪れていてもおかしくはねぇ、か。……ま、なんにせよ放っておくわけにもいかねぇし、本部に連絡して救護隊を回してもらうわ」
ゼル先輩はそう言って携帯通信機を取り出し、本部へと連絡し始める。
うーん……この少女の制服、『この世界の物』というよりは、『地球』の、それも『日本』で使われているものに似ているような……
一応、イルシュバーン共和国にあるエクスクリス学院では、こういう感じの制服を採用してはいるが……あそこの生徒が、わざわざこんな所にまでやって来ているはずがないしなぁ……
もしや……俺と同じ、なのか?
俺は少女を見ながら、そんな事を考えるのだった――
今回は、思ったよりも長くなりました。
さて……これで、エレンディア編のメインとなる人物がエレンディアに勢揃いし、プロローグとも言うべき話は一段落しました。
次の話からは本格的にエレンディアの話に入っていきますよ!
といっても、序盤はどうしてもスローテンポな展開になると思いますが……
とまあ、そんな所で次の更新ですが……明後日、木曜日を予定しています!




