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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第2部 黄金守りの不死竜と調査録 第1章 エレンディア編
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第10話異伝3[表] 隠蔽されし地下の装置

<Side:Akari>

「炎も厄介ですが、あの動きの速さも厄介ですね……」

「そうなのよね……。さっきは、狭くて暗い場所での戦いは避けようと思って外に出たけど、これなら入り組んだ屋内の方が逃げやすい気もしてきたわ。もっとも、建物の方があの炎に耐えられる事が前提だけど」

 ユーコの言葉にそう返しつつグラップルドラゴンの動きを見る私。

 

 こっちへ歩いてきているわね……。てっきりダッシュで向かってくるとおもったけど……

 もしかして、私が建物の影に隠れた事で、何か仕掛けてくるのではないかと警戒している……のかしらね?

 あのレベルの魔獣であれば、そういう判断が出来るくらいの知能はあるし……

 残念ながら、私にここから何かを仕掛けるられるような手札はないのだけれど、あると勘違いしてくれているのなら、ほんの少しだけ時間を稼げるからラッキーと言えばラッキーね。

 

「……この建物、思ったよりも頑丈な上、高温に強いタングステン製の機材が多く残されて入り組んでいますね。この中に入ってはどうでしょうか? タングステンであれば、あの蒼炎でも防げるはずなので、上手く盾に使いながら逃げ回れる気がします」

 ユーコが、以前はガラスが嵌っていたのであろう長方形の大きい窓から建物内を覗き込んで、そんな事を言ってくる。

 

 私も覗き込んでみると、たしかに建物内には、何に使うのか良く分からない大型の機材が所狭しと設置――遺されていた。

 ……どうして見ただけで、あの機材がタングステン製だなんてわかるのかは不明だけど、まあ……ユーコの知識は私を遥かに凌駕しているし、間違いはないはず。


「……そうね。いいかもしれないわね。この窓の大きさなら、あの魔獣は入れないだろうし、回り込んでくる時間も稼げそうだわ」

 私はユーコにそう答えると、窓枠に手をついて乗り越える。

 

 直後、グガアアアァァァッ! という咆哮が響き渡り、重量感のある足音が迫る。

 どうやってかは分からないけれど、私が建物の中に入った事を察知したらしい。

 

「急いで機材の裏に!」

 ユーコのその言葉に突き動かされる形で、機材裏に滑り込む。

 

 と、ほぼ同時に窓から蒼炎の槍が放り込まれ、機材へと突き刺さる。

 しかし、ユーコがタングステン製と言った通り、機材の耐熱性は非常に高く、コンテナを溶かした蒼炎ですら、機材を溶かす事は出来なかった。

 

 だが、炎とその余波による火の粉によって、コードなどの燃えやすい素材が炎上。建物内に炎が広がった。


「あっつ!」

「このままここに留まるのは無理そうです! 移動しましょう!」

 ユーコに従い、グラップルドラゴンの動きに注意しつつ、私は建物内を走る。

 

 と、ゴオッという音と共に、前方のシャッターが一瞬にして溶け、蒼炎の球体が外から飛び込んできた。

 そして、蒼炎はそのままシャッターの先にあった機材に激突し、それを焦がす。

 

「来ます!」

 ユーコの警告通り、溶けたシャッターからグラップルドラゴンが飛び込んでくる。

 そこから間髪入れずに、私のいる方へと目掛けてブレスを吐く。

 

「くぅっ!」

 私は近くの壁に隠れるように横へと跳躍。ブレスを回避する。

 そして、グラップルドラゴンの様子を伺うべく、壁に張り付――こうとして、壁をすり抜けた。

 

「へ?」

 さすがに予想外すぎたせいで、私は態勢を崩し転倒。尻餅をつく。

「うぎゃっ!」

 

「……あいったたた……。壁を……すり抜けた?」

 私がお尻をさすりながらそんな間抜けた疑問を口にすると、

「竜の血盟は、通路や入口を壁に見せかける高度なカムフラージュ技術を有していた……という話を聞いた事がありましたが……現物を見るのは初めてですね……」

 なんて事を言ってくるユーコ。


「うーん……そう言われてみると、県境の――幽霊トンネルなんて呼ばれている旧道のトンネルに、壁に偽装された通路……つまり、これと同じ物があったって話を前に聞いた気がするわ」


 幸いというべきなのか分からないが、この隠し通路――いえ、隠し階段のような場所に偶然踏み込んだ事で、グラップルドラゴンはどういうわけか、私を見失い、キョロキョロしている様子が見えた。

 ……って、コレ、こっちからは外が見えるのね。なんて便利な……

 

「グラップルドラゴンの体躯では、ここに入るのは無理でしょうから、おそらくここに留まっていれば、援軍到着まで持ちこたえられそうですが……折角ですし、階段を降りてみませんか?」

「そうね。私も、この先に何があるのか少し気になるわ」

 小声で言ってくるユーコに、私もまた小声でそう返す。

 

 グラップルドラゴンの驚異を思わぬ形で回避出来た事で、私は急に好奇心が湧いてきた。

 こんな方法を使ってまで竜の血盟が隠そうとしていた物とは、一体何なのか、と。

 

 そんなわけでカムフラージュによって隠されていた長い階段を降りていく私とユーコ。

 そして地下3階分くらい進んだ所で、地上同様、機材が所狭しと設置された広い空間へとたどり着いた。


「ここにも良く分からない機材が大量に遺されているわね」

「そうですね……。ここで、何らかの実験をしていたのは分かりますが、それが何なのかまでは、ちょっと分かりませんね……」

 周囲を見回しながらそんな事を口にする私とユーコ。

 

 幸いグラップルドラゴンがやってくる様子はないので、ゆっくりと調べて回る。

 ……と、リング状の大きな装置が視界に入った。

 

「これは一体何なのかしらね? コードが周囲の機材からこれに向かって集まっているみたいだけど……」

「さあ……? でも、なんというか……宇宙を舞台にした物語に出てくる、星系間を行き来する『ゲート』みたいですね」

「あー、なるほど。言われてみるとたしかにそんな感じね」 


 私とユーコがそんな事を話していると……


『方舟ノ民ノあすとらる反応ヲ検知。ねくさすげーとヲおーとぶーと』


 唐突に、そんな声――合成音声が響いてきた。

幽霊トンネルは、まあ……第1部の序盤のアレですね。

そして、これまたどこかで出てきたような物(装置)が……


さてさて、そんな所で次回の更新についてですが……明後日、火曜日を予定しています!

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