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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第2部 黄金守りの不死竜と調査録 第1章 エレンディア編
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第10話異伝2[表] 暗がりより現れし魔獣の正体

<Side:Akari>

「この先に潜んでいるのは間違いないわね」

 そう言いながら、廃墟――錆びついている、あるいは壊れている何かの機材が散乱するその先に、ぽっかりと口を開けるように存在している暗い通路の奥を見る私。

 

 日没間際の弱い太陽の光では、通路の奥を照らす程の光量はない。

 ついでに言えば、懐中電灯の類も持ってきていない。


「ええ、そのようです……。……どうします? こちらから行きますか? 待ち伏せしますか? それとも……後退しますか? ……個人的には後退――外へ出る事をお勧めします……」

「そうね……。あの暗がりに足を踏み入れるのは少し危険な気がするわ。戦うにしても暗くて狭い場所は避けたい所だし」

「では――」

「ええ。一旦外へ出るわよ」

 

 私とユーコの意見が一致した事もあり、速やかに廃墟外へと出る。


 元は竜の血盟がオートマトンなどの兵器を建造していた工場だけあり、廃墟の外はそういったものが移動出来るだけの広さがあったりする。

 逆を言えば遮蔽物が少ないという事でもあるので、それを利用して魔獣の攻撃を防ぐ、といったような事が出来ないのが難点ではあるのだけれど。

 

 なんて事を考えつつ、私はPACブラスターの石突き部分で、地面を叩く。

 即座に地面に『印』が描かれる。

 これは、PACブラスターの機能のひとつで、特殊な塗料を噴き付けるという物。

 よくわからないけどこうする事で、専用端末の通信すら不能な状況下でも、本部には印の設置されている位置が分かるらしい。

 つまり、これでここに援軍が来るようになる、というわけね。

 

「あとは、援軍到着まで保たせられるか……ね」

「最悪……逃げに徹するのも、手だと……思います」

「そう簡単に逃げ回れるような相手ならいいんだけど……」


 そんな会話をしている間にも、魔獣の気配はこちらへと急速接近してきていた。

 どうやら完全に目をつけられたらしい。

 

「かなり速いわね……」

「ええ、そろそろ廃墟の外に――」

 言葉の途中でユーコが何かに気づき、驚愕する表情を見せる。

 そしてすぐに、

「灯ッ! 全力で横に跳んでください!」

 という大きな声が耳に響いてきた。

 

 それに反応するようにして私は横へと大きく跳躍。

 と、その直後、私の立っていた場所を蒼炎の槍が物凄い勢いで通り過ぎていった。

 

 はやっ!?

 

 そう思った瞬間、蒼炎の槍が、私の後方に積まれていた赤茶けた錆びだらけのコンテナに直撃。

 一瞬にしてコンテナ全てをドロドロに溶かした。いや、一部は蒸発した。

 

 ……って! 鉄が蒸発するとかシャレになってないわよ……っ!?

 直撃しない限りは周囲の熱波自体は大した事ないというか、ちょっと熱く感じるだけみたいだけど……

 もっとも、それはそれで意味不明なのよね……。まあ、ファンタジーの塊みたいな魔獣に、物理法則とか科学的な理由や根拠を問うだけ無駄なのは知ってるけど……

 

「来ます!」

 ユーコの声に、私は思考を中断して廃墟の方を見る。

 

 次の瞬間、廃墟から首と手足の長いトカゲ――ただしその体躯は10メートル以上。廃墟の天井が高くなければ天井にぶつかっていたであろう巨大さだった。

 ……って、この魔獣……っ!


「「グラップルドラゴン!?」」

 

 私とユーコの声が重なった。

 

 そう……私の目の前にいるそれは、ついさっき話題にしたばかりの魔獣――グラップルドラゴンだった。

 

「戦う羽目にならない事を願いたい、って言ったのに、なんで出てくるのよ……っ!」

 そう口にせずにはいられない私。


 もしかして、あれでフラグが立ってしまったのだろうか。

 などというどうでもいい事を考えてしまうくらい、既に頭は正常な思考が出来ていなかった。

 

「灯ッ!」

 ユーコの声に、ハッとなってグラップルドラゴンを見る。

 

 グラップルドラゴンは大きく跳躍したかと思うと、重力なぞ完全無視だと言わんばかりに空中で一度静止。

 そこから足をこちらに伸ばすと、そのまま勢いよく加速しながら突っ込んできた。

 

「くぅっ!」

 全力で後方へ走り、最後は勢いよくヘッドスライディングの要領で飛んだ。

 そして地面に手をついて前転。

 

 刹那、ズドンッ! という轟音が響き、衝撃が私を打つ。

 が、前転により姿勢が低くなっていた為か、少し地面を滑った程度で済んだ。

 

 即座に跳ね起きて音のした方を向く。

 と、グラップルドラゴンがコンクリートで舗装された地面を蹴り抜いて巨大なひび割れの入ったクレーターを形成していた。

 勢いがありすぎたのかなんなのか分からないが、グラップルドラゴンの足が地面に埋まってしまっており、抜け出そうともがいていた。ラッキーというべきなのかしらね……?

 

「当たっていたら即死でしたね……」

「む、無茶苦茶すぎ……。って! とにかく今の内に……っ!」


 私は呆然と見ている場合じゃないと、即座に反転してその場から離脱する。

 直後、今度は熱風が後ろから感じた。


「そこの建物の影に! 急いでください!」

 ユーコの焦った声に、私は後ろを確認するよりも早く、建物の影へと横っ飛びから転がるようにして滑り込む。

 

 ゴオォッ! という音と共に紅蓮の炎が、地面を、建物の壁面を、黒く焦がす。

 しかし、先程の蒼炎の槍ほどの力はないらしく、焦げるだけで済んだ。

 溶けて蒸発したらシャレにならなかったので、そこは助かったと思いたい所。


「……あのまま動けないでいてくれるといいんだけど……」

「残念ですが……今、力任せに抜け出しました……」

 私の希望的観測に対し、サラッと現状を伝えてくるユーコ。

 

 ……うんまあ、そうよねぇ……

 こうなったらもう、腹をくくって粘り続けるしかなさそうね……

 私の万策が尽きる前に援軍が到着する事を、切に願うわ……

グラップルドラゴンは、あくまでも地球側で付けた名称であり、

グラスティア側では、ハイ・ウォーフレイムリザードといいます。

ドラゴンではなくて、リザード(トカゲ)の魔獣という認識ですね。


といった所で、また次回!

更新は……明後日、日曜日を予定しています!

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