第10話[Dual Site] 術式解析とアルチェムの魂
<Side:Souya>
「――アリーセさんと言えば……蒼夜さん、例の術式解析はどんな感じなのです?」
クーが横からそんな風に言ってくる。
無論、例の術式というのは、ディーがアリーセと室長を石化させたあの術式だ。
「あー、既に7割くらいは終わっているらしいんだが……どうだっけか?」
俺は少し離れた場所に座る白衣姿の男性――ウィルム・ファクトリーの研究員に対してそう問いかける。
「はい、仰る通りですね。ただ……残りの3割の部分がなかなかの強敵――構成が複雑で苦戦していると、エステル殿が先日仰っておられました。なんでもダミートラップめいた構造になっている部分がいくつもあるとかなんとか……」
「それはまた……なかなか骨が折れそうな話ですねぇ」
研究員の説明に対し、そんな風にため息混じりに言って肩をすくめてみせるティア。
「なにしろ、前代未聞の事をしていますからね……。っと、そうでした」
研究員がそう言いながら、手元のバインダーを開き、挟み込まれていた紙を俺の方へと差し出してくる。
「――これは? 何やら素材の名前らしきものが羅列されているが……」
「はい、まさにその素材の名前です。エステル殿から、解析済みの情報から最低限それが必要になる事が分かっているから、先に集めておいて欲しいと伝えられまして……」
俺の問いかけにそう返してくる研究員。
「ふぅん……。大半は大した事のない代物だけど、いくつか聞いた事のない物と厄介そうな物があるわね……」
俺の横からシャルが覗き込みながら言う。
「霊幻鋼の塊100キロ……こりゃまた随分な量だな」
「ん、この蒼冥晶樹の枝というのは、見た事も聞いた事もない。うん」
いつの間にか俺の後ろに来ていた白牙丸とロゼがそれぞれそんな風に言ってくる。
……霊幻鋼、か……。これはディアーナに話をしてみるしかないな。
ついでに、蒼冥晶樹の枝についても聞いてみたい所だし。
◆
「――というわけなんですが……」
「霊幻鋼の塊……というかー、インゴット100キロ分の方はー、錬成にー、時間がかかるだけでー、大した問題ではありませんねー。ですがー、蒼冥晶樹の枝の方はー、少し厄介ですねー」
「……と言いますと?」
「蒼冥晶樹はー、おそらくですがー、世界の中心――『例の島』にしか生えていないと思いますー」
首を傾げる俺にそんな事を告げてくるディアーナ。
……よりによって、あそこか……
「まあ、なんとかして行くしかないですね。……どの道、デア・エクス・マキナ計画の為には行かないと行けないですし……」
「デア・エクス・マキナ……。たしかー、物語においてー、複雑かつ解決困難な状態にー、陥ってしまった時にー、絶対的な力によってー、それらをー、強引に解決する存在……でしたっけー?」
「そうですね。デウス・エクス・マキナというのが一般的ですが、今回、俺たちが生み出そうとしているのは『女神』なので、『デア』ですね」
ディアーナの問いかけにそう返す俺。
ちなみに、ラテン語だと『ディー・エクス・マーキナー』となる。
――そう、『ディー』なのだ。
つまり、超展開メーカー朔耶のその『超展開』は、この『絶対的な力の一端』による物であった……という事だったりする。
「なるほどー。でもー、たしかにー、ソウヤさんの言っていた事をすればー、この世界の未来をー、救う事が出来る気がしますねー」
なんて事を言ってくるディアーナ。
……まあ、俺にとってはそっちはおまけみたいなものなんだけどな。
とは、誰にも言えないが。
そう心の中で呟いていると、
「あ、そうそうー、救うと言えばー、例のアルチェムさんの魂ですがー、どうやらー、地球に流れていったみたいですねー」
と、ディアーナがそんな言葉を続けてきた。
「やっぱり地球ですか……」
「ですねぇー。まあー、ソウヤさんの話からするとー、そうなる可能性が高いのはー、わかっていましたけどねー」
「それはまあ……たしかに。……それで、詳細は――」
そう切り出して詳細を聞いた俺は、まさかの展開に頭を抱える事になった……
◆
<Side:Akari>
「――ここに入るのは、止めておいた方が良い気がします……。幽霊とか出てきそうな雰囲気で、凄く怖いですし……。しかも今は逢魔が時……危険です……」
なんて事を言ってくるユーコ――半透明の浮遊する存在に、私――冥賀灯は呆れた声で、
「……う、うーん、幽霊のアナタがそれを言うのはどうなのかしら……?」
と、そう言葉を返した。
「わ、私は幽霊とは少し違います……っ! 霊魂のみの存在ですっ!」
「……そう言われても、私には何が違うのかさっぱりわからないわね……」
「え、えーっと……。う、うーん……幽霊は……幽霊は……そ、そう! あんな感じですっ!」
そう言って廃墟――廃工場の奥を指さすユーコ。
しかしすぐに、
「……って! 幽霊がいましたよぉぉぉぉぉっ!?」
と、絶叫して慌てふためき始める。
……まあ、たしかに指さした先に黒い影が浮いていたらそう叫びたくもなるのも、分からなくはないわね……
でも、あれは幽霊じゃなくて、むしろ私たちが探していた存在――『魔獣』なのよねぇ。
私は軽くため息をつきながらそんな事を思い、その黒い影を見据えるのだった。
なにやら再び新たな登場人物が出てきましたが……?
という所でまた次回!
更新は明後日、水曜日を予定しています!




