第5話[表] ディレイストローク
<Side:Roderick>
「隊……長……?」
「お、おい、嘘だろ!? 嘘だと言ってくれ!」
呆然とする俺と、声を上げるゼル先輩。
そんな俺たちの視線の先には、全身から大量の血を噴き出しながら、自らの血で出来た水溜り――血溜まりに倒れ伏すモニカ隊長の姿があった。
「ディレイストローク――これが、この邪聖装の真価にして奥義。遅延して届く斬撃を見切れる者などいないのだよ。いや、そうではないな。見切る前に死ぬ。見切っても死ぬ……と、言うべきか」
男がそんな風に言ってくる。
……邪聖装? なんだその邪悪なんだか神聖なんだか良くわからない名称は。
目の前の光景に思考が麻痺しているのか、あるいは混乱しているのか、そんなどうでもいい事の方が真っ先に頭に浮かんできた。
「邪聖装……。アレストーラの七聖将が持つという異質な力を秘めた武器、か……。……兄貴から前にその話を聞いていたのに、すっかり忘れちまってたぜ……。武装真化という言葉を発した時点で気づけていれば……。くそっ!」
ゼル先輩が忌々しげな口調で呟くように言う。
「七聖将……。『黄金守りの不死竜』による大聖堂襲撃の際に、戦死せずに生き延びた者が、エレンディア内に潜伏している可能性がある、という噂がありましたが……」
「ああ……どうやら、その噂は真実だったようだ。……ちきしょうめっ! こんな奴が現れると分かっていたなら、もっと強引にでも人を集めたものを……っ!」
俺の問いかけに対し、男と自身、双方への怒りが込められた声でそう返してくるゼル先輩。
しかし、すぐに冷静さを取り戻したのか、
「……こいつが七聖将だとしたら、俺たちだけでどうにかするのは無理だ」
と、静かにそう呟くように言うゼル先輩。
そして、ふぅっと息を吐いた後、声を大にして周囲に呼びかける。
「――総員撤退! 急いで離脱しろ!」
ゼル先輩の声に、モニカ隊長が倒された光景を目の当たりにした事で、俺と同じように硬直したままになっていた第7の面々が、弾かれたかのようにその場から逃げ出し始める。
といっても戦意を喪失しての逃走ではない為、敵の動きに警戒しつつ慎重に、だが。
「おっと……七聖将と気づかれては逃がすわけにはいかないな。――いや、元から逃がす気もないがね。クククッ」
そんな事を静かに言い、槍を振るう男……否、七聖将。
直後、妙な空気の流れ――死の空気を感じ、即座にバックステップ。
ゼル先輩もまた同じように後方へと飛び退いた。
刹那、ヒュオッという音が響く。
……やはり見えない刃だったか。
慌てていても、さすがは警備隊の人間だけあり、逃げていた者たちも全員がその攻撃を回避出来たようだった。
……っ!?
違う! これで終わりではないっ!
嫌な予感のした方へと精神を集中し、手のひらをかざす。
と、その瞬間、『何か』が手へと勢いよく迫ってくるのを感じ取った。
く……っ!
異能――いや、『サイコキネシス』を発動し、それを受け止める。
刹那、ギィンッ! という甲高い音が響き渡り、それと同時に複数の悲鳴もまた響き渡った。
悲鳴を上げられた者は良かったのか悪かったのか……
逃げていた第7の面々がひとり残らず地面に倒れ伏す。
ゼル先輩は寸前の所で何かを感じ取ったのか、ガントレットを盾代わりとして、攻撃を防いだようだった。
もっとも、その勢いを殺しきれなかったらしく、片腕が切断されていたが……
「ほう、ディレイストロークを防ぐとは……そっちのドラグ族の男はともかく、ヒュノス族の貴様の『ソレ』は一体なんだ? ……いや、まてよ? あの『黄金守りの不死竜』の長、ソウヤ・カザミネも同じような力を使っていたな……」
なんて事を言ってくる七聖将。
……『黄金守りの不死竜』の長が『サイコキネシス』を……?
ソウヤ・カザミネ――アカツキの人間だと思っていたが、まさか……?
「ぐっ……。ロディ……。防御出来るなら……防御しつつ離脱しろ……。ほんの少ししか無理かもしれねぇが……俺が足止めしておく……」
ゼル先輩の声に俺は思考を中断。
そんなわけには……っ!
という言葉を口に出そうとするも……出て来なかった。
いや――
誰かが『現状』を警備局に伝えなければならない。
だからこそ、第7の皆はゼル先輩の声に従って、離脱しようと試みたのだ。
そうしなければ、被害が増える。
しかし、残っているメンツは、最早ゼル先輩と俺しかいない。
その事を理解してしまったから、出せなかったのだ。
……ああ……くそっ……
俺が……伝えなければならない……のか。
しばしの葛藤の後、意を決して行動を開始しようとした瞬間、
「その必要はないわ。……そして、遅れてごめんなさい……。モニカ」
という、怒りと悲しみの感情が混ざりあったような、そんな女性の声が、すぐ横から聞こえてくる。
ハッとなって横へと顔を向ける俺。
すると、そこにはモニカ隊長と同じエルランの女性が立っていた。
そして、サーコートの上に、金色の竜が刺繍された白いマントを纏ったその女性は、隊長と同じ刀を構えた――いや、刀と剣をそれぞれの手に持った二刀流だった。
金色の竜……。まさか――
「あなたは……?」
自然と問いの言葉が口をついて出た。
それに対し、女性は七聖将の方へと顔を向けたまま、
「私は『黄金守りの不死竜』……ドラグーン・ファースト――『剣聖』シャルロッテ・ヴァルトハイム。……そして、貴方たちの隊長……モニカ・ヴァイスシュテルンと、かつて戦友だった者、よ」
と、そんな予想通りの言葉を返してきたのだった――
次回は、シャルロッテとゴルドールのバトルとなります!
まあ、1話で終わるかというと微妙ですが……(終わらなさそうな気がします……)
さて、そんな次の更新ですが……明後日、日曜日の予定です!




