第4話[Dual Site] シャルロッテとモニカ
<Side:Souya>
「くっ、まずいな。奴が――七聖将残党のゴルドールが姿を見せやがった」
ウォーターレビバイクで水上を疾走しつつ、クレアボヤンスで視えた光景をシャルに伝える。
「斬空のゴルドール……。また厄介な邪聖装を使うのが現れたものね……。まあ、私の相手ではないけれど」
と、面倒と言いつつも自信満々なシャル。
「そりゃまあ、シャルなら余裕だろうが……」
なにしろ1年前、アレストーラ教国の聖都にある大聖堂へ攻撃を仕掛けた際に、七聖将をふたりほど瞬殺してるしな。
「状況的にはどんな感じ?」
「隊員が何人かやられた。『見えざる刃』相手にその程度で済む方が不自然だな……。まだ本気を出していないようだ。で、今は隊長らしいエルランの女性が単独で斬り結んでいる状態だ。っていうか、この人……刀を使う上に、シャルに似た技まで使っているな……。もしかしたら、シャルのかつての仲間――傭兵団の人かもしれん」
俺はクレアボヤンスで視えた光景を伝えつつ、推測を口にする。
「私と同じエルランで、更に刀を使う……? ……あっ! それ、多分モニカだわ!」
「モニカ?」
「傭兵団の中では私の後輩になる子でね。私に憧れたとかなんとか言って、刀の扱い方を私と同じく深月から教わっていたわ。まあ……それからまもなくして、団は解散してしまったから、私ほど長い期間教わっていたわけじゃないけど」
「なるほど……。シャルと同じような戦い方をしているのに、ギリギリ持ちこたえている感じなのはその辺が理由か……」
「モニカの技量であれば、ゴルドールが本気を――邪聖装の力がフルパワーで発揮されなければ抑えられると思うけど……。急がないとまずいわね……」
「といっても、既に全速力だからな……」
レビバイクのスピードメーターの針は、既に『MAX』表示の部分を超えた所を指し示していた。
既に限界を突破している。どうやってもこれ以上のスピードは出ない。
「そこが歯がゆいわね……。アスポートの有効圏内にはまだ入っていないのよね?」
「ああ。だが、もう少しだ。入り次第、即飛ばす」
「ええ、頼んだわ!」
◆
<Side:Monica>
「この太刀筋……。『黄金守りの不死竜』の『剣聖』シャルロッテと同じ……?」
斬り結びながら、目の前の男が言ってくる。
……やはり、1年前にアレストーラ教国を半壊させたあの謎の組織――『黄金守りの不死竜』には、シャルロッテさん――つまり、ヴァルガス団長が傭兵団を解散した後に、レンジさんが新たに立ち上げた傭兵団が関わっているみたいね……
「シャルロッテさんは、昔所属していた傭兵団の先輩よ。私もあの人と同じ師匠に無理矢理教わっていた事があるのよ」
私はそう言いながら、刀を横薙ぎに振るう。
男はそれを後方に跳躍して回避。
でも、それは予測済みよ。
私は振るいきった刀を下に向けつつ、前方へ踏み込み……斬り上げる!
「くっ!」
男は即座に身体を捻ってそれを回避してくる。
……うわ……。これを避けてくるの……?
一応、どうにかカスリはしたものの、所詮はそれだけ。
大したダメージを与えられていない事に変わりはない。
「……なるほどな。どおりで厄介なはずだ」
男はそう呟くように言うと盛大にため息をつき、それからしばしの沈黙の後、ゾクリとする程に邪悪な笑みを浮かべながら、
「――もう少し愉しんでも良いと思っていたが……その話を聞いた以上、本気を出さねばならなくなってしまったではないか」
と、そんな言葉を続けてきた。
……よくわからないけど、どうやら本格的にマズい状況になってきたわね……
とにかく見えない刃に注意し……っ!?
恐ろしく嫌な予感がし、本能的に横へと跳躍する私。
「ぐ……うっ!?」
脇腹に激痛が走った。
男の姿が正面から消え、代わりに脇腹から激しく出血する。
「ほう、これにまで反応してくるとはな。まあ……ほんの少し遅かったようだが」
「「隊長っ!?」」
男の声とゼル、ロディの声が重なる。
「問題ない……わよ。このくらい……」
私はそうゼルとロディに向かって声を投げかける。
……こんな所で、倒れるわけには……いかないのよ……っ!
痛みに耐えつつ刀を構える。
「否。問題は大アリだ。――ほんの少し遅かったようだ、と言ったではないか」
男がそんな風に言ってくる。
……え?
直後、全身が引き裂かれるかのような激痛が一瞬走ったかと思うと、視界が赤く染まり、私の身体が勝手に地面に倒れ込む。
時間差……での、攻撃……? 一体……どうやって……?
地面に顔から思い切り激突するが、何故か痛みがない。
感じるのは……冷たさだけだった。
どうにかして身体を動かそうとするが、全く動いてくれなかった。
何かを喋っているような気がするが、その声が聞こえなかった。
真っ赤だった視界すらも黒に塗りつぶされようとしていた。
――そうこうしている内に、全身に冷たさ急激に広がっていく。
それだけは知覚出来た。
……あ、これ、駄目な奴だわ……
私はそれを――自身の命の灯火が消える寸前である事を悟る。
もう……思考すらまともに出来なくなってきた。
だから、最後に心の中で謝罪の言葉を口にする。
……ガレス……ごめんなさい……
私は……貴方の――
第2部に入ってまだ4話目ですが、いきなりダークめな展開となりました。
さて、次回の更新ですが……明後日、金曜日を予定しています!




