第2話[表] ロディの力と灰蜘蛛
[表]が付いているのは、蒼夜たちとは別の面々がメインの話になります。
逆に[裏]となっているのは、蒼夜たちがメインの話です(今後出てきます)
<Side:Roderick>
「さすが、私のダンナ様ね」
ドヤ顔で言うモニカ隊長のそれをスルーしつつ、
「他の隊員を呼びますか?」
と、問う俺。
「うーん、そうねぇ……。っとと、その前にゼルもロディもステルス魔法を解除して。連中、魔法探知の魔煌具を取り出したわ」
人影に視線を向けながら言ったモニカ隊長に速やかに従い、俺とゼル先輩は魔法によるステルス状態を解除する。
と、その直後、人影から青い円形の線が周囲に広がり、俺たちのいる場所をすり抜けていく。
「到着してすぐに魔法探知、か。なんつーか、手慣れている感じだなぁ」
「そうね。でもまあ……あの魔煌具なら、生体感知機能のない中の下といった程度の性能だし、とりあえずこちらの存在がバレている事はないはずよ。……うん、もう少し近づけそうね」
モニカ隊長がゼル先輩の言葉にそう返しつつ、俺の方を見て、
「ロディ、いけるかしら?」
と、問いかけてきた。
「そうですね。このくらいなら浮かせられるので、ほんの少しだけ浮かせて前進しましょう」
俺はそんな風に答えると、目の前のコンテナに手のひらを向け、精神を集中する。
すると、程なくしてコンテナを『掴んだ』感覚が手に伝わってきた。
……よし、いけそうだ。
そーっとコンテナを持ち上げるような感じで手を動かし、コンテナを地面から少し浮かせ、そのまま続けて前へ滑らせるように押す。
無論、直接コンテナに手を触れてはいない。あくまでも離れた所で手だけを動かしている。
「相変わらず優秀っつーか、すげぇ便利な異能だよな、ソレ」
「あまり重い物は無理なので、そこまで優秀ではありませんけどね」
感嘆の言葉を投げかけて来るゼル先輩に対し、なんとなく気恥ずかしさを感じつつそう答える俺。
「腕力を強化する魔法を使ってもなお、持ち上げるのが不可能なクソ重いコンテナを、平然と手を触れずに持ち上げておきながらそれを言うか?」
今度は呆れ気味にそう言ってくる。
それには何も答えず、浮かせたコンテナを押しながら、人影へと近づく。
人影はこちらに対し、何も注意を払っていない。
さすがにコンテナが動くなどとは思っていないのだろう。
そうこうしている内に、人影が増えてくる。
ついでに何やら3台ものレビバイクに引っ張られるようにして、1つのコンテナが運ばれてきた。随分と厳重な感じだが……一体、あれに何が入っているというんだ?
「ゼル、隊の皆に連絡は?」
「もうしてありますよ。すぐに来ると思います」
「ナイスよ。連中の話を少し聞いてから、頃合いを見計らって制圧するわよ」
「了解了解。伝えておきますね」
モニカ隊長とゼル先輩のそのやり取りを聞きながら、俺はコンテナを更に前進させる。
ゆっくりと、慎重に。
……と、声が聞こえてきた。
モニカ隊長の方を見ると、手でコンテナを停止させるよう合図してきた。
俺はそれに頷き、音を立てないよう細心の注意を払いつつ、コンテナを地面に下ろす。
「それが例の?」
「ああ、この箱のお前たちがご所望の品だ。中を見てみるがいい」
問いかけたガルフェン族の男性に対し、杖を持ったドルモーム族の男性がそう答え、周囲の者たちにコンテナを開くよう指示をする。
「……この位置からだとコンテナの中が見えませんね……」
「……そうね。しかも、あのガルフェンの男……『灰蜘蛛』の構成員だわ。つまり、この取引は『灰蜘蛛』が売る側なのではなく、買う側という事みたいね」
小声で問う俺に、そう返しながら思案の仕草をするモニカ隊長。
『灰蜘蛛』は何か――禁止されている薬草や、人そのものを『売る』方が圧倒的に多い組織だ。
そんな組織が何かを買う……か。
「おお、たしかに! これがあれば、『北』の連中に恐怖を植え付ける事が出来るってもんだ」
「ああ。長い間、辛酸を嘗めさせられてきたが、ようやくこっちの方面でも動けるようになるな」
そんな事を口にするのは、写真で何度も見た顔――灰蜘蛛の構成員たちだ。
「これをどう使おうと私には関係のない話だが……良いのか? 北の者たちへの攻撃は、時期尚早であるとお前たちの『長』は判断したのではなかったのか?」
コンテナを開くように支持した男性が腕を組みながらそう告げる。
「――俺たちにも『手段』はあるというのに、『長』たちは北の連中に怖気づいてそれを実行しようとはしない! だったら、俺たちが実行して問題ない事を示すまで!」
「そうだ! そうすれば、『長』たちも目が覚めるだろうからな!」
なんて事を灰蜘蛛の構成員たちは口々に言う。
「要するに……この取り引きは灰蜘蛛に所属する奴らの中で、血が気の多い奴らによる暴走――独断……って所ですかね」
ゼル先輩がそう小声で言うように、どうやら灰蜘蛛に属する一部の連中が勝手にこの取引を行っているようだ。
「どうやらそのようね。……となると、相手の組織が気になるわね。今までに見た事がないし」
「たしかに、我々警備局が把握している組織の構成員ではありませんね。新興勢力かなにかでしょうか?」
「その可能性が高いけれど……まあ、その辺の話は直接聞いた方が早いわね」
俺の問いかけに対し、そんな風に返してくるモニカ隊長。
それはつまり、これから制圧を開始するという事だ。
たしかに捕縛してから尋問した方が手っ取り早いのはたしかなのだが……相変わらずやり方が荒っぽい事で……
そんな風に思いつつ、俺は自らの得物――背中に背負った両手持ちの大剣を右手で引き抜き、静かに構えるのだった。
Side:Roderickとなっている通り、ロディは愛称で、正式な名は『ロデリック』です。
エレンディア編の[表]主人公になります。
エレンディア編の[裏]主人公は言うまでもなく蒼夜です。
というか、第2部全編[裏]主人公は蒼夜で固定です。
第2部では、世界各地の事件の『裏で動く側』なので、こういう構成になっています。
とまあそんな所で、また次回!
次の更新は、明後日……月曜日を予定しています!




