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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第72話 竜の座の入口、その在り処は

今回は結構長めです……

「ソウヤさん? どうかしたんですか?」

 窓から外を凝視する形になっていた俺に対して、当然のように疑問を抱いたであろうアリーセが、そんな風に問いかけてくる。

 

「ああいや、なんか室長が後部甲板で何か妙な事をしているのが目に入ってな。……まあ、ちょっと気になるから見に行ってくる」

「あ、はい、わかりました。行ってらっしゃいませ。私はちょっと朔耶さんと話をしたい事があるので、朔耶さんを探してきますね」

 俺の言葉にそう返してくるアリーセ。

 

 ……そういえば、朔耶もいつの間にかいなくなっていたな。

 クレアボヤンスで後部甲板を視た時、室長しかいなかったから、この飛行艇内のどこかにはいるはずだ。

 

 ……若干気にはなるが、少なくとも飛行艇からいつの間にか落っこちていた、みたいな可能性はないだろうから、そっちはアリーセに任せるとするか。

 

 ――というわけでアリーセと別れた俺は、ディアーナの領域で見聞きした北壁のアレコレについて室長の見解を聞きたかった事もあり、早速後部甲板へと向かう。

 

 後部甲板は風が強かったが、ディアーナ製の防寒具のお陰か、全く寒さを感じなかった。

 さて、室長は……と、思いながら甲板上を見回すと、今度はテレビアンテナのような物を上に向かって伸ばしている室長の姿を簡単に見つける事が出来た。

 

 俺は、室長の方へ歩み寄りながら問いの言葉を投げかける。

「室長、こんな所で一体何を?」


「ああ、蒼夜君でしたか」

 俺に気づいた室長がそう言った後、手に持ったテレビアンテナのような物を次元鞄にしまいつつ、

「――いえ、北壁封域に折角来たのですから、魔煌波やその他諸々、北壁封域を形成する全てをサンプリングしておこうかと思いまして。後で詳しく調べれば、飛行艇に対して発生する異常を防ぐ事が出来るかもしれませんし。もっとも、この飛行艇には霊幻鋼が多用されているので、これが北壁封域への対抗手段であった場合、同じ飛行艇を作るのはなかなかに大変ですが」

 そんな説明をしてくる。


 ……なるほど。

 なんというか……ある意味、さすが室長って感じだな。


 ……それにしても、霊幻鋼を多用した飛行艇、か。

 霊幻鋼はそう簡単に作れるようなものじゃないし、製法もほぼ失われてしまっているという話だったが……もしかしたら、本来はこれから行く里の秘術のひとつだったのかもしれないな。

 

 などと思いつつ、さっき彩香から聞いたばかりの話を室長にしてみる。

「――そういえば、この北壁封域ですけど……北から南へ行く分には飛行が阻害されないらしいですよ? さっき彩香がそんな風に話していました」


「え!? そうなのですか!?」

 俺の言葉に驚く室長。

 しかしすぐに何かを考え込むような仕草を見せ、

「……ふーむ、そうなるとますます怪しいですね」

 と、呟くように言った。

 

「怪しい……と言いますと?」

「この北壁封域なのですが、なんというか……こう、『北へ行かせたくない』という何者かの強い意思――思惑のようなものを感じるのですよ」

 首を傾げる俺に対し、室長がそう答えてくる。

 

 ……うん。これもまた、さすがは室長って感じだな。

 

 俺はさっきの『さすが』とは別の感情でそう思いながら、ディアーナの領域での話を室長に切り出す。

 

 ……

 …………

 ………………


「ふむふむ……なるほどなるほど、北壁の更に北の大地はそのようになっているのですね」

 俺の話を聞き終えた室長は、そんな風に言ってしばし考え込んだ後、

「……竜の座への入口、おそらく北壁、あるいはその北側にあると考えて良いでしょう。蓮司君たち――竜の座へ至った者が、皆等しくアカツキ皇国を訪れている事、そして、今のこの会話がノイズにならなかった事、そのふたつが、この結論が正しい事を裏付けている……と、言えますからね」

 なんて事を言ってきた。

 やはりというべきか、室長も俺と同じ結論に至ったようだ。

 

「うん、それはそうかもしれない。となると……うん、遺跡などの古い建造物が、どこかにある可能性が高い? うん」

「ああ、たしかに……って、うおっ!? ロゼ、いつの間に!?」

 いつの間にか横にいて話に加わっていたロゼに驚く俺。

 

「ん、なかなか面白そうな話をしていたから、そっと聞いていた。うん」

「そっと、って……」

 ある意味、こちらもさすがだと言うべきなのだろうか……。隠形の技術が高すぎだ。

 

「ん、それはともかく、うん、これから行く里の長とかなら、そういう物が、うん、近くにあるか知っているかも? うん」

「ああ、たしかにな……。深月さん――おそらく蓮司たちもだが――が訪れた時に、どこで何をしていたのかを尋ねてみるのも良さそうだ」

 ロゼの言葉に同意し、そんな風に言う俺。


「そうですね。もっとも……竜の座の『認識阻害』の仕組みを考えると、知っていてもノイズが入る可能性や、彼の里の長といえども、詳細までは把握していない……という可能性が高い気はしますが」

「ん、たしかに。でも――」

「――何らかの情報が得られれば御の字、という奴ですね」

「うん、その通り。うん、手がかりゼロで動くよりもずっといい。うん」

 と、室長とロゼ。

 

 まったくもってふたりの言う通りだな……。何でも良いからまずは情報を得たい所だ。


                    ◆


「――改めまして、我らの里へようこそお越しくださいました。巫皇(かんなぎのおう)・彩香様、そして……遠き地より参られし、女神ディアーナ様の使徒様と若き学び手の皆々様」

 何事もなく、あっさりと霊具職人の隠れ里へと辿り着いた俺たちを、初老のドラグ族――ドラグ・ケイン族の里長と、里の者たちが迎える。

 いやいや、ちょっと盛大すぎじゃね? と思う程の大歓迎ぶりだった。


 ちなみに、『改めて』と言ったのは、里に接近した際に飛行艇での通信で、既に軽く自己紹介などは済ませてあったからだ。

 俺が使徒であるというのも――まあ、そういう事にしているだけなのだが――その時に話してあったりする。

 

 ……正直ちょっと……いや、かなり使徒効果がありすぎて、俺の方が困惑気味ではあるが……まあ、仕方ないか。


 ともあれ……そんなこんなで俺たちは大歓迎の声を聞きながら、ランディング――飛行艇用の桟橋――から里の中へと足を踏み入れる。


 里長の説明によると、里とはいうが、その広さはかなりのもので、北壁ことオウレイ山脈の洞窟内に築かれた――洞窟の天井や壁など、そこかしこで補強のためと思われる金属板がふんだんに使われており、一見すると地下の秘密基地かなにかに見えなくもない――その里は、全体をみると皇都とほぼ同じくらいあるらしい。

 しかも、かなり入り組んでいる為、構造の全容を把握するのはなかなかに困難で、里に住む者でも良く知らない区画があるくらいだとか。

 もっとも、広さに反して人口はそこまで多くはないのだが。

 

 歩きながら色々と説明をしてくる里長の話を聞きつつ、俺はそんな里の中をクレアボヤンスを使いながら軽く見回してみる。

 すると、里の民のほとんどがドラグ・ケイン族であり、それ以外の種族は非常に少数である事が分かった。

 

 他ではほとんど見かけないドラグ・ケイン族がこれほどいるとは驚きだ。

 ……っていうか、世間一般的にドラグ・ケイン族の数が少ないと言われているのは、この里の存在も少しは関係しているのではないだろうか……

 

「――と、このようにして霊具は作られているのです」

 そう言って説明を締めくくる里長。

 

 ……あ、いけね。周囲の観察に集中しすぎて、霊具の作り方の説明をほとんど聞いていなかった。

 ま、まあ……作り方が分かった所で、俺には霊具なんて作れる気がまったくしないし、別にいいか。うん。

 なにしろ、エステルやアリーセが何やら興奮してあれこれ質問しているが、その質問の内容自体が、何を言っているのかさっぱりわからないくらいだからな。

 ちなみに、クーもさっぱりわからないのか、ひたすら俺の横で首を捻って考え込んでいた。

 無論、朔耶もさっぱりわからな……くなかった。なんか室長と同じく、普通に話についていってるし……。これはまたなんというか、想定外だな……

 

 なんて事を思いながら、里長の案内や説明が一段落するのを待った後、

「他にお聞きになりたい事とかはございますか?」

 という里長の言葉に対し、問いの言葉を投げかける俺。

「霊具とは関係なくて恐縮なのですが……ひとつお聞きしたい事が……」


「はい、なんでございましょうか。なんなりとご質問ください」

 里長がそう答えてきたので、俺は、

「ありがとうございます。――以前、巫皇の紹介とは別のルートで訪れた人たちがいると思うのですが、その人たちがここに来てどこで何をしていたのかって、わかりますか?」

 と、改めて問いかけてみる。


「ふむ……巫皇様とは別のルート……でございますか?」

「はい」

「そうですね……。この里には、『ドラグナーズブラッド』と呼ばれる特殊な血統――血の中に刻まれた竜の証を(たずさ)えた者が訪れる事がございますが……その事でしょうか」

「ドラグナー……。皇国では『竜賢者』あるいは『竜神官』と呼ばれている者たちの事ですね」

 里長の返答に、俺よりも先にそう答える彩香。

 

「特殊な血統……。血の中に刻まれた竜の証……。ドラグナーズブラッドというのは、魔王血統のそれに似ていますね」

「あ、そう言われてみると、たしかにそうかも」

 室長の言葉に、手をポンと叩いて同意する朔耶。


「ま、似ているだけの別物……。魔王血統とドラグナーズブラッドでは、『因子』が異なっている気がするがのぅ。でなければ、妾もドラグナーズブラッドを有する、という事になってしまうからの」

 エステルがそう言って肩をすくめてみせる。

 

「そういえば、エステルさんは魔王血統を有していましたね」

「うむ。まさか妾に流れる血が、そんな特殊な血じゃったなどとは、今まで夢にも思っておらなんだがのぅ」

 アリーセの発言に頷き、ため息混じりに言葉を返すエステル。

 まあ、何らかの『キッカケ』がなかったらわからないよなぁ……普通は。

 

「ドラグナーズブラッドか否か、というのはどうやって判別するのですか?」

「『竜鱗石』という名の、飛竜の鱗を思わせる形状の石がございまして、それに血を垂らすと、ドラグナーズブラッドだった場合、垂らした血が青い光を放つのです。ちなみにこの里の入口にもございますよ」

 室長の問いかけにそう答える里長。

 ……なんというか、実にファンタジーな判別方法だな。いやまあ、ここはファンタジーな世界なんだけどさ。


「気になられますようでしたら、ご案内いたしましょうか?」

「そうですね。折角ですのでお願いします」

 里長の申し出に、室長に代わって彩香がそう答える。

 

「かしこまりました。それではこちらへ――」

 と言って、俺たちを先導する里長に着いていくと、激しく吹き荒ぶ豪雪の音が聴こえてくる場所へとやってきた。

 

 音の方へ視線を向けて見ると、上へと向かうつづら折りの先に洞窟の入口があり、そこから外の白い壁――いや、吹雪が見えた。

 どうやら、里の入口に当たる部分のようだ。


 っていうか、いつのまにか外は吹雪になっていたんだな。

 さっきまで風は強かったが雪は降っていなかったのに。

 山の天気は変わりやすい……なんて良く言われるけど、ホントにその通りだ。

 

 そんな事を考えていると、

「ここからでも少し見えますが、あの場所に『竜鱗石』でございます」

 と言って里長が上の方を指さす。


 その指が指し示す先へと視線を向けてみると、つづら折りのちょうど中間地点が、踊り場のようになっているのが見えた。

 

 ふむ……。言われた通り、ここからでも何か岩のようなものが鎮座しいてるのがわかるな。つづら折りの岩壁に隠れてしまっていて、先端部分しか確認出来ないが……

 と言いたい所だが、当然ながら俺にはあれを視る方法がある。

 

 そんなわけで俺は早速クレアボヤンスを使って視てみる。

 すると、たしかにそこには、里長の先程の説明通りの奇妙な形状をした大きな石が鎮座していた。大の大人3人分くらいはありそうだな……これ。

 そして、なるほど……たしかにこれは『竜鱗石』という名称がピッタリだな、とも思う。

 

「……あそこ、ちょっと高くない? アルでショートカットしていい?」

 と、朔耶がそんな事を言う。

 いや、そんな理由でこんな所で召喚しようとするなよ……


                    ◆

 

 というわけで、朔耶をなだめすかしながらつづら折りを登り、(くだん)の石の目の前までやって来た所で、

「ふむ……これに『ドラグナーズブラッド』とやらの因子を持つ血を垂らせば、反応があるというわけじゃな」

 と、エステルがそんな風に言った。

 

「ええ、理屈上はそうなりますね」

 そう答えながら竜鱗石を観察する室長。

 

「な、ならば……。そ、そりゃあぁっ!」

 という気合の掛け声と共に、プルプルと震える手で指にそーっとナイフの先端を当てて出血させ、その血を石に垂らすエステル。……って、そこまで気合入れてやる行為か……?

 あ、いや、手がプルプルと震えていたから、ナイフの先端を指に当てるのが怖かっただけか。多分。

 

「うーん……。なんの反応もないのです」

「……ま、そうじゃろうなぁ……。はぁ……痛いだけじゃったわい」

 クーの言葉にため息をつきながらそう言って、アリーセ製の傷薬で傷を治すエステル。

 傷薬を使う程の事だろうか? と思わなくもないが、まあ……何も言うまい。

 

「やはり、『魔王血統』と『ドラグナーズブラッド』は別物のようですね」

「ん、わかっていた事ではある。うん」

 室長の言葉に、ロゼが頷きながらそんな風に言うと、躊躇(ちゅうちょ)なく自身の指に短剣を押し付け、血を垂らした。

 が、当然のように反応はない。

「……ん、まあそうだと思った。うん」


「……ロゼの血は既に調べて、何の因子もない事が判明しているじゃないですか……」

 アリーセは呆れ気味にそうロゼに対して言った後、里長の方へと向き直り、

「ちなみにですが……ドラグナーズブラッドを所有されておられた方々は、ここに来た後に、何をなされたかご存知だったりはしませんか?」

 と、問いかけた。


「残念ですが……それに関しましては、私どももわかりかねます。以前来られた方――傭兵団の方は、数日ほどこの里に滞在していた事までは把握しておりますが、何分この里は広く入り組んでいる為、滞在中にどこで何をしていたかと言われますと、さすがに……。もしかしたら、里の者の中に記憶に残っている者がいるかもしれませんが……」

 申し訳なさそうに答える里長。

 ……この感じだと、どうやら本当に何も知らなさそうだな。

 

 だが、今、里長が話した『以前来た傭兵団』というのは、おそらく蓮司たちの事だろう。

 ふむ、そうだとするなら……蓮司たちがこの里のどこで何をしていたのかさえ分かれば、竜の座への道が開けると思って良さそうだ。

 よし……もう一歩、といった所だな。

もう一歩、などと言ってはいますが、次の話で竜の座に辿り着く……とかそういうわけではありません。

とはいえ……もうここまで来たら、そんなに遠くはないのですが。


とまあそんな所で、次回の更新ですが……金曜日を予定しています!

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