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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第70話 再びディアーナの領域にて

「北壁の向こう側……なんとしてでも行ってみたいものだね」

 ディアーナとの話を終えて皇宮へ戻ってきた所で、彩香がそう呟くように言った。

 それに対して俺は、「そうだな」と短く返しながら頷く。

 

 ……もっとも、俺と彩香では『北壁の向こう側』へ行ってみたい理由が、異なっているのは明白ではあるのだが。

 彩香は『淀み』をどうにかしたいと考えて、行ってみたいと思っているはずだ。

 対して俺は、それとは別の部分で行ってみたいと思っているからな。

 

「ところで、蒼夜が女神の使徒であるという事を、信頼出来る仲間――具体的に名を上げるのなら、深月、白牙丸、刹月斎の3人だね――に、教えておきたいと思っているのだけど……それは難しかったりするのかな?」

「いや、その3人だったら別に教えても構わないぞ。っていうよりもむしろ……俺と彩香で、あの場所へ3人を案内する方が良さそうだ」

 彩香の問いかけに対し、俺はそんな風に答える。

 

「ふむなるほど……。たしかにその方が確実に理解して貰えるね。ならば、君さえよければ……だけど、明日――あ、いや、もう今日か。今日の朝――朝食の後にでも3人をこの場所に呼ぼうと思う」

 そう告げてくる彩香。

 

 俺の方は特に問題がなかったので、構わないと言って承諾する。

 ……これで事実上、アカツキ皇国もこちら側についた事になるな。

 まあもっとも、黒鳶隊と青虎隊をどうにかしないと駄目そうではあるが……

 

 しかし、アルチェムに関してはまだ『ひとつの可能性』が残されていると分かったのは朗報だった。

 どこかのタイミングで、その事をグレンたちに伝えられるといいのだが……今はまだ難しいな。

 

                    ◆

 

 ――そして朝。

 俺と彩香は、深月、白牙丸、刹月斎の3人を伴って再びディアーナの領域へと訪れ……ようと思ったその矢先、蓮司からの通信が入った。

 皆、一晩経った事で、少し落ち着いたようだ。あくまでも、話が出来る程度には、だが……

 

 蓮司たちから伝えられたのは、アカツキの現状を把握出来た事と、俺が巫皇――彩香と接触した事もあり、グレンたちはディンベルへ戻るという話だった。

 

「アカツキ皇国は――巫皇たる私は、貴国や共和国と同盟を結びたいと考えています」

 という彩香の言葉にグレンは、

『俺的には、蒼夜がオッケーならオッケーだ』

 とだけ返す。

 

 ……うーむ。まだちょっと空気が重いな。

 いやまあ、仕方のない事ではあるんだが……

 

 いっそ、ディアーナと話して判明した『あの事』について話すべきか……?

 だけど、現状だとぬか喜びをさせるだけの結果になる可能性も高いしなぁ……

 

 どうしたものかと悩んでいると、深月、白牙丸、刹月斎の3人が首を傾げるのが見えた。

 どうやら、グレンの言葉の意図が理解出来なかったらしい。……ま、そうだろうなぁ。

 

 逆に彩香の方は、既に全て知っている事もあり、

「であれば、共和国の方も蒼夜次第かな?」

 と、室長に問いかけた。

 

 俺の方へ視線を向けてくる室長に対して、俺は頷いてみせる。

 

「はい、その通りです」

 彩香の方へ視線を戻し、そう答える室長。

 

「……お嬢、その『私は全てを知っているぞ』と言わんばかりの顔でドヤってないで、俺らにもわかるように説明してくれませんかねぇ?」

「いやあの、白牙丸? もうちょっとこう……他に言い方はないのかい? その言い方では、まるで私がアホの子みたいじゃないか」

「違うんですかい?」

「白牙丸は、いつもどういう目で私を見ているんだい!?」


 ……おい、なんか急に漫才めいたやりとりが始まったぞ……

 

 そのまま、なんやかんやと漫才めいたやりとりを続ける彩香と白牙丸。

 途中から刹月斎まで加わって収集がつかなくな……りかけた所で、深月の怒りの声と共に繰り出された脳天への3連峰打ちで強制終了した。

 

 ……一体、なにやってんだ…… 

 まあおかげで、向こうの空気が和んだのを通信機越しにも感じられたが。

 

 ……って、ああそうか、これが目的か。

 改めて考えてみると、深月の峰打ちもかなり軽い感じだったし、互いに何も言わずとも、役割を理解していたという事なのだろう。さすがのコンビネーションだな。

 

 そんなわけで、少しだけ和んだ空気のまま互いに情報交換をして通信を終了。

 ――する直前、

『――っと、そうだ。俺たちはそんなわけで一足先に出国させて貰うけどよ、クーをそっちに合流させてやってくれないか?』

 と、そんな風に問いかけてくるグレン。

 

「ん? それは別に構わないが……」

 と返し、グレンからの提案に承諾する俺。


『だったら私もそっちに――』

『シャルは駄目に決まってんだろ』

『まったくですねぇ。まだ昨日調べようとしていた件が、調べきれてねぇんですよ?』

『じゃ、そういうわけだから、また後でな』

『ちょっ、待って待って! 逃げないから引き摺らないでぇぇぇぇぇっ!』


 最後にそんな声が通信機越しに聴こえ、今度こそ通信が終了した。

 ……なんだか、シャルがドナドナされてしまったような感じだったが、多分気のせいだろう。うん。

 

「それで……さっきの即興漫才はともかく、どういう事なのか説明してくれるかしらぁ?」

 改めて俺と彩香を交互に見て、肩をすくめながら当然の疑問を口にする刹月斎。

 白牙丸と深月も、刹月斎の言葉に同意するように頷く。

 

「無論、説明するとも。――そういう事で……蒼夜、場所を変えようか」

「ああ、わかった」

 

                    ◆

 

「……蒼夜が只者じゃねぇっつーのは、なんとなく感じてたんだが……」

「まさか、女神様の使徒だっただなんて……。想定外にも程があるわねぇー」

「私はある意味納得です。あそこまで蓮司さんたちが、蒼夜さんに肩入れしている理由が、とても良く理解出来ましたよ」

 

 俺がいつもの説明を終えた所で、白牙丸、刹月斎、深月の3人が口々にそんな事を言った。

 ちなみに、室長たちは皇宮側で留守番――というか、例の部屋で番をしている。

 それは、全員で揃ってあの部屋へ移動した事もあり、黒鳶隊や青虎隊が何かを仕掛けてくる可能性がゼロではないと判断したためだ。

 

「黒鳶隊と青虎隊が竜の御旗陣営で、赤狼隊と白蛇隊が女神様の陣営……か。ここだけ見ると、なんだかすげぇ壮大な対立の構図になったな、この国も」

「あー、そう言われるとたしかにそうだなぁ……」

 肩をすくめる白牙丸の言葉に、俺は納得して同意の言葉を呟く。

 

「しかし……女神様を、こんないち国家の内乱如きに巻き込んでしまっても良いものなのでしょうか……」

 深月が畏れ多いと言わんばかりの表情と口調でそんな風に言ってくる。

 

「アカツキ皇国をー、ひとつに纏める事は―、巡り巡ってー、私やソウヤさんのー、助けになるのでー、全然問題ありませんよー。そもそもー、大した手助けは出来ませんしー」

 話を聞いていたディアーナが深月に対してそう告げると、深月は恐縮しつつも、ディアーナに感謝の意を示して頭を下げた。

 そして、白牙丸、刹月斎、彩香もそれに続くようにして頭を下げる。

 

 ともあれ……これで、アカツキ皇国へやってきた大きな目的は達成した事になる。一旦、全員集めて話をしたい所だが……さすがに急には難しいよなぁ……

 なにしろ、国家元首だったり、組織の上の方だったりする人物が多いし……

 

「――多方面に連絡を行って、3日……は厳しいか。んー、5日後あたりに全員で集まって話をしようと思うんだが、構わないか?」

 俺は彩香に対してそう問いかける。

 

「もちろん構わないさ。それと、連絡に関しても協力出来る事があるのならさせて貰うよ」

「それなら、各方面に逐一口頭で説明していると時間がかかりすぎるから、これまでの経緯を記した連絡書を作って配布するつもりなんだが……それにサインしてくれないか? まあ、顔見せの代わりみたいなもんだ」

「サイン? ああ……たしか名前を記載し、その筆跡で本人である証明をする行為の事……だったかな?」

「……ある意味、間違ってはいないが……そんな言い回しをするという事は、今までサインした事がないって事だよな? 一体これまでどうやって……って、ああ……『判子』か?」

 日本にそっくりな文化を持つ国であるのなら、いわゆる印鑑があってもおかしくはないと思った俺は、そんな問いの言葉を投げかけてみる。

 

「うん、その通りだよ。普段は判子――印章をポンポンと押すだけだね。無論、我々皇族が使う物は普通の印章じゃなくて、夜に話した北壁の里で作られた霊具だからね。別の霊具を使う事で、偽造不可能な『刻印』が、陰影の中に浮かび上がる仕組みになっていて、印の真偽を見分けるのも簡単なんだよ」

 と、そんな風に説明しつつ、判子を懐から取り出す彩香。

 

 ……なんで、そんな重要な代物を平然と持ち歩いてんだ……?

 ……いや、ある意味一番安全な場所……なのか?

 

 なんて事を思いつつも、5日後の15時に全員で話をしたい旨と、これまでの経緯を綴った連絡書を、以前百貨店で購入したタブレットプリンターを用いて、ササッと作成する俺。

 こういう時にも便利だよなぁ、これ。

 

「なんだか見た事もない魔煌具を使っているね。版画のように見えるけど……彫っているわけじゃなくて、普通に書いているだけなんだね」

 と、彩香が声をかけてくる。

 

「ああ、こうやって書いた物が、そのまま紙に転写されるような感じだと思ってくれ。共和国でも割と最近登場したばかりの代物だから、共和国以外だとまだ出回っていないんじゃないかな……。――共和国に近いディンベルやクスターナでも、これを売っている魔煌具屋はなかったし……。あ、いや、クスターナは1軒だけ売っている所があったな。……ソーサリーショップ・アマミヤとかいう名前の、妙に魔女的な雰囲気の漂っている店で」

「……アマミヤ? 私たち皇族の姓と同じ店舗名だなんて、なんとも不思議な縁を感じるね」

「ふむ……。そう言われてみるとたしかにそうだな。まあ、アカツキっぽい名称の理由を尋ねたら、店にある一番古い書物の名前だとか言っていたから、単なる偶然だろうけどな」

 俺は彩香にそう答えながら、タブレット上への書き込みを終える。


 さて……あとはポチッとな。

 

 ――あっという間に印刷が終わり、必要枚数分の連絡書が出来上がった。

 

「わお、凄い便利ねぇ。版画よりも簡単で速いわぁー」

「そうだな、こうも一瞬にして同じ内容の物を何枚も作り出せるとはすげぇな」

 なんて感想を口にする刹月斎と白牙丸。

 そしてそのまま、なにやら写本の苦労話をし始めるふたり。


 ……まったく同じ内容の物をいくつも書くのって大変だしなぁ……

 ホント、タブレットプリンターさまさまだな……と、そんな風に思う俺だった。

久しぶりにタブレットプリンターの登場です。

便利ではあるものの、展開上あまり出番がないんですよね……これ。


まあそれはそれとして次回の更新ですが、いつものように金曜日の予定です!

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