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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第67話異伝6 蠢く冥きモノ

<Side:Renji>

「……と、とりあえず、落ちないように進むのです」

 なんて事を言いながら、崖になっていない方――岩壁の方に張り付くクー。

 いや、そこまで警戒しなくても、そんなに幅の狭い道じゃないから大丈夫だと思うぞ……と思ったが、まあ……それは敢えて言うまい。

 

 そのまま激流を眼下に見ながら進んでいくと、程なくして少し開けた台座のようになっている場所に出た。

 

「随分と真っ平らな場所だな……」

 グレンがそんな感想を口にする。

 

 たしかに自然に出来たとは思えない程の真っ平らさだ。

 という事はつまり、これは人の手によって、こういう風になっていると思った方が良いな。

 ――さて、そうなると……

 

 俺はティアの方へと視線を向ける。

 すると、ティアは口にせずとも分かっていると言わんばかりの顔を、一瞬俺の方へ向けた後、眼鏡――じゃなくて、インスペクション・アナライザーを付けた状態で、地面を凝視し始めた。


 そして程なくして、

「この辺に、魔煌具的な何かがありますねぇ……」

 と、そんな風に告げてくるティア。やはり……か。

 

「魔煌具的な何か……ですか?」

「魔力の反応はありやがるんですけどねぇ、魔煌具とは何かが少し違うんですよねぇ」

 ヘイゴロウの疑問にそう答えるティア。

 

「……あら? ここ、良く見ると地面に薄っすらと黒い線――いえ、隙間が見えるわね……」

 と、地面へと視線を落としながら言ってくるシャル。ん? 隙間?

 

 どういう事かと思いつつ、屈んで地面に顔を近づけて見ると、たしかに妙な隙間があった。

 緩い曲線を描きながら、シャルのいる方へずーっと続いているな……。いや、反対側もか。

 ……つーか、これって……

 

「昇降機が隠されてんじゃねぇか?」

 という推測を口にする俺。

 

 合点がいったとばかりに、ポンッと手を打ち、刀を鞘から抜き放つシャル。

 

 そして、それを使って地面の一部を削り始めた。

 ……って、スコップ代わりかよ! 


「どうせなら、そっちの剣を使った方が早いんじゃないですかねぇ?」

「なんでソウヤの剣をスコップ代わりにしなきゃいけないのよ」

 呆れ気味に言うティアに、そんな風に返すシャル。

 

 ……いや、刀はスコップ代わりにしていいのか……?

 

「それに、1億5000万年モノのこの刀は、そんな簡単に壊れたりしないし」

「……刃こぼれして、ディンベルで直したんじゃなかったっけか? それ」

 そんな話を蒼夜と朔耶から聞いたのを思い出し、そう問いかけてみる。

 

「あー、あれは嘘よ」

 シャルがさらっとそう返してくる。

 

「は? 嘘?」

 意味がわからず問い返す俺。

 そんな俺に対しシャルは、地面を刀で削りながら、

「ディンベルに同行する時に、理由もなく同行するってのもなんだかなーと思ったから、とりあえずそう言っただけよ。この刀が刃こぼれなんてするわけないじゃない」

 なんて事を、やや自嘲めいた笑いと共に口にした。

 

「……果たして、その嘘は必要だったんだろうか……」

「素直に『行きたい』と言えなかっただけじゃねぇですかねぇ。シャルは変な所で変な理由をつけて自分の気持ちを誤魔化そうとする面がありやがりますからねぇ……」

 俺の呟きに対し、ティアがやれやれと言わんばかりの表情で両手を左右に広げ、首を横に振ってそんな風に小声で言ってくる。


「……ああ、まあたしかにそんな所があるな」

 俺もまた小声でそう返す。

 そして、だから蒼夜に対しても、『騎士』だの『主』だのと言っているんだろうしな……と、心の中で呟いた。

 

 そんな俺とティアの生暖かい視線の先で、

「あ、たしかに地面を少し削ったら金属の板が出てきたわね」

 と、シャル。

 

 近づいて刀で削られた地面を見てみると、たしかに金属板が埋まっていた。

 

「だとすると、昇降機で間違いなさそうなのです」

「ですねぇ」

 クーとティアがそんな風に言うと、シャルが腕を組んで考え込む。

「でも、どうやって動かせばいいのかしら?」


「……そういえば昨日、蒼夜たちの方が探索した拠点も、昇降機があったって話だったな」

 あちら側との通信でその情報を得ていた俺は、そう口にする。

 

「たしか……『呪印式移動盤』とか言っていましたね……」

「呪印……。深月なら解析出来るかもしれねぇですけどねぇ……」

 アルチェムの言葉にそう言って地面を見るティア。

 

 さすがにインスペクション・アナライザーじゃ無理だしなぁ……

 さて、どうしたものか……

 

                    ◆


<Side:Arcem>

「……呪印……」

 と、私は呟きます。

 

 ……ソウヤ様は以前、女神ディアーナ様が、適合する紋様のカードを生み出してこれと同じ物を動かしたと言っていました……

 つまり……『紋様が適合すれば』いけるのではないか……と、そんな風に私は思いました。

 

「……なんとかなるかもしれません……」

 私はそんな風に皆に言います。

 

「ん? どうする気だ?」

「……上手く行くかは微妙ですが……あの紋様と同じ紋様を転写で作ります」

 グレン殿下の問いかけにそれだけ返すと、私はシャルロッテ様の方を見て言葉を続けます。

「すいません、シャルロッテ様……。もう少しだけ……私の掌が全部収まるくらい、金属板の紋様が見えるように出来ませんか?」


「え? んー、よくわからないけど、まあそのくらいならどうとでもなるわよ」

 と言って、刀で周囲の地面を削り取るシャルロッテ様。

 

 ……程なくして、私の掌が全部収まる程に金属板の紋様が露出しました。

 

「ふぅ……。まあ、こんな感じでいいかしら?」

「はい、大丈夫だと思います……。ありがとうございます」

 シャルロッテ様の問いかけにそう答えつつ、私は紋様の上に手を付きます。

 

 ……転写の力が上手く働いてくれればいいのですが……

 

 そう願うものの、上手く転写の力が発動しません。……やはり、この程度では無理なのでしょうか……?

 

 そんな風に考えた直後、ズキンッと胸の辺りに痛みが走りました。

 

「……っ!?」


『……チカラ、欲スルカ?』

 

 ……何かが聞こえました。

 

『……異形ナルチカラ、異形ナル我ガ魂。同化――』

 

 ……これは……声?

 

『……異形ナルチカラ、異形ナル我ガ魂。同化―― チカラ、欲スルカ?』


 再び同じ言葉が聞こえます。

 ……これは……私の内側から聞こえる声……

 

 冥将カローア=ヴィストリィの……声……

 

 何故かは分かりませんが、『そうである』と認識出来てしまいました……

 

 いえ……あの時受けたのが『攻撃』ではなく『憑依』の類であったと仮定すれば、可能性は十分にありえます……

 なにしろ……カローア=ヴィストリィは、生命の力や魂魄の力を吸収するような、そんな異質な力を有しているのです。

 『自身を誰かに吸収させる』事すら出来た所で、おかしくはありません……

 

 ……とはいえ、同化……と言っている事を考えると、憑依――私を乗っ取るには、力が足りないみたいですね……

 

 ……そして、あの『夢』が予知であるのなら……

 

 ……その結末を変える為には。

 …………冥将の力を使うのが最良です。

 ………………であれば対価を差し出しましょう。

 

 ――同化でもなんでもいいので、力をください。

 そのように私は念じます。

 

『……内ナル……闇ノ……深淵ニ、手ヲ……伸バスガ、良イ……』


 先程よりもハッキリとした声が私の中から聞こえてきます。

 そしてその直後、地面――昇降機の紋様の上に置かれているはずの手から、まるで泥の中へ突っ込んだかのような感覚を感じました。

 

 続けて、指の先に何かを――冷たい物を感じます。


『掴ムガ、良イ……。汝ノ……チカラノ……根源、ヲ』

 

 私は声に導かれるままに、その冷たい物を握ろうと手を伸ばします。

 

「……っ!? ……っ……っ!?」

 刹那、全身に雷撃魔法を受けたかのような痛みが走りました。

 しかし、口がまともに動かず、声にならない悲鳴を発する私

 

『一度デハ……足リヌ……カ』


 そんな声が聞こえてきます。

 どうやら、同化は不完全なようですね。

 

 ……ああ、でも……。これで、あれは――あの夢は……

 

                    ◆


<Side:Glendine>

「……おいアルチェム、なんだか顔色が悪いぞ……?」


 ――それに……一瞬だったが、痛みを堪えるような表情を見せたよな……? 今。

 だが、本当に一瞬だった為、それを口にするのを躊躇する俺。

 

「大丈夫……です。ちょっとばかし……異能の力を……限界を超えて、発動させたてしまったせいですので……」

 片膝をついたまま少し息切れした様子でそう言うと、いつの間にか左手に持っていたメモ用紙――アルチェムが最近良く持ち歩いている、クーから貰ったというウサギ型にカットされた物――を俺に手渡してくるアルチェム。

 

 それに視線を向けて見ると、なにやら複雑な紋様がメモ用紙には描かれていた。


 これは……もしかして、昇降機の……か?

 そう俺が問いかける前に、

「――完全に転写しました……。それに星霊術の波動を付与する事で……作動させる事が……出来ると思います……」

 なんて事を言ってくるアルチェム。


「つまり、私の出番ですねぇ」

 ティアはそう言って、俺からメモ用紙を引ったくると、目を瞑って精神を集中させるかのような仕草をみせる。

 と、その直後、メモ帳が淡い光に包まれた。

 

「……話には聞いていたけど、本当に元聖女なんだな」

「ええ、まーったく似合わねぇですけど、聖女だったんですよねぇ。これが」

 腕を組みながら感心するように言った俺に対して。ティアは肩をすくめながら自嘲し、昇降機の中心と思しき場所へと移動する。

 ……そんなに聖女だったという過去が嫌いなのだろうか? よくわからんな……

 

 なんて事を考えていると、ティアが、

「それで……これをどうすればいいんですかねぇ……?」

 という問いの言葉を口にしつつ、メモ帳をヒラヒラと振った。

 

 直後、地面と昇降機の境目からオレンジ色の光が溢れるように放たれ、ガコンッという音と共に下に向かってゆっくりと動き出した。

 

「動かすなら動かすと言ってくれ!」

 昇降機の外側に立っていたレンジが、そんな悪態をつきながら飛び移ってくる。

 そしてそれに続くようにして、同じく外側にいたヘイゴロウも飛び移ってきた。

 

「すいませんねぇ。私もあんなのでこれが動きやがるだなんて、微塵も思ってもいなかったものでしてねぇ……」

 なんて事を言いながら、やれやれとばかりに首を横に振るティア。

 まあ、たしかにそうだろうな……

 

 それにしても……アルチェムの転写って、こんな使い方も出来るんだな……

 ……ただ、限界を超えて発動させたとか言っていたのが、どうにも気になるな……

 

 俺はそう思いながら、既に回復したのか立ち上がって平然とした姿でクーと話すアルチェムの方を見るのだった――

……なにやら、危険なモノに手を出していますね……


という所で次回の更新ですが……ある意味ではいつもどおりであるとも言える、来週の火曜日を予定しています!

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