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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第67話異伝5 カナトの鉱山と鍾乳大河

<Side:Glendine>

 ヘイゴロウという武士の案内で閉鎖された鉱山へとやってきた俺たち。

 曲がりくねった階段を登りきった所で、錆びついた鉄路と、その先にある鉄の扉で閉鎖されている3つの洞門が視界に飛び込んできた。

 

「こいつは……どこから入ればいいのかわかんねぇな……」

 そう口にして頭を掻く俺に、

「左側は一番新しい坑道で、真ん中が一番古い坑道ですね。最後の右側ですが、こちらは掘り進んで間もない頃に、流れの急な地下水脈にぶつかってしまった事、およびその影響で、坑道内の一部が浸水してしまった事で、早々に採掘が放棄された坑道です」

 と、告げてくるヘイゴロウ。

 

「鉄の扉の開閉には、術式が用いられていやがるみたいですねぇ。ただ、霊具の術式ではなくて、魔煌具の術式のように見えますねぇ?」

 眼鏡をかけたティアが、そんな風に言って首をかしげる。

 あの眼鏡はたしか、インスペ……なんとかって名前の、魔力の流れだかなんだかが見えるっつー代物だったか?

 

「さすがですね。実は、あの扉自体が魔煌具になっているのですよ」

「え? 霊具じゃなくて、魔煌具なのです?」

 ヘイゴロウの説明に対してクーが疑問を抱いたらしく、そう問いかけた。

 

 まあたしかに、魔煌具よりも霊具の方が主流であるこの国で、わざわざ魔煌具を使っているのは不思議な感じではあるな。


 なんて事を思いながら、クーと共にヘイゴロウの方を見ると、

「はい。あれほどの大きさの霊具を作るとなると、皇族くらいしか居場所を知らないと言われている、伝説の霊具職人集団でなければ難しいですからね……」

 と、そんな風に答えて来た。

 

「なるほど……。つー事は……竜の御旗が、これを利用しているとしたら、魔煌波の調律残滓が残っている可能性が高いな」

 3つの扉を見回しながらそう言ってくるレンジ。

 

「そうですねぇ……。ちょっと計測してみますかねぇ」

 と言いながら、小型の鍋みたいな形状をしたものが台座に乗っかっている、変な見た目の魔煌具を取り出すティア。

 

「何度見ても、パラボナアンテナみてぇだな……」

 なんて事を魔煌具を見ながらレンジが言った。……パラボナアンテナってなんだ?

 

 そう俺が疑問に思っている間にも、ティアは台座に収納されていたパネルを3つ取り出すと全ての扉にそれを貼り付けていく。

 って……アレ、どうやって張り付いてんだ?

 

 新たな疑問が浮かび上がって来たが、説明されても多分理解出来そうにないので、特に問いかけたりはせずに、黙って動向を見守る俺。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ティアが途中で「計測完了まで5分程度かかりますねぇ」と言っていた通り、全ての扉にパネルを貼り付け終わってから5分くらい経過した所で、パネルの色が銀色から青色へと変化した。

 

『AWS:反応あり AWP:中性霊子 AWR:137/E』

『AWS:反応なし AWP:中性霊子 AWR:22/E』

『AWS:反応あり AWP:中性霊子 AWR:6/E』

 

 ティアがパネルを操作すると左から順にそんな表示が次々に浮かび上がってくる。

 ……が、何がなんだかさっぱり分からん。

 

「中央は完全に論外だな。左と右のどっちかだと思うが……」

 レンジがそんな風に言う。

 よくわからんが、AWS反応って奴が左と右、どっちも『あり』になってんな。

 

「右側はかなりの残滓が消えつつありやがりますねぇ。――7年前に閉鎖された後、この奥に入った事ってありやがるんですかねぇ?」

「あ、はい。2年程前に、坑道内の状況確認および調査のため、左と右の坑道へ調査員が立ち入っておりますが、それ以降は誰も入っていないはずです」

 ティアの問いかけに対し、そう答えるヘイゴロウ。


「……だとしたら、この右の扉は残滓の減衰が異常ですねぇ。2年なら左の値くらいになりやがるはずですからねぇ」

 そう言って数字を指さしながら凝視するティア。

 

「その魔煌具が故障しているとかは?」

 シャルのその問いかけに、ティアは首を横に振り、

「エステルから借りて来た最新の物なので、それはないはずですねぇ」

 と、否定する。

 

「なら右は、隠蔽の為に何らかの方法で残滓を消し去ったと考えるべきだな」

「隠蔽工作のつもりで逆に印を残すとかマヌケすぎない?」

 レンジの言葉にそう言って肩をすくめるシャル。

 

「計測される事を前提とした罠である……という可能性は、ないのですか……?」

 アルチェムがそう問いかける。

 

「この手の計測器って、専門の魔煌具だから凄い高価な上、用途が決められているから普通は所持していないわよ」

「ですねぇ。私も過去に一度しか使った事がありませんねぇ。そしてその時も今回と同じように借りた物でしたしねぇ」

 シャルとティアがそんな風に答える。

 

「なるほど……。そうすると……これを罠として使うには微妙――いえ、無意味すぎますね……」

「だとしたら、何故隠蔽したです?」

 納得して頷くアルチェムと、新たに疑問が湧いてきたらしいクーが、そう口にする。

 

「少し性能の良い『インスペクション・アナライザー』なら、残滓が見えるからじゃねぇですかねぇ」

「ふむふむ……。つまり、インスペクション・アナライザー対策で施した隠蔽が、逆に仇となった、という事です?」

「はい、おそらくそういう事ですねぇ」

 

 そんな会話をするティアとクー。

 なるほど……要するに、足跡を巧妙に隠したつもりが、巧妙すぎて逆に怪しくなっちまった、つーわけか。

 ま、隠蔽した奴も、まさかこうくるとは思ってもいなかったんだろうが。


「よし、なら右の扉へ行ってみようぜ」

 一応『雇い主』であり『リーダー』でもある俺は、その決断を皆に告げる。

 

「では、術式にハッキングして、右側の鉄扉を開放しますねぇ」

 そう言って張り付いていたパネルを手に取って操作し始めるティア。

 って、あの魔煌具、そんな事も出来んのかよ……

 

 呆れ気味にそう思っている間にも、パネルの上――ティアの眼前に出現した魔法陣は、物凄い勢いで形状を変化させていく。

 そして、1分もしないうちに、ガコンという重い音が響き、それに続くように鉄扉がスライドし始める。

 

「施錠魔法にしては構造が単純すぎですねぇ。設定した人間が手を抜きやがったんですかねぇ?」

 やれやれといった表情で肩をすくめるティアに対して俺は、

「そいつはわからんが……ま、こっちにとっちゃ都合いいからなんでもいいさ。あと、解除ありがとよ」

 と告げた後、改めて皆を見回し、突入する皆に告げる。

 

                    ◆

 

 ――そうして坑道内を進み始めた所で、アルチェムの様子がおかしい事に気づく。

 

 ……なんか、度々胸のあたりを抑えているんだよなぁ……

 ……見た感じ無理しているようには見えないが……

 

 指摘しても、アルチェムの性格上、大丈夫だと言われるのは目に見えているので、今は何も言わずに進む事にした。無論、アルチェムの様子を常に注視しながら、だが。

 

 ――それから少し進んだ所で、水没した場所へあっさりと辿り着く。

 

「2年前もここで水没していましたね」

 ヘイゴロウがそう告げてくる。

 

「……んー、どうやってもこっから先には進めそうにねぇな」

「そうね。『この坑道は』ここで終わりみたいね」

 俺の言葉に対し、そんな事を言うシャル。

 

「この坑道……って事は、なにか見つけたのか?」

「ええ」

 シャルは俺に向かって頷いてみせた後、近くの岩壁へと歩み寄る。

 そして、岩壁に手を伸ばした。

 

 と、その手が岩壁で止まる事なく、そのままめり込んでいく。

 魔法かなにかで通路が隠蔽されていたのか……

 

「連中の常套手段ね。まあ、何故か霊力を感じたけど」

 なんて事を言ってくるシャルロッテ。

 

「なるほど……。魔煌波反応のない――魔法ではないタイプのカモフラージュウォール……という事ですねぇ……。おそらく霊具を使って改良しやがった感じですねぇ」

 例の眼鏡をかけたティアが岩壁を見ながら言う。

 

「それは、シャルロッテさんじゃないと気づかないのです」

「そうだな。お陰であっさり先へ進める」

 クーに同意するように言うレンジ。


「ふっふーん、それほどでもないわよ」

 いや、そんな得意げに『それほどでもない』って謙遜の言葉を吐かれてもなぁ……

 まあ、別にいいけどよ……

 

「――この先は鍾乳洞になっているのです」

 隠し通路に顔を突っ込んだクーがそんな風に言う。

 

「鍾乳洞?」

 首を傾げながらそう口にし、クーの横から隠し通路に顔を突っ込む俺。

 

 すると、円形に掘られた通路の先に、たしかに鍾乳洞が見えた。

 ついでに水が勢いよく流れる音がする。

 

「まあ、とりあえず行ってみるか」

 俺はそう口にすると、そのまま通路を進み鍾乳洞へと出てみる。

 

 見事な鍾乳石が連なるその下を、物凄い勢いで水が流れていた。

 若干、海の匂いがするんだが、気のせい……か?

 

「入口の所で話にあった……地下水脈のようですね……」

 横にやってきたアルチェムが、地面に這いつくばるような姿で、崖から下をそーっと覗き込みながらそう告げてくる。

 

「この水……海水と淡水が混ざっているのです。汽水なのです」

 どうやら海の匂いを感じ取ったのは俺だけじゃなかったようだ。

 そのクーの言葉を聞いたティアが、

「汽水の地下水脈……? これ、もしかして鍾乳大河なんじゃねぇですかねぇ?」

 と、そんな推測を口にした。


「それ、鍾乳大河がこんな所にまで広がっているって事よね? 鍾乳大河へ続くと言われているアラタツ川から、ここまで結構な距離がある気がするんだけど……」

「まあ、そっちからは距離があるけど、街の背後にある山脈を超えればすぐ外海だし、鍾乳大河は途中で分岐を繰り返して、最終的には十を超える河口を形成するからな。複雑すぎて未だにその全容が解明されていない状態である以上、実はこの辺りまで広がっていた……という可能性は十分ありえる話ではあるぞ」

 懐疑的なシャルに対し、腕を組みながら言うレンジ。

 

 ……鍾乳大河。帰らずの水道とも呼ばれる外海へと通じる大水脈、だったか。

 

「うーん、なるほど……。そう言われるとたしかにその通りね。だとすると……鍾乳大河は随分と蛇行しているような気がするわね」

「ですねぇ。だからこそ、こんな速度の流れになる……のかもしれねぇですねぇ」

 シャルの言葉に、ティアが水の流れを見ながらそんな風に答える。

 

「ま、たしかに落ちたらやべぇのは間違いねぇな、こいつは」

 見た事もない速度で流れ続ける水を、崖の淵から覗き込みながら言う俺。


「はい……。常軌を逸した流れの速さですね……」

 アルチェムがそう言うのとほぼ同時に、色の付いたボール3個をどこからか取り出したシャルが、「とうっ」と言いながら、それを放り投げる。

 

 激しい流れの中に落下した3つのボールは、あっという間に押し流され視界から消えてしまった。その間、僅か数秒……

 

 うへ……。こりゃまた思った以上に流れが急だな……

この測定器、何気に物凄い久しぶり(第1章中盤以来!)の登場ですね……


さて、そんな所で次回の更新ですが、金曜日の予定です!

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