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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第67話異伝4 冥将と女神とカナト

<Side:Charlotte>

「これって、ザコの力を吸収したせい……なのかしらね?」

 いままで見た事のない冥界の悪霊の残滓――灰色の砂を見ながら、ティアに問いかける私。

 

「そうですねぇ……正直、現時点では何とも言えねぇですけど、その可能性も十分にありえますねぇ。……ま、なんにせよ後で竜の座のデータベースを用いつつ、調べないと駄目な代物ではあるんで、さっさと回収しちまいましょうかねぇ」

 と答えながら、ティアが灰色の砂を保存容器に入れる。


「あそこのデータベース、異界の魔物については情報が少ないのよねぇ」

「そこは『管轄区』が違う以上、仕方ねぇですねぇ」

 保存容器を自身の次元鞄に放り込んだティアが、私の言葉にそう返しながら肩をすくめてみせる。

 そして、

「ただ……上位の管理者――アドミニストレーターとやらの権限を要求される領域にアクセス出来れば、もっと多くの情報が得られそうな気はしやがるんですよねぇ……。異界については、アクセス不可領域が圧倒的に多いですからねぇ」

 と、頬に手を当てながら言葉を続けた。


「アドミニストレーター権限……ねぇ。って……そういえば、ソウヤは『サブアドミニストレーター権限』とやらを持っているみたいだったわね」

 霊峰での――あの、謎の異形が封印されていた場所に入る際に、そんな音声が聞こえてきたのを思い出した私は、そう口にする。

 

「……はい? サブアドミニストレーター権限……サブってのはなんなんですかねぇ?」

 いまいちピンと来ないらしいティアに、

「ああ、サブアドミニストレーターってぇのは、簡単に言うと『副管理者』の事だ」

 と、説明するレンジ。


「んん? 副管理者……? なんでそんな上位っぽい権限を持っていやがるのに、竜の座を知らねぇんですかねぇ?」

「それが分かれば竜の座まで連れて行くのに、こんなに苦労したりしないわよ。……まあ、さしずめ女神ディアーナ様が何かした……んじゃないかしらね? ほら、ディアーナ様って、なんだかソウヤに対して、割りかし依怙贔屓(えこひいき)気味な所があるし……」

 私は嘆息しつつ、ティアに対してそんな言葉を返す。

 

 ……この剣もそうだけど、ソウヤに対しては、無条件かつ無制限に手助けしている気がするのよねぇ……女神様って。

 と、霊幻鋼の剣に視線を向けながら、心の中で呟く。


「それはまあ……たしかにそうですねぇ。ただまあ……女神様も使徒も、正直始めて見たというか……そもそも歴史上、使徒という存在が最後に現れたのは、今から一万年以上も昔ですからねぇ……。それ以降は、まったく出てくる事はなかったせいで、正確な記録なんて残っちゃあいねぇですからねぇ。旧世界聖典に出てくる『使徒たち』に対しても、女神様はああいう感じで接していた……のかもしれねぇですけどねぇ」

 なんて事を言ってくるティア。

 うーん……。こういう話をサラッと出来る辺りは、やっぱり元聖女って感じよね。


「だが、その女神自体は、竜の座の存在を知らない……。いや、忘れているんだよなぁ……」

 歩み寄ってきたレンジがそんな事を言ってくる。

 

「まさか、『記憶喪失の女神』説が、真実だったとは思わなかったわ……」

「まだ確定とは言えねぇですけどねぇ。敢えて『何も知らない事にしている』可能性もゼロじゃねぇですからねぇ」

 私の言葉にそう反してくるティア。

 

「どちらにせよ『その理由』に関しては、さっぱりだけどな」

 と言って両手を左右に広げ、首を横に振るレンジに、

「ですねぇ。まさに女神のみぞ知る……という奴ですねぇ……。さすがに女神様に根掘り葉掘り聞くのは、こう……ちょーっとばかし(はばか)られますしねぇ……」

 と言って、ティアが深く嘆息する。

 ……元聖女だけあるからなのか、そこは躊躇するらしい。

 

「ただまあ……なんにせよ、女神の使徒であっても、それだけでは竜の座へ至るための条件を満たす事は出来ないって事だな」

 なんて事を言ってくるレンジ。

 

「そうね。条件を満たせない以上は、自力で辿り着くしかないのだけど……果たしてどうやって導くか……なのよねぇ。あまり直接的な事は出来ないし……。私が向こうについていけば、うまく誘導出来たかもしれないけど……」

 そう言って、だから私はあっちの方が良かったのに……という意図を込めて視線をレンジへと向ける。

 しかし、

「……ノイズが入って伝わらないのがオチだな」

 ため息混じりにそう返された。

 ……まあそうよね。うん、わかっていたわ。わかっていましたともっ!

 

「いっそ、引っ張っていけば……」

「弾き返されるだけですねぇ。というかですねぇ、むしろ『ここ』まで来たら、私たちが関わらねぇ方が上手く行くと思うんですよねぇ。……昨日の夜、ミヅキも最小限の話だけすると言っていたじゃねぇですか」

 私の言葉に対し、そんな風に返して首を横に振るティア。

 

 たしかに昨日、ソウヤたちとの話の後に、ミヅキと直接通信して話をした時に、ミヅキは障害にならないように『霊具』の情報だけ伝えて後は何も言わないと言っていたわね……

 

「つか、あそこまで行けば、今あっちにいるメンツならば、誰かしら気づくと思うぞ」

「……まあ、私もそうは思っているけど……」

 レンジの言葉に私は、むう……となりながら答える。


 そう……あっちにいる面々であれば、アレに気づく事が出来るはず……

 特にソウヤや、レンジが室長と呼んでいるコウであれば、近くまで行けば、ほぼ間違いなく気づくであろうと私は思っている。

 だから、私たちのような既に竜の座に至った者が近くに居ない方が上手くいく。

 ……だけど。だけどよ? 導くって言ったのよ? 私。

 

 だから――

「そのタイミングでソウヤの側に――横に居なかったら駄目じゃないのぉぉぉぉぉっ! というか、普通に側に居たいのよぉぉぉぉぉっ!」


 ……ついそんな声を上げた私に対し、レンジとティアがなんだか凄く暖かい……いえ、違うわね。……生暖かい視線を向けてきたような気がした――


                    ◆


<Side:Arcem>

 ――カナトに辿り着いた私たちは、早速役場へと(おもむ)き、鉱山――坑道への立ち入り許可を取りました。


 そして、カナトの役場から出た所で、ほんの一瞬ですが、胸のあたりがチクリとしました……

 ……? なんでしょう、今の……

 

「ん? どうした?」

 胸に手を当てた私に気づいたのか、グレン殿下がそう尋ねてきます。

 

「いえ……一瞬、胸のあたりがチクッとしまして……」

 そんな風に答えた私に対し、

「胸? さっきの冥将が最後に放った魔法で、実は負傷したとかじゃねぇよな?」

 と、訝しむような心配するような、そんな表情で私を見ながら尋ねてくるグレン殿下。

 

「それはありません……。まあ……本当に一瞬でしたので、おそらく服のチクチクだと思います……」

「そうか? まあ、それなら別にいいんだが……。なにかあったらすぐに言えよ?」

 グレン殿下は私の答えで一応納得したのか、そう言って前を向きました。

 そして、

「――にしても、思ったよりもあっさりと許可が下りたな……」

「ま、あっちもヤバい組織が近くにいるかもしれない、なんて状況は放っておきたくないだろうからな」

 と、そんな事を話すグレン殿下とレンジ様。

 

「討獣士ギルドの本部長である……サギリナ様から直接通信で連絡があったのが……大きかったのではないかと思います……」

「オオヤマキョウのギルド支部の支部長に、サギリナの署名が入った証明書を見せた効果があったわね」

 私の言葉にそう返してくるシャルロッテ様。

 それも効果があった気はしますがそれ以上に……

 

「んー、あそこの支部長が、魔法探偵シャルロットの大ファンだったのが一番デカイんじゃねぇですかねぇ? わざわざイルシュバーンまで行って全巻購入するくらいですからねぇ」

 と、システィア様――ティアさんが、私の思った事を口にして肩をすくめました。

 

 ……システィア様というと、とても嫌そうな顔で、『ティア』でいいと言われるんですよね……心の中とはいえ、気をつけておかないと口からも出てしまいそうです……

 さすがに、ティアと呼び捨てにするのは私には難しいので、ティアさんと呼んでいますが……

 

「うぐっ! ……そ、そうね……。その可能性は……否定出来ないわ……」

 シャ、シャルロッテ様が、なんだか苦虫を噛み潰したような顔をしていますね……

 

 ちなみに魔法探偵シャルロットは、私も好きです。全巻持っています。

 ディンベル――というか王都ですと、イルシュバーン共和国の出版物は、駅前の輸入書籍を取り扱っている本屋さんで、割と簡単に買えたりするんですよね。貨物鉄道は偉大です。

 

 なんて事を考えていると、

「――あの……失礼ですが、皆様は坑道の調査を行うという討獣士ギルドの方々……で、ございますでしょうか?」

 突然そんな声が聞こえて来ました……。誰でしょう?

 

 声のした方へと顔を向けてみると、いかにも武士といった装束を身に纏ったセレリア族の男性の――30代くらいに見受けられます方が、ひとり立っていました。

 ……もう一度言います。誰でしょう?

 

 その方に対して私は……

「えっと……たしかにその通りですが……貴方は……?」

 と、問いかけます。

 

「あ、これは失礼いたしました。(せつ)はヘイゴロウと申します。7年前まで彼の鉱山の警護と管理を担当しておりました事もあり、迷路の如くなってしまっている坑道を案内するよう、町長から命じられた者でございます」

 武士――ヘイゴロウ様がそのように説明してきます……


「おっ、そうなのか。そいつはありがてぇな」

 という殿下の言葉にティアさんが頷きます。

「そうですねぇ。坑道で迷ったりしたら話にならねぇですし、こちらとしても是非案内をお願いしたいですねぇ」

 

 それに対してレンジ様は、「ああそうだな」と言い私たちに対して頷いてみせた後、

「――これからすぐにでも向かいたいんだが大丈夫でしょうか?」

 と、ヘイゴロウ様に問いかけました……

 

「それは構いませんが……。聞けば皆様は、カローア=ヴィストリィと思しき妖魔の将と、()の将が率いる妖魔の群れを殲滅したとの事……。お疲れではないのですか?」

「問題ないわ。準備運動程度だったし」

「ですです。あの程度の魔物、どうという事もないのです」

 ヘイゴロウ様の問いにそんな風に答えるシャルロッテ様とクーちゃん。

 

 ……普通に考えると、『あの程度』ではないのですが……ここの所、とても強い敵と戦う事になったり、凄い数の敵を相手にする事になったりする事態が多発していたので、たしかに今ではもう『あの程度』ですね……

 

 ……そんな事を思う私自身も色々おかしい気がしますが、まあ……女神ディアーナ様の使徒であるソウヤ様に関わった以上、気にしても仕方がありませんね……

 あの方の近くにいると、どういうわけか物凄い速さで、戦闘能力が引き上げられていくようですし……。というより、自分でもそれは実感していたりしますし……

 

 と、そのような思考をしていると……

「さ、さすがは三強の一角に数えられる傭兵団の方々と、討獣士ギルドの本部お墨付きの討獣士の方々だけはありますね……」

 ……少し引き気味に、ヘイゴロウ様がそう言ってきました。

 

「あ、そんな風に伝えられていたのね」

「え、ええ、まあ……はい。えっと……おそらくですが、その情報があったために、町長もあっさりと坑道への立ち入りの許可を出したのだと思いますよ。普通はここまで簡単に坑道への立ち入り許可なんて出しませんので……」

 シャルロッテ様の言葉にそんな風に答えるヘイゴロウ様。

 

 はぁ、なるほど……。なんというか、色々と納得です……

 

 そう思った瞬間、再び胸のあたりがチクリとしました……


 ……いえ、正確に言うなら、今度はチクチク、ですね……

 ……気にはなりますが、まあ……今の所、特に影響はなさそうなので、放っておきましょう……

ヘイゴロウの一人称は『拙』です! 『拙者』の誤脱とかではありませんよ!(何)

さて、これで異伝の約半分が終わりました……。今回の異伝は、どうしてもちょっと長めです……


そんなこんなで次回の更新ですが……来週の火曜日を予定しています!

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