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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第67話異伝3 冥将の想定外

<Side:Renji>

 打ち消し合いに勝ち残ったシャルの衝撃波が、冥将へと物凄い速度で迫る。

 まるで、魔法球の魔力を吸収して加速力が増したかのような感じだが、そんな事はないはずなので、錯覚だろう。錯覚……だよな?


 シャルは蒼夜の持つ謎の力の影響で、超高速レベルアップがされているようなものなので、それによって常識外の事が起きてもおかしくはないのが困りものだ。

 ……まあもっとも、俺たちにとっては利しかないので問題はないのだが。

 

 ともあれ、これはさすがに冥将も想定外だったのか、防御障壁を展開しようとするも間に合わず、冥将はまともに衝撃波を受け、「ギギィィィィィッ!」という悲鳴をあげつつ、赤黒い結晶のようなものを撒き散らした。

 

 あの結晶、いわゆる奴らの『血』にあたるもののはずだが……こいつのは、色が普通の――他の冥界の悪霊と違っているな。まさか、さっき他の奴らを吸収した影響……か?


 そんな事を思案していると、 

「お? なんか再生力が弱まってないか?」

 と、グレンが言った。

 視線を向けてみると、その言葉どおり、シャルの攻撃で傷つけられた部分の再生が、明らかに遅かった。

 

「おそらく……ですが、冥界の悪霊たちから吸収した、力……のようなものを、大分消費してしまったのではないかと……」

「そうでやがりますねぇ。私も同意見ですねぇ」

 アルチェムが推測を語り、それに同意するティア同意する。

 

「ま、あれだけの膨大な数の魔法を撃ったんだし? ザコから奪った残滓のような力くらいじゃそんなものじゃないかしら」

「きっと、冥将もあれを凌ぎきるだなんて、思っていなかったのですっ」

 というシャルとクーの言葉に、俺もそうだろうなと思う。

 

「つーか、最後のシャルの迎撃が一番想定外な気がするぞ。あっちもこっちも」

 俺のそんな声に、

「ですねぇ。……最初からシャルだけでいけたんじゃねぇですかねぇ?」

 などと呆れた声で同意するティア。

 たしかに、これもうシャルひとりで十分じゃねぇかな? って感じはある。

 

「いやいやいや、それはさすがに無理よ。魔法球――魔力の塊だったから剣技で上手く相殺出来たけど、照射される魔力……要するに光線の類だと、剣技ではちょっと難しいわ」

 と、そんな風に言って返すシャル。

 

 それはつまり、魔力の塊ならどんなに巨大であっても、霊力を乗せた剣技だけで相殺(そうさい)しきれる、という事なのではなかろうか……。いやはや、なんとも恐ろしいな。

 つか、ある一定の条件を満たしている――塊であれば斬れるって辺りは、なんだか蒼夜の『サイコキネシス』みたいだな。

 まあ、あっちは相殺(そうさい)するんじゃなくて『押し返す』んだが。

 

「ま、なにはともあれ、あのやべぇのがもう一発来る事さえなけりゃ、どうとでもなんな」

 グレンがそんな風に言いながら冥将へと視線を向ける。


 クーもまたグレンと同じく冥将へと視線を向けると、

「一気に仕掛けるのですっ」

 と、そう言い放ちながら変身した。

 

 うーむ……。クーの変身自体はここの所何度かこの目で見ているが、地球に居た頃のクーの事を知っているからというのもあるからか、なんだか不思議な気分だな、やっぱり。

 それに、その頃よりも妙に積極的……というか好戦的な時がたまにあるし。

 

 蒼夜や朔耶と同じで、こちら側に来た時の覚醒効果……みたいなもので、そうなったのだろうか? ……だが、俺はそんな極端な覚醒効果みたいなのはなかったんだよなぁ……

 ……いや、もしかしたら俺自身も気づいていないような、そんな変化が起きている可能性は否定出来ないが……

 

 なんて事を考えていると、冥将が雄叫びに似た叫び声を上げる。

 と、次の瞬間、冥将の頭上に平面状の渦のようなものが出現した。

 

「あれって、ゲートの類よね? 逃げる気かしら?」

「かもしれねぇですねぇ。分が悪いと判断したんじゃねぇですかねぇ。なにしろ、あちらさんにしてみれば、大規模な魔物の群れをけしかけ、それが失敗したら、倒した魔物どもの力を吸収し、圧倒的な魔力を手に入れたはずが、こうして(しの)ぎきられてしまったわけですからねぇ。かなり想定外なんじゃないですかねぇ」

 シャルとティアのそんな会話を聞きながら、

「逃がすかよっ!」

 と言い放ち、一気に突っ込んでいくグレンと、それに続くクー。

 

 同時に「援護します」というふたつの声が聞こえる。

 それは御者と兵士の声。

 

 するとその直後、なにやら俺の足が緑色と青色の粒子に包まれた。

 いや、正確に言うなら俺たち全員が、か。

 

 一体これはなんなのだろうかと考えていると、御者と兵士が、走力と跳躍力を高める霊具を使ったと告げてきた。

 なるほど、こいつは良い援護だ。実にありがたい!

 

「ありがとうなのです!」

「サンキュー!」

 お礼を述べつつ、スピードを上げるクーとグレン。

 

 無論、俺とてただ見ているわけではない。

 同様にお礼の言葉を口にしながら地面を疾駆し、冥将へと迫る。

 

 そして、そんな俺たちの頭上を衝撃波が飛んでいく。

 放ったのはシャルだ。

 

 ゲートに侵入しようとしていた冥将は、衝撃波に気づくやいなや、即座に静止。

 触手のごとく束ねられた髪の毛を左右に半分ずつに分けると、それを自身の前でX字に交差させた。

 

 衝撃波は、髪に激突した瞬間、盛大な破裂音と共に霧散した。

 どうやら、魔力を髪に込める事で、衝撃波を防いだようだ。

 ……さすがに、二度は通じないか。

 

 もっとも……防がれはしたものの、ゲートへの侵入――逃走を中断させる事は出来たので、その間に俺たちが接近する事に成功した。

 無論、あちらもただ見ているわけではないので、その奇怪な髪の毛を伸ばし、俺たちを突き刺そうとしてくる。

 

 真っ先に到達したクーは、大きく跳躍してそれを回避すると、そのまま空中で縦に回転しながら冥将へと突っ込む。

 俺は迫ってきた髪の毛をパイロキネシスの炎を纏った左手で直接焼き払うと、そのまま右手に持った刀に炎を纏わせ、冥将の真下へと滑り込んだ。

 そして、即座に刀を上に突き出す。

 直後、俺の刀から火柱が勢いよく噴き上がった。


 ――蓮司流……穿ノ太刀・焔龍哭っ!

 心の中でそう言い放った直後、

「アギアアァァアアァァッ!」

 火柱に焼かれた冥将が苦悶の叫びをあげる。

 

 そこにクーが激突。

 それはまるで、ロゼという蒼夜の仲間が使っていた円月輪のごとき一撃だった。

 それを防ぐ事が出来ずに直撃を喰らう形となった冥将が、大きく態勢を崩す。

 

 クーはそれを見逃さずに変身を解除すると、どこからともなく――まあ、服に設定してある収納空間だろう――から、ハンマーを取り出した。

 と、同時に、そのハンマーに緑色のオーラが纏われる。

 

 あれは、エンハンス系の魔法……か? たしかティアが使えるようにしていたはずだ。

 で、あの緑色のオーラを纏う魔法は、付与された武器を振るう度に、強力な風圧が発生するようになる……とか、そんな感じの効果だったような気がするぞ。


 どうやら、敵に察知されないようクーの動きを見つつ、タイミング良く魔法を付与したみたいだな。

 うーむ……なんというか、ここ数日の間に、随分と良い連携をするようになったもんだ。

 ……ってか、俺が回避出来るであろう事も想定している……んだよな? これ。

 なんて事を考えつつ、大きく飛び退く俺。

 

 直後、態勢を崩していた事もあり、クーが振るったハンマーから生み出されたダウンバーストの如き風圧をまともに受けた冥将が、なすすべもなく地面へと叩きつけられる。無論、そこは少し前まで俺が居た場所である。

 

「殿下……っ!」

 アルチェムがそう叫んだ瞬間、地面から漆黒の牙が連なって生み出された。

 

 そして漆黒の牙は、地中から姿を現した怪物の顎を思わせるような動きで、冥将へと喰らいつき、立ち上がるのを阻止する。

 

「……今、ですっ!」


 アルチェムの言葉に、いつの間にか宙空で自らの身体がすっぽり隠れるほどに大きな槍を構えていたグレンが、その特徴的な――螺旋状の穂先を冥将へと向け、降下。

「うおりゃぁぁぁぁぁっ!」


「ガギィィィイイイィィィッ!?」

 槍が勢い良く突き刺さる。

 響き渡る冥将の悲鳴と、螺旋状に噴き上がる結晶。

 見ると、槍の穂先――螺旋の部分が回転していた。

 

 って、ドリルかよ!


 ……あ、あー、思い出した。

 そういやぁ、ウチの飛行艇の倉庫に眠っていた使い道のないドリルを、えらく気に入ってたからくれてやったんだっけな……

 あれ、どうしたのかと思ったら、こんな風にしたのか……

 

 なんて事を思った直後、冥将が最後の力を振り絞ったかのように、咆哮。

 周囲に振動波めいたものを発生させ、グレンを弾き飛ばす。

 

 そして、無理矢理身を起こすと、漆黒の牙で拘束するアルチェムめがけて一条の細い光線を放った。

 

「アルチェム!」

 クーが気づいて叫ぶが、光線の速度が凄まじく、あっという間にアルチェムに到達した。

 

 ズダンッ! という衝撃音と共に、アルチェムに命中する光線。

 

「くっ!」

 俺は炎を刀に纏わせ、再度冥将に接近し、勢いよく斬る。

 

 炎と斬撃を受けた冥将が、断末魔の悲鳴もなくその場に崩れ落ち、そして灰色の砂となった。

 ……白じゃないという所が気になったが、それよりも今はアルチェムだ。

 

 そう思い、アルチェムの方を見る俺。

 ……だが、アルチェムは特になんともなさそうだった。

 

 駆け寄ったグレンとクーが、

「大丈夫か!?」

「大丈夫なのです!?」

 と、問う。

 

「は、はい……。なんともありません……。どうやら、服の防御魔法で耐えきれたようです……」

 アルチェムが、どこか申し訳なさそうな顔で言う。

 

「そうか……そいつは良かった……。共和国の服屋に、一番性能の良いのを頼む、と言って取り寄せておいて正解だったぜ……」

 安堵の表情を浮かべながらそんな事を言うグレン。

 ……それは実に問題なさそうだな。

 

「どうやら苦し(まぎ)れの一撃は、威力が低かったみたいね」

 そう言いながら近寄ってきたシャルに、

「ああ、そうみたいだ。やれやれ、一瞬焦ったぜ……」

 と返しつつ、鞘に刀を納める俺。


 直後、アルチェムの無事を確認した御者が、戦闘の余波で馬車に問題が生じていないかの点検を行うと俺たちに告げて、先に馬車へと戻っていく。

 

「うーん……どうして『灰色』の砂なのかが謎でやがりますねぇ……」

 いつの間にか近くに来ていた――正確に言うと、いつの間にか(かが)んで冥将の残滓ともいうべき、灰色の砂を触っていたティアが、そんな事を言った。


「それは俺にもさっぱりだな」

 そうティアに答えると、俺は少し離れた所に立っている兵士に歩み寄り、問う。

「過去に、冥界の悪霊――いや、妖魔が灰色の砂になった事ってあるんですかね?」


「そうですね……そのような現象は、この国の長い歴史の中でも一度も起きていないと思いますよ。起きていたら、なんらかの形でその『情報』が残っているでしょうし……」

 少し考えた後、そう答えてくる兵士。

 

 ふーむ……異界の魔物が顕現しやすいこの国で、一度もなかった現象、か。

 まさか、こんな所でそんなのに遭遇するとはなぁ……。実に想定外だぜ、ホント。

冥将との戦いでは何ともなかったアルチェムですが……?


という所で次回の更新ですが、金曜日を予定しています!

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