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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第67話 世界の囲い、暗い報告

「は?」

 

 ――その声は、果たして誰の物だったか。

 俺かもしれないし違うかもしれない。いや、俺たちイルシュバーン組全員の声だったかもしれない。

 ともあれ……急な宣言に対し、皆がまともに反応が出来なかったのだ。

 

 しばらく硬直したままでいると、白牙丸、深月、セツゲツサイの3人が素早く畳に座布団を敷いて回った後、篝――いや、アヤカの方へ軽く頭を下げた。

 

「とりあえず、立ったまま話すというのもなんだし、座るとしようか」

 と言って、座布団の上に座るアヤカ。


「あ、ああ……」

 俺がそう呟くように言いつつ、促されるままに座布団に座った所で、ようやく理解が追いついた室長とエステルが、

「……巫皇(かんなぎのおう)アヤカに近しい人物ではないかとは思っていましたが……まさか、貴方が――貴方自身が巫皇アヤカだったとは、さすがに想定外でした……」

「そうじゃな。巫皇(かんなぎのおう)の娘かなにかじゃろうと思っておったわい」

 と、そんな風に言った。

 

「それでは、篝という名前は偽名なのですか?」

 アリーセがそう問いかけると、その横でロゼが同じ疑問があると言わんばかりに、首を縦に連続して振る。

 

「いいや、篝も私の名前だよ」

 首を振って否定するアヤカ。

 その言葉に、アリーセもロゼも理解出来ずに首を傾げた。

 

「ふむ……。幼名という奴か?」

「うん、そういう事だね」

 アヤカが俺の言葉に頷き肯定する。

 

「幼名……ですか?」

 言われてもピンと来なかったらしいアリーセが俺の方を見てそう問いかけてくる。

 横のロゼも言葉こそ発さないものの、同じく俺の方を見てきた。

 

 ああ、まあそうだよなぁ……。イルシュバーン……というか、フェルト―ル大陸諸国には、そんな文化ないし。

 

「んー、簡単に言うと、元服(げんぷく)っていう成人の儀式……みたいなものをするまでに使われる名前……って感じかなぁ」

 俺の横に座る朔耶が、俺に代わりにそう説明すると、それに納得した様子で頷くアリーセとロゼ。

「なるほど……そのような文化があるのですね」

「ん、なかなか面白い。うん」

 

 ……まあ、どうも地球――日本における元服とこの国の元服は少し異なっているようだが、そこは別の世界なので置いておくとしよう。

 

「む? とすると……じゃ、妾たちに会いたいと言ってきおった、この国のお偉いさんというのは……」

「無論、私さ」

 エステルの問いかけに、胸を張って答えるアヤカ。

 そして一呼吸置いてから、

「今まで国交のほとんどなかった国から人が訪れる……。それは、静かな争いを続けている歪んだこの国にとって、歪みを正す可能性すら秘めた新しい風だからね。是非ともその風をこの身で感じてみたいと思ったのさ」

 てな事を言ってきた。


「ちなみに……今だから語れるけれど、私は蒼夜については、少しだけ話を知っていたりするんだ」

 更にそんな事を付け加えるように言ってくる。

 俺はそれに対して「ん? どういう事だ?」と、問う。


 が、問いの言葉を投げた直後、俺は気づく。 

 俺の知っているアカツキの人間は、ここにいる人間以外だとアヤネさんくらいである事に。

 そして、その名前に。

 

 ……アヤネ……。アヤ……ネ?

 ……アヤ……カ。アヤカ……?


 まさかな……と思いつつも、改めて問い直す俺。

「……いや、まさかアヤネさんを通して……か?」

 

 それに対するアヤカの答えはというと――

「うん、その通りだよ」

 という完全なる肯定だった。……マジか。

 

「アヤネさん――いや、アヤネ姉さんは、アカツキの文字では色彩の『彩』に『音』と書く。そして私――アヤカは、同じく色彩の『彩』に香料の『香』と書く。……まあ、アヤネ姉さんは巫皇を継承する権利は放棄しているから、天宮ではないけれど、ね」

 と、そんな説明をしてくる彩香。……ふむ、どうやら彩音さんは、姉にあたるらしい。

 

「なるほど……。姉である彩音さんから、俺の話――情報を聞いたってわけか」

「そういう事さ。なんだか凄く世話になったそうだね。閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた店を、完璧なまでに……いや、完璧以上なまでに立て直してくれたと、手放しで絶賛していたし」

「……そ、そこまでの事はしていないと思うが……」

 彩音さんは、一体どんな話を彩香にしたんだ……? 

 アリーセが俺の話を他人にする時並に、盛られていたり……は、しない……よな?

 

「まさか……彩音さんが、元アカツキ皇国の皇族の方だったとは思いもしませんでしたね」

「ん、たしかに。でもまあ、うん、名前だけじゃわからないから仕方がない。うん」

 アリーセとロゼがそんな話をする。

 ま、たしかに名前だけじゃわからないよなぁ……

 

「あ、名前と言えばぁ、私の名前、この国の文字でどう書くか教えていないかったわねぇー、私のセツゲツサイは、あー、えーっと……うーん、どうにも伝えづらいわねぇ……」

 セツゲツサイはそう言うと、懐から紙切れを取り出し、そこに筆のようなもの――墨なしで文字を書く事が出来ているので、筆ではないのだろうが――で『刹月斎』と記し、

「こんな風に書くわ!」

 と、言い放ちながら紙切れを見せてきた。


 若干、何故このタイミングでそれをわざわざ言うのか……と思わなくもないが……

 ま、いいか。


「あ、雪と月じゃないんだ」

 と、俺ではなく朔耶が言う。

 ある意味、ごもっともと言えなくもない。

 なにしろ、俺も雪と月だと思っていたしな。

 

「んー、雪は北壁の近くに行かないと見られねぇからな。この辺の人間にとっちゃ、そんなに一般的じゃない事もあって、あまり名前には使わねぇな」

 なんて事を言ってくる白牙丸。

 

「北壁?」

「このグラズベイル大陸の北端にある、東西に延々と連なる『北オウレイ山脈』の事ですね。険しい岩峰と一年中強烈な吹雪が吹いているせいで、徒歩は当然として、飛行艇でも越える事が出来ないため、この国の者にはそのように呼ばれていたりします」

 俺の疑問に対し、白牙丸の代わりにそう答えてくる深月。

 北オウレイ山脈……この大陸の四方にある山脈の、北側の名称だな。

 

「この大陸を囲むオウレイ山脈の内、東西、そして南は飛行艇を使えば越えられる高さだし、強烈な吹雪が常に吹いているなんていう事もないけど、北だけはそんな感じで、とても特殊でね……。誰も越えた事がないんだ。だから、その先に陸地が続いている可能性もある、と言われているよ」

 と、肩をすくめながら言う彩香。

 

「大陸の外――海の方から北へ回ればいいんじゃ?」

 朔耶がもっともな疑問を口にする。

 

「今、深月さんが話した『一年中強烈な吹雪が吹いている』というのは、この大陸の話だけではないんですよ。――この世界全体が、ある特定の地点より北へ行くと、そうなっているのです。ちなみに、逆に南に行くと、今度は凄まじいまでの雷と暴風雨に襲われる事になります。あの中を飛行艇で進むのは、現代の技術では不可能ですね」

 と、朔耶に説明する室長。

 ……つまり、この世界の北端と南端には、事実上の壁があるという事か……

 

 ……ん? 待てよ? そうなると、西と東はどうなっているんだ?

 ふとそう思い、空港で見た航路図を思い出してみる俺。

 ……フェルト―ル大陸から西へ向かうルートがなかったような気がするぞ……?

 

「フェルト―ル大陸の西側もそうなんですか? 大陸から西へ向かう旅客飛行艇のルートは存在していなかったような感じでしたが……」

「いえ、西側は世界の中心と同じく浮遊岩塊群に阻まれている感じですね。昔――飛行艇が生み出されて間もない時分に、とある冒険家が自前の小型飛行艇を用いて、どうにかこうにかその岩塊群突破した事もあり、一応通り抜けられるには通り抜けられるのですが……あまり利点がないんですよね」

 俺の問いかけに、室長がそんな風に返してくる。

 

「あ、それなら知っています。あの有名な冒険物語――『青髪の冒険家』の主人公のモデルとなった人物の偉業のひとつですね。たしか、彼の岩塊群を突破した先が、双大陸の東海岸だった事で、この世界の東と西が繋がっている事が判明したんですよね」

 と、アリーセが横から少し興奮気味にそう言ってきた。

 

 ふむ……。東西が繋がっている事が判明した、か。

 となると、この世界は地球と同様に球形だという事になるが……

 どうにも気になるんだよなぁ……。なんでそんな人の行き来に対する制限みたいなものが都合よく東西南北、更に世界の中心にあるんだ……?

 

 そんな事を思案していると、エステルが腕を組み、室長がした説明への補足を口にする。

「ちなみに、コウの説明に補足するとじゃな……西へ向かう飛行艇ルートがないのは、通る事が可能だとはいえ、そんな危険な所を、客を乗せて飛ぶわけにはいかないから、じゃな。なんせ、旅客用の大型飛行艇ではぶつからぬ方が難しいからのぅ。……まあ、一部の非合法な運び屋はそれを逆に利用して、小型の飛行艇による、双大陸との高速輸送を行っているそうじゃがのぅ」

 

「ふむ、なるほど……たしかにそうだな。にしても、非合法の運び屋なんてのがいるのか」

 と、顎に手を当てながら言う俺。

 

「うむ。飛行艇はまだまだ高価だとはいえ、小型の型落ちであれば、買えない程高いというわけでもないからのぅ。合法、非合法、どちらの運び屋もどんどん増えておる感じじゃよ」

 そう言うと、室長が肩をすくめて、

「まさに、飛行艇の発明が生み出した光と闇……といった所ですかねぇ」

 と、そんな事を言った。

 

「だけど、その飛行艇が発明されるまでは、この大陸はまるで監獄の如く、外界と隔絶されているような状態だったから、この大陸――この国にとっては、良い面の方が大きいかな」

「ん、たしかに山脈に囲まれていたらどうにもならない。うん」

 彩香の言葉に、ロゼが納得して頷く。

 

「一応、『鍾乳大河』――別名、帰らずの水道とも呼ばれる、恐ろしく流れが急で、なおかつ入り組んでいる地下水脈を抜ければ、理論上は、外海まで船で出る事も出来なくはねぇんだがな……」

「そこを抜けられた者は、長い歴史の中でひとりもいないのよねぇ……」

 白牙丸と刹月斎が補足する形でそう言ってきた。

 

「ま、そんなわけでこの国にとっては僥倖(ぎょうこう)というものだよ。飛行艇も、君たちがやってきた事も、どちらもね」

 という彩香の言葉に対して俺は、

「ふむ、なるほど……。……それで? 話が大分それてしまったけど、俺たちと会いたかったのは、こういう話がしたかったわけじゃないだろ?」

 という問いの言葉を返す。


「そうだねぇ。だがまあ……そうすぐに本題に入るのもどうかと思ったし、こういう話がしたかったというのも、少しはあるからね。――本題の方は、可能ならばディンベルの王子殿や、彼の傭兵団の団長殿も交えてしたい所だし」

 と、そんな風に言ってくる彩香。

 

「グレンや蓮司も、となるとなんとなく本題とやらは読めてきたが……まあ、そうだな、ちょっと連絡してみるか」

 俺はそう答えて携帯型通信機を起動する。無論、スピーカーモードでだ。

 

『……ああ、蒼夜か。どうした?』

 程なくして蓮司が通信機に出るが、どうも声が暗い。

 

「実は巫皇と会談……と言えばいいのか? ともかくそれをしていて、グレンや蓮司にも参加して欲しいと言われたんだが……。……えっと……なにかあったのか?」

『ああ……。…………アルチェムが行方不明になった。それも……生きている可能性は絶望的だと言っても過言ではない、そんな状況だ……』


 通信機越しに伝えられた言葉は、とんでもない衝撃をもたらす代物だった。

 そのあまりの衝撃に俺は絶句し、次に言うべき言葉を完全に失う。

 

 そんな俺に代わるようにして、

「……え? え? ど、どういう事!? 一体……一体なにがあったのさ……!?」

 驚き、慌てながらも、そう問いかける朔耶。

 

 それに対し蓮司は、『……ちょいとばかし話が長くなっちまうが……』と前置きすると、今日の……これまでの出来事を語り始めるのだった――

今週は、どうにかこうにか予定通りの更新となりました……


さて、一体なにがあったのか……? 

という所で、次回の更新ですが……来週の火曜日の予定です!

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