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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第60話 冥界のモノ、アカツキの歴史

 扉の先は、機械が所狭しと並ぶ通路だった。

 銀の王(しろがねのおう)が待ち構えていたりしないかと思ったが、そんな事はなかった。


 拍子抜けというか、ある意味予想通りというか……

 あの銀の王(しろがねのおう)は待ち構えているなんて事はしなさそうだからな。

 

 なんて事を考えつつ通路を歩いていく俺の視界の端に、ふと小さな光を感じる。

 そちらへ顔を向けると、側面の壁を小さな光が走り回っているのが立ち並ぶ機械の合間から見えた。あれはたしか……

 

「この壁、アウラセラム……でしたっけ?」

 小さな光に気づいたアリーセが、俺が声を発するよりも先にそう言った。

 アルミナの地下神殿遺跡での、エステルの説明を覚えていたのだろう。

 

「そのはずじゃが……なぜこのような色なんじゃ?」

 と、首を傾げるエステル。

 そう……その光の色は仄暗い朱の光だ。アルミナの地下神殿遺跡のそれとは色が違う。

 そしてその色はというと――

 

「これ、冥界の……あの魔宮のような場所で見た色と同じだな」

 冥界で見た光景を思い出しながら……といった感じで俺がそう口にすると、朔耶が頷いて同意してくる。

「あ、たしかにそうだね」

 

「冥界? 君たち、冥界に行った事があるのかい?」

「まあ、成り行きというか……以前、フォーリア公国へ行った時に、大公宮に異変が起きていてな。それで大公宮を調べてみたら、大公宮と冥界の魔宮のような場所とが、ゲートのようなもので繋がっていたんだ」

 篝のもっともな疑問に対し、俺は顎に手を当てながらそんな風に答えた。

 

「ちなみに、銀の王(しろがねのおう)がやったっぽいね。特異点がどうとかこうとか言っていたし」

 俺の補足をするようにそう言った朔耶の、その言葉に続く形で、今度は篝が顎に手を当てながら言う。

「なるほどね。ローディアス大陸の異変はそこに繋がる感じかな?」

 

 それに対して室長が、

「――ええ、そうですね。まあもっとも、銀の王がローディアス大陸を狙ったのは、特異点が目当てであった事が最も大きな理由ではあるのですが……我々――フェルト―ル大陸の各国で共有されている調査情報によると、他にも大陸全土を使った大掛かりな術式を構築するのにも丁度良かった、という理由もあるようですね」

 と、そんな風に答えた。

 

「ほぉ、各国間でそこまでの情報を掴んで共有までしているとは驚きだぜ。さすがは西の大陸……というべきかねぇ」

「そうだねぇ。ウチもその辺りの情報については、ある程度は掴んでいるけれど、そこまで詳しくはないからね」

 白牙丸と篝が、歓心半分、疑念半分といった様子でそう口にしてくる。

 

 まあ、なんでそんなに詳しいんだ? って思いはあるだろうな……

 向こう――篝たち、アカツキの人間からしたら。

 

「しかし、冥界の代物……ですか。彼の■■■■■――ああいえ、これだと駄目ですね。……彼の領域の代物がここにあるというのが奇妙ですね。これまでの道のりに、同じ物がなかった事も含めて」

 周囲を見回しながら、そんな風に言ってくる深月。

 うーむ……ノイズになった所がやはり気になるな……。まあ、現状ではどうにもし難いんだが……

 

「たしかにそうじゃな。ここまで、アウラセラムすら存在しておらんかったのに、急にここでこんなものが出てくるというのも謎じゃな。……いや、冥界から持ち込んだ技術が、ここで研究されていた……あるいは、既に研究は終わって、何かに使われていた……という可能性もあるのぅ」

 エステルが呟くようにそう言いながら、通路に並べられた機械群を眺める。

 

「冥界の技術ねぇ……。冥界の悪霊を生み出していた……とか?」

「何らかの方法による召喚……あるいは、次元境界の歪みの出現――それが冥界の悪霊が、こちらに顕現するプロセスですが……もしこちら側で生み出す事が出来るようになったとしたら、そのプロセスが省略され、簡単に強力にして厄介な存在を得る事が出来るようになります。……そしてそれが可能となった場合、あちらは、とてつもない戦力増強もまた可能となるでしょうね」

 朔耶の言葉を聞いた室長が、腕を組み、思案しながらといった様子で、そんな風に言葉を返す。


「冥界の悪霊……。この国の人間にとっては、定期的に戦ってきたような相手だし、1体や2体ならそこまでの脅威というわけでもないのだけど……まあ……数を揃えられると、さすがに少々厳しいかな」

「そうだな。もっとも魔獣の数が揃う――つまり、集団で現れるような事は滅多にない……つーか、『百鬼夜行(ひゃっきやこう)常夜(じょうや)』くらいしか、過去に前例はねぇな」

 なんて事を口にする篝と白牙丸。……百鬼夜行の常夜?

 

「その百鬼夜行の常夜っていうのは?」

 気になった俺がそう問いかけると、

「ああ、今から600年前――この大陸がアカツキという名の国ひとつに纏まる前……小国が乱立していた頃の話なんだが、冥界の悪霊どもの大量顕現があったんだよ」

 と、白牙丸が答える。


「でも、小国ゆえに、各国が個々に有していた戦力では冥界の悪霊の軍勢に抗しきれずに、いくつもの国が瞬く間に滅ぼされていったんだ」

「初代アカツキ皇国(かんなぎ)(のおう)でもあるアカツキ様と、そのアカツキ様が率いる『破魔の武士衆』によって、軍勢の将――冥将たちが撃破され、最終的に軍勢の王たる『第三冥魔王ザルヴァ=ガノシャ』までもが討ち取られた事で、残った悪霊の軍勢は冥界へ撤退し、かろうじてこちら側の勝利に終わりましたが……各国の被害は甚大だったと伝わっています」

 篝と深月が続けてそんな風に説明してくる。

 

「んでまあ、その結果、この大陸の人間たちは、再び同じような事があったらやべぇって考えて、争乱の収束の立役者であるアカツキ様を中心に、一つの国に纏まる流れになって、今に至る……つーわけだな」

 白牙丸がこめかみを指で軽くつつきながら、補足するように言う。

 

 なるほど……。この大陸に国がひとつしかないのは、戦乱の果てにどこかの勢力が統一したとかじゃなくて、異界の魔物へ対抗するためだった……というわけか。

 ディアーナが以前――というか最初に出会った時に、この世界の人間には異界という言葉が忌み嫌われている……と言ってたが、なるほどな。

 どの大陸にも、何らかの異界が関わる『忌まわしい災厄』とも呼ぶべき出来事が、過去にあった……という事なのだろう。

 

 なんて事を思っていると、今まで聞く方に徹していたロゼが口を開く。

「ん、そんな事があったなんて、うん、全然知らなかった」

 

「まあ、イルシュバーン共和国は、アカツキ皇国について、これまであまり詳しい情報をもっていませんでしたからね。近年になってようやく文化の理解が広まってきたような状態ですし……」

 そんな風に言葉を返す室長を見ながら、たしかにそうだなと思う俺。

 そのせいでアヤネさんのお店が、最初は閑古鳥が鳴くような状態だったわけだし……


「そういえば、冥将だけど……フォーリアで、血影の冥将ヴァン=ドゥラルとかいうのを倒したよね、私たち」

 と、朔耶が俺の方を見て言ってくる。

 

「ああ、そういえば倒したなぁ……。最後に呪いをばら撒く自爆をしてきたっけな。朔耶がアホな事を言い出してなかったら、危うく呪いに巻き込まれる所だった」

 公都での出来事――セルマを助けた時の事を思い出しながら、そんな風に言う俺。

 その俺の言葉に、朔耶が不満そうな表情で「むう……」と短く唸る。

 

「ヴァン=ドゥラル……。『百鬼夜行の常夜』において、『破魔の武士衆』が打ち破った冥将のうちの1体だね。その『最後の呪い』――即効性のある呪詛のせいで、武士衆の……アカツキ様の懐刀とも言うべき者を含む数名が、解呪する間もなく、命を落としたと伝わっているよ。――ふたりの言葉が本当だとすると、蘇った……といった所かな?」

 腕を組み、思案しながらといった様子で、そんな事を言ってくる篝。

 あいつ、過去に一度倒されていたのか……

 

「ええ。冥界の悪霊は、基本的にはアンデッドを遥かに凌駕する程の強力な不死性を有する存在ですからね……。そう考えるのが妥当ではないかと。あと、今になって再び姿を現した理由ですが……冥界の悪霊は個体によって蘇るまでの期間に遅い早いがある事がわかっています。ですので、ヴァン=ドゥラルは蘇るまでの期間が遅い方である……といった所ではないかと」

 深月が篝の言葉に頷き、そう自らの推測を答える。


 なるほど、そういう性質を持っているのか……

 というか、そういった冥界の悪霊の持つ性質についての詳細な情報を有しているあたりは、幾度となく冥界の悪霊を退けてきた国である、という歴史を感じるな。

 

「あれ? という事は……アルミナの地下神殿遺跡で遭遇した冥界の悪霊も、いずれ復活するんですかね?」

 というアリーセの疑問に、エステルが首を横に振り、

「その答えは否、じゃな。あれは次元境界の歪みから這い出してきて顕現した存在ゆえ、ソウヤとソウヤの同郷の者によって、次元境界が正常な状態に戻された今、あの場に再度現れる事はないじゃろうよ」

 と、否定の言葉を口にした。

 

「同郷の者?」

 小声で問いかけてくる朔耶。

 

「あー、説明が面倒だったからあの時――アルミナではそう答えたんだ」

 そう俺が説明すると、朔耶が納得して頷いた。

「あ、なるほど」

 

「まあ、冥界の悪霊とか、本来は異界に存在しているものだからね。そうそうこちらに――この世界に顕現したりはしないものさ。他の地よりも次元境界の歪みが多いこの大陸でも、大陸全体で年に数回程度だからね。もっとも、十数年に一度くらいの頻度で、歪みが大きくなる時があって、その時だけは、十数回の顕現が起こるけど」

 篝が、エステルとアリーセの話に加わる形でそんな風に言った。


逢魔節(おうませつ)、つー奴だな」

 白牙丸は腕を組んでそう言うと、2度首を縦に振った。

 

「逢魔……か。銀の王がローディアス大陸に仕掛けた『逢魔の封域』と同じ名前がついているのが不思議な感じだな。まあ……『逢魔』自体は、別に特殊な言葉ってわけでもないから被っていてもおかしくはないんだけど」

 そう俺が言うと、

「……んん? 何故に、蒼夜の言葉にノイズが入るのかな?」

 と、首を傾げて問いかけてくる篝。

 ああそうか……認知の問題か。

 

「ああ、それは――」

 俺がその事について説明しようとした所で篝が、

「――待った。話の続きは行く手を阻むモノどもを撃退してからにしよう」

 と、返してきた。そしてさらに自らの得物を構える。

 

 行く手を阻むモノども……敵、か。

 俺は即座にクレアボヤンスで通路の先を視る。

 

 すると、そこには久しぶりとなる存在――2体の《獄炎戦車ヴォル=レスク》の姿があった。

 無論、それだけではないのは、篝の言葉からわかっている。

 彼の戦車が通路を塞いでいるせいで見えないだけだ。

 

 それにしても……通路を塞ぐヴォル=レスク、か。アルミナの時を思い出すな。

 

 ……って! 火球を撃ち出そうとしてきてやがるし! またかよ!?

 

「ヴォル=レスクだ! 火球が2つ来るぞ!」

「まあ……こういう狭い通路に、奴を配置するのは常套手段だよね!」

 俺の言葉にそんな風に返しつつ、アルを召喚する朔耶。

 

「ヴォル=レスク……獄炎戦車か。火球を防ぐ障壁を展開する霊具を使えばいいな」

 なんて事を言って霊具をどこからともなく取り出す白牙丸。

 そんなものまであるのか。さすがに手慣れているというかなんというか……

 

 そう思いつつも、俺は必要ない事を伝えようと――

「あ、火球程度なら霊具で防ぐまでもありませんよ」

 ――伝えようとした所で、アリーセが先にそんな風に言った。何故か自信満々といった感じで。

 

「まあ、撃ち返すしな」

「だね、凍らせるし」

 俺と朔耶が同時にそう口にする。

 

「相変わらずサラッととんでもない事を言うね……」

 呆れた声でそう言った後、白牙丸の方を向き、

「……という事らしいから、霊具はいらなそうだよ」

 と、告げた。

 

 ――さて、それじゃ言ったとおり、ささっと処理するとしようか。

この施設の話もあと少しなのですが、進行が遅くてすいません……


そして、次の更新は来週の火曜日になる想定です。

来週からは週2回の更新に戻せる予定ではいます。……まあ、あくまで予定ですが……

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