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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第59話 移動盤上の襲撃

 深月による術式の解読を待つ事しばし――

 

「お待たせしました。解読が完了しました」

 と、そう俺たちに告げてくる深月。


「おや、思ったよりも早かったね」

「ええ、欺瞞のない素直な術式だったので、解読しやすかったのですよ」

 篝の問いかけに対し、深月がそう答える。


「ふーむ……使いやすいようにそうしておるのか、それとも侵入者を敢えて誘い込むようにそうしておるのか……どちらとも言いづらい感じじゃのぅ、それは」

 そう言って唸るエステルに、

「まあ、たしかにそうですね。とはいえ、進むしかないのですが」

 と、返す室長。


「ん、その通り。それで、もう起動させられる?」

「はい、すぐに起動させられますよ。みなさん、色の違う床――移動盤の上に乗ってください」

 ロゼの問いに答えながら、呪印式移動盤の中央へと移動する深月。

 そしてその深月の言葉に従う形で、俺たちもまた移動盤の上へと移動した。

 

「――では、起動しますね」

 俺たち全員が移動盤の上に乗った事を確認した深月が、そう言って霊具を掲げた。

 直後、すぐに起動させられると言った通り、ガコンという音と共に床が下降し始める。


「おおー、動き出したよ。結構速いね」

 朔耶が上を見ながら感嘆の声を上げる。

 たしかに、結構な速さで下へ下へと降りていっているな。


「うーむ……妾もこの仕組みを解析して、新型エレベーターに取り入れてみたいものじゃのぅ」

「あ、高速エレベーターの構想なら既に開発段階に入っていますよ?」

「なんじゃと!? お主、また妾の先を――」

 同じく見上げていたエステルと室長が、そんな事を言い始めた。


 ……まあ、室長の方が発想とか技術とかの知識の面で有利だよなぁ……

 なんて事を思っていると、 

「この先に銀の王(ぎんのおう)がいるのでしょうか?」

 そうアリーセが問いかけてきた。


「あの機巧竜とかいうのが待ち構えていた上に、他に通路や昇降機の類がなかった事を考えると、その可能性は高いだろうな。戦闘になるかどうかは不明だが……いままでの銀のしろがねのおうとは毛色が違う感じだったし、さっきの会話からすると、逃げる気満々だろうな」

 俺がそう告げると、正面にいた篝が同意するように頷き、

「そうだね。出来れば、銀のしろがねのおうが逃げ出す前に追いつけるといいのだけどね」

 と、そんな風に言った。

 

「ああ、まったくもって同意だ」

 俺が頷きながら答えると、その言葉に続くようにして、

「ん。無いとは思うけど、逆に銀の王(しろがねのおう)自ら奇襲を仕掛けてきてくれたりすると楽。うん」

「まあ、ねぇだろうな。つか、何かが奇襲を仕掛けてくるような気配すらねぇな」

 なんて事を口にするロゼと白牙丸。


 俺もまた、あの遺跡での昇降機上での戦闘を思い出し、念の為にと周囲を見回す。

 だが、特に何の変哲もない金属の壁になっており、白牙丸が言う通り、何か――魔獣などが襲ってくるような事はなさそうだった。

 

 その直後、再びガコンという音と共に床――移動盤が揺れ、下に進んでいたそれが横方向へ進み始めた。

 

「おや? 床の移動が垂直方向から水平方向へと変わりましたね……?」

「あー、そういえばアルミナの地下神殿遺跡の深部にあった呪印式移動盤も、途中から横方向への移動に変わりましたね」

 室長の疑問に対し、あの遺跡での事を話す俺。

 

「む? 何やら天井が高くなったのぅ」

 見上げながら、そう告げてくるエステル。

 同じように見上げてみると、たしかに急に天井が高くなっていた。

 

「……うわ、なんか嫌な予感……」

 と、朔耶がそんな事を言う。

 ……アルミナの時にように、魔獣が襲ってくるという雰囲気ではないが、不必要に高い天井からは、怪しさしか俺も感じなかった。


「何かあるとしたら上……だな」

「うん、たしかに。こういう場所は、うん、上からの襲撃があってもおかしくはな――っ!?」

 俺の発言に対して返事をしようとしたロゼが、その途中で何かに気づき、真上に向かって円月輪を投擲した。

 

 刹那、ギイィィンという金属を切断する音が響き、それに続いて真っ二つになった金属の残骸が降ってくる。

 

 ガチャンという音を立てて移動盤の上に転がったそれを見て、

「これは……オートマトンか……っ!!」

 と、それがなんであるかに気づいた俺が、声を大にして言った。


 無論、それだけではなく、迎撃のためにスフィアも呼び出す。

 あの物量で攻めるための兵器であるオートマトンが、この1体で終わるわけがない。

 

 その予想は正しかったようで、

「来るっ!」

 いつの間にか自らの得物を構え、視線を上に向けていた篝がそう言い放った。

 そして、その言葉の通り、オートマトンが多数――群れと言ってよい規模で、頭上から強襲してくる。

 

「ふっふーん。オートマトンの相手はそこそこ慣れているから、やりやすいよねぇ」

「それはまあ……そうだな」

 なにやら余裕に満ちた朔耶の軽い言葉にそう頷きつつ、魔法でオートマトンを撃墜する俺。

 朔耶もまた、ソーサリーグレネードと、召喚されたアルによる連携攻撃で、オートマトンを薙ぎ払う。

 

「これがオートマトン……。話には聞いていたけど、実物を見るのは初めてだね」

「銃口――穴から撃ち出してくる銃弾という名の(つぶて)に気をつけてください。下手をすると即死しかねない程の威力を持ちながら、視認するのが難しい程の極小さと速さを併せ持っているので、非常に厄介です」

「なるほど……これが銃弾、か。たしかになかなか厄介だね。速い上に小さい。眼で捉えるのに一苦労だよ」

 室長にそんな事を言いつつ、銃弾をバラ撒いてくるタイプのオートマトンの集団へ突っ込んでいく篝。

 そして、銃弾の嵐を越え、何事もなかったかのようにそれらを斬り伏せた。

 ……って『一苦労』するだけで銃弾を捉えられるのか……。とんでもない動体視力だな。


「よもや、あれを全部回避するとは、なんとも無茶苦茶な身体能力じゃのぅ……」

 障壁魔法で飛んできた小型ミサイルを防ぎつつ、ため息混じりに呟くエステル。

 

「ま、集中すりゃ、なんとか見えるな」

「そうですね。小さく数が多いとはいえ、攻撃の軌道自体は矢と大差のない直線的なものですからね。攻撃時の音と光の位置に注視しておけば、見切りやすいです」

 白牙丸と深月もまた、そんな事を言いながら銃弾を回避しつつ、オートマトンを次々に撃破していく。

 

「さすが……というべきなのでしょうかね?」

 やや唖然とした様子で、赤狼隊3人の動きを見ながら言う室長。


「そうですね。まさにこう……モノノフって感じですね。色々な意味で」

 俺は室長に対して、ちょっとだけ呆れた口調でそう言葉を返す。

 すると、「同感」と言いながら、朔耶が頷いてきた。

 

「うんまあ、たしかに。でも、うん、こちらも負けるつもりはない」

 なんて事を言って、篝同様にオートマトンの集団に突入するロゼ。

 そして、巨大化した円月輪を回転しながら振り回す。

 と、放出される霊力の刃がその軌跡に色をつけ、赤黒い旋風を生み出した。

 

「おいおい、なんだよありゃ……」

「あれほどの霊力の刃を生み出すとは……とてつもない霊力の高さですね……」

 赤黒い旋風でオートマトンを吹き飛ばしまくり、文字通り無双しているロゼの方を一瞥しつつ、そんな事を口にする白牙丸と深月。

 もっとも、ふたりともそう言いながら、自分たちも近くにいるオートマトンを薙ぎ払っていたりするのだが。

 

「にしても……倒しても倒してもキリがないね……」

 篝がオートマトンを纏めて壁へと吹き飛ばしながら、ため息混じりに言ってくる。

 

「元々物量が全てみたいな所があるからなぁ……このオートマトンって。こういうあまり広くない場所では有効っちゃ有効だな」

 そう返しながら、融合魔法で直線上にいるオートマトン全てを消し飛ばす俺。


 無論、あくまでも移動盤上――水平に動いており、昇降機というのも変なのでこう呼ぶ――なので、そこまで横幅が広いわけではないため、融合魔法が壁に直撃し、壁に大穴が空く。

 と、その壁の向こう側に妙な空間――ベルトコンベアーのようなものと、その上を流れていく未稼働のオートマトンが見えるそんな空間――があった。

 未稼働のオートマトンが機よりも早い速度で進行方向側へと流れていくのが目に入る。

 というより、こちらの移動盤のスピードがかなり遅いともいう。

 本来、上下方向に動くものが横方向――水平に動いているせいだろうか?

 

 っと……スピードの事はいった置いておくとしよう。

 それよりも……だ。あれを使って、こちらへオートマトンを送りこんで来ているのだろうか?

 

 とりあえず物は試しと、俺はベルトコンベアーのような物に向かってスフィアで魔法を放つ。

 だが、思ったよりも頑丈で1発や2発では壊れなかった。

 

「あれを壊すんですね。手伝います」

 というアリーセの言葉と共に、チャージショットが放たれ、ベルトコンベアーのような物――正確にはその台座部分の装置へと命中。

 既に俺の魔法が当たってバチバチとスパークしていたからか、チャージショットの一撃により、その部分がドォンという音と共に爆発し、黒煙が上がった。

 

 壊れた地点で未稼働のオートマトンの流れが堰き止められる形となり、その場に詰まっていくのが見えたが、そこで乗っている移動盤から開けた大穴が見えなくなってしまった。

 

 まあ、スピードが遅いとはいえ、停止しているわけではないので仕方がない。

 それに……見えなくなっても、どうなっているか状況を確認する手段はあるしな。

 

 というわけで、クレアボヤンスで覗いてみると、詰まっていたオートマトンが稼働し始めているのが視えた。

 ふむ……どうやら、流れが停止すると稼働を開始するようだ。

 だが、そこで稼働し始めた所で、俺達の乗っている移動盤は既に遥か先にいる為、追いつかれる事はない。


 更に予想も正しかったようで、その後数分ほど戦闘を続けた所で、ピタリとオートマトンの増援が停止した。

 しかも、移動盤のスピードが突然加速し始めていたりする。

 ふむ……? オートマトンを送り込む為に、意図的にスピードが落とされていた、といった所なのだろうか?

 

「まさか、並行する場所にオートマトンを送り込むための物があるとは想定外でした」

「しかし、横からじゃなくて上からというのが良くわからないね」

 アリーセと篝がそんな風に言う。

 

 そのふたりの言葉を聞いた朔耶が、

「なんか上の方にダクトみたいなのがいっぱいあるっぽいよ」

 なんていう情報を口にした。

 横でアルがキュピィと鳴いたので、アルから得た情報なのだろう。

 

「つまり、あそこから直接送られて来ているわけじゃなくて、一度上の方へ移動してから送られて来ていたわけか。……随分と変な構造だな」

「もしかしたらですが……この近くにオートマトンを生産している場所があるのではないでしょうか?」

 俺の言葉に、思案を巡らせる仕草をしながら、室長がそう返してくる。

 なるほど……。すぐ近くで生産したものが、そのまま送られてきていると考えるなら、この変な構造もあり得る話だな。

 

「ふむ……たしかにあり得る話じゃのぅ」

 と、エステルが同意するように言うと、ロゼが頷き、

「ん。言われてみると、あれと同じような装置で、うん、オートマトンを生産している拠点を、リハビリの時に潰した。うん」

 などと言ってきた。

 

「リハビリで拠点潰しって、意味がわからねぇんだが……」

 白牙丸が呆れた声でそんな風に言うと、アリーセがそれに同意するように「ええ、まったくです……」と言い、ため息をつく。

 

「ん、そこは気にしない。うん。それより、他に仕掛けがあるかもしれないから、警戒する。うん」

 なんて事を言って返し、アリーセから少し離れるロゼ。

 ……アリーセから何か言われる前に逃げたな。


 ――それから10分もしないうちに移動盤が停止し、目の前……金属の壁だった場所に扉が現れる。

 ロゼの警戒は杞憂に終わり、あの後は特に何もなかった。

 

「ここが終点のようですが……」

「そうだね。この先に銀の王(しろがねのおう)が待っていてくれるといいんだけどねぇ……」

 深月と篝がそんな風に言う。

 

 俺も篝の言葉に同意だが、はてさて……

というわけで、この敵拠点の攻略も大詰めです。


……なのですが、本格的に12月に突入した事もあり、現在年末進行中な状況です……

そのため、今週もう1度更新する事は厳しく、次の更新は来週の火曜日になってしまいそうです……

更に言うと、状況的には来週も週1更新になりかねない感じでして……

実に申し訳ありません…… orz

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