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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第57話 機械じかけの魔獣と銀の王

更新が予定よりも少し遅くなりました……

「ステゴサウルスに似ていますが、足が2つで更に首長……。口が砲門になっており、更に背中の板に見えるものも、全て砲塔……ですか。まさに機械じかけの魔獣といった雰囲気ですね」

「ふむ……。ステゴサウルスというのは良くわからないけど、機械じかけの魔獣……という点については、その通りだね」

 室長と篝がそんな風に言う。


 その話を聞きながら、そいつの全身を見回す俺。

 うーむ……。さっきの攻撃は、あの口の砲門から発射されたと考えて良さそうだな。

 背中に並ぶ砲塔じゃ、あの攻撃を放つのは難しそうだし。


「む……? 歪んでいた魔煌波が正常化しつつあるのぅ。おそらく、今の攻撃は連発は出来るものじゃなさそうじゃぞ」

「うっし、なら突っ込んでみっか」

 エステルの言葉を聞いた白牙丸、そう言うやいなや、扉の先へと一気に突入。

 

 エステルの推測したとおり、先程のビームによる攻撃は来なかった。

 だが、その代わり青白い光球と赤紫の光球が、背中の砲塔から一斉に放たれる。

 

「うおっと!」

 白牙丸は自身めがけて飛んでくるそれらを回避しつつ、壊れた大型の培養槽の裏へと隠れた。

 

 だが、青白い光球は、大型の培養槽への激突を回避するかの如く急にその軌道を変えた。

 大きく弧を描くように飛翔し、回り込む形で白牙丸へと迫る。

 

「めんどくせぇなっ!?」

 悪態をつきつつも、大型の手裏剣――よく見かける物の10倍くらいはある――を取り出し、光球へと投擲。

 

 手裏剣が光球に接触した瞬間、光球が青い靄のようなものを撒き散らしながら、爆発した。

 そして、それと同時に手裏剣がよく見かける大きさになり、落下。床に突き刺さる。

 

「速度の遅い方は追尾性能があるようだな……」

 俺がそう呟くように言うと、

「あの靄、魔煌波の配列をグチャグチャに調律――いや、改変しておるのぅ……」

 と、インスペクション・アナライザー越しに眺めながら言ってくるエステル。


「うん? つまり?」

 首を傾げ問うロゼに、

「触れた魔煌具はまともに動かなくなりそうじゃな。というか、この改変具合……霊力干渉効果も恐らくある感じじゃのぅ……。おそらくじゃが、霊具の性能が大きく落ちたり、霊力を用いた攻撃の威力を弱体化されたりもしそうじゃな」

 と、エステルが答える。要するに魔法封じと霊力の攻撃力ダウンって所か。

 

「うーん……毒や麻痺みたいな身体的に直接影響がある物以外の、状態異常の追加効果がある攻撃とかレアだねぇ」

 エステルの話を聞いていた朔耶が、そんな風に言う。

 

 状態異常の追加効果って言い回しはさておき、たしかに毒や麻痺、それから強烈な眠気を誘う物や、幻惑状態や恐慌状態に陥らせる物みたいなのは、たまに使ってくる害獣や魔獣を見かけるが、魔法を封じるタイプの攻撃っていうのはレアだな。

 

 なんて事を考えていると、白牙丸が、

「なるほどな。手裏剣が元に戻りやがったのは、あれの影響か」

 そんな言葉を発しながら、床を滑るようにして駆け抜け、機械の魔獣へと自らの得物を振るった。

 

 そして、それに合わせるようにして、飛び出していったロゼが円月輪を投擲する。

 直後、ガキィン! という、ふたつの甲高い音が響き、装甲の表面に十字の傷が薄っすらとついた。

 

「おいおい、なんつー硬さだよ……」

「ん、この頑丈さは想定外。うん」

 

「物理が駄目ならこっちで! そりゃー!」

 なんて事をソーサリーグレネードを発射する朔耶。

 ほぼ同時に、アリーセが魔煌弓を構えて魔法の矢を放つ。

 

 が、しかし……

 

「って、確実に当たってるはずなのに、ほとんど効いてないしっ!」

「障壁のようなものの発生はなかったので、直撃してはいるはずなのですが……」

 驚きと困惑の声を上げる朔耶とアリーセ。


 ふたりが口にしたように、たしかに直撃はしていた。

 だが、ほとんどダメージを与えていない。

 周囲の装置や柱が、ふたりの攻撃の巻き添えとなって壊れているのに、だ。

 どうやら、あいつは物理と魔法……更には霊力に対しても高い防御性能を誇るようだな……。

 

「あの赤紫の方も危険な感じかな。着弾した地点にしばしの間だけど、方円型の守護陣に似た、得体の知れない紋様が出現していたよ」

「短剣を投げ入れてみた所、彼の紋様に差し掛かった瞬間、急激に飛翔速度が落ちて床に引っ張られ、そのまま縛り付けられたかのように固まるという、奇妙な動きをしました。恐らく拘束効果があるのではないでしょうか」

 篝と深月がそれぞれの得物を構え、白牙丸の左右に移動しつつ、付け加えるように告げてくる。

 

「拘束……。……たしかにそう言われてみると、先程の赤紫の光球では、私がレビバイクレース用に作った、鈍化や拘束のギミックを作動させる魔煌具に似た、魔煌波の調律パターンが見えましたね」

 などと、いつの間にか水泳ゴーグルのようなものを装着した室長が言ってきた。 

 ああ……そういえば、そんなものあったな。

 

 俺はあのレースの事を思い出しながら、

「なるほどな。ふたつの光球を用いて、魔法と移動を封じてくるってわけか。それだけでもなかなか厄介だが――」

 と誰にともなく呟きつつ、スフィア8個を全て取り出し、機械の魔獣へとそれを向け、一斉掃射。

 

 装甲の表面が盛大に砕け、飛び散る。

 ……が、その程度だった。これではせいぜい小破といった所だ。


「――この頑丈さが、もっとも厄介だ。……なら、こっちではどうだ?」

 再び誰にともなく呟きつつ、俺は融合魔法をふたつ纏めてぶっ放す。

 狙いは背中の砲塔と口もどきの砲門だ。

 

 直撃を受けた砲塔の1つが粉々に砕け散る。


 ……こっちは有効打になったが……


 もう1つ、同じく直撃したはずの口もどきの砲門はというと、外部装甲の一部を砕きはしたが、砲門自体は表面を焦がしただけだった。


 ……なんつー頑丈さだよ、まったく……。

 と、心の中でボヤく俺。

 

「ソー兄の攻撃、さすがに高火力だけあって、私たちの攻撃よりもダメージは入っているみたいだけど……効果抜群! とは言い難いね。うーん、アルの攻撃でも駄目っぽいしどうしたものかなぁ……」

 朔耶がそんな風に言う。

 顔を上に向けてみると、召喚されたアルが砲塔をブレスで攻撃しているのが視界に入った。

 しかし、そのブレスもあまり効いていないようだった。

 

 同時に篝と深月が両足に攻撃を仕掛けるが、こちらも傷をつけた程度だ。

 深月の攻撃が、鋼鉄の脚を若干深く抉っているが、決定打とは言い難い。

 

 というか、シャル以上の霊力の刃であれか……

 一応、連続で斬りつければ、それなりに効くだろうが、それだけで破壊しようとしたら、何百回斬ればいいのか、という話になりそうだ。

 

「まったく……。とんでもない耐久力だな……」

 俺が光球をサイコキネシスで弾き返しつつ、ため息混じりにそう呟くと、朔耶が、

「ヒットポイントと防御力が高すぎだよ」

 などと、床に着弾した光球が生み出した魔法陣のようなものを回避しつつ言い、首を横に振った。

 

 刹那――

『――お褒めに預かり光栄……とでも返させて貰おうかな。なにしろ、赤狼隊の隊長やその懐刀と言えるふたり、そして……幾度となく我々の邪魔をしてくれるイルシュバーンの面々に、そう言わせる事が出来たのであれば、この機巧竜(きこうりゅう)光焔(こうえん)は、とても有用と言えるからね』

 唐突にそんな男の声が、部屋全体に響き渡る。


「っ!? どこから!?」

 素早く周囲を見回す深月。

 俺もまたクレアボヤンスを使って見回すが、どこかに人がいる様子はない。


「ん、気配を感じない」

「ああ、近くには居なさそうだな。気配を遮断している可能性はゼロじゃねぇが……」

 ロゼと白牙丸がそう告げてきた所で、

「おそらく、あの機械の魔獣――いえ、機巧竜なるもののどこかに取り付けられているスピーカーからの声でしょう。要するに、携帯型通信機と同じような仕組みですね」

 と、いつの間にか動きを止めている機械じかけの魔獣――機巧竜を見据えながら、室長が言った。

 

『その通りだよ。僕は今、研究資料をまとめてこの場から離脱する準備で忙しいからね。戦闘をしている余裕はないんだ。……それに、もし君たちに敗北したりしたら、僕の研究の成果が、他の王に自動的に共有されてしまう。……そんな事になれば、僕の研究が僕の物ではなくなってしまうじゃないかっ』

 なんて事を言ってくる声。

 

 ってか、これまた随分と予想外の発言が飛び出してきたな……

 他の王と言っているので、こいつが銀の王(しろがねのおう)のひとりである事は間違いなさそうではあるが……今までの銀の王(しろがねのおう)と比べて口調が軽いな。

 

「……えっと? それはつまり……他の銀の王(しろがねのおう)に情報を――研究成果を渡したくない……と、そういう事か?」

『そういう事だよ。せっかく長い時間をかけて研究し、ここまで漕ぎ着けたというのに、システムに――ディアドコスに取り込まれて終わり、だなんて、もったいないじゃないか』

 俺の問いかけに対し、少し興奮気味にそんな事を言って返してくる銀の王(しろがねのおう)

 

「ディアドコス……。なるほど……それが銀の王(しろがねのおう)たちの間で、情報や技術の共有を行っている代物の名前、というわけですか」

 そう呟くように言った室長に、

『おや……? もしかして、この名前はまだどの王も言っていなかったのかな? まあいいか、時間稼ぎにもなるし、説明しておくよ。ディアドコス――正式な名称を言うならナレッジフィードシステム・ディアドコスだね。僕たち銀の王(しろがねのおう)には、■■■■■■■■■■を利用した■■■■■■■■■■■が埋め込まれているんだよ。そして、これが埋め込まれている個体は、その機能を停止する直前に、■■■■■■■■■■を通じて、ディアドコスに全ての情報と技術がフィードバックされる……という仕組みになっているんだ』

 なんて事を告げてくる銀の王(しろがねのおう)。てか、時間稼ぎとか自分で言ってるし……

 

「うーん……予想はしていたけど、竜の座に至っていない私では、雑音だらけで何を言っているのかまったく聞き取れないねぇ……。ま、深月にはしっかり聞こえているだろうから、奴との話は任せるよ」

 篝が肩をすくめながらそんな風に言って、深月の方を見る。

 だが……

「……それが……竜の座に至っている私でも、ノイズになってしまっていて、さっぱりわかりません……」

 なんて事を言って返す深月。

 

「は? どういう事だ、そりゃ。竜の座とかいう場所に辿り着いた奴は、一部の言葉にかかっている『制限』みたいなもんが解除されるんじゃあねぇのか?」

「そのはずなのですが……」

 白牙丸のもっともな疑問の言葉に対し、深月が困惑の表情を浮かべる。

 

「……なるほど。竜の座に至った者が有する『権限』よりも高い『制約』が適応されるパターンか……」

 シャルの事例を思い出した俺は、そんな風に呟く。

 

 一体どういう理由でそんな事になってしまっているのかはさっぱりだが……銀の王(しろがねのおう)――異界の者たちの方が、持っている知識や情報が多い状態になっている……というのが、実に厄介だな。

 もし、竜の座に辿り着く事が出来たら、まずはこの問題をどうにかしたいものだな。

 可能はどうかは不明だが……と、俺はそんな事を思うのだった――

というわけで、新たな銀の王の登場です。

まあ……今までの銀の王とは、大分違うタイプですが。


次回の更新は、金曜日の予定です。

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