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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第21話 地下神殿遺跡の最深部

 先を歩いて行くエステルに続き、通路を進んでいく俺とアリーセ。


 何度も角を曲がっているが、分岐などはなく通路自体は一本道だ。

 通路の左右に、横穴のある部屋と同じ形状の部屋がいくつもあったが、どの部屋も空っぽで何もなかった。

 

 エステルいわく、

「以前の調査隊が、ここらへんに散乱していた古代の遺物と思われる物は、調査研究のために全て運び出してしまったからのぅ」

 という事らしい。

 

 古代の遺物とやらを見てみたかったが、無いのではしょうがない。

 諦めてひたすら通路を歩いていくと、下へ降りるまっすぐな階段に辿り着いた。

「ここを下りたところが目的の場所――この遺跡の最深部じゃ」

 そう言って階段を下りていくエステル。俺もまたそれに続いて階段を下りていく。

 

 100段近い階段を下りきったところにある扉を開くと、唐突に視界全体に星空が広がった。上も下も、左も右も、全て星空だ。

 

「宇宙……?」

「――を、再現した広間だと言われておる。よく見れば床も壁も天井もあるぞい」

 俺の呟きに対して言葉を続けるかのようにそう告げてくるエステル。

 

 試しに扉の横の空間に触れてみると、たしかに見えない壁がそこには存在していた。

「なるほど、本当に壁があるな。……しかし、よく作ったものだ」

 俺が壁を軽く叩きながらそう言うと、横にいるアリーセが星空を見回しながら感嘆の声を上げた。

「ええ。凄いですね、これ……。たしかに神殿だというのも頷けます」

「ああそうだな。もっとも俺からすると、神殿というよりはプラネタリウムって感じだけど」

「なんじゃ? その『ぷらねたりうむ』とやらは」

 俺の呟きにエステルが耳ざとくそう問いかけてくる。おっと、うっかり余計な事を言ったか……?

 

「あ、ああ。俺の里にある、これと同じような事が出来る道具だよ」

「なるほどのぅ。もう驚きもしないが、そんなものまであるのじゃな」

「という事は、これもプラネタリウムなんですかね?」

「たしかに似ているし、俺もそう思いはしたが……今の時点ではなんとも言えないな」

 アリーセの言葉に俺はそう答える。ま、この世界バージョンのプラネタリウムである可能性は高そうに感じるが、まだよくわからんしな。

 

「たしかにもうちょっと調べてみないと、ですね。――この部屋も調査隊の方々が全て持ち出した後なのですか?」

「いや、この部屋の物に関しては回収不能じゃったから、持ち出されてはおらんぞ」

「え? 回収不能……ですか? それは気になりますね」

 エステルの言葉にそう返すアリーセ。というか、それは俺も気になる。 

「その回収不能だったっていう代物は、どこにあるんだ?」

「うむ、あそこじゃ」

 俺の問いかけに対し短く答え、ある一点――部屋の中央あたりを指し示すエステル。

 

 そちらに目を向けると、そこには大きな半球が宙に浮いていた。

 上の面が平たく、台座のようになっているので、あそこに乗れるのだろうが、かなりの高さに位置しているので、ジャンプして届くようなものではない。

 

「……どうやってあそこまで登ればいいんだ?」

 珠鈴のようにテレポーテーションのサイキックが使えれば簡単に行けるんだが、俺には無理だしな。同じ転位系とはいえ、物限定のアポートやアスポートじゃどうしょうもない。

 

「それは、近くまで行ってみればわかるぞい」

 と、俺の疑問にエステルが答える。何故かドヤ顔で。

「……まあ、行ってみるか」

「ええ、そうですね」

 俺とアリーセは、顔を見合わせてそんな言葉を交わすと、そのまま台座の方へと向かう。


「うおっ! な、なんだ!?」

 台座の真下あたりまで接近したところで、突然俺の前方にある床の一部が水色の光を放ち、そして浮き上がった。

 

 そして、浮き上がる高さと角度を変えつつ次々と螺旋状にそれが連なり、半球の上部へ向かって伸びていく。

「……これは階段……ですかね?」

 アリーセが呟きながらそれを見上げる。

 

 俺もまた同じく見上げ、

「ああなるほど、こういう事か」

 そう呟くように言って納得の頷きをする。

 

「ソウヤはまるで見た事があるような顔をしておるのぅ?」

「おう、見た事があるぞ」

 ただし、昔プレイしたゲームでだがな、と心の中で付け足しておく。

 

「あ、あの、これを登っていくんですか? の、登っている途中で消えたりしないですよね……?」

 不安げな表情をするアリーセに対し、

「心配せんでも、一度出現したら、部屋から出るまでは消えぬから大丈夫じゃよ」

 そう言って階段を登っていくエステル。

 俺とアリーセは互いに顔を見合わせた後、頷いてそれに続く。

 

 階段を登りきり、台座の上――浮遊する半球の上面へとやってきた俺たち。

「へぇ……こうなっているのか」

 半球の上面は、まるでリノリウムの床のようになっていた。 

 中央には石碑のようなものがあり、石碑とその周囲だけは透明な床になっている。

 レストランやホテルなんかで使われる、床ガラスのような感じだな。

 

「あのキューブ、なんでしょうね?」

 アリーセが下を向きながらそう言ってくる。

「ん?」

 アリーセの視線の先、石碑直下数メートルのところに、手に収まる程度の大きさの虹色に輝くキューブが安置されているのが目に入る。

 

「あれこそが、調査隊が回収出来なかった代物じゃよ。この透明な床がおそろしく頑丈での。岩盤を砕くのに使うような上位の爆破系魔法を使っても、傷一つ付けられんかったのじゃ」

 と、俺の横に立ち、同じく下を見ながら言うエステル。

 岩盤を砕く事が出来るほどの破壊力を持つ魔法でも傷一つ付けられないとか、とんでもない硬さだな、この床ガラスもどき。

 

「そうなのですか……。たしかにそれでは回収出来ませんね」

 というアリーセの言葉を聞きながら、ふと思う。

 これ、アポートで引き寄せられるんじゃなかろうか、と。

 あれは物を引っ張るわけじゃなくて、直接転位させるサイキックだから、理論上はこの床も無視出来るはずだ。

 

「――やってみるか」

 そう呟き、手をキューブの方へ向けて突き出す。

「うん? なにをやってみるんじゃ?」

 エステルの言葉を尻目に、俺はキューブを引っ張り出すイメージを頭の中で固めつつ、突き出した手を「よっ!」という掛け声とともに手前へと引き寄せる。

 ――直後、石碑の下にあったキューブが俺の手の中へと現れる。

「お、やっぱり取れた」


「「………………」」


 アリーセとエステルが俺の方を見たまま、硬直する。

 ……と、そこで気づく。

 サイキックに関して、ギルドで話す機会を逸したまま、まだ話していなかったという事に――

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