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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第52話 キメラと隠されし施設

「ギギャァアアァァアァッ!」

「ゲヒィィイイィィイッッ!」


 キメラ――アラクネに似ているが炎を纏った奴と、マンティコアに似ているが尻尾が大蛇になっている奴が、断末魔の叫びと共にその動きを止める。

 ちなみにマンティコアもどきは俺が、アラクネもどきはエステルと室長が、それぞれ相手をしている。


「ん、もう1体も片付いた。思ったよりも弱かった。うん」

「最初、見た目が今まで遭遇したのと少し違っていたので警戒しましたが、実際には今までのと大差がなかったです」

 そう言いながら、ロゼとアリーセが戻ってくる。

 

 そんな俺たちを見ながら、

「俺たちが仕掛ける前に瞬殺たぁ驚いたぜ……。お嬢が高く評価するわけだ」

 と、心底驚いたといった様子で言う白牙丸。

 それに対して篝は、腕を組んで何故か少し得意気に、

「ふふ、だろう?」

 なんて事を言って返した。


 なんで篝が得意気なのかはわからないが……まあいい。

 ……それより、アリーセが言っていた通り、微妙に今まで遭遇した奴と見た目が違うのが不思議だな。敢えて言うなら……女郎蜘蛛や鵺といった日本の妖怪に近い感じだ。

 まさか、この大陸の雰囲気に合わせて変えたのか?

 

 などというアホな推測をしながら、俺は上空にいる朔耶に問う。

「朔耶、上空から見える範囲にいる奴はこれで終わりか?」


「うん、他にはいなさそうだよ。まあ、草むらとかに潜んでいる可能性はゼロじゃないけど……」

 頭上からそう返してくる朔耶。

 エステルが朔耶の言葉を聞き、眼鏡――インスペクション・アナライザーを懐から取り出して装着。周囲を見回し始める。

 そして近くにある岩壁へと視線を向けた所で、「ん?」と疑問を口にしつつ、小首を傾げた。


「どうかしましたか?」

「うむ……どうも、そっちの岩壁に妙な魔煌波の乱れがあるのが気になっての……」

 室長の問いにそう答えながら、岩壁を指さすエステル。

 

「うーん……特にこれといって怪しい所はなさそうなだけどねぇ……」

 腕を組みながら岩壁を見て言う篝に対し、

「ん、幻影魔法で隠蔽されていると思う。うん。というわけで、ソウヤ――」

 と言って、ロゼが俺を呼ぶ。

 

 クレアボヤンスを使えって事だろう。

 まあ、言われずとも既に視ているし、ちょうど発見した所だ。

「――ああ、これか。たしかに、あの岩壁の中間あたりに空洞があるな」


「中間……行くのが厄介ですね」

 という深月の言葉に続くようにして白牙丸が、

「俺がそこまで登ってこいつを――ハシゴを設置しよう。どの辺りだ?」

 背嚢型の次元鞄から縄梯子を丸めた物を取り出しながら、そう言って俺を見る。


「それでしたら、あそこまで飛ばしますよ」

 俺がそんな風に返すと、白牙丸が首を傾げた。

「飛ばす?」


「蒼夜が持つ他者を転移させる異能の事だと思うよ」

 俺の代わりに、篝がそう説明する。

 

 白牙丸は顎を右手で撫でながら、

「あー、そういやぁお嬢と同じく異能者がいるっつー話だったっけな……」

 と、呟くように言って俺の方を見てきた。

 

「そういうわけで、早速飛ばしますけど……いいですか?」

「ああ、いつでもいいぜ」

 俺の問いかけにそう返してくる白牙丸。

 

 ならばという事で、俺は早速アスポートを使い、白牙丸を空洞のある部分へと飛ばした。

 そして程なくすると、白牙丸が岩壁から顔を出す。

 ……こういっちゃなんだが、岩壁に顔から下が埋まっているみたいに見えるな……

 

「こいつが幻影魔法って奴か。たしかにこれじゃ外からはわかんねぇな」

 と言いながら、縄梯子を設置する白牙丸。

 そして、それを少し揺すって安全性を確認すると、

「……うっし、ばっちり固定されてるな。皆、登ってきてくれ!」

 と、そう告げてきた。

 

「ん、このくらいならジャンプでいける。うん、先行する」

 なんて事を言うなり駆け出し、縄梯子を使わず、跳躍で一気に白牙丸の横まで行くロゼ。


「おいおい、なんつー跳躍力だよ……」

 白牙丸がロゼの方を見て、呆れた顔で肩をすくめる。

 

「さすがの私も、あそこまで一足飛びには行けないなぁ……。やはり西の大陸の学院は興味深いね……」

 などと、さっきと同じ事を呟きつつ、縄梯子を登っていく篝。

 

「あれはロゼが特殊すぎるだけな気がするぞ……」

 篝に続いて縄梯子を登りながら、俺はそんな風に言って返す。

 

「ええ、その通りです。ここにいる4人が特殊なだけで、学院生の全てが高い身体能力や戦闘能力を持っているわけではありませんよ」

 なんて事を、俺に続いて登ってくる室長が言ってきた。


 4人全員が特殊な存在だと言うのは、まあ……うん、否定のしようがないな……

 

                    ◆


「まさか、山の中にこんな物が建造されているなどとは、思いもしなかったよ」

 篝が周囲――プラスチック……のような感じだが、妙に弾力性のある良くわからない何かと、これまた何だか良くわからない薄っすらとピンクがかった金属を使って作られた壁や床、そして天井を見ながら言う。

 

「この建材……見た事がありませんね」

「そうじゃな。少なくとも、イルシュバーン――いや、フェルトール大陸のどの国でも使われてはおらん代物じゃな」

 アリーセの発言に頷き、そう返すエステル。

 

「敢えて言うのであれば、学院の地下に広がる古代遺跡を詳しく調査した際に発見された、様々な遺物に使われていた素材に似ていますね……」

 と、壁を触りながらそんな風に言う室長。

 そして、そのまま目を閉じると、

「それと……ですが、この先に銀の王(しろがねのおう)のひとりがいる可能性が高いですね。――例の、あのパワードスーツのような甲冑を鎧った者が視えましたから」

 なんて事を、ついでに言っておくみたいな感じで、サラッと口にしてきた。

 

「うわぁ……いきなり大ボス――あ、いや、もう中ボスかな?」

 朔耶がそんな風に言う。大ボスから中ボスに格下げかい。

 まあ……実を言えば、俺もちょっとそんな風に思っていたりするけど。

 

銀の王(しろがねのおう)……。竜の御旗に協力し、西の大陸のみならず、東の大陸や、はるか南方の大陸でも暗躍しているという者たちの総称……だね」

 篝が顎に手を当てながらそう口にすると、それを聞いていた白牙丸が、右の拳を左の手のひらにパシッと打ち付け、そして言葉を返す。

「ついにそいつらが、この大陸――このアカツキにも姿を見せたっつーわけか」


「まあ、この戦力であれば撃退する事は難しくはないでしょう。――ですよね?」

 深月がこちらを――俺たちを見回しながら言ってくる。

 

「ん、銀の王(しろがねのおう)とか、何度も交戦している相手だから問題ない。うん」

 と、そう答えたロゼはというと、実はリハビリという名目の単独行動時に、俺たちの知らない所で1回倒しているそうだ。

 アリーセが「また勝手にそんな事を!」って起こっていたっけな。


 なんて事を思い出しつつ、俺はロゼに頷き、

「そうだな。ただ、冥界の半不死の魔物を召喚されると厄介なんだよなぁ……。あれ、倒せないし」

 そんな風に同意の言葉を紡ぐ。

 と、それを聞いていた篝が、半不死の魔物というのはどんな奴なのかと問いかけてきた。

 

「ラゾス=ディラードという名の骨の魔物だ。粉々に砕いても再生しちまうんだ。一撃で完全に消滅させればどうにかなるんだが、それをするのは、なかなかに難しくてな……」

 そう説明する俺。

 おそらく融合魔法を使えば倒せるだろうが、何度も召喚されたら、スフィアの魔力の方が先に尽きてしまうからな……

 

「ラゾス=ディラード……。この国では『屍骸龍』と呼ばれていますね」

 補足するかのうようにそう篝に告げる深月。

 どうやら、アカツキでは呼び方が違うようだ。何故かはわからんが……

 

「ああ、なるほどね。それであれば倒す為の霊具があるから大丈夫さ」

「え!? アレを倒す霊具なんてあるの!?」

 篝がサラッと口にした発言に驚き、そう聞き返す朔耶。

 まあ、俺も同じく驚きだが。

 

「なんだ? 知らねぇのか? 『屍骸龍』は、アカツキの長い歴史の中で、何度か国内に顕現していてな。最初は対抗手段がなくてなすがままな感じだったんだが、様々な試行錯誤の末、ああいった敵性霊体を浄化する霊具が生み出されるに至ってな。今では顕現した所で、大した事のねぇ存在になってんぜ」

 などと白牙丸が説明してくる。

 

「そ、そうなんだ……知らなかった」

「まあ、我々の居た地は、そういった物が出るような所ではありませんしね」

 朔耶の言葉をフォローするようにそう言う室長。


「うん? なんでそんなに簡単に異界の魔物が? うん、顕現しやすい?」

「実はですね……この大陸は他の大陸よりも、次元の境界線が曖昧だと言われている場所が圧倒的に多いんですよ。それこそ、文字通り桁が違います」

 ロゼの疑問に対し、深月がそんな風に答える。

 

「うむ。そしてそういった地では、大昔から異界の魔物が幾度となく顕現していてね、それらを討伐するまでの顛末がお伽噺になっていたりするくらいなんだ」

「ああ……それで、アカツキ固有の呼び名があるんですね」

 篝が付け足すように言った内容に、アリーセが納得した顔で返す。

 なるほど、そういうわけか……と、俺も心の中で納得の言葉を呟く。

 

「異界の魔物への強力な対抗手段を持つ国……のぅ。異界の魔物を戦力として使っている銀の王としては、厄介な存在だと思っておるじゃろうなぁ……」

「ええ、そうですね。だからこそ何かを仕掛けてくるのは必然だと言えるでしょう」

 エステルと室長が小声でそんな事を話すのが聞こえた。

 

「……っと、リザードマンとサハギン――いや、そいつらもどきの混成集団が、すぐ間近にまで迫ってきているな……」

 俺はクレアボヤンスで視えた光景を皆に伝えつつ、スフィアを呼び寄せる。

 

「どっちも鱗付きだね。水辺の多いこの国らしい……かな?」

 という朔耶の言葉を聞いた篝が、

「ふむ……良くわからないけど、たたっ斬ればいいのかな?」

 などと言って刀を鞘に手をかける。

 

「斬っても良いですが、どちらも頑丈な鱗を持つ上に、その身体は結構な弾力性があります。魔法の類で仕掛けた方が倒しやすいと思いますよ」

「なるほど……。それならばこっちか」

 室長の助言を聞き、篝は懐から扇子を取り出した。

 

 扇子……? エメラダが使っていた物のように巨大化したりするんだろうか?

 と思ったがそんな事はなく、広げられたそれは、大きさも見た目も普通の扇子そのものだった。

 

 だとすると、あれ自体が魔法的な攻撃が出来る霊具って感じか……

 

 そうこうするうちに、リザードマンもどきとサハギンもどきが目に見える位置にまで接近してきた。

 

 迎撃の為にスフィアを構えた直後、篝が扇子を下から上へと振るう。 

 と、その刹那、振るわれた扇子に呼応するようにして、扇子から紫色に光る蛇のようなものが複数体生み出され、それらが宙を滑るかのようにして、リザードマンとサハギンの群れへと襲いかかっていった。

 

 剣を手にしたリザードマンもどきと、刀を手にしたサハギンもどきがそれを迎撃しようとするが、振るわれた武器は紫色に光る蛇をすり抜け、空を切るだけに終わる。

 それれどころか、すり抜けた蛇に食いつかれ、その身体が暴れ狂うかの如き電撃に包まれた。

 

 程なくしてその2匹は、断末魔の叫びと共に地に倒れ伏し、動かなくなる。

 そしてそれを皮切りに、紫色に光る蛇たちが次々にリザードマンもどきや、サハギンもどきへと食らいついていき、同時に放たれる強烈な電撃によってそれらを打ち倒していく。

 

「な、何だか凄いですね……。あれは?」

「あれは霊的な力によって生み出された式神――『紫電蛇』だね。ちなみにこの扇子はあれだけじゃなくて、こういう式神を生み出せるんだ」

 篝はアリーセの疑問に対してそんな風に返すと、再び扇子を振るった。今度は横に、だ。

 

 次の瞬間、紅蓮の炎を纏った無数の小さな鳥が生み出され、蛇を追うようにして、一直線にリザードマンとサハギンの群れへと襲いかかっていく。

 そして、その多数の小さな鳥の襲いかかられたリザードマンもどきと、サハギンもどきたちが、苦悶の叫び声と共に焼き尽くされていった。

 これまた凶悪だな……

 

「これは『灼熱鳥』っていってね。触れた物を燃やす鳥型の式神さ」

 そう説明してくる篝に、俺は腕を組みながら言う。

「なるほど……。要するに式神を生み出す霊具ってわけか」


「そういう事だね。ああ、一応普通に扇子としても使えるよ」

「それは便利……なのか?」

「ま、暑い日とかには便利さ。――さて、次はそちらの番かな?」

 俺の発言にそう返し、スフィアへと視線を向ける篝。

 

 ふむ……。ここまでの物を見せられたのなら、こちらもそれ相応の物を見せないと駄目だよな!

 などと、そんな事を思う俺だった。

今回は、若干長めでした。

もうちょっと手前で区切っても良かったかな……? と、少し思ったりもしています。


と……それはそれとして、次回の更新は来週の火曜日を予定しています。

引き続き週2更新が続いていて、実に申し訳ない…… orz

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