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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第51話 ミスミ山へ

「――龍脈の異常……のぅ。たしかに霊具は魔煌波だけではなく、龍脈を流れる霊力の一種とも言うべき力を使っておる以上、龍脈に異常が発生すれば、その影響をまともに受けるのは分からなくもない理屈じゃな」

 ミスミ山への道すがら――というか船の上で、シャルの言っていた事を皆に話し終えた直後、エステルが腕を組み、納得した様子で言葉を紡いだ。


 室長が、そのエステルの言葉に同意するように頷き、そして言う。

「そうですね。そこが霊具の欠点とも言えるでしょう。もっとも……逆を言えば、現在のローディアス大陸のように、何らかの要因で魔煌具が使えない状況下になっても、効果や継続時間などが劣化するものの、ある程度は使用する事が出来るという利点もありますが」

 

「……現在のローディアス大陸の状況については聞き及んでおりますが、似たような事がこの大陸でも起きている……という事なのでしょうか?」

「……ん、銀の王と繋がりのある『竜の御旗』が暗躍している以上、うん、ディンベルの時と同じように『楔』とやらを仕込もうとしている可能性は大いにありえる。うん」

 深月の口にした疑問に対し、ロゼが額の冠状の角を撫でながら、そんな風に返した。

 

 俺もロゼと同意見だ。だからこうしてミスミ山まで調べに行くわけだしな。

 まあ……建前上は、甘玄天花が入手困難な現状をどうにかするため……なんだけど。

 ……いや、エステルにとっては、そっちがメインの目的と言えなくもないか。


 そんな事を考えながら船上から見える周囲の景色に視線を移す。

 船はいつの間にか街とその先に広がっている湿地帯を抜け、山間部へと至っていた。


「なんだか、周囲の景色が急に変わりましたね」

 アリーセが周囲を見回しながら言う。

 

「ああ、湿地帯を抜けたら一気に山間の渓流といった雰囲気になったな」

「なんだろう……見慣れた感があるっていうか、凄く懐かしい感じの山林だよねぇ」

 俺の言葉に続くようにしてそう言ってくる朔耶。

 

 そう言われてみると、日本だったら山の方へ行けばすぐに見られる光景ではあるな。

 俺は他の面々と違って、こちらの世界に来てからそこまで経っていないんだが、懐かしい感じがするのはたしかだ。

 

「ま……こういった光景はこの大陸独自のものだからね。この大陸で生まれ育った者であれば、懐かしさゆえに、誰でもそう思うのではないかな?」

 なんて事を篝がこちらに近寄りながら言ってきた。


 無論、俺はこの大陸で生まれ育ったわけではないのだが、日本の風景と酷似している事もあり、たしかに懐かしさはあった。

 なので俺は篝に対して頷いてみせると、

「んー、まあ、たしかにそうかもしれないな」

 と、同意するように返事をした。


「んん? 今、先の方に屋根のようなものが、うん、一瞬見えたような気がする……。うん」

 というのロゼの声に釣られる形で川の先を眺める俺。

 

 ……だが、目に見える範囲にそれらしいものはない。

 ふむ……ちょっと『視て』みるか。

 ロゼは身体能力だけじゃなくて、視力も優れているから本当にそれが見えた可能性は高い。

 

 そんな風に考えた俺は、早速クレアボヤンスを使い、ロゼが視線を向けている方を視てみる。

 すると、日本の山間部で良く見るような川岸の崖に沿う形で、これまた日本で良く……見かけたりはしないが、ある意味日本の伝統的な建物だといえなくもない茅葺き屋根の家が、連なっているのが視えた。

 なるほど、ロゼが一瞬見えたのはこれか。

 

 ん? 良く見ると集落の奥に、木で作られた白い鳥居もあるな。

 まあ、鳥居というと朱色のイメージが強いが、日本にも白い鳥居や黒い鳥居は、割と普通にあったりするので、この世界特有というわけではないが。


「ロゼの言う通り屋根――茅葺き屋根の家が立ち並ぶ集落と……鳥居があるな」

「うわぁ、鳥居とか更に懐かしい感じがするよ。さすがに茅葺き屋根の家は、直接目にした事はないけど」

 俺の発言に対し、朔耶が懐かしそうにそんな事を言ってくる。


「鳥居……ですか。写真では見た事ありますが、実物は見た事がないので、少し楽しみですね」

 というアリーセの発言に続くようにして、篝が説明の言葉を発する。

「その鳥居の後ろにそびえる山がミスミ山だよ」


「おおっ! 甘玄天花の産地じゃな! ついに辿り着いたわい!」

 いやいや、まだ船に乗ってから1時間も経っていないんだが……などと心の中でため息をつきながら、俺は鳥居の後ろにそびえる山を眺める。


「ふーむ、なるほど……この山がそうなのか。あまり高くなさそうなのが幸いだな……」

 と、そう呟くように口にした所で、鳥居の近くに桟橋があるのに気づいた。

「ん? 桟橋に誰かいるな……」

 桟橋を管理している人だろうか? と、そんな風に思った俺は視線を向けよく視てみる事にする。


 すると、桟橋にいたのは、狩人っぽさと赤狼隊の隊士っぽさが混ざったような……そんな装束を身に纏った、室長と同じくらいの年齢と思しきカヌーク族の男性だった。

 うーん……明らかにこちらの船を待っている感じだな……。

 

 もしやと思い、俺は横にいる篝に、その人物について話してみる。

 

「いやはや、そこまできっちりくっきり視えるとは、なかなかに凄い異能だね」

「まあ、昔はここまでじゃなかったんだけどな……っと、それはいいとして……あの桟橋で待っているのは赤狼隊の人間って事でいいのか?」

「そうだね、私にはちょっと見えない距離だからあれだけど、おそらくその者はビャクガマルで間違いないと思うよ。ちなみに、白い牙と書いてビャクガ。……マルは言わなくてもわかるかな?」

 何故、そんな問いかけをしてきたかは不明だが、さすがにこの国に漂う日本的な雰囲気から考えれば、マルに当たる漢字――アカツキ文字は1つしかない。


 というわけで、俺が頷くと、続くようにして朔耶も頷いた。


「……あの、すいません、私はわかりません……」

 そう答えたのはアリーセだ。

 まあ……こればかりは、ディアーナの施した全ての言語云々があっても無理だよなぁ。


「ああ、それなら多分こうだ」

 俺はメモ用の紙切れに『白牙丸』と書く。

 

「そうそう、それだよそれ! いやぁ、実はマルの字をど忘れしてしまってねぇ……」

 などと言ってくるくる篝。


 ……何故、マルについて問いかけてきたのか不思議だったが……ど忘れしたってのが理由だったようだ。

 なんとなく朔耶の方を見ると、思ったよりもしょうもない理由だった……と言いたそうな顔をしていた。俺も多分同じ顔をしているかもしれない……


 そんな事を考えていると、アリーセが胸ポケットからペンを取り出し、

「……え、えーっと……こうですかね?」

 と言いながら、俺の持つ紙切れに『白牙丸』と漢字で書いた。

 無論、これも正確に言えばそう見えているだけなのだが。

 

「おや、アカツキ文字を読めるだけじゃなくて、書く事も出来るのかい?」

「え、あ、はい。まあ、一応……ですが」

 篝に対しそう答えるアリーセ。


 一応と言ったのは、本当にアカツキ文字で書いているわけじゃないからなんだろうなぁ……

 とてもとてもそんな事を言いたそうな顔をしているし。

 

「その白牙丸さんって人は、この先の集落に住んでる人――あるいは、駐在している人なの?」

 という朔耶の言葉に対し、篝はそちらへ顔を向け、

「いや、違うよ。単にあの集落の長に、我々が山へ立ち入る事を先に伝えに行って貰っただけさ」

 と、言った。

 

「ああなるほど……そういう事か。それで、このまま同行する感じなのか?」

「うん、白牙丸は山林での活動に長けた技術を持っているからね。今回の調査にはうってつけだと思うよ」

「へぇ……そうなのか。それは心強いな」

 篝の説明にそう答えつつ、白牙丸を良く視てみる俺。

 ふむ、なるほど……。たしかにあの装束は、山林で活動するのに良さそうな感じだな。

 

 てな事を思ったり話したりしている間に、船は桟橋へと到着。

 待っていた白牙丸と合流する俺たち。

 

「――お嬢、深月、そして西の大陸の学生さんたち、船旅おつかれさん」

「白牙丸、集落の長はなんて?」

「山に入るのは全然問題ねぇから好きに入ってくれって言ってやしたよ。つーか、逆に是非とも山の異変をどうにかして欲しい、って頼まれちまいやした」

 白牙丸は篝の問いにそう答え、肩をすくめてみせる。

 

「ならば、軽く休憩を取った後、ミスミ山の登山口へ向かうとしようか。先導は任せても良いかい?」

 という篝の再びの問いに対し、白牙丸は頷き、

「へい。討獣士のモンから面妖な害獣が出没した主だった地点について、聞いておいてありやすんで、任せてくだせぇ」

 と、力強く答えた。

 

 どうやら先に情報収集済みらしい。さすがは篝率いる赤狼隊って感じだな。

 

                    ◆

 

 そんなわけで……軽い休憩の後、鳥居の先――小さな神社の境内にある登山口からミスミ山へと足を踏み入れた俺たちは、白牙丸を先頭にひたすら山道を進んでいく。

 

「ここが、例の面妖な害獣の出没した地点の1つ、だそうですぜ」

 少し開けた場所に出た所で、そんな風に言って立ち止まる白牙丸。

 

「――それらしい気配は感じませんね」

 という深月の言葉に、

「ああ、一昨日討伐したばっかりらしいかんな」

 と、そう答える白牙丸。

 

「ですが、ここに出没したのであれば、近くに何かあってもおかしくはありませんね」

 室長がそう言うと、エステルと朔耶が、

「そうじゃな。ちょっとばかし調べてみるかのぅ」

「あ、それなら私は上空から調べてみるよ」

 そんな風に言葉を返した。

 

「上空?」

 と呟くように言い、首を傾げる篝の前で、アルを召喚する朔耶。

 

「キュピィ!」

「これは……召喚……っ!?」

 現れたアルに驚く篝。

 

「そういえば、討獣士ギルドから召喚士が街を訪れているという情報が来ていましたが……なるほど、朔耶さんの事でしたか」

 深月がそう口にして、納得した顔をした。

 

「あ、そう言われると篝さんたちには説明してなかったかも……」

「ソウヤの異能にも驚かなかったお主がそこまで驚くとはのぅ」

 朔耶とエステルがそんな風に言う。

 

「昨日も言ったけど、異能は私自身も持っているからね。そこまで珍しいというものではない……という感覚なんだよね、私には」

 篝はそこで言葉を区切ると、アルの方へと顔を向け、

「だけど……召喚はというと、私は当然行使する事など出来ないし、この国に召喚を行使する事が出来る者――召喚士がいるという話も聞いた事がない。だから、それを目の前で使われれば、さすがに驚くというものだよ」

 と、腕を組みながら続きの言葉を紡いだ。

 

「にしても……上空から調べるっつー話だったが、ちょっと小さくねぇか?」

「あ、それなら大きくなれるから問題ないよ」

 朔耶は白牙丸にそう返し、アルを大きくしてみせる。

 

「お、おお……。こいつぁたまげたぜ……。召喚士ってーのはすげぇな」

「まあ、召喚士が凄いっていうか、アルが凄いんだけどね」

「キュピッ!」

 朔耶の言葉に対し、アルは喜びを示すかのように、その翼を軽く羽ばたかせた。


「じゃ、そういう事で上から見てくるね」

 朔耶は俺たちにそう告げると、アルの背へと飛び乗り、そしてそのまま空へと舞い上がっていく。

 

「うーん……。なんというか、本当に西の大陸の学院は興味深いねぇ……」


 篝がその様子を見ながらそんな事を呟くのだった。

実は今回の話、最初の想定では集落で終わる流れでした。

そして、そこから(この先)1~2話くらい集落での出来事が挟まる感じだったのですが……

単に展開がスローペースになるだけでしかないな……と思い直し、ばっさりカットしていたりします(この章は、まだまだ先が長いですし……)

そんなわけで集落はただの通過点に……


さて、一気に山の探索に入りましたが、次回の更新は金曜日を予定しています。

相も変わらず週2更新状態が続いてしまっていて、申し訳ない限りです…… orz

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