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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第48話異譚 朔耶は見た! 聞いた! 止めた!

<Side:Sakuya>

「アルの偵察によると誰もいない感じだったけど……アリーセが入っていそう。少し前に来たばっかりかな?」

 脱衣所を見回し、そんな事を呟きながら大浴場への扉を開ける私。

 

 ちなみに目的は、露天風呂っ!

 さっきは男の人が結構いたから、行きづらかったんだよねぇ……

 まあ、エステルとロゼは気にせず突撃してたけど……

 さすが! そこにシビレ……も、憧れもしないけどねっ!


 などという事を考えながら、大浴場に入るも―― 

「……あれ? アリーセがいない」

 中にいるはずなんだけど……あ、もしかして露天風呂の方かな?


 うーん……。外は暗くて中からだとよく見えないなぁ……

 って、あれ? あそこの窓ガラス、曇ガラスだったような……なんで普通の窓ガラスになっているんだろう?

 あれじゃ、外から中が丸見えな気がするけど……。こちら側からは、外が暗いのと大浴場の照明の光が反射しているのとで、いまいち良くわからないから、あまり問題ではないけど……


 ……よくわからないけど、時間帯によって変わるとかなのかな?

 と、そんな感じで私は私自身を一旦納得させると、とりあえず露天風呂へと向かう。

 

 ……って、ちょっと肌寒いかも……

 うーん、中の方で温まってから来るべきだったかなぁ?

 

 アストラル構成成分……という言い方が正しいのかは不明――まあ、多分違うと思うけど、とりあえず擬似的な肉体の構成に回している『それ』を薄めれば、寒さとか関係なくなるんだけど……それはそれでちょっとなぁ……

 

 というわけで、露天風呂へ向かって足早に移動し――

「――あ、あの、サクヤさんとは一緒にこうやって温泉に入った事が何度もあるのですか!?」

 ……移動しようとした所で、そんな声が聞こえて来た私は急停止。

 

 ……仕方ない、霊体の割合を引き上げよう……

 

 若干幽霊に近い状態となった私は、歩いても足音がしなくなった。

 ついでにお湯に入る時も水の音がしない!

 ……まあ、実際には浸かっていないというか、お湯すら透過しているから、暖かさはまったく感じないんだけどね。外気の冷たさも感じないけど……あはは……

 

 などという自虐めいた事を心の中で呟きつつ、気を取り直してそそくさと岩陰に隠れる。

 

「え、えーっと……」

 ソー兄の声が聞こえてくる。

 

 ……ソー兄とアリーセだけっぽいね。

 っていうか……どんな話の流れでこうなってるんだろ?

 

「まあ……こういう混浴タイプの温泉では一緒に入った事があるな。……もっとも、1回しかないけど」

 と、ソー兄。

 

 ……1回? 5回くらい一緒に入った気がするけどなぁ。

 ま、5回入りましたっていうのもなんか恥ずかしい気はするし、嘘をつくのも、わからなくもないけどね。

 入っていないと完全な嘘をついているわけじゃないあたりが、ソー兄らしい。

 

 にしても……よく考えると、ソー兄とは割と普通に一緒に温泉に入っているかも……

 なんかこう……ずっと一緒にいるから、最早、家族と変わらないというか……


 って、あれ? こう言うとまるで夫婦みたいな感じに聞こえる……ような……?

 ………………ち、違うよ! 全然違うよ!? そういう意図じゃないよ!?

 

 などと、誰に対して弁明しているのかさっぱり分からないほどに、パニくる私。

 そんな私をよそに、ソー兄とアリーセの会話が続く。

 

「そ、そうなのですか……。それはその……遊郭で行われるような事をサクヤさんと――」

 ってぇぇ! 何を言い出しているのさぁぁっ!?

 ……ちなみにそんな事はしてないよ? ホントだよ?

 

「待て待て待て! なんでそんな発想になったんだ……!? 昼間のアレをまだ引きずってんのか……?」

「……そ、そそ、そうかもしれませんねっ!? 何を言っているんでしょうね!?」


 ホントだよ、まったく……と、揃って慌てるふたりの様子を、岩陰に隠れながら眺めつつ思う私。

 

「そ、その……なんだか急に心の中がモヤモヤしてきて、変な事を口走ってしまいましたっ! わ、忘れてくださいっ!」

「あ、ああ……。まあ別にいいが……。っていうか、近い!」

 ソー兄が、ずずいっと迫りながら言ってくるアリーセに対し、温泉に浸かりながら後ずさりつつ、頷く。


 ちょっ! なんかふたりの距離近すぎっ! 顔近すぎっ!

 

「はうあっ! す、すいませんっ!」

 指摘されたアリーセが、慌てて下がる。その顔は真っ赤だ。


 アリーセが顔を真っ赤にしたまま沈黙する。

 

 ……う、うーん、どっちも何を話していいのかわからない……と、言わんばかりの雰囲気が漂っているねぇ……。もっとも、そりゃそうだろうって話ではあるんだけどさ……

 

 などと思いながらしばらく眺めていると、なにやらアリーセが意を決したかのような表情を一瞬見せた後、

「……わ、忘れてくださいと言っておいてあれですが……でも、え、えっと……その……ど、どうしても気になる事が1つあって……そ、その、サクヤさんとソウヤさんは、凄くお互いを良く知っていて……そ、そういう事をしていてもおかしくないと言いますか、なんだか長い間連れ添った夫婦的な雰囲気があるのですよね」

 と、しどろもどろになりつつ口にした。

 表情も、意を決した感は既にないというか……普通に混乱気味だね。自分でも何を言っているのか分かってない気すらするよ……


 そ、それにしても……今、アリーセが言ったのって、さっき私が思った奴だよね!?

 え、えーっと……ソ、ソー兄はどういう風に思っているんだろう……っ!?

 

 などと、ドキドキしながら眺めていると、ソー兄が腕を組み、考えを巡らせながら……といった感じで、アリーセに向かって答える。

「夫婦……ねぇ。それは飛躍し過ぎな気もするが……。――多分、幼馴染みとしてずっと一緒に行動する事が多かったからな。ほとんど家族と大差ないってのはあるな。無論、夫婦とかじゃなくて……そうだな、兄と妹みたいなものだろうか」

 

 あ、あー、たしかに兄妹というのがあったね……。むぅ、残念。

 私はなんか、夫婦っていう言葉の方が、真っ先に頭に浮かんじゃったのに……

 んー、それってやっぱり兄妹的な関係で終わらせるのは嫌だからかなぁ?

 

 ………………はっ!

 だ、か、ら! 何を考えているのさ! 私!


 ――なんというか……ディンベルでソー兄に自分の秘密を語ってから、どうもそんな事を時々考えちゃうんだよねぇ。

 いや、でも、うん、まあ……うん……おそらくそういう事……なんだと思う。うん。

 

 などと、ロゼの口癖めいた感じで、思っている事を歯切れ悪く心の中で呟いていると、

「兄と妹……ですか?」

「そう。ほら、朔耶って俺の事を『ソー兄』って呼ぶだろ? それもあって、俺は朔耶の事を無意識的に妹のような感じで見ているんだと思う」

 なんて事を言うふたり。

 

「な、なるほど……そういう事ですか。なんというか納得です。安心です」

 と、納得の表情を見せるアリーセ。

 

 私も納得したけど……納得したけど、なんかなぁ……

 よ、呼び方を変えた方がいいのかな……。でも、長年染み付いてきた呼び方だから、急に変えるのも不自然だし、新しい呼び方に慣れるまで時間かかりそう。

 

「納得はいいが……安心ってどういう事だ?」

 そんな事をアリーセに問うソー兄。

 あ、そういえば今、『納得』だけじゃなくて『安心』とも言っていたね。

 

 アリーセの方へと視線を向けてみると、アリーセは目を泳がせながら顔を赤らめていた。……ん? んんっ?

「い、いえ、その、入り込む余地があるというか、いえ、なくても構わないといえば構わないのですが……あ、ああっ、そ、そうではなくて……えっと……サクヤさんやシャルロッテさんの動きが一歩先を行っているので、少し遅れていると思っていたというか……と、ともかく、私は……その、ソ――」


 ――おわっとぉっ! こ、これはまずい。まずいよ。まずい流れだよ。

 どう考えても危険だよ。いや、アリーセだから、そうじゃない可能性もあるけど、でも放っておくわけにも……う、うあぁー、しょ、しょうがないっ!


 れ、霊体の割合引き下げぇぇっ!

 

 直後、パシャンッ! という水音が響き渡る。

 無論それは、私が立てた音。

 擬似的な肉体の構成が強固になった事で、この身体がお湯を透過しなくなったのだから、当然そうなる。

 足元からは暖かさが、上半身には外気の冷たさが同時に感じられるようになった。

 ……なんというか『まだ人間でいられる』って思うよ、こういうのを感じると。

 

「ん?」

 ソー兄がそう口にし、こちらに視線を向けてくる。

 同時にアリーセもこちらに顔を向けた。

 

「あ、あれ? アリーセにソー兄?」

 なんていう、さも今来ましたと言わんばかりの白々しい言葉を吐く私。

 

「あ、サクヤさん。サクヤさんも露天風呂へ入りに来られたんですね」

「朔耶か。って……朔耶はさっき入ったんじゃなかったっけか?」

 私に気づいたふたりがそんな事を言ってくる。


「温泉は何回入っても良い物だよ!」

 私は怒ったフリをしつつ、そう言って返す。

 

「まあ、否定はしないけどな……」

 ソー兄がそう言って肩をすくめる。

 

「――と、ところで、男湯も女湯も窓ガラスが透過しちゃっているけど、なんでだろうね?」

 アリーセの話に割り込むように乱入したせいで、何も次に紡ぐべき言葉を考えていなかった私は、大浴場のある方を見て、とりあえずそんな感じで話を振ってみた。

 

「ん? あの窓ガラスって透明じゃないのか?」

「私が入った時は既に透明でしたが……」

 と、曇ガラスだった時を知らないらしいふたりが、そう言ってくる。

 

「うん、私がさっき入った時は曇ガラスだったよ」

「ふむ……。言われてみると、たしかに中が普通に見えてしまうのは不自然だな。まあ、気になるなら宿の人にでも聞いてみれば良いんじゃないか?」

 ソー兄がそう言った直後、それは起こった。

 

 パンッ! という何かが破裂するような音が響き、私たちを纏っていた雲が解除されたのだ。

 

「うわわわわわわぁぁっ!?」

 慌てて全身を湯に浸ける私。

 

 ふぅ……。この温泉が濃い色付きで良かったよ……

 これでとりあえずは見えないからね。

 

 いやまあ、アリーセとソー兄しかいないから、別に見られてもいいっちゃいいんだけど……

 ――じゃなくてぇぇぇっ! い、一体なにが起きたの……っ!?

今回の話、実は最初は蒼夜側の視点で書いたのですが、どうもしっくりこないというか、

朔耶の思考が分かる方が良いかも? と思って、朔耶側の視点に変更していたりします。

あ、最後はギリギリ何も見えていませんよ! 温泉は色付きですよ!(何)


……さて、そんな所で次回の更新は来週の火曜日を予定しています。

いきなり飛んでしまってすいません…… orz


土日に余裕があったら、第3章終了時点の登場人物紹介を掲載するかもしれません。

(掲載する場合は、3章と4章の間の間章に差し込みます)

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