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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第20話 地下神殿遺跡の内部へ

「そろそろ地下神殿遺跡の入口があるグランダーム地溝じゃ! 少しスピードを落としておくぞい!」

 翼竜もどきの出現した地点から、数分走った所で、エステルがそう言ってスピードを落とし始めた。

 こちらもそれに合わせてスピードを落とす。

 

 地溝……大雑把に言えば峡谷だな。たしか……水などによる浸食で出来たものではなく、断層の運動によって出来たものの事をそう呼ぶと、高校へ行っていた頃に習った気がするな。

 

「その地溝の底から入れるのか?」

「……すまん! 上手く聞き取れんかったわい!」

 俺の問いかけに、そう返してくるエステル。

 スピードを落としたとはいえ、まだ結構出ているので、さすがに普通の声の大きさでは聞こえなかったか。

 

「その地溝の底から入れるのか!?」

「いや、側面の崖にある横穴からじゃな!」

「え!? それ、どうやって行くんですか!?」

 と、アリーセがもっともな質問をする。飛行魔法が必要とかじゃないよな、まさか。

 

「以前来た調査隊が整備した階段があるのじゃよ! で、そこを降りて行って横穴へ入る感じじゃよ! 心配する必要はないぞい!」

 なるほど、階段があるのか。それなら安心かつ楽そうだな。


「――階段っていうか、もしかして塔……か?」

 学校とかビルの屋上なんかによくある、塔屋――階段室のような小さな建物が見えてきたところで、レビバイクを停止させながら呟くように言う俺。

 

「たしかに塔のてっぺんという感じがしますね。あの建物」

 レビバイクから降り、正面の建物を見ながら、同意の言葉を紡ぐアリーセ。

 

「うむ、地溝の底から見ればたしかに塔になっておるぞい。というのも、底から塔を作ってしまうのが一番簡単だったそうじゃ」

 と、同じくレビバイクを停止させながらエステルがそう言ってくる。

「ふむ……まあ、たしかにそれはわからんでもない」

 そう返しつつ俺は地溝の縁まで行き、その塔と底の双方を覗き見つつ言葉を続ける。

 

「この高さだと中途半端に作るよりも、そっちの方が頑丈で安定しそうだしな」

「うむ。この階段――塔には小型の結界塔が設置されておるゆえ、害獣や魔獣の類に壊されるという可能性はほとんどないからのぅ」

「結界まであるのかよ。……って、そう言えばここに来るまでに、害獣にも魔獣にもまったく遭遇しなかったな」

「そう言えばそうですね」

 こめかみに人差し指を当てながら言うアリーセ。

 

「まさか、ここの結界って超広範囲だったり……するのか?」

 そう俺が問いかけると、エステルは肩をすくめ、

「それが出来れば、もうちょっと観光名所として大々的に売り出せるのじゃがな。残念ながら、せいぜいこの階段塔と、その周辺数メートル程度じゃよ。でなければ、こんな辺鄙な場所で長期間魔力を持続させる事なぞ出来ぬわい」

 そう返しながら、塔の中に入っていった。

 それに続くようにしてアリーセもまた塔の中へと入っていく。

 

 2人に続いて俺も塔に入ろうとした所で、地溝の底から何か冷たい物が噴き上がってくるような感じがした。

「……ん?」

 だが、それはほんの一瞬だけで、地溝の底を覗いても特に何も見えないし、何も感じない。

 気のせいだったのだろうか……? そう思いながら地溝全体を改めて見回す。……やはり、何も感じないな。

 

 ……しっかし、この地溝は凄いな。地溝のあちこちで、側面の崖から青色やオレンジ色の岩――もしかしたらクリスタルの類とかかもしれない――が突き出しているのが面白い。中にはアーチ状に突き出して対岸と繋がっている奴もあって、なかなか壮観な光景だ。さすがは大々的に観光名所として売り出したいと言うだけはある。

 

 と、心の中でそんな感嘆の声をあげていると、アリーセがどうかしたのかと塔の中から問いかけてくる。が、先程の感覚については、これ以上気にしてもしょうがないと結論づけた俺は、頭を振る。

 そして、アリーセに対して、景色が綺麗だったのでつい見とれていたと言葉を返し、改めて塔の中へと歩を進めた。


 ――塔の中に入ると、エステルは踊り場部分の隅っこに設置された長方形の箱をいじり始めていた。おそらくこれが小型の結界塔という奴なのだろう。

「もしかして、エステルが定期的にメンテナンスしてたりするのか?」

 俺がそう問いかけると、エステルが結界塔をいじりながら、声だけ返してくる。

「うむ。ここは大々的に売り出していないとはいえ、一応観光名所ではあるからのぅ。安全のためにも、誰かがメンテナンスをして維持せねばなるまい」

「なるほど……それはその通りだな」

「まあ、1週間前にメンテナンスしたばかりではあるのじゃが、あの幻獣のような存在が広範囲の魔煌波を歪めておったからのぅ。その影響で壊れた可能性があるかもしれないが故の、念の為の確認じゃが」

「この結界塔、随分と古いタイプの物ですね……」

 物珍しげに結界塔を眺めていたアリーセが、そう言ってエステルの方へ顔を向ける。

 

「そうじゃな。これは10年くらい前に作られた物じゃよ。とはいえ、作った者が優秀じゃったので、今でも問題なく稼働しておるがの」

「10年ですか……それはまた凄いですね。普通は、5年くらいで壊れるものなのですが……」

 アリーセが感心しながら、改めて結界塔を見る。

「まあ、そうじゃな。……っと、うむ、結界塔に不具合などはなさそうじゃ。まだあと10年……は、さすがに厳しいかもしれぬが、数年は問題あるまい」

 そう言って確認を終えたエステルがこちらを向く。

「――待たせてすまぬの」

「いえいえ、結界があるのとないのとでは、安全性が段違いですし、メンテナンスは大事だと思います。なので、気にしないでください」

 と、アリーセ。……今更だが『メンテナンス』はそのまま通じる上に、日本語訳されないんだな。

 いやまあ、メンテナンスという言葉自体、もう日本じゃ一般的に使われている言葉なので、訳されなくても別におかしくはないのだが……

 

 っと、それはさておき――

「ま、そうだな。観光名所である以上、少しでも安全な方が良いに決まってる。……ってなわけで、俺たちも地下神殿遺跡の観光に行くとしようか。異変が起きているかを調べつつ、だけどな」

俺がそう言って笑うと、エステルもまた笑いながら言葉を返してくる。

「クカカッ、そうじゃな。ならば妾が観光案内をしてやるとしようかのぅ。さーて、まずは入口まで下りるぞい」


                   ◆


 ビルの非常階段のような構造をしている塔の階段を延々と降り続ける俺たち。

 ……っていうか、長すぎないか? そろそろ疲れてきたぞ。

「……長いな、この階段」

「ええ……。多分15フロア分くらいは既に下ってきたかと……」

 呟くように言った俺の言葉に、そう返してくるアリーセ。

「もうそんなに降りてきたのか……って、ん? なにやら通路があるな」

 下り階段の先、踊り場になっている所に通路があるのが見えた。

 

「アレが地下神殿遺跡へと続く横穴……なのでしょうか?」

「いや、あれはトイレの入口じゃな」

「え?」

「ほれ、この階段長いじゃろ? じゃから、途中にトイレを用意しておかねば危険なのじゃよ、クックック」

 アリーセの言葉にそう返し、笑うエステル。

「トイレかよ! いやまあ、たしかにあった方がいいのはわかるが……」

「なぁに、もう2フロア分くらい下りれば着くゆえ、安心するがよい」

 つい突っ込んでしまった俺に、エステルがそう告げてくる。

 ふむ、あと2フロア分か。ならまあ……どうせだし、トイレに寄っておくか。


 ……とまあ、そんなこんなでなんとなくトイレに寄った後、2フロア分ほど階段を下ると、エステルが告げたとおり『地下神殿入口』と大きく書かれた金属製の引き戸式の大扉が姿を現した。

 

「ここから、地下神殿遺跡へと通じる横穴へ行けるのじゃ」

 そう言いながら、引き戸をスライドさせるエステル。

 一見すると重そうに見える大扉だが、軽々とスライドさせてているので、あまり重くはないようだ。

 

 ……それはともかく、扉の先は真っ暗だな。

 塔内は一定間隔で照明が設置されているため、そんなに暗くはないのだが、この先の通路――横穴は照明が設置されていないらしく、奥がまったく見えない。

 試しにクレアボヤンスを使ってみるものの、結構長い通路のようで、一面の闇しか見えなかった。

 

「これはまた随分と真っ暗ですね……」

「そうじゃな。なんでも、こっちの通路にまで照明魔煌具を設置する予算的な余裕がなかったそうじゃ」

 アリーセの言葉にそう返すエステル。予算的な都合って……

 

 どうするのかと思っていると、エステルはローブの袖から短い杖――スティックを取り出し、それを胸の前で構えた。

 

 ほどなくして、スティックの魔煌波生成回路が起動する。

「そいやっ」

 掛け声とともにスティックを頭上に突き出す。

 

「………………?」

 回路は起動しているようだが、何も起きない。

 

「……むむ? 回路からの魔力伝達がうまくいっていないようじゃな……。間違えて壊れている物を持ってきたかのぅ?」

 あー、そう言えば盛大にぶちまけた魔煌具の中に、これと同じのがあったな。

 

 エステルは、手に持ったスティックを袖にしまうと、そのまま続けて同じ物を引っ張り出した。

「こっちなら問題なかろう。……そいやっ!」

 再び魔煌波生成回路の起動を待ち、掛け声とともにスティックを頭上に突き出す。

 

 と、スティックの先端に光源が生み出された。そして、それに合わせて横穴の奥が照らし出される。

 おおっ、これは凄いな! さしずめ、この世界における懐中電灯といったところか。

 明るさも感覚的ではあるが、朔耶が持っていた1000ルーメンの懐中電灯に匹敵する光量なので、まったく問題はない。

 

「これは、《銀輝の導手》……いえ、もしかして《銀白光の先導燐》ですか?」

「うむ、その通りじゃ。このレベルの光源生成魔法を長時間持続させるのに苦労したわい」

 アリーセの問いかけに頷き、そう答えるエステル。

「へぇ……。よくわからんが凄そうだな。ちなみにそのスティックって、エステルの店で売ってるのか?」

 こういう暗い場所や夜に探索する場合、携帯出来る照明器具というのは必須なので尋ねてみる。

 

「もちろん売っておるぞ。なんじゃ? もしかして欲しいのかの?」

「ああ。それに近い物を以前持っていたんだが、色々あって今は手元になくってな。そいつの代わりとなる物が欲しかったんだ」

「ふむ、なるほどのぅ。そういう事なら店に戻ったら一番いいのを格安で売ってやるわい」

「お、本当か。そいつは助かる。ところでこの魔煌具だが――」


 ……

 …………

 ………………


 とまあ、そんな感じで魔煌具について3人で話しながら、しばらく通路を歩いていくと、正面に光を感じた。

 

「見えてきたようじゃな」

 エステルの言葉を聞きながら、クレアボヤンスで光の正体を知るべく先を覗き見てみる。

 と、そこは天井全体が、まるで蛍光灯の様にまばゆい白光を発している部屋だった。ふむ……ここが地下神殿遺跡か。

 

 周囲を確認しようと思ったが、

「随分と明るいですけど、照明が設置されているのですか?」

「いや、あれは遺跡の天井自体が発光しておるのじゃよ」

「天井自体が発光……?」

「まあ、行けばわかるわい」

 というエステルとアリーセの会話を聞き、先にじっくり見てしまうのは、少々もったいないなと思い、俺は即座にクレアボヤンスを解除した。


 そうこうしている内に、地下神殿遺跡内部へと到着する俺たち。

 

「わぁ……、こうなっているんですね。でも、どうやって発光しているんでしょう……? すごく不思議です……」

「どうやって発光しているのかは、今の所よく分かっておらぬのぅ」

 アリーセの言葉にそう返しつつ、懐中電灯代わりのスティックをしまうエステル。


 そして、コホンと軽く咳払いをして、

「改めて紹介するぞい。――ここが地下神殿遺跡じゃ。古代アウリア文明の時代に造られたものじゃと言われておるのぅ」

 と、そう告げてくるエステル。

 

 古代アウリア文明というのは良くわからないが、とんでもない技術であった事だけは理解出来る。

「ちなみに、よくわからぬが、害獣の類が入り込む事はないようじゃ」

「それはまた不思議ですね……」

「たしかにな。うーん、それにしてもなんていうか……神殿っていうよりも、バカでかい機械――魔煌具の中って感じだな」

「あ、なるほど……たしかに言われてみるとそうですね。この壁の紋様なんて、まるで魔煌具の回路のようにも見えますし」

 そう言いながら、壁に手を触れるアリーセ。

 

 その壁は2メートル程度の正方形のプレートを幾つもつなぎ合わせたかのうような構造になっていた。まあ、簡単に言えば、床に敷くタイルを壁に貼り付けたかのような感じか。……風呂場のタイル製の壁、という言い方でも良いかもしれない。

 ただし、そのタイルは1つ1つがとてつもなく大きいが。

 

 で、そんな壁にはアリーセが言った通り回路――回路図のような紋様が、延々と続いている形で描かれていたりする。

 というか、本当に回路だったりするんじゃないのか? これ。

 よく見ると、なにやら小さな光球が、いくつも紋様上を縦横無尽に走り回っているんだが……

 

「――なんというか、変わった触り心地ですね、この壁。雰囲気的に金属かと思ったのですが、金属とはまったく違いますね」

 俺が小さな光球の動きを目で追っていると、アリーセが呟くようにそう言ってくる。……触り心地? どれどれ。

 

「あー、たしかにそうだな……」

 この壁、アリーセの言う通り、一見すると金属のように見えるけど、全然違うな。なんというか……陶磁器のような手触りだ。

 

「まあ、少しザラついておるからのぅ。件の調査隊の調査結果によると、この壁はアウラセラムで作られておるそうじゃ」

 アリーセと俺の疑問にそう答えてくるエステル。……アウラセラム?

 

「アウラセラム……ですか。たしか、精製方法の失われたという幻の合金ですよね? 精霊力が宿っている……などとも言われていますが……」

「うむ、その通りじゃ。なんでも、壁を走り回っておる小さい光が、その精霊力と呼称される謎のエネルギーで構成された代物らしいのじゃが、実際にはそれがどういう代物なのかは、天井の発光同様、良く分かっておらぬ」

 俺が問いかけるよりも先に、アリーセとエステルによって、アウラセラムについて解説された。

 

「なるほどな……。たしかに神殿と呼ばれているだけあって、神秘的な合金だな。この小さな光球が精霊に見えなくもないし」

「ま、そうじゃな。じゃが、神殿と呼ばれているゆえんは、この合金だけではないぞい。さ、こっちじゃ」

 俺の言葉にそう返すと、部屋から伸びる通路の1つを奥へと歩いていく。

 なるほど、この先に神殿と呼ばれる他の理由があるのか……。まあ、この壁や天井の造りだけで神殿だと称するには無理があるし、当然っちゃ当然か。

 

 うーん、それにしてもなんというか……RPGとかに良くある遺跡系のダンジョンを探索している気分になってくるなぁ……コレ。まあ、害獣が出る事はないらしいけど。

 

 なんて事を考えながら、俺はエステルに続き、奥へと向かって歩み始めるのだった。

次回は、更に奥へと向かいます。

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