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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第47話 銀月商会の商館にて

 ――騒ぐモノノフたちを鎮め、襲撃してきた女性を引き渡し、一通りの話をし終えた俺たちは、改めて銀月商会の商館へとやって来た。

 

「赤狼隊の隊長である貴方様自ら、我らの商館にお越しになられるとは……。なにか大きな事件でもございましかな?」

 通された部屋で待っていると、そんな声と共に商館の長であると思われる、セレリア族の壮年の男性が姿を見せる。

 ……翼を持つ種族が、和風の着物を身に纏っているというのも何となく不思議な感じだな。

 

「いや、そういうわけではないよ。今日の私は、ただの案内役兼仲介役として訪れたにすぎないからね。――今の所は」

 座布団から立ち上がり、そう答える篝。

 俺たちもとりあえず立ち上がっておく。


「案内役兼仲介役……ですか?」

「うむ。主に用件があるのは、この者たちの方なのだ。まあ……私も場合によっては協力するつもりではいるがね」

 首をかしげる商館長に対し、篝はそう説明しつつ俺たちの方へと顔と手を向ける。

 

「なるほど、そうでございましたか。ちなみに……そちらの皆様は、どういった方々なのですか? 異国――他の大陸の方々であろう事は身なりからわかりますが……」

 という商館長のもっともな疑問に、商館長の方へと顔を戻して答える篝。

「ああ、イルシュバーン共和国から来た学生だそうだよ」


「イルシュバーン……。それに、学生……ですか?」

 商館長は怪訝な表情をした後、俺たちの方へと顔を向ける。

 

「あ、はい。イルシュバーン共和国にあるエクスクリス学院から来ました。――その……このたび、ここに伺ったのはですね――」

 アリーセが俺たちを代表するようにそう切り出そうとした所で、商館長が制するように手を前へ出し、

「あ……っと、話の腰を折る形となり申し訳ございませんが、このまま立ち話というのもなんですし、とりあえずお座りくださいませ」

 と、言った。

 

 俺たちはそれに従う形で、再び座ると、商館を訪れた理由を話す。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「――なるほど、甘玄天花の状況……確保が難しくなっている件について、お聞きになりたいと……」

 話を聞き終えた商館長が、顎に手を当てながら言う。

 

「うむ、その通りじゃ」

 エステルが、何故か偉そうにそう答えた。

 

「私としても気になる話ではあるね。差し支えなければ、その理由を教えてくれないかい?」

 腕を組んで問いかえる篝に対し、商館長は特に隠す話でもないので構わないと言い、説明を始める。

「実は……でございますが、この辺りで使われている甘玄天花の主要な産地は、北の『ミスミ山』という山になるのですが、この山に最近、正体不明の奇妙な害獣が頻繁に出没するようになりまして……採取する者たちの安全が確保出来なくなってしまったのですよ」


「正体不明の奇妙な害獣……ですか?」

「はい。討伐を行っていただいた討獣士の方が仰るには、人と獣が融合したかのような容貌を持つ害獣だそうで、それが複数種類、存在しているそうです」

 首を傾げて問うアリーセに、そう答える商館長。


「ほう、人と獣が融合とな。それはたしかに奇妙な存在だね。……だが、討獣士が討伐したのなら、問題ないのではないのかい?」

「それがですね……害獣は討伐しても数日で復活してしまう上、小型の物は大した強さではないものの、大型の物は魔獣かそれ以上の強さだそうで、倒すのに大変苦労するそうです。とまあ、そんな感じである為、現状では駆逐が大変困難な状態なのですよ……」

 篝の疑問に対し、商館長が理由を説明すると、篝は、 

「魔獣並かそれを上回る強さで、更に数日で復活か……。たしかに厄介だね」

 と口にしながら、こめかみを指で軽く揉む。

 

「……? 魔獣並……ですか? 魔獣って大して強くはないですよね? 片っ端から薙ぎ倒せばよいのでは?」

 なんて事をさも自然な感じで発言するアリーセ。……お、おう。

 

「いやお主……魔獣は並の討獣士からしたら、かなり強い部類じゃぞい……。というか、お主も少し前までは倒せるような相手ではなかったではないか……」

 エステルが呆れた表情と口調で、そう突っ込みを入れた。


「あっ! そ、そういえばそうでした……。ここの所、瞬殺してばかりだったので、なんとなく強さの感覚がおかしくなっていました……」

「感覚がおかしく……のぅ。おかしいのはどちらかと言うと、お主のその異常なまでの成長速度――戦闘能力の向上の速さじゃと思うがのぅ……」

 と、そんな事を話すアリーセとエステル。

 

 ……戦闘能力向上の異常の速さ、か……

 たしかに凄まじい勢いで強くなっているんだよな、皆。

 正確に言うと……俺と一緒に行動する事が多い面々が、だけど。

 俺自身も結構な速度で成長しているようだが、他の皆に比べるとそこまでじゃない気がする……。多分。

 ディアーナと話をしても、いまいちその理由っぽいのはわからないし……ホント、なんなんだろうな……この現象。

 

 そんな事を考える俺だったが、現状ではこれ以上続けても何も結論が出ない事はわかりきっているので、そこで思考を中断し、

「――その奇妙な害獣とやらの強さは大体わかったし、俺たちが一掃しつつ、原因を突き止めてみればいいんじゃないか? ミスミ山とやらが、ここから近いのならば……だけど」

 と、皆に向かってそう切り出す。

 

「ふむ……。それはまあ、たしかにその通りじゃな」

「ミスミ山は、北町から出ている河川定期汽船を使えば1時間くらいで行けるようですし、良いのではないでしょうか」

 エステルとアリーセがそれぞれそう答えてくる。

 

 ちなみにアリーセは、エステルが先程見ていたパンフレットを見ながらだ。

 どうやら運行路も書かれているみたいだな。

 

「えっと……?」

 困惑の表情で俺たちと篝を交互に視る商館長。


「……あー、この3人は並の討獣士よりも遥かに強いんだ。特に真ん中の蒼夜という者は、手合わせをしていないので推測にはなるが……おそらく私よりも強いと思う。というか、多数の敵を相手にする場面では、私を遥かに凌駕するであろうな」

「そ、そうなのですか……。さすがは世界最高峰の魔煌技術と軍事力を有する国だけあって、学生も質が違いますね……」

 と、そんな事を話す篝と商館長。

 

「そういう事でもないと思うが……まあ、そういう事にしておこう」

 篝が小声でそう呟く。


 たしかに、学生全員が強いわけじゃないしな……

 そもそも……俺や朔耶なんて、実際には学生じゃないし。

 

「ともあれ、そういう事なら私も赤狼隊の隊長として協力しよう」

「それは大変嬉しい申し出ですが……赤狼隊が我らの商会が抱えている問題を解決したとなると、公方様が特定の商会と繋がりを持っている……と考える者が現れるのではないかと……」

「奇妙な害獣と聞いては、放っておくわけにもいかぬ。なに、そちらの調査の一環であるという事にすれば問題あるまい」

 なんて話をする篝と商館長。

 

 うーむ……。この話だけだといまいち良くわからないが、どうもこの国は政に面倒な部分――厄介な問題があるっぽいな……

 蓮司たちにも話して、可能な範囲で少し探っておいた方がいいかもしれないな。……面倒事に巻き込まれてしまった時のためにも。

 

「ふむ……国の一組織が大規模に調査するとなると、妾たちはなるべく邪魔をせぬように調査をした方がよさそうじゃな」

「いや、君たちは赤狼隊への協力者という扱いにしたいと思う。赤狼隊として動くのは、私と……あともうひとりくらいのつもりだしね。……というより、正直言うと魔獣をザコ扱い出来る程の戦闘能力を有する隊士なんてのは、数える程しかいないのでね。下手に大人数で動くのは逆に危険なんだよ」

 エステルの言葉を聞いた篝が、俺たち3人を見回しながら、そう告げてきた。

 

「ふむ、なるほどのぅ……。であれば、妾たちと共に行動する感じかの? ああ、こちらはあと3人くらい最大で増える感じになるがの」

 と、エステルが言うと、

「同じくらいの強さの者があと3人……」

「なるほど、たしかに一掃するのは容易そうだよ」

 なんて事を、商館長と篝が顔を見合わせて呟くように言う。

 

「それで……調査にはいつ行く感じだ? 実の所、明後日にはカムツクナへ向かう予定だから、明日くらいしか行く余裕はないんだが……」

「ならば今から……と言いたい所だけど、さすがに手続きや準備が必要だから、明日の朝からでいいかな?」

「ああ、問題ないぞ」

 俺は篝の問いかけに頷き、そう答える。


「では、明日の朝8時頃に、君たちの泊まっている宿へ赴く事にするよ。――宿泊先はどこだい?」

「北町にある、蒼陽閣という名の温泉宿じゃよ」

 俺の代わりに、エステルが篝の質問に答える。

 

「ふむ、あそこか。あそこは有名な高級宿だから、私も場所を良く知っているよ」

 と、頬に人差し指を当てながら言う篝。

 

 あそこって有名な高級宿だったのか。まあ、雰囲気的にはそんな感じだったけど。

 ってか、飛行艇の運賃で随分と出費しているのに、宿も高級な所にしてしまって問題ないのだろうか……

 

                    ◆

 

 ――商館での話を終え、俺たちが宿へと戻ってくると、既に室長たちは戻ってきていた。

 とりあえず、お互いに情報交換をしてみるが、どうやら室長たちの方は特に何もなかったようだ。


 ……ああいや、何もなかったというと少し語弊があるか。

 ロゼが、ギルドにいた討獣士たちに次々と手合わせを申し込まれて、全部返り討ちにしたらしいし。


 なんでも、ロゼの持つ武器――あの特殊な円月輪は、龍守の名匠と呼ばれる者が生み出したものだったらしく、その武器が振るわれる所を見たかったというのが真相だとかなんとか。

 ……そのためだけに手合わせを申し込むとか、この辺りの討獣士は変わっているというか……どうやら武人的な思考を持つ討獣士が多いっぽいな。国柄だろうか?


「なるほどなるほど、湖に現れた魔獣があっという間に討伐されたっていう話を聞いて、私はソー兄たちが倒したんだろうなーって思ってたけど、実際にはその篝って人が倒したんだ」

 と、朔耶が俺たちの話を聞いてそんな風に言ってきた。

 

 まあ……討獣士ギルドに行っていたのだから、湖に魔獣が現れて、そしてすぐに倒された事について知っているのは当然か。

 誰が倒したかという所までは、把握出来ていなかったようだけど。

 

「それにしても、幻獣――と思しき存在まで出現するとは……。いよいよもって、きな臭い雰囲気になってきましたね……」

「ん、各地で目撃されている竜の御旗と思しき連中と合わせて、うん、アカツキ皇国で何かが裏で進行している。何かが起きようとしている。うん」

 なんて事を言う室長とロゼ。俺もそれに関しては同意せざるを得ない。

 

 もっとも何かが起きようとしているとはいえ、幻獣と思しき存在と奴ら――竜の御旗との接点は、今の所見つかっていないので、アレの出現と奴らの水面下での動きとは、まったくの無関係である可能性もなくはないのだが……タイミング的にどうしてもなぁ……

 

「ま、ミスミ山を調査すれば何かわかるじゃろうよ」

 というエステルの言葉に室長が頷き、

「そうですね。――街で得られる情報程度でしたら、おそらく蓮司君たちでも得られるでしょうし、連中の動きからすると、あまり重要な情報を得るのは難しいと考えられます。ですので、山の調査を優先し、全員で行く事にしましょうか」

 と、俺たち全員を見回しながら告げてきた。

 

「もう少ししたら、また蓮司から連絡が来るはずなので、その時にその辺の話もしておきましょうか」

 俺は室長に対してそう言葉を返す。


 ――そんな感じで互いの話が一区切りついた所で、

「じゃあ、蓮司からの連絡が来るまでは特にする事もないし……早速、温泉にレッツゴー!」

 なんて事を、朔耶がテンションが高そうな雰囲気で言い放った。

 

「うん、おー」

「うむっ!」

 ロゼとエステルがそれに呼応し、3人はハイテンションなまま、あっという間にその場から姿を消した。

 って……朔耶だけじゃなくて、ロゼとエステルもか……


 アリーセが、そんな3人の立ち去った方をポカーンと見つめながら、

「……な、なんだか、とっても取り残された気分です……」

 と、少し嘆きの混じった呟きを発したのだった。

銀月商会の商館での話が、思ったよりも長くなってしまいました orz

その影響で、なんとも微妙な所での区切りとなりました……


次回の更新は、金曜日を予定しています。

週2回更新が続いており、申し訳ありません……

なんとか週3回更新に戻したいのですが、なかなかに厳しい状況です…… orz


追記1:誤字があったので修正しました。

追記2:室長たち側の行動についての記述が抜けていたので追加しました。

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