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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第46話 赤狼隊直属咎人改辻番所

更新がとても遅くなりました……

 エステルの魔法を食らって地面に落下したまま、ピクリとも動かなくなった女性。

 エステルはその女性に近づくと、拘束魔法と回復魔法を続けて使いながら言う。

「こやつ、透明化して見張っておったようじゃな。なにやら空が歪んでいるように感じた故、インスペクション・アナライザーを使ったら、案の定怪しい魔力の塊があったわい。――こやつだけ、ゴロツキとは違う風であったから、一応死なない程度の魔法を使っておいたぞい」

 

 ふむ……どうやら、気絶しているだけみたいだな。

 まあ、撒き散らされた血の量からしても、即死したりはしなさそうだったからなぁ……

 

「うん、エステルのその判断は正しいよ。その女だけ奴らとは違う存在だ」

 篝がエステルの方へ歩み寄りながらそう言った所で言葉を切り、俺の方を向くと、

「それと……蒼夜、君には助けられてしまったね、ありがとう。よもや、あそこで魔法が来るとは予想していなかった……。まったく……残心を怠るとは、私もまだまだだね……」

 と、落胆した口調で言葉を紡ぎ、腰に手を当てながら首を左右に振った。

 

「ま、そういう事もあるさ。……それより、他の連中は倒してよかったのか?」

「ああ、問題ないさ。そいつらは単なるゴロツキに過ぎなかったからね。生かして捕縛した所で、何も益はないし、むしろ面倒なだけだよ。生かして捕縛するのはあの女だけで十分さ」

 俺の疑問にそんな風に返してくる篝。

 

「な、なるほど……」

 なんというか、思考が武士――斬り捨て御免的な感じだな。

 いやまあ……ある意味、江戸時代的な雰囲気を持つこの国に合っているといえなくもないが。

 

 ……って、あれ?

 篝はあの女性の存在に気づいていなかったんじゃなかったっけか?

 なんで、『生かして捕縛するのはあの女だけで十分』と今言ったんだ……?

 

 そんな疑問が一瞬頭を過ぎったが、単に魔法による攻撃が来るとは思っていたなかった、という事なのだろうと思い直した。

 尾行に真っ先に気づいた篝が、透明化していたとはいえ、あの女性の存在に気づいていなかったとは思えないしな。

 

 俺はかぶりを振って思考を中断すると、

「――で、この女性が何者なのかの予想は、ついていたりするのか?」

 そんな風に篝の方を見て問いかけた。

 

「そうだね。おそらく……という候補はあるけど、現時点では確定は出来ないね。然るべき場所で調べなければ」

 篝は女性の方を見ながらそこまで口にした所で一度言葉を区切り、俺たちの方へと向き直ってから、

「――皆、すまない。商館へ行く前に、その『然るべき場所』に寄りたいのだが……構わないだろうか?」

 と、問いの言葉を投げかけてきた。

 

「別に急いでいるわけではないから構わんぞい」

「ああそうだな。ってか、さっさと然るべき場所とやらに連行しないと邪魔だし」

「はい。私たちの事はお気になさらず、先にそちらへ向かってください」

 

 俺たちがそう続けて答えていくと、篝は、

「ありがとう。それじゃあ、早速移動するとしよう。ゴロツキの方は、放って置いても大丈夫だろうからね。――本来の監視要員がいるようだし」

 なんて事を、後方を一瞥しながら言った。

 

 ……ああなるほど、たしかに少し離れた所にある建物の影からこちらの様子を伺っている奴がふたりほどいるな。

 クレアボヤンスで見た感じ、どちらも恐怖の色がありありと浮かんだ顔をしているし、こちらに対して、何かを仕掛けてくる事はないと考えて良さそうだ。

 

「……ところで、この女は誰が運ぶんじゃ?」

 という問いに答える形で、篝が無言で女性を背負おうとするが、

「ああ、待った。俺がサイコキネシスを使って運ぶよ」

 と言って、それを静止する俺。

 そして、サイコキネシスを使った状態で抱えて運ぶ――フリをする。

 

「ほう? 良く見るとほんの少しだけ浮いているね」

 俺の手を見ながらそんな事を言ってくる篝。

 お? 実際には抱えていない事に気づいたみたいだな。さすがだ。

 

「あまり大っぴらに浮かせると目立ちまくるだろ? だから、抱えているように見せかける程度に浮かせたんだ」

「なるほど。どちらも往来では目を引く事には変わりはないだろうけど、まだ浮いているよりかは、こちらの方がそこまで注目されないのはたしかだね」

 俺の回答に納得して頷く篝。

 

「ま、そういう事だ。――っと、それよりも然るべき場所とやらへ案内してくれ」

「了解だよ。なるべく人の通らない道で行くとしようか」

 篝は俺の言葉にそう答えると、少し足早に歩き出し始めた――

 

                    ◆


「――はい、到着したよ。ここが然るべき場所、という奴だね」

 篝の案内で辿り着いたのは、アリーセの屋敷を一回り小さくして、庭を取っ払ったような屋敷だった。

 見ると、門戸の所に『赤狼隊直属咎人改辻番所』と記された縦長の看板があった。

 

「む、むむむ……。アカツキ語はアカツキ語でも、古典文字の方は読めぬわい……」

 エステルが看板を見ながら唸る。

 

「えーっと……せきろうたいちょくぞくとがびとあらためつじばんしょ、って書いてありますね」

 サラッと読んでみせるアリーセ。

 ……あ、いや違うか。アリーセも全ての言語を理解出来るようになっていたんだったっけな、そういえば。

 

「ほほう? アカツキの外から来た者で、古典文字を普通に読める者は少ないのだけど……随分としっかり勉強しているみたいだね。素直に歓心するよ」

 篝に、心から歓心したと言わんばかりの表情でそう言われたアリーセは、照れながら、

「い、いえ、それほどでも……」

 とだけ答えた。

 

「では、中に入ろうか」

 と言って辻番所の中へ入っていく篝。

 

 それに続く形で、俺も辻番所の中へと入ろうとした所で、アリーセが俺の方に近寄ってきて、

「……あの処置をすると、こういった文字も、共通語の文字で書かれているかのように見えてしまうんですね……。ちょっと驚きました」

 と、小声でそんな事を言ってきた。

 あ、なるほど、アリーセはアレの特徴……というか特性を今知ったのか。

 

「そうなんだよなぁ……。この部分は利点でもあり欠点でもある所だよなぁ……」

 小声でそう答えると、アリーセは口元に指を添えて、

「たしかにそうですね……」

 という同意の言葉を口にする。

 

 うーん……。今更感はあるけど、この特性についてはディアーナに一度話してみるのがいいかもしれないな。どうにか出来たりするかもしれないし。

 

 なんて事を思いながら、辻番所の建物内に入った所で、

「隊長!?」

 という女性の声が、奥の方から聞こえてきた。

 

 そしてすぐに3人のモノノフが、廊下を駆けてこちらへとやってくる。

 モノノフ――漢字にすると『武士』となるわけだが、3人のうち2人は女性――エステルと同じガルフェン族の女性と、テリル族の女性だ――なので、俺の知っている江戸時代的な感覚では、なんだか不思議な光景に感じるな。

 無論、江戸時代とこの世界とは異なっているので、この世界では別に珍しくものなんともない至って普通な光景ではあるのだが。


 なんて事を考えながらサイコキネシスを解除して、気絶している女性を床に下ろす俺。


「皇都からお戻りになられたのですね!」

 と、モノノフのひとり――初老のエルラン族の男性が篝へと問いかける。

 ふむ……どうやら、篝は今まで皇都へ行っていたみたいだな。

 そして、全然関係ないけどエルラン族の初老の男性って、何気に初めてみた気がするぞ……

 

「先程到着したばかりだけどね。ああ、近いうちにもう一度行くから、こっちに長くはいられないよ」

「それはまあ……残念ですが、仕方がありませんね」

 別のモノノフ――テリル族の女性が、篝の言葉に残念そうな表情でそう返した所で一度言葉を区切り、こちらへ顔を向けてから、もっともな疑問を口にした。

「ところで……そちらの方々は? ひとりは気絶している上に、縛られているようですが……もしかして、咎人ですか?」

 

「ああ、それを説明する前に……先程、湖で魔獣出現の騒ぎがあった事は、既に認識しているかな?」

「はい、我々の所にも魔獣が現れたとの連絡が来ましたので。もっとも、隊士を集めている間に討伐されたようですが……。……あ、もしかして、討伐したのは隊長ですか?」

「まあ、半分正解、半分不正解だね」

 ガルフェン族のモノノフの問いにそう返す篝。


「と、言いますと?」

 良くわからないと言わんばかりの表情で、ガルフェン族のモノノフが首を傾げて問い返す。

 他のふたりのモノノフも声に出してはいないが、同じように良くわからなかったようで、首を傾げていた。


「実は、湖に現れた魔獣は2体いたんだよ。あ、いや、片方は幻獣と言った方が良いかもしれないね」

「げ、幻獣……ですか? よもや、伝説の如き存在がこのような場所に――都市部にその姿を顕現させるとは……。さすがにそれは想定外ですね……」

「うん、たしかにそこは気になる所だね。なので私は、奴が出現――顕現した前後の状況などを、後で詳しく調べてみるべきだと考えているよ」

 驚く初老のモノノフに、篝は腕を組んでそんな風に告げる。

 そして一呼吸置いてから、続きの言葉を紡いだ。

「――とまあ、それはともかく……魔獣と幻獣のうち、魔獣の方はたしかに私が倒した。だが、幻獣の方はここの3人が倒したのさ」


「正確に言うと、ソウヤさんひとりで十分でしたけどね」

「そうじゃな。妾たちは正直何もしておらん」

 アリーセとエステルがそんな風に返す。

 

「あ、ああうん、まあ……結果的にはそうかもしれないが……。倒すだけならふたりでも出来たわけだし……」

 と、そう答えながら頬を掻く俺。


「――とまあ、こんな事を言っている通り、3人ともかなり強いよ。まあ、蒼夜だけは別格な気が私もするけどね」

「な、なるほど……。隊長がそう仰るとは、相当ですね……」

「うむ。……ともあれ、そんな感じでこの3人とは、その魔獣や幻獣との戦いで一緒になった仲なのだよ。で、3人も南町に用があったからそのまま一緒に来たのだけど……途中で相手の力量ひとつ測れぬような、愚かなゴロツキどもに襲われてね」

「ああ……南町は表通りはともかく、裏に入ると、どこから流れてきたのかわからない悪党どもが巣食っている場所がありますね……。潰しても潰しても新たに湧いてきてキリがないのが厄介です……」

 篝の説明に対してそんな風に言葉を返し、ため息をつくガルフェン族のモノノフ。

 

 なるほど……放置されているんじゃなくて、対処――始末しても、すぐにどこからともなく現れてしまう感じなのか。

 だから、篝は何の躊躇もなく殺したんだな。


「そうだね……根本的な部分をどうにかしないと駄目だと思うけど、どうしてあそこに集うのかが判明しないと難しそうだ」

 篝は、頷いてそう答えると首を左右に振った。

 そして一呼吸置いてから、

「まあ、その話は一旦置いておくとして……そいつらはタダのゴロツキだったから、始末して終わりだったが……そいつらとの戦いの終わりに合わせるようにして、その女が魔法による攻撃を仕掛けてきたんだ」

 と、俺の抱えている女性の方へと顔を向けながら言う。

 

「なんですと!?」

「まさか刺客ですか!? 隊長、お怪我は!?」

「隊長はご無事だったのですか!? よもや、幽霊とかではありませんよね!?」

 などと、モノノフたちが驚きながらも勢いよく篝に詰め寄る。

 ……なんか若干1名――テリル族の女性が、おかしな事を言っているが……まあいいか。


「ああもう、静まらんか! ……それを調べるために――尋問するために、この女の連れてきたのだよ! それと私は死んでないからな!」

 迫るモノノフたちを制しながら、そんな風に声を大にして答える篝だった。

なんとか、ギリギリ金曜日中に更新出来ました……


次回は火曜日の予定です。来週も週2回になりそうな感じです。

なかなか余裕が出来ずに更新回数が少なく、申し訳ない限りです…… orz

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