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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第45話 ゴロツキと黒い装束

「ご、ご迷惑をお掛けしました……」

 正気に戻ったアリーセが頭を下げて謝ってくる。

 

「いやはや、まさかあんな反応を示すとは思わなかったよ」

「まったくもって驚きじゃわい」

 篝とエステルがそんな風に言う。

 

「い、色々と頭の中に妄想が渦巻きまして……パニックに陥ってしまいました……」

 顔を赤くしながら答えるアリーセ。

 

 いや、妄想が渦巻くって……と思いながら、アリーセの方を見ると、アリーセがチラリとこちらを見て、即座に顔を背けた。

 見られている事に恥ずかしかったのだろうか……?


 アリーセは握りこぶしを作った両手を縦にブンブンと振りながら、

「さ、さあ、改めて商館へ向かいましょう! さあ!」

 と、篝に照れ隠しのように勢いよく詰め寄りながら言った。


「あ、ああ、そうだね。――表通りを進むと、遊郭街を抜ける事になるから、またアリーセが暴走しても困るし……このまま裏道を抜けていこうか。こちらの方が近いしね」

 アリーセの勢いにちょっと引き気味になりながら、そう答えて裏道の先を指さす篝。

 

「それじゃ、引き続き案内を頼む。裏道は表通り以上に複雑な感じだしな」

「うん、任せてくれ。……ただ、私も全て把握しているわけではないから、知っている道から逸れたらちょっと厳しい。だから、しっかりと着いてきてくれよ?」

 篝は俺の問いかけにそんな風に返しながら、チラリと表通りの方へ視線を向けた。

 ……ん? なんだ?

 

 篝の言動に何らかの意図を感じた俺は、クレアボヤンスを使いつつ、表通りの方を横目で見てみる。

 すると、こちらの様子を遠巻きに伺っている街人――男女がいるのが見えた。

 ……一見すると、物陰でいちゃついているようにしかみえないが、良くその顔を見てみると、ふたりとも視線の先は俺たちの方へと向いているのがわかる。

 ふむ……。どう考えても俺たちの動きを見張っているとしか思えないな、あれは。

 

 途中、船で移動した事を考えると、その前から監視されていたわけではない。

 さらに、俺でも注意して見れば気づく程度の技量だ。

 となると……この界隈に巣食うゴロツキかなにかが、俺たちの姿や話から、金になると思って狙ってきた……ってところか?

 

「ああ、わかった。しっかり一番後ろから、篝の動きを確認しつつ追いかけるから大丈夫だ」

「ふむ……?」

 俺の妙な言葉の返しに疑問を懐いたらしいエステルが、俺と同じく横目で表通りの方を見た。

 そして、納得の表情をこちらへと見せてくる。

 

 アリーセだけ分かっていない気もするが……まあ、そこはどうとでもなるからいいだろう。

 

 ――というわけで、俺たちは篝の後に続く形で裏道を進む。

 

「しかし、本当に入り組んでおるのぅ……。右に左にと」

「そうだな。変に進んだら、グルっと回って元に場所に戻ってきそうだ」

「まあ、皇都と違って区画整理とかまったくしていないからね。……っと、この先がちょっと厄介だから気をつけて欲しい」

 俺たちは周囲を見回しながらそんな話をしつつ歩く。

 

 無論、意味もなくそんな事を言っているわけではない。

 エステルの言葉は後を追ってきている奴が左右の横道に移動した事を示しており、俺の言葉は、そいつらが回り込もうとしている事を示している。

 そして、篝の言葉はこの先で仕掛けてくるだろう、という意味だ。

 

 ちなみに即興でそんな事が出来るのは、討獣士ギルドが定期的に開いている『防犯講習』と呼ばれている講習会に参加したお陰だったりする。

 ……カリンカに「ソウヤさんは戦闘能力は優れていますが、索敵能力がいまいちなので参加する事をオススメします」なんて言われたから、この間――アカツキへ向かうための準備期間中に――参加しておいて正解だったな。

 たしかに俺は、気配を察する……みたいな事は出来ないからなぁ。


 もっとも……その講習は、防犯といいつつ防犯の域を超えているというか――諜報とか索敵とか、そんな部分にまで踏み込んだハイレベルな講習だったけどな……

 まあ……こうして実際に役に立っている事を考えると、有用である事は間違いないので、名称さえ気にしなければ素晴らしい講習会だとは思う。

 ……ってか、他に良い名称はなかったんだろうか……

 

 っと、そういえばこの会話が篝とも成立するという事は、篝も討獣士登録済みなのだろうか。

 でも……そうだとすると、最初に討獣士なのかと問われた事と、その後の会話の流れが良くわからない事になるよなぁ。

 うーむ、討獣士とは別の所で同じ内容の講習を受けた、といった所だろうか……。少なくとも傭兵ではないようだが……

 

 てな事を思案をしながら、篝の方へ視線を向けた所で、

「あ、制圧にちょうどいい薬品があるので、試しても良いでしょうか?」

 などと、アリーセがサラリと言ってきた。

 

「おおっ!? アリーセも尾行に気づいておったのか?」

 小声で驚きを口にしつつ、アリーセを見るエステル。

 口には出さないが、俺も同じく驚いた。

 

「えっと……尾行には気づいていませんでしたが、その……私も一応討獣士なので、防犯講習くらい受けていますので……」

 と、アリーセ。

 ああ、なるほどそういう事か。俺たちの会話で状況を理解したってわけだな。

 

「なるほどな。それで、ちょうどいい薬品っていうのは?」

「あ、はい。アカツキに来る前に調合した物で、催涙効果のある黒煙を発生させる物です」

 俺の問いかけに対し、そんな説明を返してくるアリーセ。

 ここでまさかの催涙弾だった!

 

「野盗や山賊などの襲撃を受ける場面もあるかと思い、作ってきたんですよ。街道にすら野盗や山賊が現れると本に記されていましたし」

「えっと……それ、何十年前のアカツキについて書かれている本なのかな? 今のアカツキは街道に野盗や山賊が出たりはしないよ?」

 アリーセの言葉を聞いた篝は、頬を掻きながら呆れた口調でそんな風に返すと、そこで一度区切り、周囲を見回してから、

「まあもっとも、その代わり……という事なのか、今はこんな風に、街中の治安のあまり良くない地区に、そういうのに近い連中がたむろするようになってしまってはいるけどね。――でもまあ、その薬を使うのはちょっともったいないね」

 と、ため息まじりに言葉を続けた。

 

 もったいない、とはどういう事だろうか? と思った直後、

「どこの国の嬢ちゃんや坊っちゃんか知らねぇが、こんな所に入り込んだら駄目じゃねぇか?」

「そっちの貴族の嬢ちゃんもな」

 なんていう声と共に、いかにもゴロツキだと言わんばかりの、物事を力で解決する事しか脳のないそんな風体の男どもが、俺たちの前後から挟み込むようにして姿を見せる。

 

 尾行していた奴らは、こんな風体ではなかったので、どうやら尾行と襲撃はそれぞれ別の人間が行う流れみたいだな。

 ある意味、良い役割分担だと言えなくもない。

 こんないかにもゴロツキですと言わんばかりの奴に尾行なんて芸当は出来ないし、見た目からして目立つ。

 

「大人しくしていりゃ、痛い目見ないで済むぜぇ」

 などと言って、ゲヒャヒャヒャという感じで笑う男。

 

 ……ここに来て初めて、悪党のテンプレみたいな言葉を聞いたな。

 テンプレゴロツキ、出てくるのちょっとばかし遅すぎじゃね?

 まあ、アルミナもルクストリアも、この手のゴロツキがいるような街ではないので、出くわす事がないのは当然ではあるが。

 いや……ルクストリアは、地区によっては出くわす可能性もあるかもしれんな。遊郭街に似たような地区――色街があるっぽいし。

 

 なんて事を考えている間にも、男どもがあれこれ言ってくるが、考える事に集中していたせいで聞き流してしまった。

 まあ、どうでもいい程度の内容でしかないだろうし、別にいいか。


「おうおう、どうしたぁ? 完全に黙っちまってよぉ? 恐怖で漏らしちまったかぁ?」

 他の男がそんな風に言って、グヒャヒャヒャみたな笑い声を上げた。

 

「なんとも品位のない笑いだね」

 肩をすくめて呆れる篝。

 

「なんだと!? こ――」

「――うん、やはり……捕縛する価値なし、だったね」

 激昂した男たちの言葉を遮るようにそう言い放つと同時に、篝が地面を滑るようにして真正面へと駆けた。

 

 直後、銀色の光が瞬き、

「ぐあぁぁぁっ!?」

 という濁声な悲鳴と共に男が吹き飛ぶ。

 それは、一瞬にして間合いを詰めた篝が斧を振るった結果だ。

 

「あ、あれ? 斬り捨ててしまうんですか?」

 のんきにそんな事を問うアリーセ。

 まあ、ここ最近遭遇した敵と比べると脅威でもなんでもないしなぁ……

 

「きさ――ぐはっ!?」

 篝に向かって攻撃を仕掛けようとした男が、それよりも早く篝に懐へと踏み込まれ、逆に攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「おっと、こっちも倒しておくか」

 そう言いながら俺は、唐突な事態に思考が追いつかずに硬直している後方の男に対し、2つのスフィアを使って魔法を放った。

 

「がっ」「ぎっ」「ぐげっ!?」

 ん? 悲鳴が3つ?

 

 不思議に思ってよく見てみると、1人は魔法の矢が突き刺さっていた。

 ああ、アリーセが同時に攻撃してたのか。


「あら、残念ねぇ。漏らすのは貴方の血だったようねぇ? アハハハハ」

 あ、なんかまた変なスイッチ――魔法探偵モードに入ってるな。

 そんなにあの言葉が気に食わなかったんだろうか?


 しかし……どうでもいいけど、シャルってこんな口調じゃないよなぁ……

 魔法探偵が物語らしく口調も芝居がかった感じに脚色されてんのか、それとも昔はこんなだったのか、果たしてどっちなのだろうか……

 

 などというどうでもいい事を思っていると、

「な、なんなんだよ、てめぇらは……」

 と、最後に残ったひとりが、狼狽しつつ呟くように言う。

 

「俺たちは、ただの学生だが?」

「そして、私は君たちの言ったように、ただの貴族令嬢だよ」

 俺の言葉に続くようにして篝がそう言いながら、最後の1人を斬り伏せた。

 

 いや、絶対ただの貴族令嬢じゃないだろ……

 と、そう思ったその刹那、紫色の雷光が篝を襲う。


 なっ!?

 

 慌てて、アポートで篝を引っ張る俺。

 直後、雷光が篝のいた場所に直撃し、激しい音が響くも、そこに篝の姿はない。

 なぜなら、篝は俺の腕の中だからだ。

 あくまでも魔煌波が変質した魔法の雷光なので、本物の雷光――稲妻ほどの速度ではない事もあり、どうにか間に合った。

 

 ふうやれやれ……と、心の中で一息ついた直後、

「そこじゃっ! ――《玄冥の影牙》っ!」

 いつの間にか眼鏡をかけた……いや、インスペクション・アナライザーを装着したエステルが、そう言い放った。

 

 右奥に建つ土蔵の屋根の上に、漆黒の円陣が出現したかと思うと、そこからこれまた漆黒の牙のようなものがいくつも突き出し、同時に何もないはずの場所から鮮血が撒き散らされる。

 なるほど……影牙とはよく言ったものだな。


 俺がそんな感じで魔法の名称に納得するのとほぼ同時に、

「がっ!? ぎぃっ!?」

 という悲鳴が響き、巫女装束を全て真っ黒く染めたかのような、そんな装束姿の女性が唐突に屋根の上に姿を現す。

 

 ……かと思うと、女性はその場で前のめりに倒れ込み、そのまま傾斜のついた屋根の上を転がって地面へと落下してきた。

 

 魔法かなにかで、透明化していた……のか?

 というか、この女性……改めて見てみると、襲ってきたゴロツキどもとは大分雰囲気が違うな……

 そして、街人に扮して俺たちの監視をしていた、ゴロツキたちの仲間と思しき男女とも違う……。一体、この女性は何者なんだ……?

ようやく(今更)登場の、ザコゴロツキです。

なんというか……エンカウント設定を間違えて、終盤のダンジョンに紛れ込んでしまった序盤のダンジョンのザコ、みたいな感じですね。


さて、次回の更新は……今週も金曜日の予定です。なかなか余裕が出来ずに、更新頻度が減ってしまっていて申し訳ないです……

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