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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第40話 認知と船と湖と……

 ――チェックインを済ませ、部屋に一度行った後、再びロビーに集まる俺たち。


「さて、まず何から手を付けるか……ですね。何か方針はありますか?」

 室長が皆を見回しながら、そう切り出す。

 

「妾は甘玄天花(かんげんてんか)の状況について調べるぞい」

「ん、私は討獣士ギルドへ行ってみる。うん。この円月輪を作った鍛冶屋の事が分かるかも知れないし、うん」

甘玄天花(かんげんてんか)は薬にも使える物なので、私としてはそちらが気になりますね」

「温泉に突入! ……と言いたい所だけど、とりあえず討獣士ギルドに行って、召喚士だって事を伝えておかないとまずい気がするんだよね」


 エステル、ロゼ、アリーセ、朔耶の4人が、それぞれそんな風に言った。


「朔耶君の召喚に関しては、名目上だけとはいえ、国外実習の責任者という事になっている私が、ギルドへ同行した方がよさそうですね。携帯通信機も持っていますし」

 室長が顎に手を当てながら告げてくる。たしかにそうするのが一番だろう。

 

 となると俺は……

「なら、俺はエステルとアリーセについていくのが良さそうだな」

 と、エステルとアリーセを交互に見ながら言った。

 

「そうですね。蒼夜君も携帯通信機を持っていますし、それが妥当な所でしょう。というわけで、何かあれば携帯通信機で連絡をください」

「了解です」

 俺は室長の言葉にそう返した所で、その形態通信機が振動した。……ん?

 

 俺は制服の胸ポケットに仕込んである収納領域から、携帯通信機を取り出すと、

「蓮司あたりか?」

 と、呟きながら通信をオンにする。

 

「もしもし?」

 なんとなく電話の気分でそう口にする俺。

 

「おう、蒼夜か。こっちは空港を出た所だが、そっちは既に街中を散策中か?」

「いや、ちょうど宿についたばかりだ。飛行艇が遅延したんでな」

「あー、そういや航行中に嵐がどうとか言ってたな。こっちは元から西寄り――フェルト―ル大陸の東海岸沿いを北上する航路だった事もあってか、ほとんど影響なかったみてぇだが」

 蓮司がそんな事を言ってくる。


 まあ、オオヤマキョウはアカツキ皇国領内最西端の都市だし、フェルト―ル大陸沿いに北上するのが一番早いだろうからそうだろうな。

 仮に中央の海を通過出来たとしても、恐らく大差はないはずだ。……って、そうだ。


「あ、そうそう、一つ聞きたい事があるんだが……」

「ん? 聞きたい事? なんだ?」

「蓮司の持つ飛行艇って、中央の海――虚空岩塊群を通過出来たりするのか?」

「虚空岩塊群? そいつはさすがに無理だなぁ……。っていうか、あそこを突破出来る飛行艇なんざ多分存在してねぇぞ。銀の王の連中ですら不可能なはずだ」

「そうなのか……」

「ああ。っていうのも、嵐と浮遊している岩塊も厄介だが、まあそこはどうにかなる。だが、それ以上にこの世界の中央は、魔煌波が大幅に歪んでいてな……。そのせいで■■■■■■と化していてな。空を飛ぶのは不可能だ。何らかの方法で水上から行っても海に引き摺り込まれて終わりだ」

 蓮司が俺の問いにそんな風に答えてくる。

 

 ……ノイズったか。良くわからんが飛行不能なようだ。

 水上でも海に引き摺り込まれるって事からすると、おそらく、海の底に向かって引っ張られる何らかの力があるって事なのだろう。

 魔煌波が大幅に歪められているせいとか言ってたから、魔法的な力によって、高重力になっているとかそんな所か?

 

「すまん。ノイズったんだが、そこって『高重力』って言おうとしたのか?」

「ん? ああそうだ。『高重力の領域』と化しているって言ったんだが、多分今度は普通に聞こえたんじゃねぇか? お前がそこを『認知』したからな」

 そう言ってきた通り、今度は普通にノイズなしで聞こえた。


「ああ、普通に『高重力の領域』と聞こえたな」

 蓮司に聞こえた通りに返した所で、

「なんか、ソー兄がノイズる言葉を話しだしたんだけど……」

「時々ある。うん」

 朔耶とロゼがそんな事を話すのが耳に入ってくる。

 ……ああそうか、朔耶やロゼは認知に至っていないから、そうなるのか。


「まあ……そんな感じだから、中央の海に関しては、通過する事はおろか、近づく事も出来ない感じだ。だから、あそこに何があるのかは俺にもわからん。一般的には何もないと言われているが、魔煌波が大幅に歪められている以上、調査に使われた魔煌具も正常に作動していない可能性があるからな」

「なるほど……たしかにそうだな。まあ……なんにしても、今はとりあえず置いておくしかなさそうだな。……ってわけで話を戻すが……そっちはこれからどうするつもりなんだ?」

「ああ、まずは傭兵ギルドと討獣士ギルドで情報収集の予定だ。奴らがこの国に潜んでいるとすると、得体の知れない魔獣……みたいな感じで、キメラとか異界の魔物の情報が得られるかもしれないからな。もしくは、奴らが関係する依頼とかがあるかもしれん。ま、こっちは期待しちゃいねぇけどな」

 と、蓮司。

 

 たしかに奴らが関係する依頼があったら、情報収集としちゃ最良だが……蓮司の言う通り期待はしない方がいいだろう。まずあるとは思えないし、仮に何らかの依頼を出すとしても、何重にも隠蔽工作を施してくるだろうからな。

 

「わかった。こっちも似たような感じだ」

「ま、最初にやる事と言ったらその辺くらいしかないよな。とりあえず有力な情報を得たら、すぐに連絡するから、そっちも何かあったらすぐに連絡してくれ。ああ、それとは別に夜にもう一度連絡する」

「ああ、了解だ」

 

 そんな感じで通信を終えると、蓮司と話した事を皆に話す。

 まあ、ノイズ部分の所は、俺の説明でそこの部分が何であるかを察したらしい室長以外はノイズのままだったが。

 

                    ◆

 

「むぐぐぅ……。ソウヤの発するノイズ部分に入る言葉が、とんと思い浮かばぬ……」

 なにやら悔しそうな表情で、そんな事を呟くエステル。

 

「自力で『それ』を理解しないと駄目というのは厄介ですね……。アキハラ先生は理解したようですが」

「それじゃ! それが気に食わんのじゃ! 何故にアヤツに理解出来て、妾に理解出来んのじゃ! ぐむむむむ……」

 エステルがアリーセの言葉にそう返し、唸る。

 

 ……まあ、重力とかの知識があるかないかの差だろうなぁ……

 でも、エステルならふとした拍子に気づきそうではある。重力操作の魔法とかあるわけだし。

 

「まあ……そのうち気づくと思うぞ。――それより、今は調査だ。甘玄天花について調べると言っていたが、どうやって調べるつもりだったんだ?」

 唸っているエステルに対し、やれやれと呆れ気味に問いかけると、

「それを取り扱っている商人に話を聞いてみるつもりじゃ」

 と、そう答えてきた。

 

「となると……食料品や薬草などを扱う商会ですね。――たしか……ミナモハラですと、銀月商会と緋天商会がその辺りを取り仕切っていたはずですが……緋天商会はディンベルでの一件が影響して、その規模を縮小しているので、既にこのミナモハラからは撤退していたはずです」

 アリーセがこめかみを指でなぞりながら、そんな風に説明してくる。

 緋天商会をそういう状況にしたのは俺たちではあるが、そこはそれ。自業自得と言うものだ。

 

「ほう、随分と詳しいのぅ」

「来る前に父様から話を聞いておいたんですよ」

 感心するエステルにそう答えるアリーセ。

 

「ふむ、なるほどのぅ。さすがは元老院議長の娘だけあるのぅ。なら、銀月商会に殴り込んでみるとしようかの?」

「いやいや、なんでいきなり商会に殴り込むんだよ。とりあえず銀月商会傘下の店に行って話を聞くのが先だろ」

 エステルの冗談だか本気だか分からない発言に対し、俺は間髪入れずに突っ込みを入れた。

 

「そ、そうですね。それでしたら、銀月商会の直営店というのが『南町』という所にあるらしいので行ってみましょうか」

 と、アリーセ。 

 

 南町って、なんだか奉行所がありそうな名前だな……

 もっとも実際の所、アカツキ皇国には奉行という概念自体が存在しないらしいんだけど。


 などと、久しぶりに読んだ『この世界について色々書かれている本』の内容を思いながら、

「たしか、湖を航行する船があったよな。ベアステートの水路船みたいな感じの」

 と、口にする俺。

 

「うむ、さっき宿にその船の運賃図があったぞい」

 と言いいながら、エステルが懐から折りたたまれた縦長のパンフレットのような物を取り出す。

 

「南町まで520ゼンじゃな。――ふたりは換金は済ませてあるのかの?」

「ああ大丈夫だ。今日、家を出る前にアーヴィングさんから、正規のレートで換金した物を渡されてるんでな」

 エステルの問いかけにそう答えると、アリーセがそれに同意するように首を縦に振った。

 

「ならば問題はないのぅ。桟橋へ向かうぞい」

 というエステルの言葉に従う形で桟橋へと向かう俺たち。

 

 ――桟橋へやってくると、なにやら人だかりが出来ていた。

 

「……はて? なにかあったんですかね?」

「ちょっと見た感じだと、乗船券購入所や乗り場の職員と思しき人物にに詰めよっているような雰囲気だな……」

 アリーセの問いかけに、クレアボヤンスで見た光景を伝える俺。

 ……ってか、なんだか嫌な予感がするぞ……


「――すまぬ、何かあったんかの?」

 エステルが近くの店の店員に問いかける。

 

「湖に魔獣が現れたとかで、航行がストップしているんですよ」

 と、店員。……おおう、どこかで聞いた感じの展開だな。

 

「アルミューズ城の時に似ていますね」

 というアリーセの言葉に、俺は肩をすくめる。

「……なんで、こうも湖に魔獣が現れるんだか……」


「とりあえず、今回も討伐すればいいんですかね?」

「まあ、それで片付くならそれで良さそうだが……」

「なんでおぬしら、サラッと魔獣を倒す事が前提になっておるんじゃ……」

「え? その方が早いですよね?」

「瞬殺すればいいだけだしな」

「……そういう事ではないのじゃが……。まあ……あえて何も言うまい」

 

 なにやら額に手を添えてため息をつくエステル。

 はて? どういう事なのだろうか? と、アリーセの方を見るが、アリーセもエステルの言葉の意図がわからなかったようで、首を傾げてきた。

 ……まあ、なんだかよくわからんが、とりあえずいいか。

 

「――あの、すいません。討獣士の者ですが、魔獣が出たという話を聞きました。討伐を行いたいのですが……」

 アリーセが人だかりの対応をしている職員に対し、横からカードを見せ、ランクを表示しながら声をかける。

 あのカードってそんな事出来たのか。何気に始めて知ったぞ……

 

「ラ、ランク168……!? す、すぐに担当者に話をしてきます!」

 職員が驚きながら、建物の中へと入っていく。

 

 そういや、かなりランクが上がったと言っていたが……最初に出会った時から150以上も上がっているな……。いや、俺も既に200近いからあれだけど……

 

「ふぅ、やれやれ。ソウヤも大概じゃが、アリーセも大概じゃのぅ……。どこをどうやったらそんなに一気に強くなるのやら……じゃ、まったく。ルクストリアの討獣士ギルドが、脅威の新人の宝庫とか言われておるのが良くわかるわい」

 なんて事を言って、再びため息をつくエステル。

 

 なんだか知らないが、いつの間にかルクストリアの討獣士ギルドはそんな風に呼ばれていたようだ。

 アリーセだけじゃなくて、ロゼや朔耶たちも大幅にランクアップしていたしなぁ……

 あまりにも皆が物凄い速度で依頼を処理していくせいで、一時期、ルクストリアの討獣士ギルドから依頼が枯渇しかけたくらいだし。

 

 ……まあもっとも、そうなった一端を俺も担っているので、それに関しては俺もどうこう言える立場ではないのだが……

今回はノイズ化されていた部分を自力で正常化するという稀有な流れになりました。

そして、ルクストリアに引き続き、ミナモハラでも湖に魔獣出現! ……という展開となっていますが、果たして……?


次回の更新は来週の火曜日を予定しています!

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