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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第39話 ミナモハラの温泉とだんご

「ところで……今日泊まる蒼陽閣というのは、どういう宿なんですか?」

 空港から蒼陽閣への道すがら、そんな疑問を口にする朔耶。

 

「ミナモハラの――湖の一番北岸にある温泉宿ですね」

 朔耶の疑問にそう室長が答えると、朔耶が、

「温泉! 温泉だってよ、ソー兄!」

 なんて言いながらはしゃぐ。

 ああそういや、朔耶は温泉が好きだったな……

 

「何気に温泉って久しぶりだな」

 そう俺が言葉を返すと、横を歩いているアリーセが、

「私も、セルディスタ盆地にあるカナンテラ温泉郷に5年くらい前に訪れて以来ですね」

 そんな事を言ってきた。

 

 ……セルディスタ盆地って言うと、ちょっと前に真なる王からの映像通信を逆探知しようとしてディアーナと訪れた――というか、テレポータルで行った場所だな。

 まあ、滞在時間は30分にも満たなかった気がするが。


「セルディスタってこの間、ほんの少しだけど行ったよね。むぅっ。なんか惜しい事をした気がするっ!」

 などと朔耶が言っているが、あの状況で温泉郷へ行こうという流れにはならん気がするぞ……

 

「ん、アカツキ皇国は温泉が多いと聞く。うん。ソウヤたちの里にも温泉、あった? うん」

「ああ、近くにあったな。朔耶に連れられて何度か訪れた事があるぞ」

 ロゼの問いかけにそう答える俺。

 

「ん、それはなんだか羨ましい。うん」

 なんて事を言うロゼ。……何気にロゼも温泉好きなんだろうか?

 

 などと思っていると、

「むむっ。あれは甘だれだんご! 早速本場の物と出会えるとは幸先良いのぅ。ちょっと買ってくる故、待っておるのじゃ!」

 エステルが唐突にそんな事を言い放つと、物凄い早さで道端のだんご屋の中へと入っていった。……なんだあれ?

 

「え、えーっと?」

「な、何?」

 唐突な言動に困惑の声を発するアリーセと朔耶。


 ロゼはというと、なにやら首を傾げたままポカーンとしていた。

 まあ、わからんでもない。

 

 室長が額を手で抑え、ため息をつくと、

「……やれやれですね……。まあ、エステルの好物なのでわからなくもないですが」

 なんて事を言った。


「あー、なるほど……納得だよ」

 と、こめかみに指を当てながら言う朔耶。


「まあ、ちょっと行ってみましょうか」

 アリーセがそう言って、ロゼと共に店へと近づいていく。


 その後姿を見ながら、

「その甘だれだんごってのは、どういうだんごなんです?」

 と、室長に問う俺。

 

「ああ、簡単に言えばみたらしだんごですね。ただ、砂糖醤油の葛餡をかけたおなじみのあれと違って、だんごの材料に翠粘草という草を、タレの材料に甘玄天花という花の蜜を、それぞれ使っているので、だんごは草餅みたいな色をしていて、タレは黒蜜のような色をしていますが」

 俺たちの疑問に対し、室長が詳しい説明を述べてくる。

 

「なるほど、みたらしだんご……。うーん、なんだか懐かしい感じがするね」

 俺の方を見てそんな風に行ってくる朔耶。

 

「たしかにだんごとか懐かしいな。こっちに来てから食べていないし」

 そう返しながら、エステルの入っていった店へと近づく俺。

 

 するとアリーセが店内――正確には店の奥を覗きながら、

「引き戸に障子……。なるほど、これがアカツキの『本物』なのですね」

 なんて事を口にしているのが聞こえてきた。

 たしかに店の奥に引き戸と障子があるが……本物ってどういう意味だ?

 

「ん、そういえばお父さんから、記録しておいて欲しいと言われて撮影用の魔煌具を預かってきたんだった」

 そう言いながら次元鞄から、茶色いフレームと小さな楕円形のガラス板のようなもので構成された小型の魔煌具を取り出すロゼ。

 

「あ、たしかに家の改築に使うとか言っていましたね」

 というアリーセの言葉で、ああなるほどと納得する俺。

 たしかにアリーセの家は基本的に和風だけど、引き戸とか障子とかはなかったな。

 ルクストリアの家具職人が、アカツキの様式をよく知らないのが原因らしいから、こうやって撮影して見せるつもりなわけか。

 

「これだけ文明が発達している世界なのに、そういった情報が伝わらないのが不思議な感じですけど、何故なんですかね?」

 ふと疑問に思った事を室長に投げかける俺。

 

「まあ、大陸間航行の飛行艇は旅客運賃が高いですからね。簡単に見に行けるものでもありませんし、ならば資料となる本を……と思っても、イルシュバーン共和国以外の出版技術に関しては、まだまだ遅れていると言わざるを得ない状態ですので、どうしても割高になるんですよ。そこに輸入のための費用などが上乗せされると……まあ、どうしても一般庶民には手を出しにくい値段にまで跳ね上がってしまいます」

 という説明を聞き、俺は別の疑問が浮かんでくる。

「なるほど……そういった理由ですか。……あ、ちなみに大陸間航行の飛行艇が運賃が高いと今言いましたけど、今回のこの『国外実習』の飛行艇の運賃って、全部でいくらくらいなんです?」


「6人で180万です」

「180万!?」

「うわぁ……随分とかかってるね……」

 さらっと言われた金額に、俺と朔耶が驚く。

 

「まあ、国から支払われるので問題はありませんが」

 腕を組みながらそう言ってくる室長に、

「個人で行くのにはちょっと高いですね……」

 と、そんな風に返す朔耶。

 

「そりゃ、撮影してきてくれって言われるはずだ」

「だねぇ。……って、そうだ。撮影で気になったんだけど、ロゼの持ってるあれって、動画を撮る方のカメラ? それとも写真を撮る方のカメラ? なんていうか……形状とかが私の知っているカメラとは全然違うから良くわからないんだよね」

 俺の方を見てそう問いかけてきた朔耶に、

「あー、たしかにそうだな……。――ちなみに写真を撮る方のカメラだ。と言っても、あれ1つで撮影と現像が出来る便利な奴だけどな。ただ、現像といっても、フィルムとかがあるわけじゃなくて、あの魔煌具を専用のガラス板みたいな代物の上に置いて、フレームに付いているボタンを操作する事で、そこに転写される……と、まあそんな感じの仕組みだけどな」

 と、百貨店で売られていたそれの説明書きを思い出しながら語る俺。

 

「へぇ、そういう代物なんだ。でもたしかにそれは便利そうだね」

 と言いつつロゼの方を見る朔耶。

 

 その視線の先では、店の人に許可を取ったらしいロゼが、カシャカシャと音を立てながら店内――引き戸と障子を色々な方向から撮影していた。

 って、初めてあの魔煌具を使っている所を見たけど、なんとも聞き慣れたシャッター音がするんだな……。って……まてよ?


 まさかと思い、俺は室長の方へと顔を向ける。

 すると、その俺の視線に気づいた室長が、

「はい。あれは私とエステルで作りました。最初はカメラそのものを作ろうと思ったのですが、そちらはちょっと幾つかの部品を作るのが難しかったので、魔法を利用したあのような形になりました」

 と、さらりと言ってきた。うわあ……やっぱりか。

 

「何気に室長って、クリエイトなチートしまくっている気がするよね……」

「たしかにそうだな……」

 朔耶と俺は顔を見合わせてそんな風に言う。

 一体、室長はどれだけの物を作ったのやら……って感じだ。

 

「まあ、そこは年月の差という事で……」

 室長が頬を掻きながらそう言ったところで、

「待たせてすまんのぅ」

 という声と共に、エステルが店から出てきた。

 しかも、その手には木箱が5箱積み上げられている。

 

「……随分と買いましたね……」

 呆れた声で問いかける室長。

 

「そうかのぅ? 5箱だけじゃぞ。――本当はもっと買おうと思ったんじゃが、なんでも材料となる花……花の蜜が入手しづらい状況にあるとかで、5箱までと言われたのじゃ」

「花の蜜が入手しづらい状況……ですか?」

「うむ、詳しい話は聞いておらぬが、そう言っておったぞい」

 室長の疑問にそう答えながら、1箱だけ残して次元鞄に放り込んでいくエステル。


 花の蜜……まさに今さっき室長が話していた甘玄天花の事だろうが、入手しづらい状況というのが微妙に気になるな……。室長も同じ事を感じているのか何やら考え込んでいるし。

 

「――まあ、それについては後で調べてみても良いかもしれぬのぅ。妾としても気にはなるからの。……じゃが、とりあえず今は食べるとするぞい!」

 そんな前後の繋がりが少しおかしい事を言いながら、エステルは木箱を開けた。

 すると、中から草餅のような色をした大福……っぽい感じのする大きめのだんごが12個、その姿を現した。

 

「あ、あれ? なんだか思っていたのと見た目が違うような……」

「そう言われると……ルクストリアで売られているアカツキ風だんごは、串が刺さっていますね」

 朔耶とアリーセがそんな疑問を口にする。

 

「ふむ、それは簡単な話じゃな。だんごに串を刺すという概念が、アカツキ皇国にはないゆえ、中に餡がはいっておるのじゃよ」

 エステルがそう説明し、

「ルクストリアの串を刺す方式は、私が伝えた物ですしね」

 と、補足するように言う室長。……そんな事もしてたのか。

 

「まあ、1つ食ってみるがよい」

 と、そう言って木箱をこちらに向けてくるエステル。

 

「ん、じゃあいただく」

 エステルが言う直前まで撮影していたロゼが、物凄い早さで店から出て来るなり、そう言ってだんごを手に取り、自らの口へと放り込んだ。

 

 それに続く形で、俺たちもだんごを手に取ると、それを口に入れる。

 と、すぐさま馴染み深いだんごのモチモチとした食感と、タレの甘じょっぱさが口の中に広がる。

 おお! たしかにみたらしだんごだ!

 

「あ、おいしい。というか、懐かしい」

「ルクストリアで売られているものよりもおいしいですね」

「ん、さすがは本場」

 

 朔耶たちがそんな感想を述べる。

 

「やはり、材料も作り方も違うのでしょうね。ルクストリアで売られている物が『アカツキ風』である理由が良くわかる気がします。しかし、逆を言えば、我々のよく知るあのタレを使った物を作れば――」

 なにやら室長がブツブツと呟きながら考え始める。

 

「あの……アキハラ先生? どうかしましたか?」

 というアリーセの問いかけに、室長はハッとした表情を見せ、

「す、すいません……。少々ルクストリアならではの、新しいだんごについて考えてしまいました」

 と、言った。

 

「なんじゃ? 例の店でまた新しいだんごについて、何か良いアイディアはないかとでも言われたのかの?」

「ええ、まさにその通りです。まあ……色々協力していただいているので、私としても何か良いアイディアはないかと思っているのですが、なかなか……」

「なんだかんだで、もう20種類以上作っておるからのぅ……」

 

 そんな事を話すエステルと室長。

 良くわからないが、どうやらルクストリアのだんご屋に頼られているみたいだな。

 にしても、20種類とは随分と作ったもんだ。

なんだか雑談だけで終わってしまった感じのする回ですが、サラッと伏線は引いています(何)


休み中、私用の都合であまり執筆&調整が出来ておらず、次の木曜日分の執筆&調整が木曜日までに終わらない見込みです。

(正確には8割方出来ているので完成まではすぐなのですが、当然それだけだと未推敲(未調整)の状態なので、そのままだと出せない感じです)


ギリギリ可能そうな気もしなくはないのですが、諸々の確実性を期す為にも、申し訳ありませんが次の話は金曜日の更新とさせていただきます……

(その次は来週の火曜日です)

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