第37話 パーティ編成
「あー、たしかにそうだな。アルチェムを入れる事を考えっと、全部で12人か……」
「うん、言われてみるとこの人数は多すぎ。うん」
グレンとロゼが周囲を見回しながら言う。
「どこかで待機してて貰って、必要に応じてチェーンジ! とか出来ればねぇ……」
肩をすくめながらそんな事を言ってくる朔耶。
「……プレイアブルキャラの多いRPGじゃあるまいし、早々簡単に交代とか出来ないっての。まあ……例の鏑矢が大量にあれば力業だが可能っちゃ可能かもしれないが、アレはそんなに数があるわけじゃないから、さすがに無――」
……ん? 待てよ?
「どしたの? 急に考え込んで」
小首を傾げてくる朔耶に対して俺は、
「いや、鏑矢はさすがに多用出来ないが、俺とティアがそれぞれディアーナ様へ連絡出来るオーブを持っているだろ? それを使えばある程度は入れ替えも可能だな、と」
と、そう思いついた事を話す。
すると、俺たちの会話を聞いていたらしいティアが、質問の言葉を投げかけてきた。
「それはつまり、私とソウヤさんが別の部隊――じゃなくて、この場合は……パーティですかねぇ? 2つのパーティを編成し、それぞれに加わる……と、そんな感じですかねぇ?」
「ああ、そんな感じだ。全員で纏まって行くのはまずいが、2パーティにすればそこまで多くはないからな。俺とティアのどちらかがグレンと一緒に行動して、もう片方が別の名目でアカツキ皇国へ入国すればいいだろう」
「なるほどなのです。でも、グレン殿下のパーティではない方のパーティは、どういう名目で行くのです?」
と、俺の言葉に対し、もっともな疑問を口にするクー。
あー、そうだな……。うーん……名目かぁ……
どうしたものかな……と、腕を組んで悩んでいると、室長が提案を投げかけてきた。
「――エクスクリス学院の他国での実習という名目でどうですかね?」
「あ、なるほど……それはありですね。実際、良い薬の素材探しもしたいですし」
俺よりも先にアリーセが反応する。
「となると、妾とコウ、アリーセとロゼは固定じゃな」
「な、なんか、さらっとエステルさんが混ざっていますね……。まあ、既にある意味学院関係者みたいな感じではありますが……」
エステルとアリーセの話を聞きながら、ああ、たしかに学院組っていうのはありだな……と、俺は思い、その案で行く事を皆に告げる。
「だとすると……残りは、私と蒼夜、それから蓮司にシャルにティアの5人だけど……」
「傭兵という立ち位置からするとグレンパーティのが妥当な気がするぞ、俺とティアは。簡単に言えば、王子の護衛要員って扱いだな。……っていうかお前ら、ディンベルでクーと一緒に行動していたんだし、次は俺に譲れ! 俺だって妹分であるクーに会うのは久しぶりなんだしな!」
朔耶の言葉にそう言ってくる蓮司。……途中から本音が漏れているぞ……
「う、うん、まあ、そこまで言われたら譲るしかないなぁ……」
「そ、そうだな……。仕方ないからそれでいいぞ。そうなると……蓮司とティアがグレン側か。あと1人は……」
蓮司の言い分もわからんではないので、仕方なくここは蓮司に譲った。
で、問題の残り1人だが……シャルか朔耶になるな。
どうするかな……と思いつつ、朔耶とシャルを交互に見た所で、
「いや、朔耶は席を譲ったんだし、シャルでいいだろ。シャルは傭兵――じゃなかった、元・傭兵なわけだし」
と、そう蓮司が言ってきた。
なるほど、それもそうだな……と思っていると、
「え? なんで私がレンジの方なのよ。私はソウヤの方で行くわよ?」
なんて事を言って、拒否するシャル。
「あー、私はどっちでもいいかな。譲ったには譲ったけど、シャルが蒼夜と一緒がいいっていうなら、蓮司――っていうか、グレン殿下やクーちゃんたちの方でも別に構わないよ」
朔耶の方はそんな風に言った。
……もっとも、別に構わないとか言っておきながら、俺の方に『加えろ』と言わんばかりの視線を送ってきたが……
その様子を見ていたティアが、両手を左右に広げながら首を横に振り、
「シャル、何言ってやがるんですかねぇ? エクスクリス学院の実習という名目なんですけどねぇ? つまりですねぇ、教師か生徒のどちらかに見えないと駄目なんですがねぇ? シャルはどう考えてもどっちにもなれやしねぇ気がするんですがねぇ?」
なんて事を言って、シャルを見た。
それにつられるようにして、俺もまたシャルの方を見る。
教師か生徒ねぇ……と思った所で、
「まあ……蒼夜と朔耶は、年齢的にもまだ学生だと十分言える範囲だからな。制服を着れば、よりそれっぽく見えるだろうよ」
と、蓮司がそんな事を言った。
「うん、たしかに学院として行く名目なら、制服を着た方が、うん、よりそれらしく見えるのはたしか。うん」
ロゼが蓮司の発言に同意する形で、そんな風に言う。
って、今『たしか』って2回言ったな……
しかも2回目のたしかの時にシャルの方を見たし……。もしかして、意図的……なのか?
「うぐ……っ。せ、制服くらい着ようと思えば……っ!」
言葉を返そうにも返せる言葉がないのか、それだけ発して俺の方を見るシャル。
う、うーむ、容姿的には問題ないかもしれないが……どうしてもその立ち居振る舞いが、武人っぽいというか……戦闘経験豊富な戦士っぽさがあって、生徒って感じではないんだよなぁ。
ならば、教師だという事にすればいいのではないかと言うと……
うーん……それもそれで、なんというか……人に何かを教えたり研究したりする風にも見えないんだよなぁ、シャルって。やはり、教師だという事にするのも難しい気がするな……
まあ、戦闘系の教師――教官って事にするならば、まだギリギリいけるかもしれないが、残念ながらエクスクリス学院は士官学校の類ではないので、その手の教練は存在しない。
……まあ、なんだ? 要するに――
「……今回は諦めてくれ」
俺はシャルの顔を見てそう告げた。
と、その瞬間、シャルが音もなく崩れ落ちた。
……そ、そこまでなのか。
「ま、まあ、たまにはいいじゃねぇか。それに――」
蓮司がしゃがみながら慰めるようにシャルの肩を叩き、何かを小声で言った。
「……それは……まあ……たしかにそうね……」
小声で言われた内容に対し、なにやら納得した様子でそう呟くシャル。
うーん……。一体全体、蓮司は何を言ったんだろうか?
そんな事を思っていると、なにやら不本意極まりないと言わんばかりの表情をしながら、
「……私は今回、レンジたちの方に加わるわ」
と、シャルが俺の方を見て言ってきた。
「なら、これで決まりだな。ああそうだ……この間、室長にも渡しておいたんだが、何かあったらこいつで連絡くれ。使い方は後で教える」
そう言いながら、蓮司が俺に携帯型通信機を手渡してくる。シャルやティアが使っている物とまったく同じ物だ。
「そいつは助かるが……いいのか? 俺たちが以前使っていた『携帯』と違って、割と貴重そうな感じだが……」
「ああ、室長が量産の目処が付いたって言ってたから問題ねぇさ。――そうっすよね?」
俺の問いにそう返し、室長の方を見る蓮司。
室長は蓮司の言葉に頷きながら、
「ええ、来月には軍用の物から生産が始まる予定です。半年もしないうちに、ルクストリアを始めとした都市部の魔煌具屋に並び始めるでしょう」
と、そんな風に言ってきた。
それってつまり、半年後には一般人も携帯型通信機を使える時代になるって事だよなぁ……。うーむ……なんだかこの世界も、街中ではそう遠くない内に、地球と大差のない光景が見られるようになりそうだな。
「ちなみに妾の店では、少し早く扱う予定じゃぞ!」
「……そういえばエステルさんのあのお店って、最近開けているんですか? ここ最近は、ほとんどルクストリアに居るような気がするのですが……」
そうアリーセに問われたエステルは、しばしの無言の後、
「……じ、実を言うと、ここの所はほとんど開けておらんのじゃ……」
なんて言った。
「それ、もういっそルクストリアに移転した方が良いんじゃないかしら……」
ため息まじりに告げるシャルに対し、エステルは、
「そうは言ってものぅ……。常時、居られるわけではないのに、首都に店を構えるのはいささか無謀という物じゃしのぅ……」
そう答え、腕を組んで考え始める。
「んー? なら、どこかの店に間借りするとかは? うん。――武器屋でいいなら知ってる。うん」
「あー、それで言うなら、アヤネさんの服屋もありだな」
ロゼと俺がそんな風に言うと、
「ふむ……武器屋に服屋……のぅ。たしかに魔煌具を置くには良さそうじゃな。話をしてみるのも悪くないのぅ。後で案内してくれぬか?」
と、返してくるエステル。
俺とロゼがエステルに対して、了承の言葉を告げた所で、グレンが問いの言葉を投げかけてくる。
「話を戻すが……アカツキ行きは色々と準備しねぇといけねぇから、5日後とかでいいか?」
「んー、そうだな。――室長、こっちもそれで大丈夫ですかね?」
俺は問題なかったが、学院としての対応が必要だろうと考え、室長に問う。
「はい。国外実習のために必要な諸々の手続きや手配は、3日もあれば十分ですので、5日後で問題ありませんよ」
室長が頷き、そう答えて来たので、俺はグレンの方を見て言葉を投げる。
「だそうだ。同じルートでアカツキ皇国へ入るのは目立つから、別ルートで行こうと思うが……どうだ?」
「ああ、異論はねぇぞ。だとしたらそうだな……俺たちはメルメディオから『オオヤマキョウ』へ向かうとするか。ローディアス経由の航路が使えねぇから、皇国西部にさせてくれ」
「なるほど……。でしたら、こちらはディーグラッツから皇国東部の『ミナモハラ』へ向かうとしましょう」
グレンの言葉に、俺の代わりに室長がそう答える。
オオヤマキョウにミナモハラ……か。実に和風な雰囲気の地名だな。
なんて事を思いつつ、
「じゃあ、とりあえずアルチェムたちに話をするか……。って、そう言えば、セルマさんはどんな感じなんだ?」
と、クーの方を見て言う俺。
「少しは動けるようになりましたが、まだ激しい運動とかは難しいですね。無論、戦闘など以ての外でしょう」
クーの代わりに伯爵がそんな風に説明してきた。
……あ、そうだ。そういえば伯爵も居たんだった。
全然喋らないから、すっかり忘れていた……実に申し訳ない。
などと心の中で謝罪しつつ、
「となると、今は説明しない方が良さそうですね……。シスターという立ち位置を考えると、余計な負担をかけかねないですし」
と、伯爵の方を見て言葉を返す俺。
「そうですね。まあ、どこかで話をしなければならないとは思いますが……」
伯爵が頷き、そう言ってくる。
それを聞いていたディアーナが、
「多分ー、あと一ヶ月もすればー、戦闘も出来るくらいまで回復すると思いますよー」
そんな風に俺たちを見て告げてきた。
「一ヶ月か……。うーむ……そう考えると、ロゼの完治は早すぎだな」
「というと?」
呟いた俺に疑問の声を口にする伯爵。
「ん、私もセルマという人とほぼ同じ呪いを、この間のランゼルトの争乱で受けた。うん」
横にやってきたロゼが、俺の代わりにそう答える。
「なんと……!? ……それで、もう大丈夫なのですか?」
「うん、完全完治完璧。――とうっ」
伯爵にそんな風に返しつつ、問題ない事のアピールなのか、その場で連続宙返りをしてみせるロゼ。……相変わらずとんでもない身体能力だな。
「おおー、凄いですねー」
と、なにやら拍手をするディアーナ。
そしてそのまま言葉を続ける。
「ちなみにー、おそらくですがー、回復の早さの差はー、霊力の有無でしょうねー」
「ああ、なるほど……。そう言われるとシャルも回復が早いな」
「回復の早さだけで言ったらー、朔耶さんがダントツですけどねー。ほとんどの傷は0.1秒で治りますよー」
「あれって傷ついてないんじゃなくて、超高速で治ってたのか……」
アストラル的な何かの作用で、身体的な傷を負わないものかと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。よくわからん身体だな……
「自動再生効果に極振りしてるからね! 無敵だよ、無敵! あ、防御力は紙切れで殴られると痛いから、タンク――盾役はノーサンキューだけど!」
そんな事を笑って言ってくる朔耶。
どうやら自らの身体の現状に関しては、色々と考え方が吹っ切れたというかはっちゃけたというか……んー、まあなんにせよ、今のこのノリの方が朔耶らしくていいのは間違いない。
「極振りて……。あーでも、こっち側のパーティって、前衛要員はロゼと朔耶だけじゃね? ロゼはどっちかっていうと切り込みタイプの攻撃要員だから、必然的に朔耶がその役割じゃね?」
あえてそんな風に言う俺。
それに対して朔耶は、
「うっ、たしかに……。ま、まあ近づかれる前に吹っ飛ばせば問題ないよね、うん」
なんて事を言ってきた。
たしかにその通りだ。そして、俺でも吹っ飛ばす事は出来るし、攻撃を弾く事も出来る。もとより、朔耶を壁にするような状況にするつもりは毛頭ないのだ。
……まあ、そんな事は口にしないが。口にしたら、なんか調子に乗りそうだし……
そんな事を思う俺だった――
というわけで、パーティ編成も完了したので、次の話からアカツキ皇国へ向かいます!
朔耶もメインで使うのが遠隔武器なので、タンク役には向かないんですけどね。
そして、地味に近接武器を使うのがロゼしかいないという学院組パーティ……
逆にグレンパーティは近接武器を使う者が大半という……。なんという偏り具合……(何)




