第35話 異界の技術と血統と因子と……
次回は木曜日とか書いておいて、金曜日……どころか、土曜日になってしまいました orz
「――とまあ、そんな感じですねぇ。ある意味、初めて『銃』が使われた事件だとも言えますねぇ」
ティアがエクスクリス学院の元学院長である、オーギュストが起こした事件についての話を、そう言って締めくくった。
「……あーなるほど、クライヴの言いたい事がわかったわ。――エステルは、アーリマンシステムを用いたキメラ化から元に戻った。……それこそが『特殊』であると、そう言いたいわけね」
「……言われてみっと、たしかにアーリマンシステムなる物が用いられた他の新型キメラは、キメラの状態から元に戻った……なんつー話は、聞いた事がねぇな」
シャルと蓮司がそんな事を言う。
「ん? 蓮司もあのタイプと遭遇した事あるのか?」
ふと気になり、蓮司の方を見て尋ねる俺。
「ああ。……つっても、ここ最近だけどな。ディンベル――つーか、グレンからの要請で、ディンベル国内に残存していた真王戦線と、エーデルファーネの拠点を強襲した際に何度かな」
そういえばグレンがメルメディオの空港で、蓮司と話をしたいとかなんとかそんな事言ってたっけな。
「なるほどな……。しかし、ディンベルの国内にも奴らの拠点はあったのか……」
「ディンベルでもローディアスと同じ事をやろうとしていたみてぇだし、その為に色々仕込んでいたからな。それで拠点が必要だったんだろうよ。……もっともその計画は、結果的に蒼夜が――蒼夜たちが叩き潰した形になったみてぇだがな」
蓮司が俺の方を向き、肩をすくめてみせる。
「……ギデオンか。――そういや、あいつは見つかったのか?」
「いや、未だに見つかっていねぇな。……ただ、なんらかの理由で銀の王に回収された可能性が高いと俺は考えている。ギデオンの飛行艇を狙った飛行艇だが、あれはこの世界に存在するどの技術で作られた物でもないからな」
「……なるほど、この世界以外――要するに異界で作られた飛行艇、か。しかも、それを作れる技術力となると……鬼哭界くらいしかないってわけか」
「そういう事だ。……んで、おそらくだが……アーリマンシステムを用いたキメラが増えてきたり、オートマトンが登場し始めたのは、銀の王の動きが活発化したせいだろうな。まあ、アーリマンシステムに関しては別の要因もあるとは思うが」
「ふむ……。まあ、状況から考えると妥当な推測だな」
たしかにアーリマンシステムが用いられたキメラ、結構増えてきたみたいだな。
別の要因――それはつまり、オーギュストとかいう学院長が行っていた研究の成果……といった所だろう。
もっとも、オーギュストの研究の成果は大して意味がなく、銀の王が持ち込んだ異界の技術によるもの……という可能性もなくはないが、エミリエルを狙っていた事を考えると、何かしらの意味はあったと考えた方が良い。
――しかし、キメラから元に戻る……か。
俺たちが霊峰で遭遇したキメラは、戻せるとかはあまり気にせずに……というか、気にしている余裕もなく普通に倒してしまったため、元に戻せたのかどうかわからないが、あの口ぶりからすると無理だった気がするな。
「ま、それはさておき……エステル――ひいてはエミリーには、アーリマンシステムによって引き起こされる『変化』に対する親和性が高い……いや、この場合は『侵食』に対する抵抗力が高い、というべきか」
蓮司がエミリエルの方へと向き直り、そんな風に言った。
と、それまで考え込んでいたロイド支部長がその言葉に頷き、推測を語る。
「そうですね……。魔王血統――血の中の特殊な因子が、肉体と精神に侵食し、変化をもたらす因子であるキメラファクターに対して抵抗する事により、自我が崩壊せずに、キメラ――魔物の部分と一体化している部分を切り離す事で元に戻る……といった所でしょう」
「そんな力が私――私たちの中にあるとは思いませんでした……。両親もなにも言っていませんでしたし」
エミリエルが自身の胸に手を当てながら言う。
「……『血』に関しては、昔から研究されていますが、突発的な変異――先祖のどこかに混じっていた物が突然表に出て来る事もあり、遅々として解明が進んでいないのが現状ですからね。エミリーさんやエステルさんのご両親の血の中に、そういった因子が含まれているとは限りませんよ」
そんな風にクライヴが言うと、それを聞いていたディアーナが告げる。
「血統ランクとー、潜在血統によってー、因子符合が起こるパターンはー、数多く存在しますからねー」
「「「血統ランク?」」」
「「「潜在血統?」」」
「「「因子符合?」」」
そんな疑問の言葉を口にする皆。
「なんつーか、唐突に聞いた事もない単語が出てきたな……」
皆の言葉を纏めるように言う蓮司。
だが、俺には唐突に出て来た単語、という印象はなかった。
なぜなら、その名は『この世界について色々書かれている本』で見て、一応知っていたからだ。
もっとも、書かれていた内容に関しては複雑すぎて読み飛ばしてしまったせいで、さっぱりなんだがな……
「気にはなりますが……まあ、そちらは後にしましょう。長い話になりそうな予感しかしませんし」
と、ロイド支部長。たしかにそれについての詳細を聞いていたら、凄い時間がかかりそうだ。
「まあ……なんにせよ、エミリーを狙ってきたのは、それが目的っぽいな」
ヴァルガスが腕を組みながらエミリエルの方を見て言う。
「そういえば……最初の襲撃以降、襲撃を受けた事ってあるのか? その辺の話――情報を知らないんだが……」
クライヴとエミリエルを交互に見ながら尋ねる俺。
「その辺りの情報は基本的に秘匿していましたからね……。こちらから仕掛けたのも含めると全部で3回ほど交戦していますね。アルミナで2回、カルカッサへ向かう際に、あえて一度ルクストリア方面へ向かいつつ、あちらの情報を撹乱させる目的でこちらから仕掛けたのが1回です」
クライヴがそんな風に答えた後、エミリエルが付け足すよう、
「まあ、全部クライヴさんが瞬殺してしまいましたが」
なんて事を言った。
クライヴも本気を出すと、かなり強いらしいからなぁ……
さすがは元七聖将にして護民士のエースクラスといった感じだな。
っと、それはともかく――
「つまり、カルカッサに隠れる前は割と積極的に襲撃してきていたってわけか」
「はい、その通りです」
クライヴは俺にそう答えて頷くと、ふと気になった事でもあったのか、「まてよ……」と呟いて何かを思案し始める。
「どうかしたんですか?」
俺が問うよりも先に、エミリエルがクライヴの方を見て問いかけた。
「――あ、いえ、これまではカルカッサに隠れた事で、奴らの追跡を撒けたものと考えていたのですが……カルカッサに入ったタイミングと、真王戦線やエーデルファーネといった主立った組織が、竜の御旗のもとに統一されたタイミングが、ほぼ一致するんですよね……」
と、エミリエルに対して答えるクライヴ。
「それってつまり……竜の御旗にとって、その血はさほど重要じゃない?」
というジャックの言葉を聞き、カリンカが別の可能性を口にする。
「もしくは、他に代替手段を得たか……ですね。竜の御旗に銀の王が関係している以上、鬼哭界の技術もまた流入しているはずですから」
「なるほど、たしかにそれもありえるね」
ジャックが頷き、そう言葉を返す。
「もしかして、ここが作られたのとも関係が?」
「……ありそうですね」
周囲を見回しながら言うミリアに、カリンカが続くようにして周囲を見回し、そんな風に返す。
「ともあれ……エミリーが狙われる件に関しては、ほぼ解決したと思って良さそうだが……こっちの問題はどうすっかなぁ……」
ヴァルガスもまた、周囲を見回しながら言ってくる。
「アーヴィングさんに話して、軍を派遣して貰うのが一番早そうだが……」
「向こうとしても、重要な地点だと考えると、それだけじゃ心許ないな。ウチの傭兵団も配備した方が良さそうだ」
俺の言葉に蓮司がそう返した所で、ヴァルガスが、
「――なら、観光地開発という名目で、カルカッサからもある程度送っとくか」
なんて事を言った。
カルカッサの人間は、元傭兵が多いらしいし、たしかに戦力になりそうだな。
「そういえば、奴らの動きがピタリと止んだ感じだが……どうなんだ?」
俺が蓮司にそう問いかけると、蓮司は携帯通信機を取り出し、口を開く。
「連絡は来ていないが……。あー、そっちの状況はどうだ?」
「――そうか。わかった、引き続き警戒を頼む」
しばし通信をしていた蓮司がそう言って通信を終えた。
この感じだと、連中は仕掛けてきてなそうだな。
「それらしい影一つ見えないらしいぞ」
予想通り蓮司がそんな風に言ってくる。
「うーむ……。思ったよりも、奴らの動きが遅い感じがするな……」
「あれだけの人形をぶち転がして、その上、飛行艇も撃墜しましたからねぇ。連中も、おいそれと次の部隊を送れないんじゃねぇですかねぇ?」
「たしかにそれはあるか……」
俺はティアに対してそう言うと、ディアーナの方を向き、
「ディアーナ様、とりあえずルクストリアの中央議事堂へ行きたいのですが……」
と、伝えた。
「わかりましたー。ではー、一度、テレポータルで領域に戻ってからー、別のテレポータルをー、再び開きますねー」
そう言いながらディアーナがテレポータルを開く。
「蒼夜はアーヴィング議長の所へ行くのか?」
蓮司が腕を組みながら、俺に問いかけてくる。
「ああ。奴らが来るよりも先に、防衛線を構築しておきたいからな」
と返した俺に対し、
「なら、俺はこのまま地上へ戻って守りを固めておくか」
「でしたら、私も蓮司と一緒に地上へ戻りますねぇ」
そんな風に言って、蓮司とティアは地上へと戻っていった。
◆
アルミナへ戻るというロイド支部長、クライヴ、エミリエルを先にアルミナ付近へ送り届けてから、俺たちは中央議事堂の一室へとテレポータルを開いた。
「アーヴィングさん、今いいですか?」
「うおおっ!? ……だ、大丈夫だけど、急に現れるとびっくりするね、さすがに」
「す、すいません……。急いで伝えたい事とお願いしたい事があったもので……」
驚きの声を上げるアーヴィングに対し、謝罪しつつそう告げる俺。
「ふむ……とりあえず詳細を聞かせてくれるかい?」
もっともな事を言ってきたアーヴィング対して、俺は諸々の説明をし、軍――部隊を送る事は可能かと問う。
「まさかそのような事があったとはね……。無論、即座に軍を派遣するとしよう。ただ……一番の精鋭部隊はアルミューズ城の地下――例の扉の所に配置してしまっている為、他の部隊……一般的な戦力の部隊を送るしかないのが懸念点だね。まあ、その代わり一個師団くらい送るつもりだけど。――あそこなら、それだけ送っても特に問題はないだろうし」
と、答えるアーヴィング。
そういえば、あっちにも防衛のための戦力を送っているんだったっけな……
「なーに、それだけ送れば十分すぎるくらいだと思うぜ。カルカッサからも腕の立つ奴を送るし、レンジの傭兵団も既に陣を張っているはずだからな」
「なるほど……。であれば、軍の配置は連中に対する『既にこの場所は抑えている』という表明のような意味合いが強い感じかな」
ヴァルガスの言葉に対し、納得したように頷き、そう言ってくるアーヴィング。
正直、そこまで考えていたわけではないのだが……たしかにその通りなので、俺は、
「ええまあ、そんな所ですね。軍による防衛線の構築を行えば、あちらも手を出しづらくなるでしょうから」
と、しれっとそんな風に言ったのだった――
血統ランク云々は、第1章と第2章の間の『種族説明』にサラッと少し書いてあったりします。
ようやく本編に登場した……という感じですね。
それはそれとして、来週こそは火/木/土で更新したい……です…… orz




